#41 いつもの城内
琉球との合同作戦、台湾制圧も終わり、一旦琉球へと戻った一行は改めて明・琉球・日本の3カ国間の貿易内容を確認し、調印した。これからは月に二度、貿易船を派遣・来航することになっている。それに、表向きは日本となっているが、誠自身が幕府の許可なしにするので、密貿易となっている。そもそも、現将軍とは会ったことすらないのだが・・・
それはさておき、調印した誠達は無事に熊本城へと戻った。
「おかえりなさい、殿。無事に貿易が上手くいったようで、何よりです。」
「あぁ、ただいま。今回は何もなかったみたいだな。」
「まぁ、とりあえずは。ですが、南九州の動向が怪しくなってきております。」
「ん?また阿蘇家かどっかがうちに攻めてくるのか?」
「いえ、実は島津の方が・・・」
「あぁ、なるほど……」
誠は察した。島津家は現在九州三国同盟に入っているが、周りを非同盟国で囲まれている国でもあるのだ。
「今のところは何もないにせよ、もうその時は近いかと……」
「そうか、熊本城の普請も早う進めんとな。あ、それと直茂。うち、ここを領土にしたから。近々、誰か派遣しないといかん。誰にしようか?」
「は・・・・・・?って誰にしようか?じゃないですよ。いつの間に、そんなことになっているんです!?」
「待て待て待て、落ち着くんだ。これには理由があってだな。そんなに負担にもならないんだよ。」
「いやいやいや、どう考えたってなるでしょ。だって、九州と同じ大きさなんですよ!しかも隣には超大国の明があるじゃないですか!どうして、家臣を三人も連れて行ったのにこういう状況になるんですか……」
「すまん、直茂殿。殿をあんまり叱らんでくれ。殿を後押ししたのは某達なのだ。」
「鑑周殿たちががですか?」
「あぁ。ここは、倭寇の最大拠点でもあったしな。それに、某達がこっちで力を付けるまでは琉球王国が統治に力を貸してくれるし、明にも許可をとっている。」
「一つの国家がそこまで……」
「恐らく、それはあの船の威力を知ったからでしょう。」
「敵に回すのは危険だと判断したのか……」
「いえ、最初から友好的でしたので、その線はないかと。ただ、琉球王国も明ばかりではやっていけないみたいです。」
「なるほど、わかりました。そういうことでしたら、今回はお咎めなしと行きましょう。」
「「「「・・・・・・」」」」
四人が同時に、同じことを思った。『お咎めするつもりだったの・・・』と。
「では、港の整備には私が向かいましょう。それと、任せるのは鑑周殿で、いいのではないですか?」
「某ですか?」
「そうだな、実際に、見てきてもいるし。その方がいいだろう。」
「でも、某で大丈夫なんですか?言葉もダメですし、それに某は新参者、この家に仕えてからも日が浅いですよ?」
「はっはっは。それを自分で言うあたり大丈夫だ。私はお主を信じておる。それに言葉の方は心配いらんぞ。なにせ、通訳がいるからな。」
「はっ。殿の大切な領土、しかと守って見せます。」
「おう、頼んだぞ。」
「お殿様ぁ~~~~~。」
「おぉ~~~、これはこれは、どうしたんだね?」
「あのね、この前のテストでね。丸をいっぱ~いもらったの。」
「ほ~~お、これはすごい。よく、頑張ったね。えらい、えらい。」
「えへへへ。」
「僕も僕も!」
授業を空けていた誠に褒めて欲しかったのか、生徒達が次々と駆けよってくる。
「殿ぉお~~~、すいません。ほら、皆さん、戻りますよ。」
「すまんな、春。私の生徒まで見てもらって。」
「いえいえ、殿は忙しいのですから、仕方ないですよ。」
「では、今から授業をするか、次の授業はなんだ?」
「算術ですが……ってお疲れなところ申し訳ないですよ!」
「いいんだよ。ほら、みんな行こうか。」
『やったぁーーー!』とはしゃぐ子供たちを連れて、授業へと向かった。家臣達はそれを温かく見守りながら、自分たちの残された仕事をしに向かった。そして、誠は算術・体育の久しぶりの授業をやり終えた。一番驚かされたのは、子供たちだった。
なんということでしょう。たった四日しか経っていないにも関わらず、あの覚束なかった字が、今では見違えるほど綺麗に。さらに、数式の記号すら分からなかった子達が、今では一年生内容ならスラスラと解けるように……子供というものはつくづく成長するのが早い。
「では、今日の授業はここまで。皆さん、昼食を用意したので、仲良く食べましょうねぇ。」
「はーい!!!!!」
「ねぇ、先生。お外で一緒に食べよ?」
「うん、いいよ。」
誠から許可をもらったことを聞きつけると、生徒達が我先にと集まってきた。結局、誠のクラスの生徒全員、外で昼食をとることになった。
「いただきまぁす!」
「ん~~~美味しい。ここの料理はいつも美味しいですね。お殿様、何か秘訣でもあるんですか?」
「あら、私、聞いたことあるわ。お殿様自ら、料理をたしなむって。」
「えぇ~~~!それは本当ですの?」
「今はうちの料理番が作っていますが、前はちょっと作っていましたよ。」
「それはまぁお若いのに。うちの主人にも見習ってもらいたいものだわぁ~~仕事から帰ってきたら、いつもそうなんですよ。」
「あら、奥様も?うちもなんですよぉ~。新婚の時は優しかったのに。今ではもう、臭い、臭い。お殿様もそうは思いません?」
「は、はぁ……」
「そうだ!お殿様の第二夫人にしてもらおうかしら、ㇷㇷㇷ。」
「それは、いいですわね。」
「え、いやそれはちょ・・・」
「ダメだよ。先生はね。私をお嫁さんにするんだよ。」
ど、どこでそんな言葉、覚えたぁあ~~~!な、なんだ、あれか。この子のお母さんの仕業なのか。と、というかこの状況、人妻VS幼女じゃないか!ここは、適当にあしらっておかないと……
「そ、そうだねぇ~~、もっと大きくなったらしてあげよう。」
「そうですか、結婚するんですか。私とは離縁して幼い少女と結婚するんですか、そうですか。」
後ろを振り返ると、黒いオーラをまとった結月がそこにはいた。何時からだろうか。俺は外で昼食をした時すでに、地雷を踏んでいたのだろう……その後、引きずりながら、二人の部屋へと連れて行った。その説教は夜更けまで続いた。
「それで、最後に何か言い訳はありますか?」
「ありません……」
「はぁ…もう、殿は女性に甘すぎです!それに、私、ずっと待っていたんですよ。仕事とはいえ、一緒に旅行まで行ったんですから。」
「あ・・・」
「やっと、気づかれましたか。せっかく、殿との海でのでぇととやらを楽しみにしていたのにはなしあ。着いてからはずっと話し合いばっかりで、終わったかと思えば、戦に行きますし、城下に戻ってきたら、戻ってきたでこの有様ですよ……」
「嫉妬していたのか・・・あ、すいません。何でもないです。」
「そ、そうです。嫉妬していたんですよ!最近、殿はいろいろと忙しいですから、仕方ないと思っていたんですけど……」
「でも、莉奈の時は何も言わなかったよな?」
「あれは、褒美だからいいんです!それより、わ、私は寂しかったんですよぉ~~!」
「ゆ、結月ぃ!」
そのまま、照れる結月を抱き寄せた。なにこの可愛い生き物。『ほんとにこの人が俺の妻でよかったぁ。』と心から思うのであった。
「も、もう。愛しています、殿。チュッ」
熱いキスを交わした二人はそのまま床へとついた。そして、誠は、今日から昼も夜も大忙しになることは未だ知る由もない……