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第二章(file2)

 翌日、カイエンは昨日の一件などなかったかのように何も言わず、ただ綾乃のジムノマンシー・コントロール訓練の様子をあまねく熟視していた。

 美咲はひとりで幻影空間に入り、危険感知と遠感知能力を極めるための特訓に励んでいて、カイエンと綾乃の姿を見ることはできないでいた。

 綾乃が昨日まで苦心していた空間波攻撃法のミックス技を、午前中の内に完成させたのを見て、カイエンは口笛を鳴らして賞賛した。その複合技は、空間を瞬時に圧縮し、瞬時に解放することで空間を爆発させる〈リトルバン〉、四方八方から高圧縮空間波を連続で打ち込む〈オーケストラ〉、空間に不規則な歪みを絶え間なく発生させる〈ディストーション〉、の三種類を同時に、しかも特定多数の方向に発生させるというものだった。

「やるじゃないか。エネルギー配分のバランスも、総合的な出力度も申し分ない。あとは安定性だな。いまのをいつでもどこでも、どんな状況でも繰り出せるようになったなら、大抵の魔道士達は血相変えて飛んで逃げるだろうさ。そうしたら、次のステップに進む。約束通り、俺の秘技を伝授するよ。魔界の技法だけどな」

「それは、聖道士が身につけても良いものなの?」

「使うか使わないかは、君が判断すればいい。だが、何であろうと覚えて損はないぞ」

「文句を言う訳じゃ、ないんだけど」

「今度はなんだい?」

「私達、まだ回成のテクニックを知識でしか知らないのよ。聖道士の本来の仕事は、魔道士をただ追い払うんじゃなくて、回成させる事だと思うの。でもあなたは魔道士だし。それは、誰が教えてくれるの?」

「君達には、まだ早いだろう。あれは危険なテクニックだ。聖道監クラスでもまかり間違えば完璧な闇の浸蝕を受けて、自分が魔道士に回成してしまうんだ。過去にも実例があることは知っているだろう? それはやがて亜空階位に昇格した時にでも、経験豊富な先輩に教わればいい。時空攻撃法も知らないひよっこが、生意気を言うんじゃない」

「いまの複合技を安定させたら、時空攻撃法を教えてくれるのね?」

「聞くところによると、時空操作術は大聖道士以上のスキルらしいな。だが俺が思うに、それくらいは修得しておくべきだと考えている。技術というものは、例え魔法を使っても一足飛びにはマスターできないものだ。だから魔界の連中でさえも躍起になって三次元1%制約の突き崩しを狙っているんだ。言い換えれば、修行を重ねるほどに職務遂行能力は際限なく上がっていく。そいつはいつの日か、万物理論を理解するための基礎能力と成り得るかも知れない。少なくとも間違いなく天使には必要な経験値だろう」

「カイエンって、不思議な人ね。全然魔道士らしくないわ。独立系ってみんなそうなの?それとも、一図の愛を貫いているから?」

 綾乃は真剣な顔でカイエンを見つめた。

「美咲から聞いたのか。余計な詮索だ。それとも訓練を休憩したいのか?」

「親友の身に起きたことを、当事者に尋ねているだけよ。私にも知る権利があると思うわ」

「俺には話す義務はないね」

「あなたの本当の目的は何なの?」

「美咲から聞いたのだろう?」

「ええ聞いたわ。あなた、ずっと魔道士のまま、聖道士である美咲を口説き続けるつもりじゃないでしょうね? 何を企んでいるのか、言いなさいよ」

「恐い聖道士だな。実に君こそ魔女に向いているよ。そんなに美咲が好きだったら、レズビアン道を極めたらいい。俺は邪魔しないぜ」

「話を逸らさないで! 誰だって、千年もの間、たったひとりの女性を追い求めるだけのために魔界を生きている魔道士なんて、信じられるわけないでしょう?」

「信じようが信じまいが、好きにすればいい。君は何を危惧している? この世界は絶対的とも言える聖界のテリトリーだ。俺が美咲に何かするとでも思っているのか? それは君達聖道士の存在自体を否定するようなものだ。いかに俺でも聖道士軍団相手に大立ち回りを演じるほど馬鹿じゃあないぜ」

「……本当に、美咲に会いたかった、だけなの?」

「悲しい顔をするな。俺は君のことも好きなんだぜ。美咲とは歴史が違いすぎるけどな。正直に言おう。俺には目的がある。その為に千年を生きてきた。魔道士は邪念を持たなければ魔力を保持することはできない。それが魔道士たる所以だ。俺の邪念は、永遠の生命と強大な魔力だ。しかしそれは時空を越えるための手段に過ぎない。俺は魔属から魂の行き先を映し出す〈番人の眼〉を盗んでまで、美咲を捜した。美咲を俺だけのものにして、何者にも干渉を受けない閉鎖時空間の楽園で、永遠の時を過ごす為にだ!」

 綾乃は何かとんでもない事実を知ってしまい、それが重罪であるかのような気分になり、やや呆然となってその場に立ちつくした。

「君らからすれば、それは呪わしい計画に思えるだろうが、俺にとっては純粋な愛に他ならない……ところがだ。美咲はまたも聖道士になっていたんだ! もはや俺にはどうすることもできやしない。俺にできる事と言えば、美咲にとって意義のある存在になる事だけだった。結ばれずとも一緒にいられるだけで、俺の目的は果たされると考えを改めざるを得なかった……これが答えだ。満足したか?」

 カイエンは思念波の隠蔽隔壁を取り払い、自分の発言が嘘偽りないことを公開しているように窺えた。その波動から、カイエンが真実を語っているとしか感じ取ることができなかったのだ。それでも綾乃はその言葉を信じられなかった。

「そんな……あっさりと告白するじゃない? 怪しいわ」

「これは聖界も知っていることだ。正確には、佐多聖道次監だけだがな。彼については聞き及んでいると思うが、魔道士から回成した経歴を持つ。彼は本名をマーラムと言って、かつて俺と同じ世界にいた者だ。俺でさえ隠し事はできない。俺の真の目的は自ら封印したのさ。この事実を知っているのは、君の他はマーラムだけだ。聖界承知済であるこの事実を美咲に話すなら、佐多聖道次監の許可を取れよ」

「だったら、回成すればいいじゃない! あなたも聖道士になって……」

「君は回成の“知識”だけは持っていると言ったな? ならば、回成するには条件があることを知っているだろう。そういう事だ」

 条件? 綾乃はカイエンから目を逸らして懸命に思い出そうとした。この手の学習はあまり得意ではない。美咲に聞いてみようか?  悟られないように……。

 綾乃が休憩を申し入れ、聖界にコンタクトをとろうと思ったその時、カイエンの後方数十メートルの位置に空間の歪みが発生するのが見えた。アメーバのように伸縮を繰り返した空間から吐き出されたのは、一人のワイシャツ姿の男と黒いエジプト猫だった。

 男はよろけながら辺りを見回すと、綾乃達のいる方を見て、慌てて歩き出した。

「あ、刑事さん……?」

 綾乃はカイエンを見て説明を求めた。

「彼がジンに伝えたんだろう。俺達に会いたいと。おおかた、マーラム……佐多聖道次監の口車に乗せられて、見学に来たんじゃないか?」

 カイエンはそう言うと、何かを考える顔つきになり、片方の眉をぴくりと動かした。

 嶋田は二人に近づき、済まなそうに言った。

「忙しいところ、悪いね。どんな様子か見たくなったもので。ああ、君達のことは、佐多さんから全て聞かせて貰った。僕的には全ての謎が解けた訳じゃないが、これが夢じゃないということは分かったつもりだ。ええと、藤森さんは?」

 突然、饒舌に話し出した嶋田の様子に、綾乃は何を怯えているんだろうかと思ったが、すぐにそれは当然のことだと納得した。彼はいま人間ではない者と現実的ではない空間にいるのだ。魔界について詳しく聞いたとあれば、目の前にいるカイエンは決して安心できる存在ではないのだろう。

「美咲はいま、別の空間で訓練中です。カイエン、そろそろ時間じゃない?」

「そうだな、休憩にしよう。俺とジンはちょっと出かけてくる。警部補さんよ、ゆっくりしていきな」

 カイエンは指を鳴らした。すると、嶋田の右側にある全ての景色が波を打って揺れた。色がネガのように反転し、揺れとともに色が元に戻ると、そこには憔悴しきった美咲が立っていた。超感覚の拡張訓練は精神エネルギーを膨大に消費する。それでも美咲は幻影空間から解放されると同時に、素早く状況を把握したようだった。

 ジンがカイエンの側に走り寄ると、長く黒い尾の先端を中心に闇の円窓が広がり、カイエンとジンを包み込むやいなやはじけるように消えた。

「何度見ても、不思議なもんだ」

 嶋田の波動から、こんどは嬉しそうな感覚が伝わってきた。この男はわくわくしているのだと綾乃には読み取れた。まるで少年のようだ、と思う。

「それくらいならいつでもお見せできますよ。この前みたいに」

「実は今日、君達と話がしたくて来たんだ。ジンを通して彼に……カイエンに伝えたら、遠慮なく来いということだったんで来たんだが、いいのかな? 邪魔でなければいいが」

「邪魔なんかじゃないですよ」

 綾乃は言いながら美咲の方を見て気遣った。疲れているに違いない。

「美咲は休んでて」

「ううん、大丈夫よ。超感覚制御の訓練はジムノマンシー制御の訓練でもあるのよ。自己回復の瞬発力増強という相乗効果があるから、心配ないわ」

 その会話を聞いておよその事を理解した嶋田は遠慮がちに言った。

「いや、いいんだ。今すぐじゃなくても」

「本当に大丈夫です。久しぶりですね」

 美咲はしっかりとした足取りで嶋田の方に近づいて言った。嶋田には見えなかったが、美咲は治癒の波動を体の内側に向けて放射していたのだ。顔色が良くなっている。

「久しぶり? 昨日会ったばかりじゃないか。佐多長官に話は聞いたよ。本当はもっと早く連絡しようと思っていたんだが、職務の方も東奔西走していてね、あれからも薬がらみで失踪事件が頻発していて、大変だっんだ。今日もまだ晩飯にありつけないでいる」

 美咲はこの空間の時間の流れ方が外とは違うことを忘れていた。通常空間ではまだ一日しか経過していなかったのだ。

「ここではもう二週間くらい経っているんです。ところで、何かあったのですか?」

「君達も知っていると聞いたんだが、ボストン・テクノロジィズ社という外資系の新進企業があるんだ。実は二日後にそこへ公安監査が入ることになっている。警察じゃなくて、国安局の立ち入り検査なんだが、本当の目的は魔道士の関与状況を密かに調べることなんだそうだ。実を言うと、来月から僕は国安局に転属することになったんだ。それもあって、警察からの応援と言う名目で僕も立ち会うことになった」

 美咲と綾乃は思わず顔を見合わせた。佐多が人界では国家安全保障局の長官を務めていることを思い出し、聖界が本気で嶋田をスカウトしようと試みていることを知った。

「この会社はすごい所でね、とんでもない技術を毎日のように生み出しているんだが、裏ではかなり汚い金が動いているらしい。それと戦略物資開発の疑いがあるというのが表向きの監査理由だ。そして僕は異能力を最大限に発揮して、極秘裏に別の調査を行うことになっている。そこで、僕は佐多長官に逆提案したんだ。君達を護衛につけてほしいとね」

 通常空間の残暑から比べると、ここは涼しく感じるのだろう、嶋田はそこまで話すと、手に持っていたスーツの上着を着ながら言い加えた。

「ジンを信用しない訳じゃないが、彼も元々はあちら側の存在だろう? それに長官自ら赴くのはいくらなんでも不自然だからね」

「それで、許可されたのですか?」

 綾乃が訊く。

「ああ、他にも手の空きそうな聖道士がいることはいるらしいんだが、君達には一度会っているし、実施日はちょうど訓練明けになるということで、決まったようだ。でも僕としては、君達に了解を得たくて、直接話をしたかったんだ。勝手な申し出で済まない」

 美咲が綾乃を見る。こういう場合、決定の是非は綾乃に一任するのが二人の間で慣習になっていた。美咲の思念波は「私はOKよ」と言っている。綾乃は即答した。

「もちろん、異存はありません。それどころか、願ってもないことです」

 返事を聞いた嶋田は、晴れやかな笑みを浮かべて礼を言った。

「ありがとう。大変心強いよ。君達がいれば、恐いものはない」

 その言葉に二人は少し恥ずかしい気持ちになり、胸を叩いて快諾できない自分が小さな存在に思えてしまった。あとたった一週間で、自分達は変われるのだろうか。

 嶋田は、用事は済んだのでカイエンが戻るまで待たせてほしいと、二人から離れて丘の下に倒れ込むように座った。美咲が特設の空間を作ってそこで休むように言おうと思っているうちに、よほど疲れているのか高いびきが聞こえてきた。

 綾乃が素早く駆け寄り、手を嶋田の胸に当てた。癒しのジムノマンシーを注意深く丁寧に注入していく。やがて轟音のようないびきは静まり、穏やかな寝息に変わった。綾乃は仕事に精を出し頑張っている人の姿を見るのが好きだった。嶋田にとっては波瀾の二日間だったことだろう。警視庁の捜査官という激務に折り重なって今回の事件だ。普通の人間なら気が動転して平常心ではいられない。綾乃は少しばかり嶋田に興味を持ち始めていた。

 いつまでも嶋田の寝顔に張り付いて離れない綾乃を美咲は小声で呼んだ。

「あ、ごめん、なんか、ぼうっとしちゃって。自己回復術を施すのを忘れていたわね」

 綾乃は我に返って立ち上がった。ちらりと嶋田を見て言う。

「ふと、思ったんだ。人間って、頑張っていつも生きているんだなって。でも私が人間だったとき、こんなにも生きることに一生懸命だったかなって、思い返しちゃった」

「綾乃……」

 それ以上言葉が続かなかった。美咲は綾乃の過去を知っており、本人は思い出話のように軽く語っていたが、闘病生活がどれほどつらく苦しいものであったか、想像するだけで涙がこみ上げてきたものだ。自分はほぼ即死だったが、綾乃は数年間も死の恐怖と戦っていたのである。綾乃はその間に、生きるということをどれだけ考え、思ったことだろう。

 綾乃は朗らかに両手を腰に当てていった。

「うちらも、頑張らなくちゃね。頑張るのは、当たり前なんだけど。あはは」

 美咲は微笑んで、綾乃の溌剌とした元気に心が暖まった。

 防護服を解除した綾乃を見て、美咲はそういえば休憩時間はいつまでだろうかと思った。

 カイエンは常に休憩の時間や夜になると姿を消していた。どこに行っているのかは言わなかったし、二人とも訊こうともしなかった。きっと魔界にでも戻って体を癒やしているのだろうと思い、あまり深くは考えていなかったのだ。

 聖界の一部であるこの空間にずっといることは、さすがに魔道士にとっては苦痛であるに違いない。それでなくても三次元1%制約によって無条件に縛りつけられる感覚に、体力の消耗は極めて激しいはずだ。

 カイエンが魔界でエネルギーを補給している様子を思えば非常におぞましいことなのだが、その姿を思い浮かべることは美咲にはそれほど嫌悪を感じることではなくなっていた。

「ねぇ、美咲」

 綾乃が話しかけてきて、美咲は防護服を脱ぐタイミングを逸した。

「何?」

「回成の条件って、なんだっけ? 修練生時代に習ったでしょう。忘れちゃって」

「それは、色々あるけど、例えば?」

 美咲は具体例を求めた。綾乃は口ごもって脳をフル回転させる。

「例えば、うちらが空き地で捕獲した薬物中毒の魔道士とか……」

 綾乃は苦し紛れに思いついた事を言った。別に嘘はついていないよな、と思う。

「ああ、それなら、難しいかも知れないわね。本人に回成する意志がなければ、始まらないもの。中毒症状が治まって意識がはっきりしたら、どうか分からないけど」

 確かにその通りだと綾乃は思った。回成とは、相手の心を動かす魂の触れ合いであり、決して強制力によるものでない。波動の周波数を変えることは、理論以上に簡単なことではないのだ。

 回成させるには魔道士の心の中に入り込む必要がある。その際に直視しなければならない魔道士の魂は、まさに自分の心を映し出した魔鏡と言える。聖道士自身の心にほんの僅かでも歪みがあれば、それは魔道士の心に共鳴してしまう。そして聖道士は、鏡に映る卑しい自分の姿に聖の心を崩壊させ、いとも簡単に闇の浸蝕を受け入れてしまうのだ。

 カイエンの言うとおり、回成の法術は自分にはまだ無理らしい。難しい技であることは疑いようがないが、それができる聖道士はこの世界でも決して少なくはない。カイエンの超絶的な魔の波動を更なる圧倒的な聖の心で鎮め、全てを許す天使のような清き光で汚れを払うことのできる聖道士が。カイエンをよく知っているという佐多聖道次監なら、きっとうまくやれることだろう。綾乃はカイエンの態度が気になっていた。まるで回成は不可能であると言わんばかりのようだったからだ。

 しかしカイエンが美咲との時間を共有するという至高の目的のために、回成を拒絶することなど、果たしてあり得るのだろうか? 綾乃には理解できなかった。

「この空間にいれば、刑事さんもゆっくり眠れるわ。時間流の速度が違うから」

 美咲は防護服を瞬時に脱いで言った。消えた防護服は嶋田の体の上に掛けられて再び現れていた。この空間ではまだ正午あたりだが、彼にとっては深夜なのだ。

 キャンプ場のある空間は、通常空間に戻った際に時間感覚が混乱することのないように地球上の通常空間を模して造られていた。朝日が昇ると明るくなり、昼間が最も気温が高くなって、日が沈めば涼しい夜になる。

 この当然のサイクルは、しかし美咲達には逆に不自然であった。聖道士も人間と全く同じ肉体構造を持っている以上、休息時間や睡眠は必要となる。だがそれはジムノマンシーを全く使わなかった場合であり、その気になれば三週間をほとんど睡眠なしで訓練し続けることも可能だった。通常空間では無理かも知れないが、ここは亜空間である。

 魔道士であるカイエンは全くの休憩なしというわけにはいかないだろうが、魔界に戻っている間は自主訓練にすればよいだけだからだ。

 それなのに、カイエンはわざと天体の動きを再現し、美咲達に人間と同様な休憩時間を与えていた。彼は絶対に自分のいない所で訓練をさせなかったのである。

 結局、カイエンが戻ってきたのはきっかり一時間後だった。嶋田は仮眠に慣れているらしく、揺すり起こされるのを待たずに自分から起きてきて、掛けられいてた白い防護服をしげしげと見ながら美咲に礼を言って返し、カイエンに先ほど美咲達と話した内容をもっと短縮して話すと、再びジンと共に通常空間に戻っていった。

「早速、仕事が入ったじゃないか。売れっ子はつらいな。さあ、訓練の続きだ。気合いを入れろよ」

 張り切って号令を飛ばすカイエンのウィンクを合図に、二人は防護服を纏った。

 気合いは二人共に充分だった。実戦を仮想したプログラムをいくつか組み合わせ、それらがランダムに具現化するシミュレーションで訓練中の技を生かすというカイエンの思いつきで午後が始まった。

 その日、綾乃は幻影空間内でミックス攻撃法を安定させることに成功した。



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