フレンド登録
遅れました
寝落ちです
「「「あれは何!?」」」
ユイ、ジャン、ウィネは声を出して、クノ、カタラは声を出さずに俺に詰め寄ってくる。……やっとボス戦が終わったと言うのに、元気だな。
「……『魔法破壊射撃』だ」
俺はスキル名だけを告げる。名前だけでどんな効果は充分に伝わるだろう。
「そうじゃねえよ! 何で魔方陣が壊せんだよ!」
ジャンが怒鳴ってくる。他四人もうんうんと頷いた。
「……? 魔法または魔方陣の中心を撃ち抜くと破壊出来るスキルだからだが?」
「は!? そんなスキルねえだろ! またリョウのオリジナルかよ!」
「……いや、これは既存のスキルだ。俺が今日使ったオリジナルスキルは『粉魔法』、『家事魔法』と途中使った見えない弾丸を放つ『幻影の弾丸』だけだ。他は既存のスキルになる」
俺はジャンの言っている意味が分からずきちんと説明する。
「いやいや……! 『魔法相殺』のスキルなら魔法しか相殺出来ねえし……。あっ、リョウのは魔法破壊だから良いのか」
ジャンが首を振ってしかし、途中で言っていることがおかしくなっていたのを理解したのか納得した。
「でも銃だけにこのスキルがあったら反発が凄いよね。もしかしたら他の武器全部にこれっぽいスキルがあるんじゃない? ジャン、とりあえず最強の魔法連発するから頑張って斬ってみて?」
「無茶振りが激しいだろ!」
ユイが本性を露わにして言うと、ジャンがツッコんだ。……冗談だと思ってくれているようで良かった。ウチの妹は本気でそう思っているから性質が悪い。
「でもよく魔方陣の真ん中に撃てたわね」
ウィネが話を変えて言う。
「……それもスキルだ。決闘の時に魔法を相殺出来たのも『精密射撃』と言うスキルがあってのことだからな。命中率上昇と狙ったところにいく効果がある」
「……命中」
『投擲』も使って戦うクノがジッと俺を見上げてきた。……これは教えろと言うことだろうか。だが射撃とついているので『投擲』には使えないと思われるのだが。
「私の『粉魔法』が先よ、クノ」
だがウィネがクノを退けた。……そう言えばそう言う約束があったな。
「まあまあ。お兄ちゃんの取り合いは妹のユイを通してもらわないと。さあ並んで並んで。お兄ちゃんと一人ずつフレンド登録していくから」
だがそこに、割って入ってくるユイ。取り合うとかそう言うことではないと思うが、フレンド登録をすれば俺が空いている時間にメールを送ったりコールしたりして連絡が取れる。それに、フレンド登録が混み合うと上手く申請されないことがあるのでユイの言い分は正しい。二人も大人しく引き下がった。
「じゃあまずはユイとフレンド登録してね、お兄ちゃんっ」
βテスターとコネが出来るのは何かと便利だと思い、俺は四人をフレンド登録しようと予め構えていた。するとユイが満面の笑みを俺に向けてきた。
「抜け駆け!?」
ウィネが驚いたように言うが、ユイは妹だ。それに、今ユイは二人が様々な反応をするのが見たくてからかい弄んでいるだけだ。俺は特に関係ない。
「……」
慣れた手つきで俺にフレンド申請をしてくるユイ。俺はそれを承諾した。……きっと権力者やβテスターとフレンド登録しまくっているからだろう。相変わらず相手に取り入るのが上手い妹だ。
「じゃあ、時間がある時に『粉魔法』教えてね」
ウィネがそう言ってフレンド申請してくる。俺はそれを承諾した。……魔法と言うのは、どうやって教えるモノなのだろうか。
「……精密の、教えて」
クノがそう言ってフレンド申請してくる。俺はそれを承諾した。……『精密射撃』の習得条件は弾と同じか誤差一センチ以内のモノを正確に撃ち抜くのを何回かやると言うモノだったが、『投擲』にもそう言う条件は存在するのだろう。後で考えておかなければ。
「よろしくな、リョウ」
ジャンがそう言って笑いフレンド申請してくる。俺はうっかりそれを拒否してしまった。
「断られた!?」
「……悪い、間違えた。もう一度頼む」
「……ったく」
大袈裟に驚くジャンに言い、もう一度フレンド申請してもらう。俺はウインドウが現れると『早撃ち』の要領で「いいえ」にタッチした。
「……間違えた」
「お前今のはわざとだろ!?」
ジャンは俺にツッコみながらもフレンド申請してくる。俺は三十秒間悩んで、「いいえ」にタッチした。
「てめえ、この野郎! もう良い!」
ジャンが遂にキレてフレンド申請を諦めた。仕方がない。今度は俺からフレンド申請する。フレンド申請のやり方はメニューのフレンドと言う項目をタッチしそこにあるフレンド申請をタッチする。すると画面(?)が切り換わるのでそこで誰かを視線で設定する。便利な機能だ。
「……ったく。しゃーねえな」
ジャンは目の前に出たウインドウを見てへへっ、と笑い鼻の下を人差し指で擦っていた。もう片方の手でウインドウにタッチする直前、俺は申請を取り消した。
「てめえええええぇぇぇぇぇぇ!」
ノリの良いジャンがキレてしまったのでサラッとその後フレンド登録し、事なきを得た。
「お兄ちゃん。ジャンって結構ノリ良いから遊びやすいでしょ?」
すると他三人が苦笑気味な中ユイが耳打ちしてきた。……それは同感。だが俺が普通に関わるヤツとしては如何なものか。
「……俺はこれでソロに戻る。もう呼ばないでくれ。何か用があればメールで頼む」
「……リョウ。どこに行くの?」
俺がボス戦後のヴァランサ荒野奥地から逸れて探索しようと踵を返したら、カタラに呼び止められた。
「……しばらく探索する。モンスターは一通り狩るつもりだ」
そう言えば。俺はカタラに聞かれ答えている最中に思い至った。
「……ミラージやミニボアに狩っていないが、このゲームに食料としての肉はないのか?」
兎とか猪とか、食肉になりそうなモンスターばかりだと言うのに、未だに肉には出会ったことがない。
「……肉はモンスターの捕獲で手に入る。けど丸ごとだから捌く必要がある。捕獲は罠を張る、状態異常などにさせてから縄や網で捕らえるがある」
カタラが答えてくれた。……なるほど、捕獲と言うモノがあるのか。
「捕獲をしやすくする『捕獲』と捕獲したモンスターからしか獲れない素材とかが見つけられる『密猟』とかスキルもあるからね」
ユイが捕獲をするならと、アドバイスをくれる。
「状態異常にしなくても銃なら手足撃ち抜いて捕まえられるよな」
「罠には簡単な、モンスターの食べ物に毒を塗っておくとそれを食べたモンスターが状態異常にかかると言うのもあるわよ」
「……罠なら作れる。必要になったら言うと良い」
ジャン、ウィネ、クノがそれぞれにアドバイスをしてくれた。……優しい人達だ。その辺りを、ユイは見分けられるのだろう。
「……助かる」
俺はそう言って、街の方へ歩いていく。……意気込んだは良いが、紐や網がない。生産スキルにもあると思うので、作ってみるのも良いかもしれない。
俺は再び一人になって、フィールドを歩いていく。……ゲームとは思えない程風が気持ち良い。ある程度軽減されているが痛みはあり、もちろん現実のように感情もある。俺はすでにこちらにいる時間の方が長く、生活の基盤もこちらだ。
……ここまで現実に近い仮想世界にいると、どちらにいる俺が現実なのか、それすらも曖昧になってしまいそうで、少し恐怖を覚えた。




