#18 動き出した九州の風雲児
大友家が進軍してくる。その一報が誠たちを震え上がらせた。家臣に指示を出した誠は急いで、城内へと戻った。
「ナガト、応答せよ。」
「なんでしょうか、マスター。」
「大友家が進軍して来た。直ちに対地戦闘用意。それと、ゼロに大友軍の現在地を調べさせろ。レイ、ユウ、マルにも出撃命令。」
「了解しました、マスター。敵大友軍我が城へ向けて、進行中。自立型AI全員出動準備。ゼロは直ちに発艦せよ。」
「ゼロ発艦用意完了。直ちに発艦します。大友軍の位置は逐一マルに報告します。」
「頼んだぞ、ゼロ。」
「マルは城内にいるな?」
「はい、マスター。」
「殿ぉーーーーーー!」
「来たな、直茂。俺らも行くぞ。」
「へ?対抗するんですか?」
「いや、あくまで平和的解決を望む。三秋には、一応籠城の準備もさせている。食料はふた月ほどもつだろう。出撃するのは、俺、直茂、与左衛門、八助、太平の五人。」
「殿自ら行くんですか?絶対にダメです。」
「じゃあ、お前。アレの操作方法わかるのか?しかも、領主様は俺なんだから、交渉につくのはあくまで、俺だ。」
「わかりました。」
「よし、八助たちが揃い次第行くぞ。」
「殿!」
「結月さ…結月。」
「三秋さんから聞きました。出陣になさると。」
「あぁ。」
「嫌です。いいじゃないですか。戦争なんて!一緒に逃げましょう。旅館なんてもういいですから、平和なところでひっそりと暮らしましょう。」
ついこの前まで、旅館の娘だった結月にとっては慣れない話。いざという時、こうなることは予想できていた。でも、今は結月以外にも守るべきものがある。急に私が領主になったにも関わらずついて来てくれた者たちやこの国住まう民を。
「結月!」
その声の先には結月の母である皐月がいた。
「それでも、あなたはうちの娘ですか!こういうことは覚悟の上で、誠さんと結婚したのでしょう。彼が出陣なさるとおっしゃったのです。たとえ、どんな状況であろうと、夫を笑顔で送り出してやるのが妻の役目。それが嫌なら、誠さんと離縁でもしなさい!」
「でも、でもぉ…」
「結月。何も、戦いに行くんじゃない。九州の三大名を同盟させるために大友宗麟に交渉に行くのだ。大丈夫だ、必ず戻って来る。だから、涙を拭いておくれ。私は笑顔で送り出してもらいたいな。」
「グスン、グスン…はい…そ、その代わり戻って来たら、でぇととやらをまたしてください。」
「あぁ、約束しよう。それと、結月にこれを預けておく。」
誠は自分の護身用の銃を手渡した。
「敵が来たら、これで追い返してやれ。」
「わかりました。どうか、ご無事で。」
「殿。与左衛門、八助、太平揃いました。いつでも出陣可能です。」
「よし!行くぞ。」
結月の笑顔と城内全ての兵の想いを背負って、五人は90式戦車マルに乗り込んだ。
「意外と中は広いのですね。結構驚きです。」
「あぁ、そうだろう。じゃあ役割を決めるからな。太平は操縦手、直茂が砲術手な。二人はマルが支援してくれるから安心しろ。与左衛門は装填手。この弾をこの穴に入れるだけでいい。直茂が撃ったら、次を急いで入れる。八助は通信手。とりあえず、報告が来るからそれを読み上げるだけでいい。」
「なんか、与左衛門と八助だけ楽じゃないですか?」
「いや、適材適所で選んだつもりなんだが…」
「そうですか、なら構いません。」
「では、マル。サポート頼んだぞ。」
「マスター、アイアイサー!我が緑炎を邪魔する者は平らにしてくれるわぁ。」
「それにしても、殿。殿は女泣かせですよねぇ〜〜あんなに、綺麗な奥さんに心配してもらって、羨ましい限りですよ、全く。」
「あぁ、そうだな。だから、生きて帰らないといけないな。って、太平!操縦に集中せんかい!」
「はーい!すいませんでしたぁ。」
「殿、ゼロさんから入電です。大友軍阿蘇家居城御船城へと向かっています。編成は騎馬隊500、鉄砲隊300、槍・剣を持つ歩兵隊4200。」
「なぜ、大友軍は阿蘇家の居城へ向かっている?」
「殿、大友家は阿蘇家を従属させています。」
そういうことか、一旦御船城に入って、態勢を整えてから隈本城を落とそうという算段か。でも、5000の兵であれば、一気に決着をつければいいはず。それはなぜ……あ!
「八助!ゼロに緊急要請。至急、阿蘇家居城御船城を偵察せよと。」
「もしかして、殿。阿蘇家が進軍してくるとお思いで?」
「あぁ。今うちの城は、手薄だからな。攻めるには好機といえよう。」
「殿。ゼロさんから入電。ますたぁの予想的中です。阿蘇家の他の支城から御船城に集まりせし。総勢6000。」
「殿、意見具申よろしいですか?」
「直茂。申してみよ。」
「はい。幸いなことに、大友軍と阿蘇軍は未だ合流していません。だから、まず合流するのを防ぐために大友軍に接触しましょう。」
「わかった。急ぐぞ、マル。」
「全身全速で行きやすよぉ!それはそうと、マスター。もう見えたぜ。前方、敵影アリだ。」
「あっちゃあ、めっちゃいるじゃん。直茂、まず、大友軍の側面を狙え。絶対当てるなよ。」
「は、はい。」
「直ちゃん、安心しな。このマル様が全力でサポートしてやる。」
「は、はい!」
「よし、直茂行くぞ。初弾記念だ。撃てぇ!」
ドォン!! バァン!!
「続けて、第2射。左側面。撃てぇ!」
ドォン!! バァン!!
この二撃で、大友軍の動きが止まる。敵影を確認するため、各方に兵が散らばる。その兵たちの前方に轟音をたてながらやってくる一体の鋼に覆われた緑の馬。鉄砲隊が、攻撃を仕掛けるものの、緑の馬にとっては豆鉄砲。一向に、止まらない。だんだん近づいてくる敵に鉄砲隊はなす術なく、逃げ出した。そして、その馬は大友宗麟を見つけると、急停止した。恐る恐る近づくと、中から人が…
「大友軍の皆さん、こんにちは。お会いできて嬉しゅうございます。」
「そなた、何者だ?まさか、異国の者か!」
「これはこれは、名を申し上げるのが遅れました。隈本城城主、山田誠と申します。」
「殿、お下がりください。此奴は敵です。」
「まぁまぁ、落ち着いてください。私は平和的交渉をしにきたんですよ。」
「な、なに⁈」
「実は今城内にて菊池義武なる謀反人を捕らえております。私が提示する条件逃げ出し応じてくださるのであれば、即刻お返しします。もちろん処分はそちらでしてもらって構いません。」
「お主、ここにおられるのはかの九州一の大名大友宗麟様であられるぞ!」
「よい、下がれ。誠と申したな。条件を聞こうじゃないか。」
「まず、隈本城を含む肥後を私にください。次に龍造寺家、島津家と同盟を結んでください。すでに両家は納得してもらっています。これには、大友家には利点しかないかと。」
「確かにな。全兵力を毛利家に注ぐことが可能となるな。しかし、万一島津家や龍造寺家のどちらかが攻めてきたらどうする?」
「簡単なことです。もう一方の家と私そして、大友家が全力を以ってしてその家を叩きつぶします。」
「しかし、肥後はやれん。隈本城は許したとしてもな。阿蘇家が黙っておらんからな。」
「そこは大丈夫です。大友家は無関心を示してくだされば…」
「なるほど、はっはっはっ!よかろう!まだまだ荒削りな策じゃがのってみようじゃないか。」
「ありがとうございます。それでは、これはお礼の西洋の茶器です。お受け取りください。」
「では、盟友の証として頂こう。しかしのぉ、誠殿。虎を止めるまではよかったが、油断しているとネズミにやられてしまうから、注意しな。」
「・・・」
大友家の説得は簡単にいったものの、今度は大友家ではなく、阿蘇家を相手にしなければいけなくなった。誠達が、大友家に接触した頃、阿蘇軍は隈本城に向けて進軍を開始した。
「それでは、お手並み拝見じゃ、誠殿。」
大友宗麟は誠達を嘲笑うかのような目をしていた。