#29 肥前平定 第三陣
龍造寺隆信も六つの城・砦を落とし終え、残りは潮見城となった。全軍あわせて15,000の兵で包囲をした。そこから敵は籠城で応戦。こちらもしびれを切らし、総攻撃を仕掛けた。潮見城の領主渋江氏は降伏。龍造寺の配下に下った。この戦いをもって兵の補充を行うため、落とした城の兵と負傷兵の交換が行われた。
誠の軍は現在1,800。被害的には少ないほうなのだが、戦を知らない誠にとって、200名の命の重みは大きかった。誠はこれが戦だということを改めて思い知らされた。
「殿、仕方ないですよ。これが戦というものです。」
「仕方ないで済ませてなるものか!200だぞ、200!正確には226だ。」
「殿……」
「直茂殿、ここは私達にお任せください。」
「殿、確かに仕方ないことではありませんね。でも、これが戦ということがわかったでしょう。」
「あぁ、これが戦なら俺はもう辞める。」
「殿!私達には待ってくれている家族がいます。殿には奥方様が。それに、殿はおっしゃったじゃないですか、夢は世界平和だと。それを叶えるためにはいくらかの犠牲も出るくらい今の世では難しいことです。ですから、殿は指揮官として少しでもその犠牲を減らすようご尽力ください。」
「あぁ…わかった。取り乱してすまなかった。気づかせてくれてありがとう。それから、直茂強く言い過ぎた、すまん。」
まさか、侍女達に気づかされるとはな。いつまでも兵たちの死にくよくよしている場合ではないということか。今もこれからも兵たちの死は無駄にはしない。そして、一生忘れない。
「何やら騒がしかったようだが、話は終わったのか?」
「何でもありませんよ、隆信殿。では次の作戦へと参りましょうか。」
「さては、奥さんがいなくて、寂しいんじゃろ?」
「い、いえ。違いますよ。」
「いいのじゃ、いいのじゃ。出会った頃は未婚だったから、儂に娘ができたら、嫁がせようと思ったのにな。」
それじゃあ、俺はロリコンになってしまうではないかと思ったが、誠には、苦笑いで返すしかなかった。
「では、早速軍議を始める。今回は千々石氏と松浦氏と波多氏の討伐。これで、有馬氏が出てくればなお良いのだがな。」
「そうですね。恐らく、後詰を寄越してくるでしょう。」
「そうじゃな。では、千々石氏で誘き出すか。誠殿、円城寺と共に松浦氏と波多氏の方を頼めるか?」
「今回我々は援軍として来ているので、それは構いません。ちなみに有馬氏の軍勢はいかほどですか?」
「斥候の報告によると、5,000から6,000。松浦氏と千々石氏を合わせると10,000には及ぶな。」
「そうですね、波多氏と松浦氏は同じ先祖ですが、仲が悪いんですよ。」
「では、それほど心配ないですね。」
「なめるなよ、小僧。油断してると、いつか痛い目にあうぞ。これは我らの戦いなのだ。お主らの」
「すいません。」
「いいではないか、円城寺。誠殿は初心者のようなものなんだから。」
「いえ、平和ボケしていた私が悪いのです。すいません、円城寺殿。気づかせていただき、ありがとうございます。」
「では、行くぞ。出陣!」
円城寺としがらみを抱えたまま、円城寺・誠軍総勢7,000、龍造寺軍10,000の軍勢はそれぞれの目的地へと向かった。
「円城寺殿。まずはどこに攻め入るんで?」
「まずは松浦氏からだろ。」
「それだと、波多氏を攻めるときに逆戻りじゃないですか?それに、松浦氏討伐の際、協力を促せるのでは?」
「確かに、一理あるな。しかし、波多氏が協力するかはわからん。」
「そうですね。でも、ここから近いですし、波多氏から行きましょう。」
「わかった。では、そうするか。」
先に、波多氏を攻めることとなった誠達。敵の本城・岸岳城を取り囲んだ。
「誠、もういくら包囲しても敵が出てこぬではないか。」
「いや、そりゃそうでしょ。敵は籠城を選んだんですから。」
「ええぃ、もう我慢ならん。全兵、突撃ぃーーーーー!」
「待ってください、円城寺殿!」
円城寺は誠の声に耳も傾けず、全兵に総攻撃を仕掛けさせた。
「殿、我らはどうします?」
「総攻撃はしない。ただし、円城寺隊を後方から援護しよう。」
「わかりました。」
「鉄砲隊、弓隊!構え!味方に絶対充てるなよぉ。敵兵に向けて、はなてぇぇ!続いて、第二射用意---!はなてぇぇぇ!」
「殿!斥候隊から報告。波多・青山・島村の各城から後詰が……総勢1,500。」
「わかった。鉄砲隊・弓隊、・一旦射撃やめぃ。直茂!後詰が来ることを円城寺殿に知らせろ。皆の者背後から敵が来るぞ、陣形を整えなおせ。」
「千、莉奈。お主らはそれぞれ一部隊の指揮をとれ。」
「「わかりました。」」
誠は三方向の各城からやってくる敵に対し、自分の隊を三つに分け応戦。
「皆の者、まだだぞ。十分に引き付けよ。まだだぞ、まだだ…………今だ。鉄砲・弓をはなてぇえ!撃ったものは後退。続けて、第二射撃てぇえ!」
敵が半数くらいに減っただろうか。それでも、退く気配はなく、誠隊にだんだんと近づいてくる。
「鉄砲・弓隊後退しつつ、後方での援護を。槍隊・騎馬隊突撃せよ!決して円城寺隊に近付けさせるな!」
結果、誠隊は敵の後詰を円城寺隊に寄せ付けることなく、また円城寺隊もなんとか、岸岳城を落として見せた。そして、後詰を送った城は捕らえた岸岳城城主波多盛によって、降伏するよう伝えられ、抵抗することなしに開城した。そして、龍造寺家の進軍に恐れをなした志佐氏が龍造寺家に寝返るという書状を送ってきた。
「寝返るとはまた虫のいい話ですね。」
「いや誠、志佐氏には前々から調略してたんだ。なかなかなびなかったが、今回のこの戦で恐れをなしたのだろう。」
「で、どうするんですか。私としては円城寺隊が無理に突撃した兵の補充を行ったほうがいいと思うのですが?」
「ぐぬ……無論、そのつもりだ。おい、志佐氏に直ちに兵を出すよう伝えろ。そして、龍造寺家に従う証として、直谷城を明け渡させろ。」
「はっ。」
先の戦で誠隊には犠牲者は出なかったものの、重軽傷者が多数。円城寺隊は無闇な突撃で約半数を失い、残り4,000の兵となっていた。だから、しばしの休息が必要だった。そして、志佐氏当主・志佐純元は直谷城を明け渡し、援軍として1,500の兵を送ってもらえることとなった。
「誠、しばし休め。先程、殿からも書状が届いた。」
「隆信殿はなんて?」
「隆信様もも少しで落とせようなところで、有馬家の援軍が到着したらしく、一旦撤退したらしい。」
「撤退!?隆信殿のところには10,000の兵がいましたよね?」
「どうやら大筒があったらしい。さほど被害も出てないみたいだが、一応戦略的撤退をしたそうだ。だから、あえて迅速じゃなくて、持久戦に持ち込めるようにしたそうだ。幸い、こちらには補給もあれば、いざ無くなった時のための補給路も確保してある。」
「それはそれでいいんですが、こちらが松浦氏を攻める時も大筒がでてくるんじゃないですか?」
「いや、千々石氏のほうに我が本隊がいるのだ。そう易々と離れまい。休みは三日与えられている。動けるものは鍛錬させておいた方がよいぞ。」
「円城寺殿、失礼ですが申し上げさせていただきます。」
「援軍風情が図にのるなよ!」
誠の胸ぐらを掴む円城寺。千と莉奈が慌てて、武器をとるが、誠がやめるよう指示する。
「我々もこの戦に援軍としてきている以上、自らの兵を失うわけにはいきません。たった三日の鍛錬では変わりません!我々は指揮官として、作戦を考えるべきです!さもなくば、我が山田軍は撤退します。」
「なにぃ!?」
「どうかお考え直しください。今は策を講じるべきです!」
「わかった……勝手にせい。」
「ありがとうございます。」
「勘違いするなよ、我が龍造寺家が恥をかかぬためだ。」
そう言うと、円城寺はその場から立ち去った。その後線と莉奈がいろいろ言っていたのをなだめて、今日一日はしっかりと休んだ。翌日から三日三晩作戦を練り、準備もした。円城寺もちゃんと参加していた。