#12 船上パーティー 準備編
急遽、長門船上でのパーティーが決まり、誠に仕える城内の全ての兵及びその家族が集められることとなった。最大の脅威である大友家の進行に緊張が高まっていた兵士たちは大いに喜んだ。すぐに、家族の元へ伝えに行った。もちろん、その対応は直茂と三秋がしたので、二人は『殿はいつもいつも急すぎる』と思ったのだった。二人が城内を駆けめぐっていることをつゆ知らず、誠は結月と足りない食料を買いに城下へとむかった。その間、ナガトと護衛三人は船内の警備と装飾をさせた。
「やっと、二人っきりになれた〜、でも買い出しデートかぁ〜」
「でぇと?」
「あぁ。デートというのは、好き同士の男女が外に出かけることだよ。」
「へぇ〜、じゃあいいじゃないですか、誠さん。私は楽しいですよ、でぇと。」
「そう、それなら、いいんだけど。じゃあ、行こうか。」
そして、来た道を戻って、城下町の商店へと向かった。農業地域とは違い、城下町周辺は複数の商店が立ち並ぶ。野菜屋に、米屋、布屋と様々な商店。肉はあるから、野菜を多めに、そして無くなった時の予備の米類を購入した。
「けっこう、買うんですねぇ。」
「なにせ、俺が料理を振る舞うと直茂たちに言ってしまったもんですから。それに部下は3000もいるんですよ。その家族も来るとすると倍ですからね。これは張り切らないと。」
「それは誠さんが言い出しっぺですからね。」
「まぁ、そうなんですけどね。」
「もちろん、妻として私も手伝いますよ。」
「それは助かります。それじゃあ、ある程度買ったんで一旦城に戻りますね。」
「どうしてです?」
「塩とかを取りに行くのもなんですが、できれば、うちの料理番と女将さんにも手伝ってもらえたらと。」
「ふふ、そういうことでしたか。」
城下に戻ると、城内はいろんな人が駆け回っていた。あ、これ今日の宴を聞いて騒いでるな。これは直茂たちも、忙しいだろうな。コソッと行ってコソッと戻るか。二人は無事に料理番と女将さんのご助力を得ることになったのだが、帰り際、門を出ようとした時、直茂に見つかってしまった。
「殿は12歳をどのくらいこき使えば気がすむんですか。」
「すまん。」
「すまんじゃありません!あれをしろ、これをしろって。私は何人もいないんですよ!」
「はい…」
それから、途中で三秋も加わり、二人でみっちり一時間説教をされた。これじゃあ、どっちが殿かもわからん。結月さんたちは「自業自得です。」と言って、ただただ、俺の説教を見守るだけだった。そして、最後に直茂たちに罰として美味しい料理を作らなければいけなくなった。加えて最後に、「ま、殿にそんな細かいことできるわけないでしょうが。楽しみですね。」と口添えで。
そんなに言うんなら、やってやろうじゃないの!挑発にのるのは少々というか、かなり癪だが、とっびっきり美味しいものを作りますよ。それじゃあ、早速、長門に戻るぞ。
「「でかっ!」」それが女将さんと料理番の最初の一言だった。結月さんは一回見てるとはいうもののみんなの反応に苦笑い。その後、炊出し所でも同じことを口にすることとなる。
「誠さん、まずは、何を作るんですか?」
「そうだなぁ。5000人ほど来る予定だから、まずは大まかなものから、結月さんとお義母さんは、吸い物を作ってくれませんか?三種類ほど。えーっと、それから…」
「城内の料理番長を務めています、門左衛門と申します。」
「では、門左衛門。ご飯を炊いてくれ。白米と炊き込みご飯を。」
「た、たきこみ、なんです?」
「炊き込みご飯だよ。あぁ、じゃあ、一つは普通に炊いてくれ。もう一つは洗米して、水に浸したら呼んでくれ。」
「わかりました。」
「ナガト、お前も手伝ってくれるか?」
「はい、マスター。私たちは何を作りましょうか。」
「俺たちは米に合う惣菜を作る。」
「了解。」
「じゃあ、各々調理開始。」
結月班は吸い物。料番班は白米を。山田・ナガト班は惣菜を。普通だったら、5000人分の料理を作るなんて不可能だが、それを可能にするのが長門の部屋の一角にある厨房。まず、一つ一つの調理器具が大きいのだ。だから、一度で何千人分の料理が作れる。
「ナガト、まず一つに油をたっぷり、後一つは油を引くだけで。」
「揚げ物とあとは…何か焼くんですか?」
「肉は唐揚げに、カツにハンバーグ。魚は鮭のムニエル、アジのフライ、残ったのは刺身。骨は煎餅に。」
「随分と、作りますね。」
「まぁ、人数が多いってのもあるんだけどね。色々なレパートリーがあれば楽しめるだろ。しかも、全部ご飯に合うし。」
「マスターが好きなだけなのでは?」
「うるせぇ。まぁ、あってるんだけど。」
「それにしても、マスター。料理できたんですね。」
「あぁ。一人暮らし始める前に、姉貴に教えてもらった。家は両親共働きで、夜遅かったからな。だから、ご飯も姉貴が作って一緒に食べてたよ。」
「良いお姉さんだったんですね。」
「あぁ、ほんとに。でも、だからと言って、両親を恨んでるわけじゃないぞ。休日はどっかに連れて行ってくれたりしたからな。大学に行けたのも、両親が共働きさてくれたおかげだと思うし。」
「良いご家族です。」
「他人から言われると、照れるな。」
「別にマスターのことは褒めてませんよ。」
「あぁ、そう。ほら、話してないで手を動かすぞ。」
「はい…だからマスターは優しいのかもしれませんね。」
「ん?なんか言ったか?」
「いいえ、何でも。」
「誠殿、炊き込みご飯?の準備ができました。」
「おう、わかった。ナガトあとは頼んだぞ。」
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「では、炊き込みご飯を作ります。まず、洗った米を水につけます。そのあと、醤油、酒、鰹節、塩、こしょうで、だしを入れます。そのあと、切ったしめじ、人参、鶏肉、油揚げを入れます。あとは白米を炊くのと同じように炊けばいいだけです。」
「誠さん、後で材料と作り方を詳細に教えてください。旅館で使いたいので。それと、汁物出来上がりました。」
「わかりました。ナガトの手伝いをお願いします。作り方はナガトに聞いてください。」
「結月さん、汁物は弱火で火を通していてもらえますかーーー出すときに、温かい方がいいんで。」
「はーい!」
「ナガト、そういえば、あの護衛3人は?」
「彼らなら、船上での準備をしていますよ。」
「わかった。それじゃあ、自立型AIに伝言を。」
「マルは長門出港後、城内の警備にあたれ。ゼロ、レイ、ユウは上空からの警備に。不穏な輩が現れたら、様子を見次第、即迎撃しろ。」
「マスター、ユウが私たちも宴参加したぃ〜だそうです。」
「どうせ、参加してくるんだろうが、口答えするなとでも言っとけ。」
「わかりました。」
そして、パーティーの開始まで数々の料理が完成、甲板へと運ばれていった。