石を翳さば滅龍が!
ひとまず、俺は素材屋を探す事にした。
喫茶店に戻ったが、
ティノとエヴェリーナは双方とも
姿を消していた。
街は俺の知らぬ間に出来ていたので、
1年間住んでおきながら
まるで街の構造が分からない。
唯一の当ては…
「お、フィロメーナ!」
「え!?トモキ君、お外に…あれれ?」
戸惑いの表情を浮かべ
口元を手で覆い
そわそわとする女性。
承和色のカールヘア
水晶の如く透き通った双眸
純白のローブに身を包む
落ち着いた雰囲気のある女性。
修道女かどこかの令嬢にも見える彼女だが
普通に一般人らしい。
彼女は俺の籠城生活を手伝ってくれた
恩人だ。
優しいし美人だし彼女に求婚…
いや、色々な人に出会ってみてからでも
遅くないだろう。
「前に言ったっけ?旅に出るって」
「あら〜旅に出るのですね〜」
ニコリと微笑みながら
俺の方へ歩み寄る。
そして、俺の頬を両手で包み
豊満な胸へと抱き寄せ
優しく、撫でながら囁く。
「何かあったら、ちゃんと帰ってくるんですよ?」
「分かってるって」
「それからあまり無茶してはいけませんよ?」
「分かってるって」
「それからそれから体調管理はしっかりして下さいね?」
「分かったよ、フィロメーナ!」
何とお節介な人なのだろう
この人は。
だが、何故だかこの他愛のない
やり取りがどこか心地良い。
まるで母親とその子供のようだ。
「フィロメーナって、俺のお母さんみたい」
「えぇ!?お姉ちゃんくらいのつもりなんだけど〜」
「ハイハイ、お姉ちゃん」
お姉ちゃんと呼ばれ
嬉しそうにしているであろうフィロメーナ。
あろう、と言うのは今視界が
双丘に満たされていて
確認出来ない状態だからだ。
はぁぁ…幸せ…
「あ、そうだ。この街の素材屋ってどこに在るか知ってる?」
「お素材屋さん?それなら、すぐそこを曲がって左にあるよ〜」
お惣菜屋みたいだな。
「ありがとう姉ちゃん、そろそろ行くよ」
チュッと、額に口付けしてくるフィロメーナ。
「それじゃあ頑張ってね。神の加護があらん事を〜」
「…本当に信仰とかないの?」
「ごめんなさい、つい癖で〜」
色々ツッコミ所満載だが
埒が開かないので手を振って別れた。
「ん?何だアレ?」
何やら人が集っている方を
少し歩みを遅めながら見遣る。
数人の男が宙に留まり
青い杖を正面の空地へと構え
何やら呪文を詠唱し始める。
「「「「《シャッフェン》!!!」」」」
男達が叫んだ刹那
空地から木々が勢い良く立ち乱れ
それらが互いに組み重なり
1つの構造物と成る。
さらに極々細部が繊細に変形し
その構造物の正体を明白にする。
「家だ…家が一瞬で出来た…魔法すげぇ…」
周りが拍手喝采で盛り上がる中
俺1人だけが茫然としていた。
道理で気付かないわけだ。
音も無く
材料も大量の人員もなく
たったの一瞬で
建設が完了してしまうんだから。
魔法って本当に便利。
カルチャーショックを受けている内に
フィロメーナの言っていた
素材屋へと到達した。
素材屋の店主と思しき男性が
こちらに気付き声を掛けてきた。
「よぉ兄ちゃん。見た感じ冒険者や騎士公の人って感じじゃないねぇ。さては、駆け出しの冒険者だな?ならまだここの素材は高価だろうし、何か売りに来たのかい?」
何とも気さくな人だ。
話が早くて助かる。
「その通り。で、この石なんだけど」
懐から何たらの石を取り出して
カウンターへと置く。
石を見た途端、店主が目を血走らせる。
「こ、ここここ、コイツァたまげたぁ!!〔賢者の石〕なんて、生涯お目にかかれねぇと思ってたからなぁ!」
「そんなに凄いのか?この石」
「兄ちゃん、コイツァちょっとした国家くらい買えちまう程の値打ちなんだぜ?何でも、騎士公達が血眼になって探してるとか。」
「そんな凄い石だったのか…」
「流石にウチの店に国家予算なんかねえが取り敢えず…店の金がコレで全部だ兄ちゃん」
ドスッと重量のある革袋が差し出される。
「勿論それだけじゃねぇ、後は…ちょっと待ってな兄ちゃん!」
そう言い残して
奥へと姿を消す店主。
一体何が起こるんだ?
少しだけ胸を膨らませ、石を眺める。
暫くして店主が1枚の紙と
蒼い塊を携えてきた。
「待たせたなぁ、兄ちゃん!コイツは紹介状とウチの家宝、〔滅龍の素材〕諸々よぉ!持ってきな!」
紹介状は武具の加工などを
取り扱っている店へのものだろう。
コレで何か作って貰え、という事か。
それから〔滅龍の素材〕諸々にも触れてみる。
冷たい。
只々冷たい。
何という冷たさであろう。
だが、同時に強大な力も感じる。
何と優れた素材だろう。
「金はまぁ分かるが、本当にこんな素材貰っちゃっていいのか?」
店主が(キリッ、とした顔でこちらを見る。
「そいつの価値が分かるんだろう?なら、そいつは兄ちゃんが使えばいい。どうせ俺には使う機会がねぇからな。そいつも喜んでるさ、はっはっはっはっはっはっはっは!」
高らかに笑う店主。
この街って良い人ばっかりだなぁ。
「じゃあ、ありがたく使わせて貰うよ。それと、紹介してくれた武具屋がどこにあるのか教えてくれないか?」
「そこの坂の中腹んとこにあるよぉ、兄ちゃん、頑張りなよ!いつまでも応援してるぜぇ!」
「ありがとう、オッちゃん!」
店を後にし、俺は坂へと歩みを進めた。
店主って喋りが上手なイメージ(^O^)




