#45 島津軍の意地
誠達の援軍がついたことにより相良軍本隊は壊滅。島津家から奪った城にいた兵も本隊壊滅の知らせを聞き、抵抗することなしに、降伏、城を明け渡した。そして、相良軍側では島津軍はようやく勝利を手に入れることができた。
「誠殿、龍造寺殿、この度はありがとうございました。」
「頭をお上げください。我々は同盟の仲間を助けに来ただけですから。それに、まだ戦は終わっていませんよ。」
「いや、でも・・・」
「誠殿の言う通りじゃ。我らは仲間。それこそ、大友家は毛利家相手で来られなかったが、武器を分けてくれたのじゃ。」
「あの大友家が……」
「そうじゃ。皆同盟の仲間を助けたいと思うのはごく自然のことだろう。だから、今は次のことを考えようぞ。」
「かたじけない。」
貴久は誠達に感謝し、頭を下げた。そして、顔を上げると、すぐに島津の全ての兵に喝を入れた。
「義久、義弘、歳久!島津家各城に通達。各々、各地で出陣せよ。合流は加治木城だ!」
「「「はっ!」」」
三兄弟は貴久の伝言を聞くと、そのまま各城へと向かっていった。
そして数時間後、六万尺の津家各城から集まった兵はおよそ30,000。誠と龍造寺の援軍を加えると、50,000弱の大軍。報告によると、敵は37,000とやや数で劣っている。さらに、島津家にも内部事情というものはあり、今回呼んだ中にも、ただ来ただけで、戦闘には参加しない兵も数千いるそうなのだ。それでも、来てもらったのは、敗北続きの島津家の信頼を取り戻すためなのだそうだ。
こうして、約50,000の兵は加治木城へと進み、奪われた上井城へと進軍を開始した。もちろん、その動向の報せを聞いた肝付・伊東両軍も出陣。両軍、睨み合うように天降川に布陣した。
「殿、島津連合軍は約50,000。こちらを10,000ほど、上回っています。」
「見らんでもわかっておる。あれは龍造寺軍とあともう一つの目結紋を掲げているのはどこの国の者だ。」
「恐らく、噂の熊本城を落とした者かと。なんでも、その者が、大友・龍造寺・島津の同盟を成しえた人物らしいのです。」
「なにぃ!では、我々は九州三大名に喧嘩を売ったことになるではないか!」
「殿。よろしいですかな。」
「なんだ、何か良い案でもあるのか?」
「はい、あの目結紋のとこを攻撃するのはどうでしょう。あの軍は言わば、同盟の心臓。それに数的にもあの軍はそう多くありません。あそこさえ、叩けば、九州は再び乱世に逆戻りでしょう。」
「なるほど、お主の作戦にのったわい。新参者にしては、なかなか骨のあるやつじゃないか。」
「ありがとうございます。これも肝付様に拾ってもらった命です。私の悪知恵をあなた様のためにお使いしましょう。」
「では、行くぞ。」
肝付軍に所属するこの謎の人物は、軍師として、指示を出すと、瞬く間に、肝付軍は誠軍へと向かって来た。
「そうはさせん。誠殿や龍造寺殿に助けてもらったこの恩、今返さずしてどこで返そうか!皆の者!誠軍に向かう敵を蹴散らせぇ!」
「「「うぉおおおおお!!!」」」
島津軍の『やってやるぞ』という怒号が、敵を恐怖へと誘う。
「皆の者、肝付軍が来るぞ!鉄砲を撃ちながら、後退せよ!島津軍の邪魔になる!」
誠軍は迫り来る敵に鉄砲で攻撃を仕掛けつつ、後退して行った。そして、誠軍の前方を盾にならんと、島津軍が覆い被さる。正面衝突となった両軍は互いに一人、また一人と切り倒して行く。
肝付軍と一歩出遅れた伊東軍も加勢しようとする。しかし、それを今度は龍造寺軍が許さない。龍造寺軍は伊東軍の側面を攻撃。対して伊東軍も進路を変え、応戦した。
「儂らをほったらかしにしてあるとはいい度胸だ。者共、此奴らを倒せぇえええ!」
その勢いは島津に負けず劣らなかった。形勢が不利と判断した伊東軍は撤退。
「よし、これで残りは肝付軍のみじゃあ!行くぞ!」
このままの勢いで、肝付軍を挟み撃ちにしようとする龍造寺軍はここで歯止めを掛けられる。
「龍造寺殿、ここは我ら島津にお任せください。」
「わかった。」
「良いんですか?」
島津の使者が去った後、龍造寺軍軍師鍋島清房は尋ねた。
「あぁ、これで良い。元々、これは島津の戦じゃ。儂らは援軍として来ただけ、少々出しゃばり過ぎたかな。いかん、いかん。勢いに乗ると、いつもこうじゃ。はっはっは。それでは、島津の意地を見せてもらうとするか。」
そこから、島津軍の勢いは止まらなかった。それこそ、最初は数で劣り、誠軍を守るのに必死で押されていたものの、今は意地で肝付軍を押し返し、敵を殺すことなく、兵には目もくれず、目指すは肝付軍大将が降伏をすることだった。
「おのれぇ!島津軍めぇ!おい、軍師よ!策を講じろ!聞いておるのか!」
「殿、軍師殿はもういません。」
「なにぃ!やられたのか!」
「恐らく…」
「くそっ!ここまで追い詰められては仕方ない。全軍撤退!」
当主肝付兼続の指示のもと、肝付軍は撤退するため、後ろに振り返る。しかし、そこには絶望しかなかった。
そう、もう島津の勝利を確信した誠と龍造寺軍は前もって、両軍を取り囲むように包囲網を完成させていた。逃げ場を完全に失った肝付軍は、その場に立ち尽くし、降伏したのだった。
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「なんなんだ、あの勢いは⁉︎数ではこちらが少し上回っていたというのに、敗北するなんて。」
いち早く肝付軍の敗北を確信した肝付軍軍師は、死んだと思わせて、戦場から離れていた。
「あんな大軍に囲まれては勝ち目がないしな。」
ただ一人肝付軍の中で誠・龍造寺軍の包囲に気づいたのだった。
「私の勘もあながち、当たるものだな。せっかく、未来から来たというのに。確か、九州の三大名をまとめあげたのは、山田誠という奴だったな。覚えていろよ、くそっ!」
未来から来たという人物はそうブツブツ言いながら山道の奥深くへと入って行った。
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こうして、南九州の動乱は肝付軍の降伏により終わりを迎えた。