#35 莉奈とのデート
家臣達がナガトとなにやら画策しているとは知らず、誠は莉奈との約束を果たすため侍女の暮らす部屋へと向かった。侍女の部屋は何かあってもいいように、誠達の部屋のすぐ近くに隣接してある。
「莉奈、準備はよいか?おぉ~~~!」
「と、殿ぉ!」
「おめかしか、良いではないか。似合っておるぞ。普段もそうだが、いつもより美人に見える。」
「ありがとうございます……」
「殿!しっかり莉奈殿をもてなして下さいね。」
「では、行こうか……」
「はい!」
恥ずかしいのか嬉しいのか顔を赤面しながら、誠にエスコートされるまま、城下へと降りた。
「莉奈、今日はデートなんだから、誠と呼ぶのは禁ずる。殿様ってバレるのはちょっとな。呼び方は、莉奈に任せる。」
「では、誠様……」
「まぁ、ギリギリいいだろう。まずはな、熊本城下初の菓子店だ。」
「菓子店ですか?」
「あぁ。とても甘いものが食べられるんだよ。それはもう、絶品。」
「おっと、これは大殿様じゃないですか。」
「早速、バレてますよ。誠様。」
「いやぁ、実はここの店主には、料理の品目を教えたから、バレたと思う。うん。」
「まぁ、それはそうと、何か頼みましょう。」
「そうだな、何がいい?」
聞くと、店内に置いてあるメニュー表を取り出した。メニューをパラパラとめくると、とあるページで莉奈の目が釘付けになる。
「誠様、これは?」
莉奈が選んだものそれは、『ラブラブ抹茶パフェ』といういかにも恥ずかしいネーミングセンス。ちなみに考案したのは誠で、カップルや夫婦など二人で食べるパフェ。冗談でネーミングしたつもりだったが、店主がいいねということで、決定してしまった。
「どうかされたんですか?」
もちろん、店主や莉奈は『ラブラブ』や『パフェ』の意味は分かっていない。パフェは横にある絵でなんとか想像できるだろうが……『ラブラブ』はちょっと恥ずかしい。
「いや、何でもないよ……じゃあ、店主。これを一つ。」
十分後、出来上がったパフェが運ばれてきた。
「殿、この細長いのが一つしかありませんが……」
そう、このパフェのもう一つ恥ずかしい所。それは、パフェを食べる際のスプーンが一つしか運ばれないこと。目的はカップルや夫婦はもっとラブラブするように仕向けるため。
「あぁ、これにはな、理由があるんだよ。ほら、そういうことで。あ~~ん。」
現世だと、完全に浮気の証拠となってしまう行動である。これが許されるのは戦国時代かつ、誠が身分が高いからである。
「え?え?殿、何をされてるんですかぁ?」
「これが一つしか用意されている理由。男が女に食べさせるため、また逆もしかり。ほら、あちらを見てみぃ。」
戸惑う莉奈は、誠に指された方を見ると、そこには一組の夫婦が、同じメニューを頼んで、実際にそれをしていた。
「ほれ、そういうことだから。あ~~~ん。」
恥ずかしいのを押し殺して、誠はパフェを莉奈の口元へ持っていく。莉奈もその場の雰囲気に負けたのか、大人しくパクッと食べる。
「では、お返しに。誠様、あ~~~ん。」
「いや、私は……」
『私も恥ずかしい思いをしたのだから、殿も、ね?』と目で訴えてくる。もう、その時点で二人には諦めがついた。
「いやぁ、大殿様のおかげで店も繁盛しております。」
「それなら、何より。何か足りない物資があったら、また言ってくれ。」
「はいありがとうござんした。またのお越しを。」
二人は店を出ると、城下を歩き回った。誠たちがいない一ヶ月の間で城下は更に活気がつき、賑やかになっていた。そこから、お店以外にも雑貨屋や紙芝居を見たり、野原で駆け回る子供たちと一緒になって遊んだ。
「いやぁ、随分とはしゃいだな。」
「はい、すごく、楽しかったです。」
「どうする?まだ時間はあるが……」
「そうですね……誠様にお任せします。」
「そうだなぁ……では、とりあえず港に行くとしよう。」
誠は莉奈の手を掴むとそのままその手を引いて、港へと向かった。
「あ、マスター。何か御用ですか?」
「いやぁ、ユウを借りようと思って。」
「あぁ、そういえば、今日は莉奈さんをエスコートする日でしたね。分かりました、今出しますね。」
長門か格納庫から出てきたユウは、誠達のすぐ近くで着陸した。
「マスター、お久しぶりですねぇ。最近はご無沙汰で、寂しかったですよぉ。」
「あぁ、そうだなー。お前に構っている暇ないから。ほら、莉奈。私の隣に。」
「ぷうぅ、マスターのケチぃ~~~!」
「あ、早速だが、ここまで頼む。」
「もう、人使いが荒いんだから‼ ぷんぷん。」
「はいはい。そうですねーーー。」
「殿。いえ、誠様。どこに行かれるんですか?」
「ん~~~。着くまでひ・み・つ。」
もうすぐ、日も暮れる頃。誠は上空から城下を通りながら有明海への先へと進んでいった。
「誠様、これ。落ちないですか?下は海しかありませんけど……」
「はっはっは、大丈夫だよ。落ちた時の対策もあるから。それに、こいつが何とかしてくれる。」
「はぁ、それならいいですが。それにしても変わった子ですよね。こんな平らなところで動き回っているなんて。」
「まぁ、変わってはいないのだがな……この子はこの機体の一部なんだよ。そうだなぁ、城で例えるなら本丸みたいなものだな。」
「んん~~~?やっぱり、理解するのは難しいです……」
「上手く説明できないですまないな。」
「いえ、誠様のせいじゃ、ありません!」
「では、私のせいですか?」
「いえ、ユウさんのせいでもありませんよ。」
「こら、ユウ。あまり、莉奈をいじめるでない。あ、莉奈。もうすぐ着くから、これをしてくれ。」
誠は莉奈に目隠しをさせる。直前になって、驚かせるためだ。
「では、着陸を開始します。揺れにご注意を。」
「ユウ、ここまでありがとうな。ここで、待機していてくれ。」
「わかりましたぁ!」
ヘリからそっと、莉奈の両手を掴み、誠が所定の場所まで移動した。途中の道はゴロゴロしていて、歩きにくかったが、なんとか、たどり着けた。
「もう、それを外していいぞ。」
「うわーーーーーー!」
莉奈と誠の視線の先に広がるのは、夕日に照らされた海。その海はいつもの青い海とは違って、紅く輝いている海だった。誠が訪れた場所、それは現在の長崎県五島列島の福江島にある大瀬崎灯台。誠達の時代には灯台こそないものの、ここから見る夕焼けの景色は絶景である。
実は誠。小さい時に一度家族で来たことがあったのだ。未来とは少し違うかもしれないが、またここに来れてよかったと思い出に浸るのであった。
「誠様、このような絶景の所に連れていただきありがとうございます。本当に感動しました。」
「あぁ。それと、これな。ほら。」
誠が渡したもの、それは簪。先程、雑貨屋で莉奈が可愛いと言っていたものをこっそり買っていたのだ。もちろん、千や結月にも買ってある。
「殿……ありがとうございますぅ。大切に使い…ますね…」
「これこれ、せっかくのおめかしが台無しだぞ。まぁ、喜んでくれて何より。着けてみてくれ。」
「はい…どうですか?」
「うん、似合っておる!」
「ありがとうございます。」
夕日をバックにした笑顔の莉奈は輝いていた。
「マスター、こちらに数百人の部隊が近づいてきます。」
どこから現れたのか、武装した兵が近づいてくる。
「莉奈。どうやら、ここの兵が気づいたらしい。ユウ!至急発進し、梯子をおろせぇ!」
「ラジャー。UH-1J機体ナンバーユウ発進します。」
「莉奈、飛び乗るぞ。掴まれぇえ!」
誠は莉奈を抱えたまま、梯子に飛び乗るとその場を後にした。もちろん、帰りは最高の絶景を見ながら・・・
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