#5 隈本城落城
誠が全く商人っぽいことしてませんが、暖かく見守ってください。
隈本城がひとりの手によって落ちたことはすぐさま九州中に広まっていった。
菊池氏たちを地下牢へと連れていった後、武士、城下町に住まう農民たちを集めた。
「菊池義武及びその一派は地下牢へとぶち込んだ。この国は私の手でこれから治めることとなるだろう。皆、仕事に励むが良い。それから、それぞれの働きに応じ、毎月銅銭を支給する。しっかりと励め。」
周りからおぉーという声が響いたのを見た。
これが国を治めるものが見る景色か。
「農民は一家あたり毎月100銅銭、武士はこのままここに残るものは150銅銭。あと、鍛冶屋はいるか?」
「はい…」
5人ほど、手が挙がる。聞くところによると、一家全員でやっているそうだ。
「名前は何ですか?」
「名ですか?明仁と申します。横から父の晃、次男の秋次、三男の三秋、四男の志秋です。」
「鍛冶屋を呼んだのは、あることをしてもらいたいからです。」
「あることですか?」
「あぁ。実は商売道具のために火縄銃を量産してもらいたくてな。さっき、武器庫から500丁ほど見つかってな。一丁上げるから、参考に作ってほしい。」
「何故、火縄銃が必要かお聞きしても?」
「あぁ、いま日本の火縄銃は南蛮との貿易によってしか手に入らない。しかも、その貿易港は堺でな。堺に行かないとなかなか手に入らない。これからの戦はこれが必要だ。極力、戦はしたくないけどな。」
「なるほど、わかりました。我ら、一家精進いたします。」
「頼む。それと、これは報奨金だ。」
5000銅銭の袋を渡した。最初はこんないただけませんと言われたが、後々、必要になってくるからとなだめた。
「また、必要だったら言ってくれ。ところで、明仁さんたちには名字はないの?」
「さん?そのような呼び方やめてください、領主様。はい、私共身分の低いものには、名字というものはありません。」
「いやいや、領主っていっても、そんな大層なものじゃないから。では、名字を与えよう。『紅月』というのはどう?」
「ありがたく、頂戴致します。」
「そんな、かしこまった言い方しなくていいから。」
「いえ。それはできまへんので。」
まぁ、仕方ないか。この時代の身分制度ってそう変わるもんじゃないからな。
「わかった。あ!あと、一人で手伝いをしてくれない?」
「でしたら、三男の三秋をどうぞ。こいつは若いですが、なかなか頭がキレるのですよ。」
「ありがとう。では、住処を与えるから早速始めてくれ。」
「ははっ」
そう言うと、広間から出ていった紅月一家。すると、1人の武士が慌ててやってきた。
「領主殿。龍造寺家が領主に挨拶をしたいとのことです。」
隆信さんちょっと来るの早すぎでしょ。
「あ、たぶん大丈夫だと思うから城門を開けて。でも、警戒は怠らないように。」
「おぉー誠。まさか、一人で城を落とすとは思わなかったぞ。さすが、ワシが見込んだ男じゃ、なぁ清房。」
「はい、殿。」
この人たち、ホント自分勝手だよね!でも、お陰様で拠点となる場所ができたけども!
「で、これからどうする?」
「あ、その~。まだ、決めてないんですけど、大友家が来る前に、島津家と接触したいと思っています。」
「そうか。九州三国での同盟はワシも賛成じゃが、くれぐれも気をつけるんじゃぞ。」
「はい、もちろんです。」
「それはそうと、今日は良い知らせを持ってきたぞ。」
「直茂。入りなさい。」
清房さんがそう言うと、きちっとした正装で入ってきた男が立っていた。見た目小学生くらいだけど、誰かな?
「鍋島直茂と申します。此度の戦、商人とは思えぬ戦いで圧巻されました。是非、誠殿の家臣にしてもらいたいでござる。」
「という訳で、私のせがれの直茂だ。ついこの間、元服させたのでな。そしたら、誠殿に仕えたいと申すのでな。」
え?どういうこと?俺、商人なんだけど、家臣なんか作っても大丈夫なの?
「あの~、私は一応商人なんですが、いいんですか?しかも、たかが、武士素人らしいことなんてできませんよ?」
「それはこいつも重々承知だと思います。それでも、本人が言い出したんです。どうか、聞いてやってくれないですか?」
頭を下げて頼み込む清房さん。年上に謝られたら、受け入れるほかないでしょ。なんか、隆信さんは笑ってるし。てか、なんか前にもあったような。
「ほんとは、ワシの家臣にしたいと思っていたのじゃがな。どうしてもと言うから許可してやった。」
そんな、悔しそうに言わないでくださいよ。
なんか、こっちまで申し訳なくなってしまいます。
「わかりました。直茂だったかな、私は基本商売の仕事しかしようとは思っていないから、よろしく。」
「ありがたき幸せ。一生ついていきます!」
「直茂、誠殿の下で、しっかりと励めよ。では、誠殿これで。せがれを頼みます。」
「はい!」
隆信さん、そんな羨ましそうな目で見ないで下さい。なんか、ほんとにもうしわけないです。
「誠、法度を考えると、民もきっと安心するぞ。領主が変わって、民もきっと不安だからの。」
「はい、わかりました。ご助言本当にありがとうございました。」
いやいやと言いながら、隆信さん御一行は本拠の肥前へと帰っていった。
とりあえず、法度のことは後から考えるとして。島津家へ出発する準備をしますか。
「直茂。少しの間、城を頼む兵には銅銭を与えておるからしっかりと働くぞ。あと、どこかが、攻めて来たときのために、あの船は置いていくから。城下の民は戦の時は城内に入れるように!」
「はっ。わかりました。この直茂にお任せを。」
年齢は俺より小さいはずなのに、頼りになるな。
「あ、あとそれから、紅月三秋 という者もおるから、そやつとも仲良くな。」
「はっ。」
誠は城を出て長門艦内に戻ると、風呂に入ったり、着替えたり、武器の手入れや馬の用意などをしてさっそく、島津家の領地日向・大隅・薩摩の三国へと向かった。