#25 束の間の平穏
いよいよ、誠達による熊本城の南門の改修が始まった。当初は五百人を動員していたが、五百人が入るにはあまりにも狭すぎたので、三日交代のローテーションを組み、百人体制で、南門・西門を同時進行で行うことにした。なお、二百人以外は休みのグループもあれば、港の手伝い、結月達の民への炊き出しの手伝いのも行かせた。
「殿!この木材はどちらへ?」
「それはこっちの方へ。あぁ、君。それはこっちじゃなくて、あっちの柱の部分だから。」
誠は、設計図を描くことこそ、壊滅的だったが、現世での商売で、他国のインフラ整備の役割を担っていた時に建築に関して、少しどころかプロ並みに調べたので指示くらいは可能なのだ。図面は与左衛門たちがかいたものであって、誠はあくまで、指示と建設材料を作るだけなのだ。
「みなさーーん!昼食の準備ができましたよぉ〜〜!」
結月の掛け声で、作業をしていた者達は一旦、手を止め昼食を取りに向かう。作業兵にとって、この時間が唯一の楽しみらしい。
「いやぁ〜、殿の奥様や侍女達はみな、美人やのぉ〜。」
「そうだよなぁ、うちの妻もあのくらい、優しくしてくれればなぁ。」
「ほんとだよ。帰っても、汗臭いだの何だの言って、結婚する前はあんなに優しかったのになぁ。」
兵達がそんな話をしているのを聞いて、うちの嫁さんも怒ったら、相当怖いですと思った。同時に、昔だったら、男が亭主関白を装っていると思ったけど、今も昔も女が強いという悩みは変わらないんだなと懐かしくも思った。現世では、奥さんいなかったけどね!会社の同僚から聞いた話によるとだけどね。
「ほらぁ!食ったら、作業に戻れぇ!」
「殿!殿も食べないと元気が出ませんよ。」
「あぁ、すまないな。わざわざ飯まで作ってくれて。」
「私は妻として当然の責務だと思っていますよ。ここにいる兵達は皆殿の家族みたいなものですからね。」
「ははは、そうだったな。それで、どうだった。農地の方の炊き出しは?」
「えぇ、農民の皆さん喜んでいましたよ。毎日ご飯をたべれるのはありがたいって。そのおかげで、使われていなかった農地も雑草を抜いたりして、前よりかは使える農地が増えましたよ。」
「そうか、頑張ってくれているならなによりだ。農民の作る食物は私達にとって、貴重な食料調達の場所だからな。頑張ってもらわないと、私達の食料が失くなってしまう。」
「そうですね。前の領主はそれを分かっていなかったんでしょうか?農民の方が、言っていました。毎日のように取り立てに来て、食う飯がほとんどなかったって。」
「そうか、相当苦労したんだな。しっかりと、その意を汲み取ってやらんとな。」
「はい、そうですね。それと、殿。お願いがあるのですが……」
「ん?何か、欲しいものでもあるのか?」
「いえ、私達も農地の復興をお手伝いしたいなぁと。見てるだけだと、なんか心苦しいんですよね。」
「そうか。結月のことだから、侍女達にでも止められたんだろ?」
「はい…お召し物が汚れるからと。」
「まぁ、汚れてもいい格好で行きなさい。それだったら、いい。後、お主らに付いていっている兵も使ってもらっても構わん。ただし、強要させるなよ。」
「ありがとうございます、殿!」
「あぁ。しっかりと農民にやり方とか聞くんだよ。あの方達の方がスペシャリストなんだから。」
「すぺしゃるすと?」
「あ、えっと……専門家ってことだよ、うん。それと、私も手伝いに行ける時は行くから。」
「分かりました。そのすぺしゃるすと?に頼って頑張って来ます。」
「スペシャリストな。」
そして、全ての作業兵が食事を終えると、結月と侍女達は各自、部屋へと戻って行った。
「殿。お忙しいところ申し訳ないんですが次は西門の指示をお願いします。どうも、南門より進行が遅くて、困ってるんです。」
「まぁ、今は西門を重要視すべきではないからいいんだけど。とりあえず、向かうわ。南門の監督よろしく。」
「わかりました。」
このように、初日から南門と西門を交互に行き来しながら、問題箇所がないかチェックしたり、八助達がわからないところを指示したりしに行く。もちろん、誠自身も木材や石材を運んだり、組み立てたりしている。最初の方は、兵達から『何をやっておられるのですか?』と驚かれたが、何もしないと気が治らないので、兵達と一緒になって作業を行っている。
「おい、そこの君、それは右の柱ではなくて、左のほうの柱だぞ。そう、そこだ。」
「うちの殿様は、あんなに若いのに、みんなより真っ黒になって働いているよなぁ。それに指示まで出して。」
「儂らも負けてはおられんな。若造なんかに。」
褒められるのも悪くないな、うん。気分がいい。それにしても、八助が言った通り、ちょっと作業スピードが遅いよなぁ。西門だから別にいいんだけどさ。というか、俺が来たら、みんなの作業スピードが上がるんだけどね。
「お殿様。」
「うわぁぁ!ビックリした。そんな急に耳元で呼ばないでくれよ。驚くから!」
「作業中に申し訳ありません。何度も遠くからお呼びしたんですが、聞こえていなかったもので…」
「あぁ、それは怒ってすまん。それで、何用だ?莉奈。」
「はい、太平殿が殿にお会いしたいと。」
「何やら、同盟三家から書状が届いたようで。」
「分かった。すぐに向かう。千は南門にいる与左衛門に西門を頼むと伝えてくれ。莉奈は私と一緒に来い。」
「「はい。」」
同盟三家から書状か… つい先日同盟会議で会ったばかりというのに、もう早速書状だよ。なんかあったら、まずいよな。ようやく城の改修を始めた頃なのに。
「殿。わざわざお呼びたててすいません。同盟三家からの書状でしたので、なるべく早めにお耳に入れておいた方が良いかと思いまして…」
「いやいや。わざわざ御船城からよくやって来たな。早速報告を頼む。」
「はい。では、まずは大友家から。『おい、誠!お主らと同盟組んでから、大内・毛利との戦が楽になった。ところで、いつまた料理を振る舞ってくれるのじゃ?』とのことです。」
「・・・・・・」
ん?何、あいつすごくどうでもいいこと送って来たんだけど…わざわざ呼びつけられる、こっちの身にもなれっつーの!
「あ〜殿?」
「太平。宗麟に伝えろ。次どうでもいいこと書状にして来たら、二度と料理は振る舞わんと。」
「はい…次に島津ですが、『南九州の非同盟の大名家に不穏な動きあり。注意されたし。』とのことです。」
「島津殿もお気をつけを、何かあれば援軍を送ります故と伝えろ。次!」
「あ、はい!最後は龍造寺ですが…『有馬氏と少弐氏との戦に協力をお願いしたい。』と。」
「以外と龍造寺が動くの早かったな。いつ頃になりそうと書いてあるか?」
「できれば、今すぐにでもと。恐らく龍造寺家は早く内政を進めるために、今のうちに、付近の反対勢力を押さえ込みたいのでしょう。さすれば、安定した統治をすることができます。」
「なるほどな。こちらも兵を出すのに時間がかかる。一週間待って欲しいと伝えてくれ。それと、翌日重臣達を集めよ。三秋は…太平、お主が代わりに出席してそれを伝えろ。」
「はっ。わかりました。」
同盟結成から一週間もたたないうちに、小勢力を押さえ込むための戦が各場所で始まった。初戦は有馬氏と少弐氏。山田家単体ではどうにもならないが、龍造寺と協力すればなんとかなるだろう。とある城も港警備用として手に入れたかったし、勝てば、誠にとって得をする戦だった。