#3肥前到着、そして龍造寺氏たち
長門から下ろした小舟をこいで、陸へ向かうと、沖には大勢の人だかりがあった。沖へついて、小舟を波に流されないようにすると、刀を持った数人が近づいてきて、刀を抜き構えた。
「な、何者だ。出身と名を申せ!」
「出身は長崎、あ、いや肥前です。名前は山田誠と言います。」
「あの南蛮船は貴様のか?」
南蛮船か〜、まぁ、この時代なら間違えられても仕方ないか…面倒くさいからそういことにしておこう、うんうん。
「あぁ、そうですが…南蛮にもこの一隻しかないと思います。そちらこそ、いい加減、刀をしまってくれないですかね。」
「それは失礼した。私は龍造寺家家臣、鍋島清房でござる。」
「では、鍋島殿。私はこれで。」
焦った~、正直刀わ向けられるって相当怖いな…平和な時代に生まれたもんだからな~
それにしても鍋島って…
「お待ち下され。先の非礼、お詫びしとうございます。是非、我が殿、龍造寺隆信様にお会い下さい…」
あ、やばい。嫌な予感しかしない…でも、ここで断ったら、無礼とかいって、斬られるかもしれない。清房さんはそんな人には見えないけど…
「頭をお上げ下さい。私は武士ではなく、商人の端くれで、身分は低いので…」
「いやいや、あれほどの南蛮船をお持ちになるとはこの清房、感服いたしました。是非、あって欲しいでございます。」
うわっ、頭下げられたよ。なんか、周りの目もあるし……それに、そこまでされたら仕方ないか……
「わかりました。ですが、会うだけですよ。」
「かたじけない。」
なんで、名もない商人に近づくのか、まぁ、この人に考えがあるんだろうけど……
そして、鍋島殿の他2、3名に連れられて、龍造寺家の本城 村中城へと俺は向かった。
「龍造寺家当主 龍造寺隆信様のおな〜り。」
「表をあげよ。はて、此度は何用か、清房。」
「はっ。肥前沖にて、南蛮船を持つという商人がいたので、連れてきた次第であります。」
「それはこの若造か!?名と歳は?」
「山田 誠と申します。16になります。この度のご謁見、恐悦至極にございます。」
「堅苦しい挨拶はよせぇい。わしはあの大きな南蛮船を見たんだが、すごいのぉ。よし!気に入ったぞ。誠、お主わしの家臣にならぬか?」
ん???この人今なんて言った?家臣になれって?少し気が早すぎないですかね、見ず知らずの私を家臣だなんて。
「いやいや、滅相もございません。私は商人です故、他の国と貿易をさせていただければ、結構でございます。」
「ほぅ、わしの頼みを断るか、小僧……」
「お気に障ったのなら、申し訳ありません。ですが、私は戦など嫌いでございます。」
「ますます、気に入った!あい、わかった。お主を家臣にするのはやめる。しかし、貿易するには拠点が必要じゃろ?ましてや、あのような大きな船を持っておるのだ。大名にでもなって戦のない世を作ればよい。ワシらが日乃江城でも攻めるのはどうか?」
「殿。それはあまりにも無謀でございます。日乃江城は有馬氏の本城であり、背後には大内氏と大友氏が……それに、軍を動かすとなると、大友、島津の動きも気になります。」
「うむ……どうしたものか。」
この際、長崎での拠点探しは諦めるか、あまり龍造寺家の皆さんに迷惑かけるのもあれだし…
「隆信様。私は、商人であります。戦のない世など某に作れましょうか……ましてや、こんな身分の低い者に隆信様が力を貸すなど。それに、今から大友、島津にも接触を図ろうとも思いますし。」
大友、島津と聞いて、周りの家臣団が一斉に剣に手をかざす。まぁ、待てと、家臣を止める隆信さん。
「どういうことだ、誠。我が敵地に赴こうと言うのか?」
態度が変わる龍蔵寺隆信。まぁ、それもそうだよな、隣国に、しかも敵国に行こうとするのだから。
「恐れながら、私は九州で争っている場合ではないということです。九州を出れば、中国には毛利、四国には長宗我部、もっと奥に行けば、武田や北条もいます。私は九州を収める龍造寺、大友、島津で同盟を結ぶべきかと…」
「ほぅ、それで?お主は具体的に何がしたいのじゃ?」
「そうですね。叶うなら、一刻も早く平和な日本国をつくって、世界に目を向けて商売がしたいです。」
商人ゆえか、いろいろな物を扱ってきた自分にはわかる。このままじゃダメだと。
「それにはやっぱり拠点が必要だし、お主が動かす軍も必要じゃ、反乱が起きたときのためにな。世の中は物騒な者ばかりじゃからのぉ。」
龍造寺殿、ごもっともなご意見。確かに、そっちの方が手っ取り早いしな〜。ん〜〜どうしたものか…
「殿。一つご相談が…ごにょごにょ」
家臣の鍋島さんが、耳打ちをする。はて、何か策を立てているのかなと思いつつ、そわそわしながら、待っていると、隆信さんがニヤニヤし始めた。
「誠、お主、城攻めをしてみんか?」
「は??」
「清房、説明せい!」
「はっ。実は先日、大友氏の中で跡取り騒動が起きまして、大友家当主 大友義鑑とその子塩市丸を殺害し、塩市丸派の入田親誠が阿蘇氏を頼って隈本城に入ったと。それで、大友義鎮は一刻も早く、隈本城を落としたいそうです。」
「ということは、俺が隈本城を落とすってことですか?ひとりで?いやいや不可能ですよ!」
「もちろん、私たちは一兵も出せません。ですが、誠殿には、あの南蛮船があるではないですか。」
「あ、それもそうですね。」
あれ?すんなり納得してしまったけど、大丈夫なのか?でも、ここは清房さんを信じてみるのもありか……
「それに、大友義鎮もあの船を見たら肝を冷やすという訳です。そこで…」
「龍造寺家、島津家と同盟をするように促すわけですね。なるほど。でも、交渉は某次第と……」
「そういうことです。完遂できれば、我々も同盟にぜひ参加しましょう。」
さすが、龍造寺家の智将といったところか……隈本城の阿蘇家とその逃げた人に恨みはないけど、これも乱世の定めか、仕方ない。あれ、でも結局乗り込むのは俺一人だけか…