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Universe Create Online  作者: 星長晶人
第一章

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初めてのボス戦

『対戦人数六名。ボスバトルを開始します』


 無機質な機械音の女性の声が言って、ヴァランサ荒野の奥地まで辿り着いた俺達六人パーティは、ボスと遭遇する。……流石にここのモンスターは強く、俺のレベルは1上がっている。

 ボスはいきなり空から降ってきて、ドズン! と着地する。腕が六本あり腰巻きだけをしたムキムキでゴツいおっさんのようなモンスターだった。全長は五メートルもある。……ここまで大きいモンスターと戦うのは初めてだな。


「……ボス戦で実力見る」


 唸る(『鑑定』した結果ララシュラと言うらしい)ボスと十メートル程の距離を置いた位置にいる俺達だが、スカーフで口元を隠した無口な仕事人クノが言った。……そう言えばそう言う話もあったな。


「そういやそうだったな。良いのか、リョウ?」


「……ボス戦は初めてだが、特に問題はない」


 俺は言って左腰のエアガンを抜きアイテムバッグから取り出した新しいエアガンに普通のBB弾入りマガジンを入れてホルスターに収める。……そろそろエアガンの耐久値がいっぱいになりそうだ。今まで騙し騙し使っていたからな。初のボス戦で華々しく散らせてやろう。だがどのタイミングで壊れるか分からないのが難点だ。石のBB弾一発でどれくらい壊れるまでの耐久値が増えていくか調べておけば良かった。


「初めてなのかよ。ったく、マジで規格外だよな。まあいっちょ見せてもらうとして、目標は腕一本の破壊だ」


 ジャンは呆れたように言いつつ目標を設定する。……そう言えば、ボス戦も映像として記録されていて、運営側が公開動画として出すこともあるのだったか。まあ今回はトッププレイヤーに混じっての参戦だ。特に目立つこともないだろう。なので最初は一生懸命やって足を引っ張らないようにしなければ。


「……お手並み拝見」


「お兄ちゃん、頑張って。オリスキはどうするの?」


 クノが言って、ユイが聞いてくる。……オリスキとはオリジナルスキルのことだろう。


「……『変幻弾丸(プロティン・ブレット)』は人前では使わない予定だ」


 俺はそれだけを言って、トントンと軽く跳んで調子を見る。……問題はなさそうなので、『集中』して一気に駆け出す。


「速っ! 《銃士(ガンナー)》の速度じゃねえだろありゃ」


「……私の方が速い」


「……クノは速度重視だから当然」


 そんな声が後ろから聞こえてきた。『集中』ではパーティの声は排除されないようだ。連携が取れないからだろう。


「……【ショット】」


 俺はカチャリとコッキングしてボスに銃口を向け弾丸を放つ。通常の1.3倍の威力が出せるアビリティだが、俺のエアガンと石のBB弾で使うと五から意味なく一足される程度だ。ほぼ無意味と言える。

 どうやら整数切り上げのようで、助かった。でなくとスキルが意味をなさなくなるからだろうが。


 当然、右腕の一本で薙ぎ払われる。……石のBB弾では傷さえつけられないか。それなら、『零距離射程(レンジ・ゼロ)』を叩き込むか粉塵爆発を起こすかのどちらと言うことになる。

 俺は仕方なく、と言うか当初からそのつもりではあったが、ララシュラに突っ込んでいく。……人間より懐に入りにくそうではあるが、『集中』していれば問題ない。間合いさえ読めれば回避しながら戦うことも可能だろう。

 俺は左から攻めていく。するとララシュラは右拳を振るってきた。俺はそれをヒラリとかわし引く時に拳に掴まってそれに合わせて軽く跳ぶ。すると今度は下から二番目の右腕で俺を狙ってきた。良い判断だ。その拳が俺に当たる直前に、三本目の腕を上から被せるようにして手を着き三本目の腕と脚で跳躍する。ララシュラは痺れを切らしたのかちょこまか逃げる俺を捉えようと、六本の腕をグッと力を込めて構える。ラッシュでもしてくるのかもしれない。俺はその間に素早くホルスターに備わっているマガジン入れから粉入りBB弾の入ったマガジンを抜きエアガンからマガジンを射出。マガジンを入れ替えるとコッキングと発砲を繰り返してララシュラを粉塗れにしていく。ララシュラの集中力は削げたが、ダメージがないことを悟ると気にせず力を溜めるようになった。……流石はボス。そう簡単にはやられてくれないか。

 だが準備は整った。俺が落ちていくのに合わせて粉塗れのララシュラが六本腕でラッシュを放ってくる。もちろん、粉は巻き上がる。……だがこのままでは俺も粉塵爆発に巻き込まれてHPが吹き飛んでしまう。

 そう思った俺は迫りくるラッシュを相殺すべく、腕を八本にする。もちろん〈蠍〉の甲殻で覆い、一番上の腕を鋏に、他三対の腕を蠍の脚のように先が鉤爪のようになった腕に変化させる。それから腕を二本ずつ一緒にして俺に当たる拳だけを殴って相殺していく。ラッシュと言うのは超達人を除けば「数撃ちゃ当たる」戦法の一つだ。ララシュラの場合、相手が小さく腕が六本あると言うこともあるが、当たらない拳が出てくる。それを度外視して当たる拳だけを相殺していけば、無駄なく対処出来る訳だ。……だが俺のHPだけがどんどん減っていく。

 やっと、ラッシュが途切れた。すでに俺のHPはレッドゾーンに突入している。だが粉は舞っている。


「……【コンロ・ファイア】」


 俺は着地してからすぐにその場を離れ、小さなコンロ程度の火を放つ。すると物凄い轟音と爆風が巻き起こり、ララシュラの三本もあるHPの内一本の半分まで減らせた。……これ、結構な威力なんだが。こいつを一人で倒すにはあと五回もこんな危ないことをしなければならないのか? 遠距離からの『粉魔法』ではこいつを止められないかもしれないし、状態異常粉が効くかどうかも分からない。


「……【パラライズ・パウダー】」


 俺は麻痺粉を降らせる魔法を使ってみる。……魔力を消費し続けることで相手の頭上に設置した魔方陣からいくらでも麻痺効果のある粉を降らせることが出来る魔法なのだが。


「カッ……!」


 一分後、何とかララシュラが麻痺してくれた。……危ない危ない。もう麻痺は効かないかと思って解くところだった。先程の粉塵爆発もあってかララシュラが粉を振り払おうとしてくれたおかげだ。

 麻痺は見れば分かる。微妙にバチバチと雷が見えるからだ。


「……」


 俺はこの隙を見逃さず、麻痺しているララシュラの腕に手と足と尻尾をかけて肩まで上り、銃口をピッタリと肩に突きつける。そして、『零距離射程(レンジ・ゼロ)』。すると一番上の左腕が肩から取れたのだが、それと同時にバキャッ、と言う音がして、今まで世話になってきたエアガンが破損した。いや破損どころではなく、破砕と言うべきかもしれないが、兎も角壊れてしまった。バラバラになって宙を舞う。マガジンは無事だったので回収し、散っていくエアガンに心の中で手を合わせ、ぎ取った腕を持って地面に着地。そそくさと逃げ出した。


「……これ、手土産」


 俺は簡単に言ってララシュラの左一番上の腕をジャンに手渡す。


「グオオオォォォォォ!」


 麻痺はすぐに解け、しかしララシュラは一番上の左腕がないため肩を押さえていた。……随分と人間らしいモンスターだな。


「……お、おう」


 ジャンが呆然から我に返ったかのような微妙な顔で、俺が手渡した腕を受け取った。……何だ? ちゃんと目標は果たしたぞ?


「まあ、実際に見るのと映像で見るのじゃあ全然違うってことだよ。これはお兄ちゃんの戦利品で良いよ」


 ユイが苦笑して言い、ジャンに渡した腕を俺に返してくる。仕方ないので受け取った。


「……凄い身のこなし」


 クノが若干キラキラした瞳で俺を見つめてきた。……ちょっと見たが、クノだって充分凄い。大体俺の経験の浅い独学と違って精練された動きのように思われるのだ。


「さっきのあの粉みたいな魔法、何? あんなの知らないんだけど」


 ウィネが興味深々とばかりに身の乗り出し前屈みになって聞いてくる。……その結果ぶるんと揺れたウィネの胸元に目がいってしまい、カタラに爪先を思いっきり踏まれたのは余談だ。


「……カタラ。俺のHPが零になるから止めてくれ。もう一しか残っていない」


「……」


 俺が言うとカタラはサッと足を退けてくれた。……危ないところだった。もうHPが三しか残っていないのにカタラの攻撃で二も減ってしまった。


「ラッシュの相殺ダメージでHPが赤になってると思ったら、HP低すぎんだろ……」


 ジャンが呆れたように言うが、それは俺のせいではない。《銃士(ガンナー)》はHPが伸びるタイプではなく、蟲人族(ちゅうじんぞく)も一部を除いてHPが低い設定になっている。それが重なって、俺のHPはなけなしなのだ。

 このゲームの相殺とは、攻撃と攻撃のタイミングが合っていれば出来る。攻撃力は関係ない。だが相殺ダメージと言うモノもあり、相殺の時攻撃力が低い方にその差分ではないが、僅かにダメージを与える。それが重なった結果、俺のHPはレッドゾーンに達してしまったのだ。

 俺のようにHPが伸びないプレイヤーと、ジャンのように前線で壁役となって戦うプレイヤーで比べれば、最悪の場合半分にも満たないだろう。


「はい、これ。私が『調合』したHP回復薬」


 するとウィネが腰に着けたポーチから緑色の液体の入った焼肉のタレぐらいの大きさの瓶を渡してきた。……『鑑定』すると俺が作ったHP回復薬・微小よりも効果の高いHP回復薬・中だった。

 しかし俺がそれを有り難くいだたこうと手を伸ばすと何故か引っ込められてしまった。


「後で『粉魔法』教えて」


「……別に良いが。料理に小麦粉を使うくらいしか使い道が……」


「「「いやいやいや」」」


 ウィネに頼まれたので了承しつつも何でかはよく分からないので聞くと、他全員に首を横に振られてしまった。……と言うかジャンよ。ララシュラの攻撃を受けながら随分と余裕ではないか。俺は相殺して死にそうになったと言うのに。防御を主体とする《騎士(ナイト)》と《銃士(ガンナー)》の違いとは言え、少し虚しい。


「お兄ちゃんには自覚がないみたいだから言っとくけど、ボスモンスターを状態異常にする確率は一回のバトル中に一回もないんだよ! 状態異常にする手段に継続的なのがなかったからって言うのもあるけど、お兄ちゃんは今自分がしたことの重要さを分かってない!」


 ユイに怒られてしまった。……そんなに開発されていない魔法だったのだろうか。確かに麻痺魔法などは開発する意義がないからな。雷属性に分類されるか状態異常として一括りにされるかのどちらかだろうが、それ単体で魔法が成り立つ程麻痺手段が多い訳でもないのかもしれない。


「……もう。お兄ちゃん、ユイにも教えて?」


 ユイはプクッと頬を膨らませるが、「おねだり」の表情で言ってくる。……これに逆らえるのは本性を知る俺だけ――なのかもしれない。


「……いや。使い道が多そうなウィネにだけ教える。『調合』があって色々なアイテムに仕込めるからな」


 当然、俺は断る。……どうしても教えて欲しければウィネから教えてもらえ、と視線だけで言ってサッとウィネの手からHP回復薬・中を奪い取って飲む。

 ……う~ん。やっぱり微小よりも美味しい。薬草と虫を混ぜただけの苦いドロッとした飲み物とは違ってレモン味がついていて。


「じゃあ、ちゃんと教えてもらうからね。因みにそれは私が在庫揃ったら販売しようとしてる魔女(じるし)の回復アイテムよ。レヴェッサの森にあるレモネードの木から絞った果汁を入れてるから美味しいのよ」


 ウィネはそう言うと少し得意気に胸を張った。……今度はぶるんと揺れる胸を見ることなくやり過ごす。


「……それ、俺に教えて良いのか? 俺がパクって売るかもしれないぞ」


「大丈夫よ。――店を借りるにしろ建てるにしろ、知り合いの少ないプレイヤーは厳しいから。それに、色々手を出してるらしいから負ける気はないわ」


 俺が言うとウィネはウインクして言った。……それに俺は少し寒気を覚えたので、パクって売り出すことはしないようにと心に決めた。


「それよりお前ら、ちょっとは手伝え!」


 そこにようやくと言うか、声を上げたジャン。……遅い気がするのは、HPが高く防御に徹していてピンチにならないからだろう。


「……謝罪」


 無口に言ってクノがどこからか短剣を取り出し逆手持ちで持つと体勢を低くして疾走していく。


「クノちゃんの主要スキル、教えてあげるね。攻撃したモンスターからアイテムを奪うことがある『強奪』。装備の中に小さい武器を隠しておける『暗器』。武器を投げて攻撃出来る『投擲』。もちろん剣で攻撃する補正ありの『剣術』。武器を逆手持ち出来る『逆手持ち』。『投擲』した武器の命中率を上げるための『命中強化』と素早さや武器の『投擲』の速さを上げるための『速度強化』。あとは敵を探す『索敵』と隠れる『隠蔽』が主要かな。忍者目指してるんだよ、クノちゃん」


 ユイがクノのスキルについて説明する。やはり忍者を目指しているようだ。……と言うか便利そうなスキルがいくつか出てきた。覚えておこう。


「……」


 ユイの言う通り、クノは短剣を持つ右手とは逆、左手の袖口から滑らせるように手裏剣を三枚手に持つと、手首のスナップを利かせてララシュラに投げつけた。……『投擲』スキルか。それに手裏剣やクナイなども『変幻弾丸(プロティン・ブレット)』に応用したい。手裏剣やクナイを溶かして弾にすれば良いのか。


「……ごめん」


 カタラもジャンに謝罪を一言入れると左腰の刀に手をかけて駆けていく。……あれは、日本刀か?


「カタラちゃんは元々『鍛冶』がしたくてこのゲーム始めたんだって。でもこのゲームに生産スキルに対する制限とかないでしょ? だからβテスト開始当時はもう、『鍛冶』をやってみたい人達ばっかりだったの。前衛職が全員自分の装備を自分で作ろうとしたら、もう分かるでしょ? ……まあ今じゃあ生産スキル習得って結構面倒だし手作業が若干優遇されてるから頑張ろうとした人もいたんだけど、大変すぎてやりたい人――つまりは結構玄人好みの生産職がやれば良いってことになって、今は数が減ってるの」


 まだ一部の――クノちゃんみたいに自分で武器を作りたい人は頑張ってるけどね、とユイは苦笑して言った。……確かにこのゲームの生産スキルは本格的だ。職人技――とまではいかなくても、基本的なことは現実的な手法で作り出す。もちろん今は毛糸しかないため細い糸も市販されていて革もある。手作りより質は落ちるが必要なモノを作るにはそう言う既製品を購入してから作ることも必要だ。一から全てを作るにはまだ場が整っていない。とは言え現実と同じ手法で作れるようになっていると言うことは、それだけ難易度も増すと言うことだ。『糸作成』の道具セットも糸車だ。今は機械でやっているのに。手で紡ぐ方法でなくて助かったが、昔から使われている方法で糸を紡いでいる。

 難易度は、確かに高いと言えるだろう。


「で、カタラちゃんはβテストで後悔してたから正式な方で、日本刀製造の手法をネットで調べてこっちで実戦してたの。で、オリジナルスキル『日本刀製造』を開発したんだって。もちろん現実でやるよりかなり簡単になってるけどね」


 つまりあれは日本刀だと言うことか。日本刀にしては小振りなので、やはり小太刀なのだろう。脇差と言うヤツかもしれないが。


「……斬る」


 カタラはララシュラの足元まで行くと刀を抜き放つ。鈍い光が反射し光って見えた。カタラはそれを両手でしっかりと握ると、ララシュラの足を斬りつける。ララシュラの真正面に堂々と構えるジャンがいるため側面から攻撃を仕掛けるクノとカタラは手薄と言うことになる。

 しかしカタラがつけた傷は二つあって、一回斬った後にもう一度斬っている。……どうやら俺が思いついた通りのスキルが申請して通ったようだ。


「あんなスキル、見たことないんだけど。オリかな?」


「……俺が適当に思いついたヤツだからな。無事申請が通ったようだ」


「……お兄ちゃん、もう運営側にいったら?」


 興味を示したユイに俺が言うと、呆れた声が返ってきた。……それも良いかもしれない。だが俺の性分を考えるとゲームの域を超えたゲームを作りたくなってしまうかもしれないので止めておく。

 世界を創造したい、となってしまっては俺もデスゲームをやらせてしまうかもしれないからな。ゲームを超えたゲーム程危険なモノはない。


「【ディフェンシブ・エイト】!」


 真正面で攻撃を引き受けるジャンが勇ましく叫ぶと、ジャンが持つ盾が青い光を纏って輝いた。


「【ディフェンシブ・エイト】。盾を装備してると使えるスキル『守護盾』のアビリティで、攻撃を八回タイミングを合わせて捌くことが出来るの。まあタイミングを合わせないとスキル失敗と捌き切れなかった攻撃の衝撃を受けて隙だらけになるからあんまり使わないんだけどね」


 ユイが説明してくれる。……と言うことは要するに上級者向けのアビリティと言うことだと思うのだが、ジャンは五本の腕から放たれる拳撃を八回連続で全て受け切った。


「βテストの時はHPが五割切ったら武器召喚してたから、それまでになるべく腕取ってね! ――【ウインド・ストーム】!」


 ユイは前衛三人に言いつつ、ララシュラを覆う竜巻を巻き起こす。


「はい、魔女印のHP回復薬!」


 後衛として俺とユイの近くにいるウィネがジャンに向かって後ろから瓶を投げつける。……パリィン! とジャンの背中に当たり割れて破片と緑色の液体が飛び散る。するとHPが回復していく。

 ……雑だ。


「回復アイテムが飲ませるだけじゃなくてぶつけることでも効果を発揮するのよ。このシステムにより後衛から回復アイテムが出せない前衛職に回復アイテムを使えるようになったの」


 ウィネが説明してくれる。……いや、俺が飲んだ時と違ってかなり雑だと言うことを言いたいのだが。


「まあクノちゃんぐらいになると、バトル中なのにキャッチして飲むんだけどね」


 そんな俺の表情が読み取れるユイが苦笑して言った。


「……回復がいないのか」


「宛てがない訳じゃないんだよ? 今日はお兄ちゃんにユイの知り合いを紹介するためにいないの」


 ……それは悪かったな。俺みたいな独り善がりの激しいヤツが加わって。


「【ダークストーム】!」


 今度は闇の竜巻が巻き起こった。……流石に仲間が魔法を使う時はララシュラの近くから退避している。仲間に攻撃出来るかどうかは兎も角、視界が悪くなるのは間違いない。


「……【スピード・エッジ】」


 クノが呟いて高速で疾走に、ララシュラの脇を抜けていく。すれ違い様に腹部を斬りつけた。


「そろそろ五割切るよ!」


 俺はボーッとそれを眺めていたのだが、五人が攻撃を重ねていきユイが遂に五割切ると声を張る。


「グオオオオオオオオォォォォォォォォォォ!!!」


 ララシュラのHPが一本真っ白になり二本目の半ばまで到達した瞬間。ララシュラが大きく咆哮した。その咆哮が空気をビリビリを震わせ振動が俺にも伝わってくる。……ん? 身体が動かないな。怯んだ、と言うヤツだろう。初期スキルの中に『威嚇』と言う相手を怯ませるスキルがあったからな。


「……そっか。ユイ以外は皆レベルが同等以下だから怯んじゃうんだ」


 動かない俺達を見渡して、唯一自由なユイが言う。……前衛三人も身体が動かないようだ。これは危険だな。特にクノは装備が薄い。HPが大きく削られて最悪死に至るだろう。このゲームには人間で言うと頭や首や心臓などを攻撃してダメージを与えると、つまり現実で死ぬような場所に攻撃を加えるとHPに関係なく相手を倒す一撃死と言うシステムがある。俺が決闘(デュエル)で相手を『零距離射程(レンジ・ゼロ)』で吹き飛ばし倒したのがそれだ。


「……っ」


 案の定、五本の腕を持つララシュラは各手元に武器を召喚して掴み取る。……武器召喚の魔法だろうか、魔方陣から出てきた。しかしこの魔法で武器が放てるなら某アニメのアーチャーの如く無双出来るのではないだろうか。しかし召喚するだけのようで、五つの武器を五本の腕それぞれで持ち構えると、クノに襲いかかった。

 ララシュラが持つ武器は右腕一番下が大剣、真ん中がハンマー、一番上がハルバートと言う槍と斧が混同したような武器だ。左腕一番下が刀、真ん中と言うか今は一番上になっている腕には槍が。


 ララシュラが右腕三本で一斉にクノの細い身体を引き裂かんとばかりの勢いで振るわれる。……動け、俺の身体。パーティメンバーを助けるのだ。


「……」


 やっと、身体が動くようになった。だがもうララシュラの凶刃が間近に迫っているクノの命は風前の灯だ。クノが後方に跳んでも避けられるような距離は開いていない。


「……チッ」


 俺は舌打ちして『早撃ち』と『精密射撃』の併用でララシュラの目を撃ち抜く。続いて第二射も、次の目を撃ち抜き両目を見えなくする。すると流石のララシュラも怯み攻撃を中断して呻いた。……何とか間に合ったか。銃の良いところは攻撃力が小さい割りに相手の攻撃を中断させる手段を多く持っていることだろう。


「……助かった」


 クノは驚いたように礼を言って両目を押さえるララシュラの懐に潜り込み、何度も斬りつける。目が見えないためララシュラは適当に振るうがすでにその場にクノのいない。


「今がチャンスだ! 一気に畳みかけろ!」


 ジャンが言って、一斉に攻撃していく。俺も影ながら『幻影の弾丸(ファントム・ブレット)』でダメージを与えていく。見えない弾丸でビスビス当てていくが、特にダメージはない。前衛は全く気付かない。


「グオオオォォォォォ!!!」


 だがHP二本白くなり、三割を切った辺りでララシュラが怯ませない雄叫びを上げる。……嫌なことに、俺が取った左腕一本と両目が再生している。しっかり武器を持っているのも厄介だ。因みに鎌。

 何やら赤いオーラを纏い怒り心頭の様子だ。


「まだ三割なのに! βの時は二割で発動だったのに、もう! 皆警戒して! 全体攻撃魔法が来るから! それに再生もしてるから気をつけて!」


 ユイが不満そうに言って指示を出す。どうやらβテストの時には二割で発動するこのステータス上昇みたいなのが三割で発動されたことに怒っているようだ。怖い。……それにしてもちゃんと、パーティリーダーをやっているようだ。お兄ちゃん、安心したぞ。


「お兄ちゃんも感激してないで戦う!」


「……はい」


 残念ながら心を読まれているのではないかと言う程に表情を読まれ、俺が怒られてしまったが。


「……ユイ。魔法の方は俺に任せろ」


 怒られてしまったので真面目な表情で言う。


「……。分かった。お兄ちゃんも前出て良いからね」


 ユイは少し逡巡したようだが、決断してくれて、しかも前に出る許可もくれた。これはやるしかないだろう。


「……助かる」


 俺はエアガンを構えてララシュラと戦う三人の下へ駆け寄る。


「リョウ、全体攻撃魔法をくらったら後退しろよ!」


「……受けないから問題ない」


 俺は言って『零距離射程(レンジ・ゼロ)』以外は注意を引くだけで良いかと思い、回避に専念する。

 『集中』すれば冷静に攻撃を見据え、前以って動き攻撃を避けることは可能だ。


「ッ――!」


「来るぞ! 全体攻撃魔法だ!」


 ララシュラが六本の武器の先を一点に集中させるようにして頭上に展開した巨大な赤い魔方陣を見てジャンが叫ぶ。五人がサッと防御姿勢を取る中、俺は勢いをつけて筋肉の盛り上がりなどに手と足と尻尾を引っ掛けて上る。


「「「っ……!?」」」


 すると他五人が跳び上がった俺を見て驚き目を見開く。……さて。魔方陣標的の方が真ん中が分かりやすくて良いな。


「……『魔法破壊射撃スペルブレイク・ショット』」


 俺は言わなくて良いスキル名を呟き黒を纏った弾丸を、魔方陣の真ん中に撃つ。それが当たった瞬間、魔方陣は無惨にもパリィ……ン、と言う甲高い音を響かせて砕け散った。


「「「はっ!?」」」


 他五人が唖然としていたが、魔方陣破壊ボーナスか必殺技破壊ボーナスかは知らないがララシュラが怯んでいる。チャンスだぞ。


「……説明は後だ。今がチャンスだぞ」


 俺は呆然としている五人に言う。すると一番最初に我に返ったユイが四人に指示を出し、一斉攻撃が始まる。俺は肩に三発ずつ『零距離射程(レンジ・ゼロ)』を叩き込んで一本ずつ腕を吹き飛ばしていく。


 そうして、俺の初ボス戦は快勝となり幕を閉じた。

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