#39 琉球王との面会
琉球についた翌朝、誠達は琉球王に面会をするため、きっちりとした礼服に身を整えて、首里城へと入城した。面会するのは誠以下三人の家臣と各商人代表四菱、三戸、鈴野の三名に何人かの護衛である。一方、結月はせっかくの国を楽しむべく、莉奈と千の護衛の下、観光中とのこと。
「では、日本国の使者殿、お入りください。」
「はっ。」
入ると中は広い空間になっており、玉座に向かう道には、その道を挟むように琉球王直属の部下が一人一人並んでいた。よくドラマに出てくる中国や朝鮮の王宮を想像してもらえるとわかるだろう。まさに、そんな感じだった。
「お前達、あまり失礼な言動は控えろよ。他国の王だからな、他の大名を相手にするのとは違う。」
「「「はっ。」」」
誠はこそっと言うと、皆で玉座の前で膝まづいた。
「日本の大使殿、面をあげられよ。此度の長旅ご苦労であった。」
「はい。急な訪問にもかかわらず、面会をお許しいただきありがとうございます。」
「うむ。さて、此度は何用で我が国を訪問されたのだ?」
「はっ。実は私は日本の一国肥後を治めるものです。そこで、私どもの国と貴国とで貿易をしたいのです。」
「ほう。それはこのような場に呼んですまなかった。では、場所を変えようとしよう。」
「いえ、もったいないお言葉。ありがとうございます。」
玉座の間を出て、別室へと案内された一行は、その部屋で琉球王とその配下と対面するように座った。通訳の商人チェンさんに聞くと、王は貿易の話とは思っていなかったらしい。
「では、改めて。私は琉球王国、王尚清王である。」
「私は肥後国熊本城城主山田誠です。」
「では、山田殿。堅苦しい言葉遣いはよそう。それで、貿易という話であったが……」
「えぇ。ぜひ、貴国と貿易できればと思いまして。今回はこれをお持ちしました。」
誠は手を上げると、太平が持って来たものを机に広げた。そこには銃が三丁、剣を十本が置いてあった。
「これは……拝見してもよろしいですか?」
「私もいいですか?」
チェンさんと尚清王は刃の筋や南蛮の武器である銃を眺める。
「これは、今日貴国に献上するために持って来たものです。他にも、食糧などの献上品が船内にあります。」
「この武器は山田殿の国でつくられているのですか?」
「剣は我が国の優秀な鍛冶職人が、作っております。それに量産まではいっていませんが、その火縄銃も作れます。南蛮の武器ですから作るには結構手間がかかりましたがね。」
「いやぁ。これほどの武器があるとは……日本国も明に負けず劣らずの国とまで行くのではないですか?」
「そうですね。最近では明国も弱体していっています。」
「そうなのですか?私は国に籠りっぱなしで、他の国の情報など入ってこないのですよ。」
「はい、明の上に位置するモンゴル勢力に手詰まりで……最近では、そんな国に嫌気を刺したのか満州の方でもよからぬ噂しか聞きません。」
「あの大国の明が……」
「大国というものはそのようなものですよ。私も一応その国のおかげで琉球王国と貿易できているわけですが……」
「我ら琉球も少しは明のことを考えねばな。我らみたいな小国では、大国の力なしにはやっていけませんからな……」
もはや、貿易云々の話ではなく、アジア情勢の話になっていた。まさか、誠もこんな話になるとは思っておらず、少々戸惑ったが、アジア情勢を聞けたことは何よりラッキーだった。
「あぁ、そうでした。貿易の話でしたな。これだけの献上品をもらっては受けないわけありません。喜んでお受けします。」
「私もぜひ、貿易をさせていただきたい。」
「それは私共とて、ありがたい話です。」
「ところで、貿易するにあたって、倭寇対策はどのようにしますか?」
「私達は来る時に倭寇の船三十隻を沈めてきました。」
「あの船ですか?」
「はい、あれは私個人の所有する船ですので。新たに造ることはできませんが、護衛として使っていますね。あとで、どれほどの威力があるのか見せて差し上げましょうか?」
「それはありがたい。ぜひお願いする。」
「はい、ですので護衛の船を寄越しましょう。」
「頼みます。」
「チェン殿。これはあくまで、私の戯言故、無駄と思ったら聞き流してください。」
「はい、分かりました。」
「満州の女真人とモンゴルの抵抗をなくさせれば、明の弱体化はなくなりますか?」
「内紛の可能性もあります故、一概にはそうとは言えません。ですが、我が国は滅亡した方がよいかもしれません。」
「と、言うと?」
「はい、もう我が国の政治は腐っているんです。民には重税を課し、王に反抗したものは如何なる者であろうと、殺される。そんな国なのです。」
「そんなにひどいとは……申し訳ありません。そのようなことをお聞きして。」
「いえ、いいんです。それよりなぜそのようなことを?」
「いやぁ、明が建て直せれば、我らとも大々的に貿易をしてくれるかなぁと思いまして。」
「はっは、そうでしたか。それは期待にそえず申し訳ありませんなぁ、はっはっは。」
「いえ、とんでもない。では、此度の貿易に関してはこの三人に一任してますので宜しくお願い致します。」
「「こちらこそ。」」
三人の商人の紹介を終えた誠達は、尚清王とチェンさんを長門へと案内した。そしてその際に、一隻の船を用意してもらった。もちろん、見世物にするためである。尚清王が港に向かうと騒ぎを聞きつけた臣下達がやってきた。そして、民衆までもが・・・
「殿。大分、人が集まってきましたね。」
「まさか、これほどまで集まるとはな……よし、一発ぶちかますか。ナガト、一発だけだ、必ず命中させろ。」
「わかりました、マスター。」
ナガトの指示で砲塔が回転し始める。そして仰角を合わせると、ナガトが手を下ろした瞬間、ゴォオオオンという音を鳴らし、見事撃沈して見せた。
「・・・・・・」
あまりの威力に、琉球の王と国民は唖然したまま、立ち尽くしていた。
「確かに、これならば倭寇は手も足も出ないでしょう……」
「誠殿、少しよろしいか?」
「はい、陛下。なんでしょう?」
「いや、これより我らは盟友。清王と呼んでくれ。」
「へ、陛下!?それはだめです。」
「お主らは黙っておれ!」
「わかりました……それで、話とは?」
「貴公の力を借りたいのだ。」
最初は何を言っているかわからなかったが、詳しく話を聞くとこういうことだった。
「実はな。ここに倭寇の拠点が一つあるのだ。儂やチェンの貿易船もここから出る倭寇船の被害が多くてな。困っておるのだ。」
「ここの拠点を破壊してほしいと?」
「そういうことだ。もちろん、協力してくれたら、この地はお主にやろう。」
「それは嬉しい話ですが、明が黙ってはいないのではないですか?それに、私は人材に関しては足りずに困っているのですよ。」
「うむ。だから、ここは表向きは我らが統治して、裏では、お主らが統治することでも構わん。お主らが力をつけた時には全兵を撤退させる。」
「それならば、構わないですが……」
「あまり、気乗りがせんか?」
「いえ。では、一つだけ条件が……」
「この際だ。申してみよ。」
「はい、抵抗しない民は殺さないでください。あくまで、抵抗してきた者のみです。」
「わかった、約束しよう。兵はこちらでも用意するが……」
「うちも1,300は出せます。」
「頼もしいな。琉球からは儂と儂の息子尚元とで行く。では、後日。」
そう伝えられると、誠は急いで家臣を集めて軍議を行った。軍議の結果、倭寇勢力は早めに潰した方が私達にとってもいいとなった。そして、清王が指した島である倭寇の拠点、台湾を制圧することになった。