兄と話さば外出を!
THE膝枕。
目覚めると
ティノの顔が目の前にあった。
膝枕されてはいるが
容易に逃げられない様に
両肩を腕で押さえつけられている。
ティノの華奢で綺麗な身体の
どこからこんな力が出ているのだろう。
「トモ兄、大丈夫ですか?」
「あぁ、少し身体が熱い…が?」
明らかに何かがおかしい。
「良かった〜
ちゃんと薬の効果が出てるみたいですね♪
舌で絡めたのが功を奏でたようです。
薬の効果が出ている内に、さぁ、はやくぅ…」
「いやいやいやいや。と、とにかく、落ち着け!」
「はっ、すいません!」
目がハートになっていたティノが我に帰り、
腕の力が抜かれ肩が楽になる。
舌で絡めた?薬?
頭を打ったからか、気絶する直前の記憶がない。
確か、興奮したティノに抱きつかれて…。
その後何が起きたのだろうか?
聞いている限り、不健全な事が起きていたようだ。
まぁそれはそれで…。
ティノが安堵の表情を浮かべるが、
怪しい事を口走っていたために
何に対して安堵しているのか不安で仕方がない。
だが、不安はすぐに払拭された。
「兄さん…そろそろ外に出てみませんか?」
「…」
俺の頭を撫でながら、優しい声音でティノが囁く。
そして俺はそれとなく応えた。
「実をいうと、
そろそろこの家を出ようと思ってたんだ」
「本当ですかっ!?」
「俺がお前に嘘つくわけないだろ?」
「やったぁ!トモ兄大好きぃ〜」
と俺の頭を胸元で抱きかかえるティノ。
…こんなに喜んでいるティノに
『もう無一文です…』
とカミングアウトするのは流石にやめた。
「さっき【光界】を攻略したとか
俺の願いが叶う…
って話、してたよな?」
「やはり、兄さんなら
この話に飛びつくと思ってました!
聞きたいですよね?
聞きたいですよね!!」
「あぁ、当然だ!」
幼い頃から決して叶わないと思われていた、
俺の夢。
ー幼馴染と結婚するという夢ー
それが、叶う?
そんな事を言われれば
飛びつかずにはいられない。
いや、飛びつかなければならない。
一種の使命感すら憶えていた。
古傷が疼く。
戒めであるはずの傷が、行けと言わんばかりに。
まだ、諦めるには早いようだ。
「長話になるでしょうし
隣の喫茶店に行きませんか?」
「…喫茶店?」
ティノに促され
1年ぶりに扉の取っ手を掴みそのまま引く。
光が差し込み、視界が白く満たされる。
脳が順応し、眼前の光景が明瞭になる。
そこには
俺の記憶の中にあるだだっ広い平野ではなく
数多の人々が行き交う大通りが広がっていた。
ニート、出る!