第3話
柚子の部屋の壁一面には、俺の写真が貼り付けてあったのだ。
思春期の中高生が、アイドルのブロマイドやポスターをそうするがごとく。
「うへえ……どっから持ってきたんだこんなに?」
見覚えのある写真も貼られているが、横顔寝顔、中には裸の写真も……
「裸!? もしかしてあいつ、盗撮していたのか!?」
ど、どうしよう。剝がそうか? でも、縦横を揃えて隙間なくびっしり貼り付けてあるため、穴空きがあればすぐにバレそう……
流石に床には貼り付けてないが、天井を合わせた五面どこを見ても俺がいる。
「なんだよこれ……俺のことを好きだと言っても限度があるだろ」
正直、引いた。
嫌々、今はあいつの服を探しているんだった。問い詰めるのはそれからだ。
「えっと、タンスは……あれかな?」
壁紙のせいで、白とピンクが基調の洋服ダンスは浮いておりすぐにわかった。
「うーん、何段目にあるんだ?」
今更だが聞くのを忘れていた。タンスは上二段が左右に半分ずつ棚があり、その下五段は普通の棚だ。ええい、取り敢えず一番上から見ていけばいいだろう。
「後は……」
適当にブラウスとズボン、上着を見繕った。残るは……し、下着だ。
「でも、どこにあるんだ?」
このタンスには、上も下も入っていなかった。となると、こっちか。
白桃タンスの隣には、同じようなデザインのいわゆるチェストが置かれている。二段しかないため、どちらかにはあるはずだ。
ゴクリ。俺はまず上の段から確認する。
「うわっ」
目に飛び込んできたのは、色とりどりのブラジャー。俺はその一つを手に取る。
さっき俺の部屋で見えてしまった時にも思ったが、柚子のそれって、意外と大きいんだな……
「も、もうこれにしよう」
俺は手にしたクリーム色が主体の花柄ブラジャーを棚から取り出す。
「ふ、ふう」
無駄に精神を消耗した。次は、下だ。
「くっ」
手が震える。棚をゆっくりと引くと、これまたカラフルなショーツ達がお目見えした。
「な、なんだこのデザインは……?」
その中の一つに、黒のTバックなるかなり過激なものがあった。
他にも、股の部分に穴が空いているものや、ガーターベルト付きのものまである。
「け、けしからんぞ、柚子っ!」
こ、これを柚子が? いやいや、何を想像しているんだ俺は!
頬をパシリと叩く。ブラジャーと同じデザインらしきものを見つけたため、それを取り出し棚を戻した。
「……くふっ」
心臓がバクバクと大きく跳ね苦しい。
「……持っていくか」
服をたたみ、下着を間に挟む。そして俺の部屋への戻ることにした。
扉を開けると、廊下に涼太はいなかった。リビングにでも行ったのだろうか?
--コンコン
念のため、俺の部屋の扉を叩く。自分の部屋に入るのにいちいち確認しなければならないなんてアホらしいが仕方ない。
「おい、持ってきたぞ」
「いいよ、入って〜」
柚子の返事を聞き、扉を開ける。
「っ!」
柚子は言いつけを守らず布団をほっぽり出し、タンスから俺の服を取り出し散らかしていた。
「おい、何してんだよ!」
「ええっ? ……マーキング?」
首を傾げそう言う。
「は?」
見ると、柚子は俺の服を自分の身体に擦り付けていた。しかも、胸や下半身に集中的にだ。
「な、ななななにしてんだ!!」
俺は柚子の服をベッドに置き、取り上げようと近づく。
「やあん」
後ろを向き、服を胸元に隠す。
「やあん、じゃない、早く手から離せ!」
「ええ? でもでも、まだ途中だよ?」
「いいから、は・な・せ!」
後ろから服を引っ張る。と、柚子が立ち上がり応戦してきた。
「駄目なのっ! も、もう少しだから!」
「何がもう少しだ! ふざけたことをするんじゃありません!」
「ふざけてなんかないもん! 愛のなすことだよ!」
「俺はそんなもの求めていない!」
綱引きのように、服を引っ張り合う。
「きゃっ!」
だが、柚子が足元に落ちていた服で足を滑らせ、引っ張ってきた服から手を放してしまう。
同時に、俺は床に倒れてしまい、更にその上に柚子が倒れこんできた。
「いてて……うおっ!?」
「危なかったあ〜、ひゃんっ」
「むぐぐ!」
なんと柚子の胸が俺の顔に押し付けられてしまった。
俺が苦しくて息を吐くたびに柚子が身体を捩り押し付けてくるため余計と息苦しくなる。しかも妙に甘い声を出すため息苦しさ以外の原因で余計と顔が熱くなる。
「あんっ、やっ、お、お兄ちゃん、積極的すぎるよぉ!」
「さ、さっさとどけ柚子!」
もうこうなったら仕方ない。
柚子の胸を手で無理やり押しのける。が
「ひゃあっ!」
手に何か硬いものが当たったと思ったら、柚子の身体が先程よりも大きく跳ねた。
「さ、先っぽはだめぇ! 私弱いのぉ!」
何の話だ!
柚子が自発的に俺の上から退いた。
「はあっ、はあっ、はあっ」
「んっ、ふっ……お、お兄ちゃん……なかなかやるね」
息を荒げながら親指を立て俺に向ける。
「何の話だっ! とにかくこれを着ろよ」
ベッドの上から持ってきた服を柚子に手渡す。俺は着替えを待つため部屋から出た。
「……はあ、なんで俺の部屋なのに俺が出て行かなきゃならないんだか……柚子の胸、柔らかかったな……っていかんいかん、俺たちは兄弟なんだ! そんな邪な気持ちを抱いては駄目だ!」
両頬を手で叩く。
「お兄ちゃん、いいよー」
「あ? ああ」
柚子が部屋の扉から顔を出しそう言う。
「んー。60点かなあ」
「はあ? 何がだ」
部屋に入るや、ベッドに腰掛けた柚子からそう言われた。
「下着のセンスだよっ? ここは黒のティーバックでしょ!」
「な、ななななにをいってるんだ!」
ティ、なんてけしからんっ!
「あれれ〜〜何を想像したのかなあ?」
「何もしとらん! ほら、涼太を呼びにいくから待ってろ」
「むう」
柚子は頰に空気を溜め膨らませるが無視をし部屋を出る。
とその時
--ピンポーン