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一人称短編(古いのも込み)

僕が魔法少女の敵になったわけ

作者: 秋雨そのは

何時もの見切り発車となります。

 現実に魔法という物があったら信じるだろうか?


 最初は、信じていなかった……平和な日常の中で、そんな言葉を聞くとすれば、漫画や小説の中くらいだろうから。

 もしかしたら、気づかない間に僕達の日常に隠れて戦っているかもしれない。

 そんな事を言えば、通っている中学校ではお笑い草だ。


 昔思ったことを思い出しながらも、ビルの屋上に立っていた……。

 実際に現実に存在しているのだから、今更と言ってもいい。

 周りには、空が飛んでいようと戦いを繰り広げていても、気づかれる事はない。


『マホウショウジョガアラワレタ、シゴトダ』


「……分かってる」


 図太いノイズ様な声と共に、内容を伝えてくる背後にいる黒い影……影の言葉に答えて声の方に顔を向けると、これ以上用は無いとばかりに、空気に同化するように風に流れて消えていった。

 黒いフードを頭に被り……目に見えている2人の女の子は、ヒラヒラの服を着ていて端から見ればコスプレしている中学生という感じだが、異常な脚力と共にビルの屋上をジャンプで渡っている。

 今日も純粋に頑張っている女の子を傷つけなければならない。


「……本当に、僕は何をやっているのか」


 そう呟いて、同じようにビルを軽々と飛び超えていく……。

 何時からか、そんな事はもう忘れてしまったし、僕の役割は基本的に亀裂きれつの管理だ。


 歪みへと近づく女の子2人の前に立ちはだかる。

 後ろにある亀裂はいわゆる、この世界の綻び……普通の世界に戻すためには、亀裂を治さなきゃいけない。

 何故なら、亀裂が割れた場合……狭間の空間が流れ込み、この世界は存在を保てなくなるからだ。


「ブラック! 今日も現れたわね! 今日こそは亀裂を破壊させてもらうわ!」


「そうです! その亀裂は、壊さないと世界が大変な事になるんです!」


「……」


 この言葉を聞くのも何回目だろうか、毎回同じ言葉では無い、だけど内容は一緒。

 何を言っても、敵である僕の言葉は届かない……どんな言葉をかけても。

 少し姿が変わっただけでも、僕だと気づかない……そしで、昔から仲が良かった友達を傷つけないといけないのは、辛い……。


「答えなさい! あなたは何で守っているの?」


「……お前らに言う事なんて無い」


 飛んでいる為か……不意に強い風が吹いて、頭に被っていたフードが脱げてしまう……この2人の前では何度も見せたことはある。

 邪魔になるからと、体を覆っている布も剥ぎ……黒髪と黒いヒラヒラの服が現れる。

 男でありながら、同じ魔法少女で……性別が変わっている。


『カマトリ伝承スキャン……ブラックボックス』


「来る!」


「真名ちゃん、危ない!」


 容赦なく、魔法の詠唱スキャンを開始する……カマトリ伝承は、永遠の孤独という詠唱式から魔法を使う、その中でもブラックボックスは入った者の記憶をむしばみ、恐怖を与える。

 2人の内の1人……ピンク色の髪とヒラヒラの衣装の子は、中に入り。

 もう1人は、赤髪で赤い色の同じ様な服を着た……真名と呼ばれた子は、体を押されギリギリの所で避けれた。


「姫愛! 大丈夫なの!?」


「……無駄、戦いが終わるまではもう出ることは出来ない」


 突然出現した黒く四角い塊を、真名は叩いているが、壊れる気配が無い。

 聞こえるのは、中から悲鳴が聞こえるだけ……それを為す術もなく、泣き崩れる様に嗚咽(おえつ)が聞こえていた。

 そして、恨みをぶつけるように目に涙を浮かべてこちらをにらんでくる。


「……弱いお前達が悪い」


「殺してやる! 何時も何時も私達のジャマをして!」


 持っている赤い剣を構えもせず、突っ込んできては斬りかかって来る……それを赤子の相手をする様に、攻撃をひたすら体を引いて避けるだけ。

 怒りに任せた攻撃は分かりやすい、単調であり力任せになるから……茶番も飽きてきた。

 縦に大振りで剣を斬りかかってきたのを、横に避けて……横腹に蹴り飛ばす、軽くヒビが入るような大きな音と共に真名は地面に激突していた。


「……ごめん、真名……姫愛」


 謝る様に呟いた声は、2人には聞こえない……。

 亀裂に手を触れて、空にあった不自然な亀裂はキレイに消えた……修復をしなければ、世界が無くなる。

 2人が何の目的でやっているのかは、分からない……だけど、この平和といえる毎日を1日でも続いてほしかった。


『ゴクロウダッタ、アイツハアラワレタカ?』


「……いいや、どうせまた遠くで見守って、無理をさせるだけだと思う」


『ソウカ、アイツノネライハナンダロウナ』


 そんな事、僕が聞きたい……こんな日々を送っているから、彼女達との生活に感情も無くなってきたというのに。

 週1、2回の彼女達の襲撃しゅうげきは、退けるのは容易いけど……何よりも心が苦しい。

 彼女達には、僕達が悪役なんだろうな……と思いながら、キレイな雲ひとつ無い空を見上げた。


『フタリノキオクハ、ケシテオク』


「……お願い」


『ワタシタチガ、タダシイトハイワナイガ……マモリタイモノハマモルベキダ』


 守りたいもは守るべきか……2人の日常を、僕は守りたいだけだよ。

 どんなに彼女達を傷つける事になっても、明日がある限り……これを、亀裂を守るだけ。


 戦いが終わった後、彼女達をそれぞれの家のベットに寝かせた後、自分の家に戻る。


『ドレス解除』


 そう言って、魔法少女の服を……姿を元に戻す。

 かがみある洗面所で……2人にしたことを思い出しては、水を被って忘れる様に流した。

 顔を上げた時に見えた自分の顔は……酷く、辛く、泣きそうな顔をしていた。


 本当だったら、一緒に戦いたいし……勝利を分かち合いたいけど、ダメなんだ。


 あちらの思惑はともかく、亀裂を守る事によって……彼女達の敵をすることで、平和が保たれるなら。


 僕は魔法少女の敵となる。

お読みいただいてありがとうございます。

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