#10 隈本への帰還
俺と結月さんは、戸のわずかな隙間から一部始終を見ていた女将さんとたまたま通りすがった常連さんに、無事?(女将さんの策略)に婚約した。まぁ、入ってくるまで気がつかなかったんだけど。
「とうとう、結月ちゃんも結婚かぁ、この街も寂しくなるなぁ。ねぇ、女将さん。」
「私も結月と一緒に誠さんのところへ行くんですよ。」
「「え・・・・・」」
常連の二人はそれまでの笑顔が一瞬で消え、顔の表情が無を表していた。そして、鬼の形相をして、俺の方を睨んできた。
「こんノォ野郎、結月ちゃんだけじゃ飽き足らず、俺らの女将さんまで奪っていくとはいい度胸じゃあねぇか。」
「え・・・でも、ど、同意の上・・・そ、それはNoーーー!」
「いいから、飲めぇ!こんノォ、幸せもんがぁ。」
それから日をまたぐまで、お酒を飲まされた。20歳までは飲まないって決めてたのに…
ようやくベロンベロンに酔って帰った常連さんを見送った後、明日出発することを二人に伝えた。女将さんからは今日の宿泊客が全員旅館を後にする昼まで待って欲しいと言われたので、それは了承した。一日滞在の予定が二日になったから、直茂たち、慌ててるかもしれないな。それに、早く帰って、対大友家にもしっかりと備えたい。
「誠様、持っていけないものとかありますか?」
「大きすぎないものだったら、基本大丈夫ですよ。」
「え、でも大きかったら、ここから隈本まで結構ありますよ。徒歩では、無理なのでは?」
「陸からじゃなくて空から行きますよ。ここからだと一刻もかからないと思います。準備が出来次第、人気のない所に行きますんで。」
「そ、空からですか?誠様、いくらなんでも、人は空を飛べませんよ?」
「それが、飛べるんですよ。空飛ぶ馬と考えてもらえれば、大丈夫です。まあ、詳しいことは朝にでも。」
「は、はぁ…」
「それより、様はつけなくていいですよ。もう、夫婦なんですから。最初はさんづけからでもいいですから。」
「はい!誠さん。」
照れている結月さん、可愛い。おっと、ついつい見惚れてしまった。早く寝ないと明日、起きれなくなってしまうからな。よし、早く寝ようおぉお、えぇ!そこには、大きな一組の布団と小さい布団枕があった。戸惑っていると、女将さんが右端に行って、俺の方に向かって夫婦なんだから、大きい布団で二人で寝なさいと目で訴えてきた。交際経験ゼロの男にそへは厳しすぎだろと思ったが、結月さんが先に戸惑いもなく、行ったので、呼吸を整え、意を決して床についた。そして、ここだけの話、結月さんと目が合って、お互い照れたり、二人に抱きつかれたまま、(女将さんと結月さんは無意識で)結局眠れなかった。というか、このお義母さん、策士だろ。過信に欲しいくらいだよ、ほんとに。
翌朝、あれから少しは寝れただろうか。旅館の業務は朝早いらしく女将さんはもう起きていたようだったが、結月さんは俺の隣でぐっすりだった。女将さんが気を利かせてくれたのかな。
「結月さん、起きてください。結月さん!」
「ほへぇ。・・・ はっ!す、す、す、すみません。」
「全然いいですよ、私も今起きたばっかりなので。」
ほら、寝顔も寝起きも可愛い。
「あれ、母は?」
「あぁ、たぶん、最後の仕事をしてると思いますよ。結月さんは出発の準備をお願いします。」
「わかりました。すぐに、仕度しますね。あ、あと朝ご飯もまだですよね?二人分持ってきますね。」
「お願いします。」
結月さんが朝食を取りに部屋を出た後、戻ってくるまで“長門”からヘリを呼んだり、荷物をまとめたりした。
そして、二人向かいあって、朝食をとった。朝食が終わった後は、女将さんのお手伝いをした。宿泊客の部屋を片付けたり、風呂を掃除したりした。旅館の仕事って意外と大変なんだなぁ。よく、二人でここまでやってこれたなと感じた。
昼頃、最後の客を三人で見送った後、荷車に持って行くものを積んだ。主に布団と着物類、調理道具しかなかったが、結構な量になった。あれ、これ載るかな?やばい、載らないかもしれない。とりあえず、ヘリを呼んだ所まで行くか。そして、三人は『旅館皐月』を後にした。
ヘリの場所につくと、女将さんと結月さんは驚きのあまり立ち尽くしていた。まぁ、無理もないけどね。本当はこの時代にない産物だし。一通りマニュアルに書いてある通りに操作を進めた。水上機と違って、厄介な機器ばっかりなので、結構一苦労した。まぁ、操縦といってもレバーを動かしたり、ペダルを踏んだり、ボタンをぴこぴこ押すだけなんだけど。細かい所はやってくれるみたいだし。
ヘリはUH-1Jで、誠の現実世界で陸上自衛隊が主に使っている機体。全世界でも使われている機体で汎用性が高い。
ある程度の操作を理解した後、荷車に持ってきた荷物を詰め込む。案の定、荷物でいっぱいになったので、操縦席の横に女将さんと結月さんで乗ってもらうことにした。本当は危ないんだけどね。荷物がある後部座席の方をロックした後、二人にシートベルトとヘルメットを装着してもらった。もちろん戸惑っていたので、安全のためと説明して。そして、エンジンをかけた。エンジンを起動すると、モニターから甲高い声が聞こえる。
「やぁ、マスター!」
「ん?お前誰だよ。」
「やだ。私のこと忘れたの?あの時、あんなに滅茶苦茶にしたのに。そこの横は誰よ。昔の女は忘れたっていうの?」
「いや、ほんとに誰だよ。あと、誤解するような言い方やめてね。横の視線が痛いから。」
いや、マジで。二人共、闇化してるから。怖いから。
「冗談はこのくらいで、初めまして、マスター。自立型AI長門上官の部下の一人、UH-Jこと、Uちゃんです。よろしくお願いします。」
「部下って、この機体そんな機能になってるのかよ。ん?待てよ。てことは他の機体もあるの?」
「はい!あと、三体ほど。」
「あれ?でも、零式水上機は何もなかったけど。」
「あぁ〜、零ちゃんはツンデレさんですからねぇ。あ、あの時の操縦、めっちゃ下手とかいってましたよ。」
「初飛行だからしかねぇだろって言っとけ。」
「りょうかぁい。あ、うるさいってきました。」
「反応早ぇよ。」
「あと、結婚おめでとうございます。だそうです。」
「あ・り・が・と・な!それはもういいから出発するぞ。話は後で聞かせてもらう。」
「了解。それではマスター、両足のペダルを踏んで下さい。上昇しますので。ある程度、上昇したら、前方のレバーを前に倒して下さい。」
「こ、こうか?」
「そうです。では、細かい所はこっちでやっとくので。警戒をしていて下さい。」
「頼んだ。」
「「誠さん、お話は終わりましたか?」」
うん、一旦整理しようか。えっと、つまりですね。うん、俺の身が危ないってことです。以上。
「誠さん!」
「ひゃい!なんでしょうか、結月さん…」
「私も武家に嫁に行く以上、奥さんが複数できることは承知の上ですが、何ですか、あれは?もう五人もいるなんて!てっきり、私が一番だと思ってたのに!」
「いや、あのですねぇ、結月さん。もちろん、結月さんが正妻ですよ。あと、彼女らはそのぉ〜なんというか、家臣っていうのかな…」
「もぅ!はっきりしてください!」
「はいぃ!だから彼女達は家族みたいなもんなんですよ。というか、さっきの子は初めて会ったんですが…」
「やっぱり、他のお嫁さん⁈」
「いや、だから違いますって。妻とかじゃなくて、姉とか妹みたいな感じです。血縁関係はないんですが…身寄りのない私に着いてきてくれたのが彼女らだと思うんです。だから、そんなやましい気持ちはないですよ。」
若干、嘘をついたのが心苦しいが、未来から来たと言っても、それこそ嘘と思われるかもしれないからな。いずれ、話す時がきたら、いいな。
「じゃあ、もぅ、誠さんの家族は…」
「あぁ、いやいや、死んではいませんよ、たぶん。どっかをほっつき歩いているんでしょう。」
「誠さん!」
「私は誠さんの妻なんですから、もう一人ではないですよ!」
「結月の言う通りです。もぅ、私達は家族なんですから。」
「結月さん、女将さん。」
「お義母さんでいいですよ。今はもう女将じゃないですし。」
「ありがとうございます…グスン」
何だよ、二人とも良い人過ぎるだろ。感動して泣きそうだよ、もう!
「マスタ…お兄ちゃん。そんなことよりもうすぐつくよ。」
「お兄ちゃん言うな、マスターでいい。自立型AI全員後で長門本艦に集合するように。」
「ほーい。」
「それじゃあ、お二人さん。降下するんで少し揺れますよ。あ、落ちたりしないので大丈夫です。空の旅はどうでしたか?」
「楽しかったです。なんか、貴重な体験でした。」
「そうですね、結月。」
「それなら、良かったです。あ、あれが隈本城ですね。今は修理中ですが。」
「誠さん、あの海に浮いている城は?」
「あれは船ですよ。この地の最重要防衛と攻撃を担ってます。基本はここに住んでいます。」
「マスター。降下します、レバーを後ろに倒してください。」
Uの指示通り、鹿児島〜隈本間を安全に飛行することができた。墜落でいきなり死亡とかいうバットエンドなんて最悪だからな。
「んぁ〜〜あ!着いたぁ。大丈夫ですか、二人共。」
「「はい…」」
「「殿ぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」」
「おぉ!直茂に、三秋。久しぶりだな。」
「おぉ、じゃないですよ!こっちは大変だったんですからね!」
「まだ、家を空けて3日目だろ。」
「そ、そうなんですが、色々と問題が…」
「わかった。後で聞こう。」
「はい!では、すぐに城の方へ。殿、その方達は?」
「私の奥さんとそのお義母さん。」
「けけけけ、結婚したんですかぁ?ま、まさか島津の娘⁈」
「いや、違う。お世話になった下宿の娘さん。」
「はぁ。だから、遅かったんですね。納得がいきました。」
「あぁ、後そこの荷物を城内へ、頼んだぞ。」
「お初にお目にかかります。山田家家臣、鍋島直茂でございます。歳は12です。」
「同じく、山田家家臣、紅月三秋と申します。歳は14です。」
「よ、よろしくね。結月と言います。わからないことだらけなので、よろしくお願いします。」
「顔合わせも済んだことだし、行きますか。」
三日ぶりの隈本城。最初よりかは大分、修理が進んでいるようだった。それでも時間はまだまだかかりそうだけど。それにしても、直茂が伝えたいことって。
「直茂、大変なことって?」
「この地は殿が治め始めたばかりで、どこもかしこも大変なんですが…なんというか、昨日城内に不審なものが現れまして。殿ならもしかしたら、知ってるかもと思いまして。」
「何が現れたんだよ。」
「神と書かれた文が複数枚と大きな鉄の台車が…まぁ、見てもらった方が早いと思います。」
神?と鉄の台車?神ってもしかしてあの神しかいないよな。でも鉄の台車って?車とかかな。と思ったが、その予想は大きく外れることとなる。
直茂も何なのか知りたがっていたし、俺も気になるので、急いでその場に向かった。その間、三秋に二人に城内を案内させるよう指示した。現地に着くと、そこには大きな布がかぶさっていた。直茂によると、誰にも見られない方がいいと思ったからだそうだ。でも、布がかぶさっていても、あの長い部分はどうも隠しきれなかったみたいで、それだけで俺もそれが何なのかわかってしまった。
「90式戦車!」
「きゅうまる?せぇんしゃ?」
「戦う車って書いて戦車。あの長いやつが砲塔で、ん〜〜でっかい鉄砲が荷車に着いたものかな。」
「はぁ…でも、一体誰が…」
「たぶん、その文をよこした奴。直茂、その文を見せてくれ。」
「はい、これです。」
手紙の内容はこうだった。
『はろはろ〜〜、元気ィ?神様だよ〜、結婚祝いに戦車送ったから。』
結婚祝いに戦車って何だよ!っていうか戦車持ってくるなら10式かアメリカの戦車が良かったと思った。するとニ枚目の文に
『あー!結婚祝いに何で戦車とか思ったでしょ。別にいいじゃん!お前戦車好きだし。他の戦車はほら、時代的に、いろいろと。』
90式でも一緒だよ!あ、Uが他に三体いるうちの一体ってこれ?飛行機は3機しかなかったもんな。てか、この爺さんこんなキャラだっけ?
三枚目の文
『まぁまぁ、別にいいじゃんか。さすが、察しがいいのぉ〜。あと、そういうキャラじゃ、もとからのぉ』
嘘つけぃ!初めて会った時、ずっと語尾に〜のぉつけてたじゃねぇか!そんなアゲアゲじゃなかったよ!もう突っ込むのも面倒くせぇわ!
『突っ込んでくれないのかのぉ、さみ…ビリッ
「殿⁉︎破ってよろしいので?」
「あぁ、もぅ知らん。直茂、これは内密に三秋と結月さんたち以外はな。それと、今から船の方に向かう。他の仕事は後からだ。」
「はっ。」