#19 隈本城攻防戦
「さて、どんなものを見せてくれるのやら。」
誠達を嘲笑った大友宗麟。本当はぶん殴ってやりたいところだが、今はそうしている場合ではない。急いで、戦車にのって隈本城に向かわないといけない。
「おい、急いで隈本城に戻れ。大友家にやられた。阿蘇家も進軍してくるらしい。」
「阿蘇家もですか!」
「あぁ。大友宗麟は恐らく俺らを試す気だ。隈本城を守れるかどうか。」
「では、大友軍に向かわなかった方が良かったんじゃ?」
「いや、それはそれで大友軍が進軍してくるから意味がない。どちらにしろ、隈本城にすぐ向かわないと、みんなが危ない!」
「マル、ナガトに連絡。いつでも艦砲射撃できるようにしとけと。ゼロは偵察任務終えてよし、艦内に収容されたし。」
「ラジャー。それにしてもマスター卑怯な奴等だな、大友宗麟という輩は。」
「あぁ、全くだ。急ぐぞ!」
「「「「はい!!」」」」「おう!」
一方その頃、隈本城城下では不穏な空気が流れていた。
「三秋殿、城南門に向けておよそ6,000の兵がこちらに向かってきております。包囲されるのももう時間の問題です。」
「何だと!?殿達は大友家の交渉に失敗したのか?」
「いえ。大友家ではなく阿蘇家が攻めてきました……」
「大友軍がいないということは、殿達は交渉成功したということか。」
「それは、分かりかねますが…斥候の話によると御船城近くの山にて布陣しており、大友軍に一人接触した人物がいたそうで……」
「恐らく、交渉は成功したと考えてよいだろう。てことは、私たちがやることはただ一つ、殿達が無事に戻ってくるまでこの城を死守することだ!全員、武器を持て!殿は無事だ!何としてでもこの城を守り抜くぞ。」
『うぉぉぉぉぉーーーーー!』と不穏な空気を一切漂わせない雰囲気が隈本城城内に響き渡る。兵は殿の無事の知らせも分かり、さらに三秋の掛け声によって士気は十分に高まった。しかし、三秋だけは次にどうすればいいか迷いがあった。このままだと、城下は完全に包囲されてしまう。実際、堀のある北門を除いて補遺は完了しつつある。兵力差が二倍もある中で攻め入ったとして、勝てるのか?いや無理だ。
「三秋殿!南門より総攻撃が始まりました。どういたしますか?」
くっ!来たか!もう、迷っている暇はない。私が迷えば、兵にも動揺が走ってしまう。そうだ、殿はおっしゃられた。籠城だと。私は鍛冶屋の息子だが、今は殿の立派な家臣。武士だ。最初から守りに回ればよかったんだ。敵は6,000。
「各門に500ずつ残しておけ。残りは南門にて敵を迎え撃つ。全員、決して敵を城内に入れる出ないぞ。」
「はっ!!!!」
「奥方様!」
「敵が来ましたか。」
「はい。しかし、殿は無事です。奥様方は奥のほうへ流れ弾でも来たら危のうございます。」
「いえ、ここで構いません。あなた達は私達のために戦っていらっしゃるのです。どうか、見守ることだけでもさせてください。」
「奥様……」
つい、二時間ほど前まで、誠が戦場に行くのを嫌がっていた女の姿ではなかった。もうそれは、武家の妻として、自分も精一杯役目を果たそうとする覚悟の表れだった。
「きます!」
ついにその時はやってきた。6,000の兵が一気に南門へむけ突入を開始する。城内の兵は皆一斉に固唾を飲んだ。そして、三秋の号令がいきわたる。
「全員、戦闘用意。敵を蹴散らせ。」
「ふん!こざかしい。敵はたかだか1,500。蹴散らしてしまえ。」
「それはどうかな。」
「なに!?」
「構えぇ!撃てぇ!!!」ドドドン、ガチャ。「次!撃てぇえ!」ドドドン
「な、なぜ連続で撃つことができる?」
次々と倒れていく敵兵。そう、三秋達が使っている武器は長門艦内に船内警備のために設置されていた銃。誠のいた世界の銃よりかは古いものの、この時代にとっては、最新式。だから、たった十丁しかない。それでも、敵を混乱に招くには十分だった。最初のほうで指揮系統を失った兵たちは、後方へと撤退して行った。だが、それだけの攻撃では収まらない。
「よくやった、三秋。今回の一番の功労者は誰が何と言おうと、お前だよ。ナガト、全砲弾撃てぇえ!」
ブァーーン、ブァーーーン。ブァーーン、ブァーーーン。ブァーーン、ブァーーーン。
この追い打ちの砲撃で敵は壊滅。阿蘇家は甚大な被害を受けることとなった。今回の戦で、誠は阿蘇家に対し、降伏、和睦勧告を促した。人数での圧倒的な戦力差があったにもかかわらず、負けてしまった阿蘇家は和睦を受け入れ、御船城を明け渡した。
「宗麟様。我々は敵に回してはいけない男を敵に回したかもしれませんな。」
「宗茂。お主もそう思うか。これは一刻も早く手を回さないとといかんな。」
あの時、誠たちを嘲笑った大友家当主、大友宗麟は心の底から後悔するのであった。後日、誠宛てに大友家から使者が参った。内容は此度の戦での勝利の祝いと龍造寺、島津との盟約を受け入れるとのことだった。誠は同時に菊池義武以下二名の謀反人を使者に明け渡した。その後大友家居城立花城にて、処刑が行われたそうだ。
「宗麟め、きっと怖気ついたに違いないです!」
「宗麟といえ、あれほどのものを見せつけられては致し方あるまい。」
「そうだな。まぁ、何にせよ、皆良くやった。特に三秋、よく頑張った。」
「では、今回一番頑張った三秋には、御船城城主に任命しようと思うのだが…」
「殿。しかし、私は…」
「異論ありません。」「そうですね。」「いいんじゃないですか。」「いいね!」
「直茂、それにお前らまで…」
「では、皆の了承も取ったし。これより、御船城は三秋に任せる。しっかりと励めよ。」
「この恩賞ありがたくお受け取りします。この三秋、隈本城防衛の要として、いっそう、精進します!」
「頼んだぞ。それから太平。お前は三秋の下について、協力してやれ。」
「はい!」
「そして、三秋はそのまま御船城の整備を。隈本城の堀は与左衛門、お主が引き継げ。」
「わかりました。」
「もうそろそろ資源も手に入る頃だから、直茂。港の整備頼んだぞ。」
「はい!」
「では、それぞれしっかり励めよ。」
「殿。暫しの間、この部屋を離れますね。終わったら、呼んでください。」
「は?なぜた?今から城内に法度を出しに行かんのに。」
「それは私共が貼っておきますから。」
「そうですぞ。この戦、精神的に頑張ったのは彼女なんですから。昨日は帰れなかったんですから、せめて今日一日はお相手をしてやってください。それでは。」
「殿ぉ!」
その言葉の先には今にも泣き出しそうな結月がいた。
「結月…」
駆け寄ってくる結月。それを優しく抱きしめる。直茂たち、家臣一同はそれを温かく見守った後、何も見なかったかのようにそっと御殿の間を出た。
「すみません……もう、二度と泣かせないと誓ったのに…」
「いえ!謝るのは私のほうです。殿が領主であることは分かっていたんです。だから、こういうことが起きることも。でもあの時、母に気づかされたんです。私はもう武家の…殿の妻だと。だから、もう泣きません。これが最後に見せる涙です。」
「あぁ、すまないな。苦労を掛けて。でも、今日だけは思う存分泣いてくれ。胸なら私が貸してやる。」
「グスン…グスン…と、殿ぉ~~~~~~怖かったよぉ~~~~」
その泣き声は、誠、そしてこっそりそれを聞いていた家臣たちの心に響き渡ったのであった。かくして、
隈本城攻防戦は誠たちの勝利で終わった。