坂を歩まば紅髪が!
「中腹にある、ねぇ…」
かれこれ20分程坂を登っている。
が、未だ中腹は見えず。
…いや、これ長すぎでしょ…
坂を見上げると見える
霞みがかった巨大な施設。
黒く堅牢で近未来的。
愛嬌も飾り気もないその施設は
さながらこの街の主のようである。
一体どんな施設なのだろうか。
後で見にいく事にする。
半端なく長い坂のせいか
夜闇を星々が照らす時間のせいか
この坂を登っているのは俺だけ…
と思ったらもう1名。
「ゼェ…ハァ…ゼェ…ハァ…」
どうやら坂に遊ばれ疲弊しきっている様子。
息遣いの感じからして、おそらく女性だ。
ドサッ…と地に崩れる音が
先程まで女性のいた空間から聞こえた。
が、俺は構わずに歩みを進める。
止めれば、確実に絡まれる。
直感がこう叫んでいる、
(絶対面倒事に巻き込まれる!)
と。
俺は逃げるように加速する…が
「青年、そう逃げるなって…」
ガッチリと俺の足首を鷲掴み。
「は、離してくれ!今、憲兵の人を連れてくるから!」
「そ、それは困る!そんな事しようものなら、大声を出すぞ!」
それで脅しているつもりなのだろうか。
「いやいや、こんな体勢で叫んだ所で襲ってるようには見えないって!しかも結果的に憲兵来ちゃうし!」
「は!そうか、ダメか…じゃあ脱ぐぞ!」
と言った瞬間にはもう全裸になっている。
何だこの変態は!?
てか、仁王立ちしてるし!?
「も、もう脱いでるじゃねぇか!か、金ならやるから見逃してくれっ!!」
「金など要らん!私が欲しいのは…ハァ…ハァ…」
「ヒィッ!!?」
変態の目線が俺の俺へと向く。
俺は竦んだ。
俺の俺は不覚にも竦まなかった…。
何て良いカラダしてやがる…
じゃなくて、早く逃げなくては!
「何だ、君の君も乗り気じゃないか」
「生理的な反応だからしょうがないだろ!!」
「それでもええじゃないか、ええじゃないか、グヘヘヘヘヘヘ♫」
くぅ、これまでか…
諦めかけたその時、
「こんな所のいたのですか、クラリーチェ様!!」
「あ、グリエルマ!」
「あ!また…もうぅ」
呆れ顔を浮かべながら
変態に服を着るよう促す女性。
また、という事は常習犯なのだろう。
苦労してるんだろうなぁ…
服を着させると、俺の方へ頭を下げる。
「この度は、私の主人が迷惑をお掛けしました。申し訳御座いません!」
「あぁ、まあ何も無かったからいいよ」
その言葉を聞くと女性は髪を揺らして
安堵の表情を浮かべる。
「ありがとうございます!貴殿が寛大な方で本当に良かった…では、これにて失礼しますね」
行きますよ、と膨れ顔で変態を引き摺っていく。
紅い髪が特徴的だったな…アノ変態…
変態とも一悶着終わり、さらに歩いていると
武具屋が見えてきた。
金槌が何かの素材に振り下ろされ
炉が赤々と何かの素材を熱し
人が何かの素材を剣へと変えた。
作業場と街路を遮る物はなく
右往左往し多忙極める
従業者達を眺める事が出来た。
彼らの技術があるからこそ
冒険者という職業は成り立っている。
何と頼もしい姿だろう。
「らっしゃい、駆け出しサン!ここは初めてかい?」
まぁ、見た目駆け出しだもんなぁ…
とへこみながら紹介状を渡す。
「ほぉ、アイツが紹介状ねぇ…。アンタ、よほど腕が立つんだなぁ!よし、俺が作ったるぜぇアンタの武具!」
棟梁が自ら…と作業場一帯がざわつく。
よほど珍しい事なのだろう。
「じゃぁ、コイツで剣を拵えて欲しい」
「とんでもなく上等な素材だなぁ、〔滅龍の素材〕…腕が鳴るぜぇぇぇぇ!」
職人魂が刺激されたのか
素材を抱え叫びながら加工を始める。
何とも豪快に
さながら丁寧に
その様は
彼が相当の腕利きである事を誇示していた。
彼程の職人がいるという事は
それだけ冒険者が集まる場所という事だ。
なら、何が冒険者達を引き寄せているのだろうか。
街が出来る前は何もない平原だった。
特別珍しい現象が起きるわけでも
何か観光名所があるわけでも
強いモンスターが出るわけでもなく。
不思議な程何も無かった…。
という事は、あの施設に何かある。
何となくそう思えてしまう。
何故だろう。
「完成したぁ!コイツぁ、俺の人生の中でも傑作に入る程の逸品だぜぁ!ほいよ、駆け出し」
完成した剣を受け取る。
蒼く凄烈な鞘より、抜き放つ。
それは破滅を宿していた
それは残虐を飼っていた
それは蹂躙を愛でていた
それは殺戮を欲していた
それは絶対を冠していた
両刃は龍の爪の如く鋭利
刀身は龍の眼の如く蒼碧
壮麗で冷酷で黒々としている。
足りぬぅ…足りぬ…
ナニかが呻いたような錯覚に襲われるが
剣を仕舞った刹那に消失する。
「気に入ってもらえたみてぇだな!」
「あぁ、最高の剣だ!使い熟してみせるよ!で、代金は?」
「んなもん要らねぇ!イイ仕事くれたんだからよぉ!」
ガシリと俺の手を握る棟梁。
「剣が凄ぇからって、無茶すんなよぉ!」
「あぁ、しっかり頑張るよ!」
棟梁は俺の姿が見えなくなるまで
手を振っていた。
すっかり世も更け、辺りは静寂に抱かれ
それを星々の輝きが眺めている。
「剣も拵えて貰ったし、後は服やら道具やらを揃えるか…」
流石に白シャツではパッとしないし
汚れたら目立つ。
さらに、今のズボンにはポケットが2つしかなく
移動の時に苦労する事となる。
今すぐにでも買い揃えてしまいたいが
この時間ではどこの店もやっていない。
巨大施設も見ておきたいが
結構疲れてきたのではやく寝てしまいたい。
明日の朝に用事を済ませてしまおう
と誓いながら根城へと踵を返す。
はやい…(確信)




