#16 内政再開 中編
結月の侍女騒動があった後、御触書を出しに行った八助が戻ってきた。
「殿。殿にお目通り願いたいという人物が…」
御触書を貼り終わって、城内に戻ろうとした時、『領主様にあわせて欲しい』と頼まれたらしい。どういった人物かと聞くと、商人だと言う。また、座の連中かな。懲りずにやってきたもんだ。
「通して良いぞ。」
「此度は、領主様にお目通りできたことと座を廃止したと聞きましたので、その感謝を述べるために来た次第であります。」
「あれ?座に入ってないの?」
「はい、私どもは座に入ってない故、主に農地の近くで売っているのです。」
「ほほう…」
「それ故、城下の中心部ではものを売ることができず、だからと言って、農地近くでも民が貧しいためあまり売れずに…でも、先程領主様が座を廃止して自由に商売ができて、民のための商売ができると思ったのです。」
まさに、誠が歓迎していた人物。自分の欲に決して溺れず、民のために商売をする人物たち。さっき来た自分の欲しか考えない商人共とは全く違う。彼らなら、国のため、民のために働き、売る者も買う者両者が得するようにしてくれるだろうと。
「よし、決めた。お主らを見込んで、頼みたいことがある。」
「そんな、恐れ多い。なんなりとお命じてください。」
「この国の現状を知っているか?今、この国は主に農村地域にかけて、食糧不足に陥っている。前領主による税負担と座の連中の不当な取り立てのせいでな。現状は私の船にある食糧庫で補っているが。、それもいつまでもつかわからん。それに、見ての通り、城の修復資材が足りぬのだ。できれば、それを仕入れて欲しい。もちろん、国御用達の商人として資金援助もするし、正当な値段で買おう。」
「わかりました。ただ、こちらにも問題が…」
「何だ?申してみよ。」
「はっ。実は私達、個人個人でやってるもので、領主様がおしゃっていることを実現したいのは山々なんですが…」
「人材が足らぬと?」
「はい、そうでございます。」
「そうだな…では、お主ら一人につき三十人でどうだ。私の配下の者から五人ずつ、あとは城下の者から集める。売り上げが安定するまでは私のほうから給料を出そう。」
「そ、そんなにですか!」
「いえ、多いに越したことないので、助かります。でも、なんで領主様の配下の者が?」
「天下が統一されたら、平和になるだろう。その時に戦以外にも生きて行く術を身につけないといけないからな。」
「なるほど、わかりました。では、そのように。」
「頼むぞ。お主らには明や琉球、南蛮との貿易も任せたいと思っているから。」
「あの大国明と…そこまで見据えていらっしゃるのですね。さすがです。」
「あぁ。ところで、お主ら三人の名を聞かせてくれ。」
「信介」「正晃」「義成」
「うむ。皆、良い名だ。では、そなたらに氏を授けよう。まず、信介には四菱、正晃には三戸、義成には鈴野。」
誠の現世で活躍している企業の文字を一字とって、それを与えた。もちろん、大企業の恩恵という縁起というを込めて。後にこの三人は日本、いや世界に名の馳せた商人になるのはまだ先の話……
「私らのような身分にこのような素晴らしい氏を与えてくださり、誠にありがとうございます。この名に恥じぬよう精進して参ります。」
「うむ。人材の準備ができ次第、そちらに派遣するその間、資材・食料供給の手はずを整えてくれ。」
「「「ははっ。」」」
こうして、三人の商人は、誠の御用達の商人となった。誠自身も戦国時代にきて、似たような考えを持つ商人に出会うとは思ってもいなかったからとても嬉しかった。ただ、一つ厄介な問題が出てくる。
「殿。氏まで与えてよかったんですか?」
「あぁ。座の連中よりましさ。」
「そうですが…このままだと、座の連中が黙っていませんよね。」
「まぁ、自分たちが排除してきた者たちが一気に国御用達の商人の地位までのぼりつめたからなぁ。ま、それで、座に属していた商人が単体になってどうやれるかも見ものだけどな。」
「と、いいますと?」
「例えば、米屋が城下町に二店舗あり、一つを甲、もう一方を乙とする。甲の店では一俵10貫、乙の店では一俵20貫で販売してある。八助、お前だったらどっちの店で買う?」
「もちろん、甲の店ですね。そのほうが安いですし。」
「そうだよな。では、乙の店が売れるようになるにはどうすればいいと思う?」
「えぇーーーーっと……甲の店よりも一俵の値段を安くする。」
「正解だ。そしたら、今度は甲の店が売れるようにするためには、さらに乙よりも値下げをするだろ?そうやって、商売をやっていくんだよ。」
「でも、いずれ限界がやってくるんじゃないですか?」
「おぉ!そうだ。だから商売は客のためと同時に商売敵にも気を付けないといけない。あんまり安く売りすぎると、今度は自分たちが生活できなくなるからな。だから、座は一定額の値を決めて売るんだ。」
「それならば、座を認めてもいいのでは?」
「そうだな。確かに、座にもいい面はある。でも、国として見たとき、座があれば経済が回らないんだ。つまり、買う・売るの状態が停滞するということなんだ。」
「難しいですね。」
「そうだな。八助、終わったところで悪いんだが、侍女達を呼んできてもらえるか?あと、結月も。」
「何かなさるんで?」
「結月と私の侍女選びの面接。信頼できる奴がいいからな。」
『わかりましたぁ』と部屋を出ていく八助を後ろから見守りながら申し訳なく思った。あぁーーー!うまく説明できない自分がもどかしい。すまんな、八助。うまく説明できなくてと。
それにしても、良い商人が現れたものだ。とりあえずこれで、食糧問題と、直茂が言っていた港の整備用の資材も集めることができそうだ。あの三人には、本当に感謝だな。
「殿ぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「ど、どうした?何かあったのか?そんなに、大声出して、太平。」
座を取り締まりに行った太平が全身から汗を垂れ流し、息を荒げながら、危機迫る顔でやってきた。なんだ、そのやばいという顔は!もしかして、座の連中が一揆でも起こしたというのか。
「はぁはぁ、やってやりましたよ。」
「やったって何を?」
「座の連中を取り締まるのを。無事に解散させましたよ。」
「・・・・・・私の心配を返して。」
「いや、でも殿からの初仕事だったんで、嬉しくて、つい舞い上がっちゃいました。」
「とりあえず、その汗を流してこい。」
今回のことで、太平のことが分かった気がする。めっちゃ良いやつだけど、子供みたいに無邪気なということが。あぁ見えて、俺より年上なんだけどね。そして、八助が、太平と入れ替わると同時に、結月と侍女を連れてきた。
「殿、今先程、太平が汗びっしょりで走っていたのですが、何かあったんですか?」
「いや、何もなかったよ。ただ、仕事完了の報告に来ただけだったみたい。」
「そうですか。あ、それより連れてきましたよ。」
結月を除いて総勢20名の侍女達。年代も若い人からおばさんまでそれぞれ。呼ばれた理由は何か分かっていないようだったが、この中から俺と結月、皐月さんの専用侍女を計七名、商人のほうに派遣するのを六名、残りを城内の炊事などに。
「すまぬな、急に呼び出し足りて。今日来てもらったのは、侍女の仕事の役割を決めるためである。よって今から面接を俺と我妻の結月、八助で行う。面接は別室で行う故、呼ばれたら、一人ずつ部屋に来るように。なに、心配せんでもよい。いくつか質問するだけだ。何か質問は?」
「ちなみに仕事というのは?」
「私と結月、そしてその母の侍女、商売人として働く者、炊事などの城内での生活の支援をするものに分かれてもらう。各々、面接で自分の希望を言うように。以上」