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短編

望みは誰の為に・・・

作者: 高瀬めぐみ

暗い話だと思います。

巫女本人にとっては実はハッピーエンドなんですが、読み手からするとアンハッピーだとわかって書いてます。


らぶらぶ、甘い系がお好きな方にはオススメしません。

それでもよろしいという方は、お読みください。


『お前はただ一人残された巫女なのだから、


その身を我らが神以外に委ねる事は許されぬ。』




『お前のその命もその身体もその存在の全てが、


我らが神のものなのだから自分勝手な行動は許されぬ。』




『お前が誠心誠意我らの神に仕えることが、


お前の一族全てを守ることになるのだということを


努々忘れる事なきよう・・』






 それは私がこの神殿に連れてこられた時、


まだ物心付いたばかりの幼い頃に、


言い聞かされた言葉の数々。




 私を縛り付ける・・・呪いの言葉。








 私は神に仕える存在


 私の命は私のものではなく


一族を守るためにある


 私は



 ―――巫女という名の生贄





 自分で行動することは許されない


 自分で考えることは許されない


 私は私という存在を表に出すことは許されない



 ―――飾り物の人形





 ただそこに鎮座していることが私の役目


 幾重にも重ねられた薄い薄い布の向こう側の世界から


神へと訴える民達の声を聞くことが役目


 私は私ではなく



 ―――置物の巫女





 この神殿に来たときから続く巫女という名の囚人生活


 そしてきっとこのままこの命がある限り続く


 ―――巫女という名の囚人生活






 だから私は願うのだ



 ―――この命など早く消えてしまえ・・・と





 自由のないこの命など



 ――――儚い雪のように消えてしまえばいい・・・と





****************************************************





 その日、私が物心付いた頃から暮らしてきた神殿は、深紅の炎に包まれていた。



 あちらこちらから聞こえてくる、逃げ惑う人々の悲痛な叫びとすすり泣きの声。



 十数年を共に過ごしてきた、神官付きの侍女やその主である神官達の叫び声。



 それと共に聞こえてくる、神殿を守る護衛騎士達と襲撃してきた者達が争う声。



 そんな喧騒の中、私は炎に包まれている神殿の中心に静かに佇んでいた。





 私はこの神殿の神に仕える先見の巫女・・・未来を見る力を持つ者。



 神殿に捧げられる供物という名の金品の数々、それを当たり前のように享受している神官達の言葉のままに、欲に塗れた貴族達の未来を見るのが務め・・・



 それでも時折、純粋にこの国の未来を憂い、希望を見出すための道を求めてやってくる心根の真っ直ぐな人たちを見ることもある。



 そんな方達の心に触れ、未来を見て、言葉を紡ぐとき、私は人形ではなく心のある人でありたいと思っていた。



 一欠けらの希望でもいい・・・彼らには伝えてあげたいと思っていた。




 それでも、今日のこの日は違えることなくやってくるとわかっていたのだ・・・この国と共に、この神殿が滅亡する日がやってくると・・・この5年間、日を追うごとに鮮明に見えていたのだから。




 そして、今日は私が望んでいた日でもある。



 やっと、あの人に会える日・・・




****************************************************




 火の勢いが増すばかりの中、神殿の中には既に私以外には誰もいないようだった。



 聞こえてくるのは、時折どこかが崩れ落ちる音。



 人の声はもうほとんど聞こえてこない。



 神殿の周りももう逃げ場所はないだろうほど、炎に包まれていた。



 神殿の中心であるここは燃える物が少ないせいか、火の勢いも他よりは少ないのかもしれない。



 それでもここも焼け落ちるのには、それほど時間はかからないだろう。



 私はただ、ここで彼が来るのを待つだけ・・・



 ずっと夢見てきた、この未来。



 その中で、この日私の目の前に立つ彼を初めて夢に見たときから、私の心は炎のように燃え上がっていたに違いない。



 これを人はなんと呼ぶのか・・・



 夢の中でしか会えなかった彼に、本当に会えると思うと心が沸き立つ。



 早鐘を打つ心臓が、痛いような苦しいような・・・それでいてとても甘美な気持ち。




 私をこの神殿という檻から連れ出してくれる人。



 私をこの巫女という鎖から解き放ってくれる人。




 待ち侘びる私の耳に、その人の靴音が聞こえてきた。



 炎に包まれているというのに、急ぐ風でもなく規則正しく聞こえてくる靴音。



 そして私は振り返って、最上級の微笑みと共に、礼をして彼・・・襲撃者である隣国の王を出迎える。



 そして、最愛の人へと向けるように心の篭った言葉を紡ぐのだ。




「ずっとお待ちしておりました。



 私を解放して(殺して)くださる方。」



 と・・・




読んでいただき、ありがとうございました。


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