#37 玉蹴り合戦
誠達は生徒を集めると、軽くルールを説明した。
一、時間は前後半45分の計90分。人数は15人。交代していいのは5人まで。
二、ボールは手で触るのは反則。ただし、ゴールを守る一人はOK
三、乱暴な行為や発言をした者は退場。
四、ゴールにボールを入れれば一点。90分間の合計点数を競う。
本来のルールとは少し違うし、足りないが、なにぶん初めて行うからだいたいでいいだろう。四つあるクラスを二つに分け、それぞれが前後半分かれて、戦う。
くじの結果試合は 誠&春チーム VS 但馬&美紀で行われることとなった。
前半は春VS美紀の侍女対決。後半は誠VS但馬の主従対決。
「では、よろしくお願いしますね。」
「はい!勝負とはいえ、負けませんから。」
「殿、この前の借りは返してもらいますよ。」
「はっはっは。望むところだ。全力でかかってこい。」
「えぇ。では、美紀殿行きましょう。」
「はい、遠藤様。」
「春!前半は頼んだぞ。」
「上手くできるかはわかりませんが、精一杯頑張ります。」
そして、それぞれが配置につくと、準備に取り掛かった。試合開始まで残り三十分。各々、しっかりとコンディションを整えた。
「そろそろですね。それぞれ配置についてぇ!」
「それでは、まずは見させてもらうとするか。」
ピーーーーっという笛の合図でまずは前半の火蓋が切って落とされた。
春チームは4―3-3と基本的な編成、一方、美紀チームは、3―3―4と超攻撃型の編成。美紀チームのキックオフで試合が始まった。キックオフと同時に、美紀チームの選手は前に出る。笛に驚いたのか、春チームは一歩遅れ、その隙に、相手のFWが一気に前線へ。
「おい、誰か一人当たりに行けぇーー!」
「はい!」
キャプテンに指示された女性DFが、すぐに押さえ込もうとするが、子供の身軽さのせいかそのまま抜き去り、そのままゴールへ。前半開始2分、早くも失点してしまう。
「殿、すいません……」
「いやいや、誤ることないんだよ。ほら、まだ始まったばかりだし。これから、これから。」
そして、すぐにリスタート。今度は春チームがパスを回しながら、ゆっくりと攻め上がって行く。相手は超攻撃型の編成のため、所々に穴があり、初心者でも、簡単にパスを回せる。細々とパスを出し、絶対にボールを与えない。
「おい!早く玉を奪いにいけぇ!」
敵の選手がボールを奪いに複数でプレスを掛けに行く。そこに、スペースが空く。
「へい!こっちだ!」
FWの一人が手を上げる。ノーマークでパスを受け取り、そのままゴール目掛けてシュートを撃つ。
「よっしゃあ、いけーーーーーー!」
パァン
「なに!?」
放ったシュートはゴールキーパーに阻まれてしまった。
「今だ!全員、上がれぇええーーー!」
キーパーの一声で前線にいる四人が一斉に駆け出す。
「カウンターか……」
「しまった……みんな、戻れ!」
DFが戻って、追いつくも4対3。相手はパスを回して、敵を翻弄する。そして全員を抜くと、もう、キーパーと1対4。味方キーパーは誰がシュートを撃つかわからず、一点に集中していると、相手は逆側にパスを出し、空いたところにシュート。前半25分、カウンターで二点目を奪われた。
「くっそおーーーーーー!」
味方チームは、みんな頭を抱える。
「殿……」
「なぁに!心配するな。きっと、大丈夫。はっはっは。」
「殿、顔が笑顔じゃないです。」
「ぐぬ……」
そのまま試合は進み、相手の攻撃によりどんどん押され、防戦一方になる。そして、更に2点を追加されてしまう。一方、細々としたパスワークで、相手のスキをついて春チームは攻める。前半終了間際、ようやく一点を返して前半終了。4ー1で折り返すこととなった。
「殿、こちらが有利ですが、遠慮なく勝たせてもらいます。」
「なぁに、これからよ。お主も油断せぬようにな。」
と言ったものの、実際のところ三点差は厳しい。でも、素人とはいえ、サッカーを知っている者が全く知らない素人に負けるわけにはいかない。
「よし、このフォーメーションで行こう。よし。お前達!」
「何ですか、先生?」
「あぁ。お前達、勝ちたいだろ?」
「はい……まぁ、勝てるならですけど……」
「勝てる!配置はなこれで行く。作戦は・・・・・・」
「わかりました。とりあえず、やってみます。」
「おう、頼んだぞ。失敗してもいいから何度でも挑戦してみなさい。」
「殿、何かなさるんですか?」
「あぁ、実に簡単な秘策さ。これで、恐らく勝てる。」
そして、後半の開始。誠達のキックオフで始まった後半は、噂を聞きつけた兵や民達が艦船に来ていた。
その直後、誠のチームはデフェンスラインでボールを回す。そのボールを奪おうと、敵は前に前にと詰め寄ってくる。
「ふん。ゴールの前で、ボールを回していると奪われるぞぉ。」
左隅にだんだん寄せられる味方選手。そこに、誠が合図を出す。『今だ。』と。その合図を誠チームのキャプテンは追い詰められている選手に合図を出す。その合図を見るとすぐに逆サイドのDFにパスを出す。
「逆だ、奪いに行け!」
「もう、遅い。」
パスを受け取った選手は、遠くに飛ばそうとボールに力を籠める。
「馬鹿め!そこには、誰も・・・!?」
もう、時すでに遅し。敵のDFラインに張り付いていたFWの一人がパスと同時に走り出していた。敵DFは遅れて追いかけるが、追いつかず、そのままゴール。誠の狙い通り、作戦が上手くいった。
「まだまだ、一点。点差も二点だ。大丈夫。そのまま攻め続けろ。」
「はい!」
そしてすぐさまリスタート。そのまま相手は、誠陣地へ攻め込む。しかし、DFに阻まれ、前線へと飛ばされる。パシュ。リスタート早々、誠チームは一点差まで詰め寄る。現在後半10分。またもや、失点を許した但馬チームは5―3―2から4―3―3のフォーメーションに変えた。
「攻撃型なのは変わりはない。」
誠の単純な秘策。それは、カウンターで点を稼ぐこと。だから、フォーメーションは5―2―2―1。ワントップの選手に負担がかかるが、五人のDFと二人のDHによる堅固な守りで相手の攻撃を食い止めるのだった。それに、さすがに違和感を覚え始めたが、そのまま指示を出すことなく試合を続行。が、五分後、とうとう追いつかれてしまった。
「やったぁーーー!殿、ついに追いつきましたね。」
「あぁ。このままもう一点取れたらいいのだが……」
チラッと横を見る誠。その目の先にはようやく誠の作戦を分かった但馬がいた。
「なるほど、手薄な守りの裏を突いたのか……では、こうしよう。」
「そう来たか。」
5―1―4編成。堅固だし、攻撃にも手を抜かない気か……少し様子を見よう。誠の思った通り、カウンターは上手く決まらず、奪われるばかり。仕方ない……
「コクっ。みんな、いくぞぉ。」
その掛け声で、誠チームの選手は動き出す。交代枠を使って攻撃人数を増やし、3-2-3-2で応戦。バランスの取れた攻撃・守備ができるようになった。そして、相手も負けじと。攻めて、守ってくる。そしてついに、後半終了間際、相手の隙をつき、誠チームがゴールをこじ開けた。そこで、試合終了。会場からは多くの歓声が飛び交った。選手たちも大喜び。
「はぁ……また殿に負けてしまった。」
「いやいや、なかなかいい試合だったぞ。春、美紀。そなた達もな。」
「「ありがとうございます。」」
終わった後はみんなで仲良く昼食を食べた。かくして、初めての学校は終わりの幕を閉じた。そして、翌日から噂が噂を呼び、生徒数が倍以上になったとさ・・・