ただの日常会話のそんなお話
「なぁ、シュレーディンガーの猫って知ってるか?」
「確か猫と放射性物質か何かを入れた箱を一定時間放置するとかいう話だっけ?」
どうしたんだ?唐突に
「そうそう、それなんだけどさ実際やってみたくない?」
「いや、やってみたくない?って言われてもそんな危険なものどうやって入手するんだよ」
こいつは幼馴染みの様なものだ。渾名は猫長老。小学生の時猫に群がられてるのと、住んでた村の最年長の爺さんの昔と似てるから、みんなが長老って呼んでたのがいつの間にか合体、定着していた。
「いやいや、危険なものなんて必要ないだろ?」
「どうやるのさ?」
「確率が50%にさえなるのなら放射性物質は要らないのさ、そこら辺にある物で充分」
「俺には分からねぇな」
そんな小難しいことは学者が考えて俺ら凡人は日々の生活のために働いてればいい。
「例えば机の上にリンゴが2つあるだろう?」
「確かに50%だな」
「その部屋は外から鍵をかけられるようになっててな」
「おう」
「そこに人間を閉じ込める」
「お、おう」
「で、こう言うんだ、机の上にあるリンゴどちらか1つ、選んで食べろと」
「食べたらどうなるんだ?」
「2時間後に扉が開く」
「それだけか?」
「いいや、そのリンゴのどちらか1つには毒が仕込んである」
「50%の確率で中の人が死ぬって事か?」
「そうそう、で中の様子は2時間後まで分からないだろう?」
「確かにな」
「その2時間は中の人間が生きてる未来と死んでる未来が1:1になってる訳だ」
「それがシュレーディンガーの猫と同じ状況になると?」
「そうだ、それで…もうすぐ目的地に着くな」
「そうなのか、ところでどこに向かってるんだ?」
突然呼び出して、目的地も教えずに車に乗せて、どこに行ってるんだか。
「着いたぞ」
「ここ、お前の家か?」
着いたのはどこにでもありそうな一軒家だった。
「まぁ、そんな所や。中に入ろうか」
「お邪魔します」
扉を開けて中に入ると机とリンゴと椅子に座り机で居眠りしている女性がいた。
「彼女は?」
「シュレーディンガーの猫や」
「は?」
こいつ、今なんて?シュレーディンガーの猫?それって…
「そうや、ここはさっき話した実験をした部屋、そして結果は死んだ未来が待っていた」
「お前!」
「この実験は丁度10回目でな今回のこれでピッタリ1:1になったんや、試行回数少ないけど確率論ってのは収束するもんなんやで」
だからもっと実験したいんや、と付け加える。
「ほら、俺って友達少ないやろ?だから、今度は“お前"の番やで」
いつの間にかリンゴが2つ入った籠を机に置いて1つになった籠を持った猫長老は、さっと身を翻して扉を閉め鍵を閉めて行った。
俺は何を言われたのか理解出来ずとっさに動くことが出来ず閉じ込められてしまった。
冷たい女性が眠る中、俺はリンゴ1つ手に取り…