魔法を学べば戦友が!
coffeeイイカオリネー。
本格的な木造建築の二階建てで
各階に12個ずつ円卓が並べられ
店の入り口から丁度正面に
カウンターが設けられている。
中は満席だが冒険者で賑わう大衆酒場とは対照的で
静寂というほどではないが
落ち着いた雰囲気の場所である。
円卓の端にはメニュー表と呼鈴、
角砂糖の入った小瓶などが置いてある。
ウェイトレスに案内され、1番端の席に座った。
なるほど、話し合いには最適な場だ。
そう、現在、ティノと喫茶店にてお茶会中。
今は互いに向き合う形で座っている。
ひょっとすると
俺の隣に座るのではないかと思っていたが、
流石に外では弁えていた。
成長したんだなぁ、と実感されられる。
…だからシスコンじゃないって。
それにしても、こんな大きな建物が
家の隣に建てられているのに気付かないとは、
我ながら鈍感である。
「兄さんは何か飲み物は?」
「うーん、ティノと同じのでいいかな」
「お、同じ…分かりました…。」
何故かティノが赤面しているが、
それよりもメニュー表の方に関心が向く。
「なぁ、それって…」
「これですか?あぁ、兄さんは知らないんですよね。“魔法道具”」
「“魔法道具”?」
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【魔法】
ー【魔力】を用いて
炎や風、水、土などを錬成したり
自然現象や物質に干渉する力。
人間は術式や呪文の詠唱を通じて
【魔法】を使用する事が出来る。
人間が内に秘めている【魔力】の量は
個々で千差万別である。
【魔法】は森羅万象を司り
【魔法】は森羅万象の数だけ存在する。
><><><><><><><><><
と伝承されているが
【魔法】が本格的に
研究され始めたのは3年前の事である。
2年前に実物を見た事があるが、
素質のある人間ですら
数回使うのがやっとという代物だった。
それが、
たった1年で
飛躍的に進歩しているとは予想だにしなかった。
「このメニュー表も“魔法道具”の1つですね。おそらく〝伝令魔法〟の一種を使った物でしょう」
「〝伝令魔法〟?」
「最近になって実用化されたもので複数の媒体同士で記録された情報を共有できる便利な魔法です。そうですね、この紙なんかに…」
ティノは腰のポーチから
2枚の羊皮紙と羽根ペンを取り出し、
ささっと術式のような文字列を刻む。
ティノが指で文字列を撫でると紅く輝いて消えた。
何かの【魔法】を使ったのだろう。
そしてティノは1枚の紙に何かを書き終えると
もう片方の
何も書いていない方の紙を渡してきた。
俺が紙に触れると
すぐに文字が浮かび上がってきた。
《大好きです♡》
「おぉ、これは凄いな!」
「今の冒険者には必須アイテムになっていたりもするんですよ?」
「便利な世の中になったなぁ、たった1年で。ん?今、必須アイテムって言ったよな?」
「と言いますと?」
「駆け出しの冒険者なんかが【魔法】なんて使って大丈夫なのか?俺の記憶が確かなら簡単な【魔法】でもかなり体力を使ったと思うんだが…」
「心配には及びません。【魔法】の研究は大幅に進んでいて、今では少しの【魔力】でも充分に効果を発揮できます。駆け出しの冒険者が【魔力切れ】を起こすなんて事もそうそうありません。」
「そんなに進歩したのか…」
「これも【光界】攻略を果たした冒険者のおかげですね〜」
撫でてと促す様に頭をこちらに差し出してくる。
「…そうだな」
「くすぐったいですよ〜♪」
ティノの頭を撫でてやると満足そうに微笑む。
その時、
「お客様、そろそろご注文を」
とウェイトレスがニヤけながら
注文を取りに来た。
注文してこない俺達を見て
もどかしくなったのだろうか。
するとエラく赤面したティノが、
「ぶ、ブラックをふ、2つぅ」
と上ずった声で答える。
「かしこまりました」
とウェイトレス。
「カワイイとこあるじゃん♪」
と呟いてカウンターの奥へと姿を消した。
どうやら、ティノの知り合いみたいだ。
「今の娘って…」
はわわと口を開いて赤面しているティノに問うが、返事がない。
次第に目を回し始めた。
(完全に混乱しているみたいだな…)
そしてさっきのウェイトレスがお待たせしました、
と注文したブラックコーヒーを丁寧に置き
こちらを向く。
「あんたってティノの彼氏さん?」
どうやら
とんでもなく誤解されているらしい…。
いよいよ彼女の出番ですね…(適当