『銃術』持ちの《槍士》
遅くなりました
「……さすがはリョウさんですね」
リアナが少し呆れて苦笑し、控え室に戻ってきた俺を労って(?)くれた。
「お前、やっぱ頭おかしいだろ」
ジャンが失礼なことを言ってきたので、アキレス腱固めを行使した。アキレス腱固めとは痛みとは逆にアキレス腱を傷める、骨を折ると言った怪我をしない安全安心な技である。だがとても痛い。
「お兄ちゃん、オリスキは二つ増えたかな?」
ユイは俺の『変幻弾丸』を知っているので、悲鳴を上げるジャンを尻目に聞いてきた。
「……ああ。序盤で使った『空中回転』と『爆裂甲』はオリジナルスキルだ」
「オリジナルスキルを無数に持つという噂は真実だったか」
俺が激痛に悲鳴を上げて暴れるジャンを無視してユイに答えると、ライアが会話に入ってきた。……ライアは濃い桃色のストレートヘアをしており、瞳も同じ色である。モノで例えるなら川◯礫小説の背表紙の色に近いだろうか。わかる人はいると思う。少し紫に近い印象もある。切れ長の瞳に凛とした顔立ちと佇まい。リリスほどではないが、年上の予想が立てられる大人びた美貌を持っていた。それは本人が持つ生真面目な空気がそう思わせるのかもしれないが、俺より少し年上、高校三年生(誤差一年)といったところだろう。大人っぽさに関していえばウィネに近いモノがあった。スタイルも大人に近く、脚が長くすらっとしている、というわけではないが整った抜群のプロポーションはモデルと言われても不自然でなく、ウィネと並んで写真に納まればかなりの見栄えがすると思われる。もちろんゲーム内なので顔を弄ってあるということも考えられるのだが。
ライアの装備は金属鎧だが、靴がおそらく素早さを上昇させる効果または素早くなるスキルを持った装備だ。防具は全てが紅、赤、橙、黄の四つの炎のような色――炎色で彩られている。
そしておそらくUCOでも唯一と思われる、その武器は長細い円錐に柄がついたようなランスと言う武器――の中でも異質。円錐の部分を半ばから切り落として砲身に挿げ替えたような、ガンランスと言う武器である。某狩猟ゲームの武器として登場するこのガンランスという武器を、専用のスキル(オリジナルを含む)と『槍術』と『銃術』を組み合わせた『銃槍術』という基本戦闘スキルによって使いこなすのが、ライアというプレイヤーだった。
単体での戦闘能力はユイやジャンに並ぶとも言われ、人数の差がトップギルドとしての差異となってしまっていると専ら噂になっている。
基本的に使うスキルは『槍術』の進化スキルである『突槍術』と『銃術』の進化スキルである『砲術』を組み合わせたガンランスを使うライアだからこそ出来る『砲槍術』。
ガンランスでも取りつけた銃の種類によってスキルが変わるらしく、『銃槍術』がガンランスでの初期スキルとなる。
ある意味でライアは、大砲を使う《銃士》ということになる。《騎士》の上位職である《槍士》だが、さらにその上位である《銃槍士》に足を踏み入れているのではないかと噂されている。
……兎に角、俺が言いたいことはかなり美しいといえる美人のため、しっかりと見据えられては話せないということだ。
「……無数と言うほどではないが」
俺はそう言いつつ決してライアを向かないように、激励に来てくれたクーアとテーアを抱えて構っていた。不自然に見えないように、だ。……最初に会った時は「……なぜ私の目を見て話さない。人と話す時は目を見て話せと教わらなかったのか」と睨まれてしまったので、今はこうしてなにか他のことをやっている風を装うことにする。
「……リョウさんはああいう時のために『空中回転』を作成したんです。空中に展開された魔方陣を全て破壊する時のために。ギルドメンバーで練習してたんですよ。ホントに見せたくないことはフィールドでやってたんですけど」
そんなコミュ障な俺を見かねたレヴィが説明してくれる。……やはりレヴィはいい娘だ。他人を意を汲んで行動することのできるいい娘だ。だがそれだけではないところがまた凄い。他人の意を汲みつつ自分の意を告げられる、滅多にないタイプの良い娘だった。
「そうか。いつか私にも爆撃――『爆裂甲』と言ったか。あのスキルを教えてもらいたいモノだな。大会が終わった後でいいから私に『爆裂甲』をくれないだろうか?」
「あっ、それなら私が持ってますからあげますよ」
ライアの要求に対しては、俺から『爆裂甲』を渡されたリアナが応じた。僅かながら不満そうな表情を見せたライアだったが、すぐに気を取り直して「ああ、ありがとう」とリアナに礼を言った。
「あっ。そろそろトーナメントの組み合わせが発表されるみたいだよ、お兄ちゃん」
ユイが言ったので、俺達は揃って控え室にあるモニターに目を向ける。すでにジャンが泡を吹いて気絶しかけていた。俺は飽きたのでジャンを放してやり、モニターに注目する。
「……ふむ」
俺は頷きを一つ。十六人のトーナメントなので四回戦って勝つと優勝になる。
組み合わせは以下の通り。
第一試合、ジャンVSカタラ。
第二試合、ティアーノVSディーグル。
第三試合、トッププレイヤーでもないファントVSレヴィ。
第四試合、クノVS《魔導学院》所属のセバスチャン(女性プレイヤー)。
第五試合、《魔導学院》所属のライクVS真の《盗賊》バーグ。
第六試合、ライアVSユイ。
第七試合、リョウVSガルド。
第八試合、リアナVSトネス。
優勝候補は《インフィニティ》ギルドマスター、ジャン。《レイジング・アーマメント》ギルドマスター、ライア。《魔導学院》ギルドマスター、ユイ。《ラグナスフィア》ギルドマスター、俺。《ラグナスフィア》所属昨日の優勝者、リアナとされているため、初戦で優勝候補同士が潰し合うことになっている。しかもその下には俺とリアナが、一回戦に勝ったとしたら潰し合うことになる組み合わせだ。
つまり優勝候補と呼ばれる五人の内、四人が上下(または左右)のトーメントで分けると同じ方にいるため、激戦区となる予想がされている。
どうやら観客席には賭けを行えるシステムがあるようで、倍率も発表される。
上から順に、ユイ、リアナ、バーグ、ガルド、ライア、トネス、セバスチャン、ジャン、ティアーノ、カタラ、ディーグル、クノ、ライク、レヴィ、ファント、リョウ。
「……なぜあれだけ頑張って、俺のレートが一番低いのだ」
それを見た俺は、思わず呟いてしまった。
「……あ~。ちょっと言いにくいことなんだけどね、お兄ちゃん。皆の言いたいことは要するに、『もうハーレム作ってるヤツが惚れ薬使ってナニする気だーっ!』ってことなんだよ。つまり、お兄ちゃんには勝って欲しくない、みたいな?」
ユイが言いにくそうに苦笑しながら説明してくれた。……なぜだ。トッププレイヤーにも思えず碌な活躍もしていないファントというプレイヤーにさえレートで負けるとは、どういうことなのか。
こうなったら自分に賭けて優勝し、金儲けを実行してくれる。
俺は倍率が14.7倍と言う桁違いの倍数を見て、そう決意した。一つ上のファントは7倍代である。一位のユイは1.2倍とかなり低い。……後から教えてもらったことだが、賭けたのはギルドメンバーとユイのみということだった。他の者は誰一人として俺に賭けていないのだ。
悔しさのあまり、150000円を自分に賭けてしまった。