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#44 動乱の救援

翌日も島津家は苦戦を強いられた。いくら、相良軍の数が減ったからと言って、島津軍の数もそれに比例して減っていく。出水城も落ち、島津軍はゲリラ戦を展開しながら、二手に分かれ、一方は大口城、もう一方は湯之尾城に入り、周辺の城と共同して、守りを固めた。


「我らは湯之尾城に入りましたが、相良軍のはこちらに来るでしょうか?」


「奴らも、そう早く進軍して来ないだろう。ましてや、ここは相良家の領地との境の城でもあるのだ。必ず、ここを落としにやってくる。」


「確かに、ここ周辺を落とさなければ、相良軍は背後を突かれることになりますからね。」


「あぁ、そうだ。だから、大口城には多くの兵と兵糧も用意してある。」


「籠城もできるようにですね。ここで何としてでも、援軍を待たねば……」


「早く来てくれると、助かるのですが……」


そこから五日間、相良軍の侵攻は貴久が予想した通りなかった。その期間、相良軍は、兵糧と援軍の余勢をしており、準備が整ったのだった。その知らせは、貴久の下にも届けられたが、少数の兵のみで援軍の侵攻を遅らせることだけしかしなかった。ただ、それをしなかったのは、城の守りを少しでも固くし、兵を次の戦に備えて、休ませるためだった。


「父上。斥候隊が戻ってきました。報告によると相良軍の数は約30,000、兵糧の準備も完了し、いつでも出陣可能だそうです。対して、我らはせいぜい5,000。」


「それだけ、集まれば十分だ。兵糧も三ヶ月はもつだろう。」


「しかし、もう少し、敵の後詰を減らしたかったところです。」


「義久、多勢に攻めても意味がない。どうせ、こちらがやられて帰ってくるだけ。少数で行かせた理由はちゃんとある。わかるか?」


「こちらの犠牲者を減らすためですか?」


「もちろんそれもある。だが、一番重要なのは敵に恐怖を与えることだ。」


「恐怖ですか?」


「あぁ、そうだ。少数での攻撃を何度も繰り返せば、敵は『次は自分が殺されるかもしれない。』『次はいつ、どこから攻めてくるんだ?』という恐怖にな。夜に実行すれば、なおさらだ。」


「なるほど……だから、夜の出陣が多かったのですね。」


貴久はうなづくと、相良軍侵攻の報を待った。各城内におびたたぬ緊張がはしる。それから数時間後、相良軍が大口城へと進行を開始したとの報告が来た。相良軍全軍による突撃の勢いは激しく、大口城は落ちた。味方の兵は、相良軍が侵攻してきた反対の門から各城へと逃げた。ここで相良軍の動きを止める城は馬越城、湯之尾城そして、川内川を挟んで、曽木城、山之城、太良城の計五つ。各城にはそれぞれ1,000の兵が相良軍を迎え撃とうとしている。   


「忠将の方はどうなっておる?」


「はい、負傷されたあとも果敢に指揮を取り、肝付・伊東軍と混戦中。撤退を繰り返しながらも善戦中です。」


「さすがは儂の弟じゃ。こちらも負けてはおれんな。まぁ、負け続きじゃがな。」


「殿、それは笑えませんぞ。」


「そこは笑えよ。」

そのやり取りが周りの兵たちの緊張を解き、笑いを誘った。それに加え、士気も上がった。


「相良軍、30,000を三手に分け、曽木城、馬越城、山之城に進行中。」


「大口城の兵を少数にしててよかったな。」


「はい、味方の兵もそれぞれの城に無事に戻ってこれたみたいで良かったです。」


「あぁ。よし、太良城に通達。300の兵を率いて、山之城の相良軍を背後から攻撃。ただし、攻めすぎるなと伝えろ。我らも馬越城へと向かう。」


この作戦の通り、太良城、湯之尾城の島津軍は300の兵にも関わらず、10,000の敵兵に突撃、撤退を繰り返した。撤退するとき、追撃してきた兵には新たな作戦『釣り野伏』で対応。四方から包囲された敵兵は、火縄銃の餌食となり、蜂の巣に……


「今日はここまでだな。城に戻るぞ。」

各地で奇襲を成功させた島津軍は相良軍の勢いを完全に止めた。相良軍は一旦進行をやめ大口城まで撤退していった。


「よし!相良軍を追い返したぞーーー!」


「「おぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


それから翌日、相良軍は25,000の兵を一気に湯之尾城へと進軍を開始。山に囲まれた4つの城は諦めることにしたのだろう。そのまま、貴久たちの所へ向かってきた。しかし、他の城がこれを見過ごすわけがない。

太良城を通り過ぎたのを確認すると、全軍が背後から奇襲をかけるべく、出陣した。


しかし─────────────────

それ自体が罠だった。島津軍の奇襲を狙った攻撃だった。城から反転して、攻撃。貴久たちもやられた作戦だった。後方に残った4,000の島津軍は、もう突撃しか残されていない。島津の指揮官は突撃の号令をかけた。たった4,000の軍勢が25,000の大軍勢に湯之尾城目掛けて突き進む。


「殿、大変です。味方の軍勢が……」

貴久が城の窓から見ると、もうそれは明らかだった。味方の軍旗がまっすぐに突っ込んで湯之尾城を目指しているのが分かる。一人、また一人とやられながらも……


「我らも出るぞ。準備をせぃ!」


「しかし、危のうございます。」


「儂らは島津の兵じゃ!のこのこと味方が死ぬのを見とれというのか。もう、囮に使うなど我慢ならん。あの時は我慢したが、もう耐えられんのだ。彼らは儂の所を目指して来とる。これも当主の役目じゃ!」


「わかりました……」


「義久!城門を開けろ!出るぞ。」


「はっ。」

湯之尾城から出た1,000の兵は大軍勢の中を突き抜けてきた兵士を出迎えた。残ったのはわずか500。ここに着くだけでも奇跡なのに、よく辿り着いた。だが、窮地なのには変わりはない。25,000に囲まれた状況は変わらず、もう時間の問題。誰もが死を覚悟したその時だった。


「全軍、撃てえぇぇぇ!」

飛び交う銃弾と砲弾、そして、弓。それも連続で次々に撃ってくる。戦闘には見たこともない緑の馬、後ろには騎兵が銃と弓をもって、やってくる。それに、見たことのない家紋。ただ、島津親子だけにはその軍勢が誰かわかった。


「誠殿!」

誠は2,000の騎兵だけを引き連れて島津の援軍としてやっとのこと、到着した。


「貴久殿、遅れて申し訳ありません。途中、厄介な敵に阻まれまして。」


「いえ、助けに来ていただいただけも有難い。それより、援軍が少ない気がします。」


「その意見もごもっとも。まぁ、見ててくださいよ。」

大砲の轟音、銃声、弓を引く音が鳴るたびに敵兵が前方の方からバタバタと倒れていく。そして、少しずつ前進し、敵は後退していく。そして、敵はこれ以上はだめだと思ったのか後方に逃げだした。


「誠殿、これは好機ですぞ。追撃しましょう。」


「義久殿、大丈夫ですよ。」

誠は撤退する敵をそのまま放置しようとした。逃げる敵兵は我先にと敵、味方誰ともわからない死体を乗り越えて行く。しかし、逃げた先には別の旗影が・・・


「貴久様、龍造寺軍の援軍、およそ15,000です!」


「龍造寺殿も助けに来られたか。」


「ここに着く前、少し邪魔が入りまして、龍造寺軍が私達の代わりに相手してくださったんですよ。」


「阿蘇家だな。まぁ、それは仕方のないことだ。」

そう、誠達が龍造寺軍と島津軍の援軍に向かおうとした時、突如として、御船城へと阿蘇軍が侵攻を開始。誠達は御船城を守るため、龍造寺軍と協力して阿蘇家討伐に討ってでた。相手は少数で楽に倒せたが、思いのほか兵に疲れが出てしまい、二日ほど出立が遅れてしまったのだった。


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