多勢に無勢VS一騎当千
『エセ勇者』を読み返していて投稿が遅くなりました
ストックがあったのに更新できていませんでした……
ということであと三日くらいは連続更新です
大会二日目、予選として行われているバトルロワイヤルも残すことあと一グループとなり、俺はフィールドの中央で他の四十九名に曲者はいないか見渡していた。……誰も彼もが堅実に強そうでかなり気落ちしたが。
とううか昨日は初戦で今日は最後か。なかなか極端だな。ランダム制だから仕方がないのかもしれないが。
実況の合図で既に試合は始まっており、多くのプレイヤーが背後に気を遣いながらできるだけ壁際に寄って戦えるように、戦闘を開始する。
「……おい! 待てよ、お前ら! 俺の話を聞け! 一旦戦いを止めろ!」
だが一人が大声で叫ぶ。それを無視して戦い続けるプレイヤーも多かった。
「一旦やめろって! 俺達が争うより先に、倒した方がいいプレイヤーがいるだろ、あそこに!」
そのプレイヤーは俺のいる方向をビシッと指差す。俺はその軌道からズレつつ背後を振り返ってみたが、全員同じようにしている――わけではなく、俺を見ていた。……いつの間にか戦いの手が止まっている。
……えっ? 俺なのか、皆よ。
「……あそこにいる“黒蠍の銃士”は近距離遠距離共にいける厄介なヤツで、魔法を破壊される! 少ない人数でかかっても返り討ちにされるだけだ! なら皆で先にあいつを倒して、それからバトルロワイヤルを仕切り直せばいいだろ!」
「確かにな」
「昨日のは兎も角完全武装ならなにしてくるかわかったもんじゃないし」
「魔法使いだから厄介すぎる相手だ」
そのプレイヤーが指を避けた俺に、再び照準を合わせて怒鳴り、周囲もそれに呼応する。……なぜ一致団結しているのだ。俺はそこまで警戒すべき相手なのか? 昨日はあっさり一回戦敗退で終わっているのだが。
「……だろ? じゃあ一時休戦にしようぜ。裏切ったらそいつも集中砲火で倒すってことにしようぜ。じゃあ、いくぞっ!」
「お前に命令されなくてもなっ!」
『おっとこれは予想外の展開となりました! 昨日は初戦敗退となったリョウ選手を全員で倒そうというのでしょうかっ! これはさすがのリョウ選手も、万全とはいえ厳しいでしょう!』
利害の一致により俺を囲んで攻撃に移るプレイヤー達に、実況がノリノリで言った。……なぜ俺が狙われなければならないのか。もしかして大会前にクーアを愛でていたのが恨みを買ったのだろうか。いや、まさか実況のような変態がこんなに大勢いるわけがない。仮にクーアの可愛さが万人受けするとしても、ここまで固執しないだろう。
クーアは覚えた言葉を使いたがる子供の習性なのか、「まうまう」をよく使うようになってしまっている。仮に「まうまう化」と名づけたとして、「まうまう化」はクーアを可愛がるギルド内にも広がっていて、クーアが見知らぬプレイヤーに「……まうまう!」と挨拶し始めたので「まうまう化」はゲーム内全体に広まっている。しかも運悪くユイに対して「……まうまう!」と挨拶してしまい、「まうまう!」とノリがいい我が妹は元気良く挨拶を返した。しかもユイが「まうまう」を人数の多い《魔導学院》内に広めてしまい、さらに広がってクーアが見知らぬプレイヤーに「……まうまう!」と挨拶しても普通に「まうまう」と返すまでになっている。
話が逸れた。
俺がついていけない「まうまう」の話はいい。それよりも今は俺を一斉に襲ってくるプレイヤー達だ。正直に言うと四十九対一という状況は、リアナが憤慨した様子で「……卑怯です!」と言うくらいに不利な状況ではある。だが手本を見せなくてなにがトッププレイヤーか。ギルドマスターか。……俺は自らトッププレイヤーやギルドマスターを名乗る気は全くないのだが。俺を代表のように言わないで欲しい。たたでさえ第一陣での《銃士》が俺しかいないと言われているので仕方なく《銃士》代表をしているというのに。プレイヤーの代表とギルドの代表まで背負ったら大変なことになる。主に俺の精神的ななにかが。
兎も角、また話が逸れてしまったものの、この戦い、負けるわけにはいかなかった。
リアナと決勝で戦う約束をし。他のメンバーとも控え室を出る際に絶対勝ってと言われ。ユイに「お兄ちゃんのカッコいいとこ、見せてね?」と頼まれ。ジャンに「決勝で……待ってるぜ!」と気に障る笑顔を見せられ、なぜかライアにも「……勝ち上がってこい」と激励され。クーアに「……りょう、がんばって」と応援されては、昨日のようにあっさり負けるわけにもいかなかった。
なので少し、『レンヴォルグ』のホルスターを思い悩んでいるので『レンヴォルグ』四人は持ってきていないが、本気を出すことにしよう。
「……多勢に無勢、か」
そんなことわざがあったな。では俺はそれを、一騎当千の四字熟語で返してやろう。
「魔法を一斉に撃ち込めーっ!」
誰かがそんな声を上げ、俺に突っ込んでくる前衛職以外が攻撃魔法を展開する。足元に設置されるタイプの魔方陣は重なると一度の弾丸では破壊し切れないため厄介だ。突っ込んでくる前衛職が、俺の足下に展開された魔法の巻き込みを恐れて躊躇してくれたので、大きく『跳躍』してから連続で『空中跳躍』し戦場の真ん中から離脱する。
空中にも無数の魔方陣が展開されており、追尾効果のある魔法もあるかもしれないため、仕方なく秘策を使うことにした。『早撃ち』、『精密射撃』、『魔法破壊射撃』、そして俺がこういう時のために開発しておいたオリジナルスキル、『空中回転』。この四つを使えば魔方陣がどこにあろうと一斉に撃ち抜けるはずだ。試しにギルドメンバー全員に魔法を展開してもらって使用した時は、なんとか成功できた。
俺の秘策の一つ。『空中回転』はおよそ《銃士》か《剣士》のみにしか使い道のないスキルだ。ただ空中で制止した縦横にグルグルと回るだけ。だがその回転の最中に残り三つのスキルを駆使することで、絶大な力を発揮する。
それがこの、空中回転魔法破壊射撃の乱れ撃ちだった。
「「「……っ!?」」」
『双銃術』を持ち、『早撃ち』での『精密射撃』を可能とするステータスがあればこそできる芸当だ。
空中に展開されていた魔方陣は俺の秘策によって次々と破壊され、やがてなくなった。もちろん魔方陣と共に俺の二丁拳銃のマガジンも空になる。下にいるプレイヤー達と観客席にいるギルドメンバー以外の者達が全員が唖然としている中で、『空中回転』を止めて足元に『不可視の壁』を横に展開して足場として空中に立った。マガジンを射出して二丁の銃を放り、マガジンをホルスターに備えつけてあるところから取り出す。二丁の銃を手に取ると同時に、マガジンをカシャッと差し込み再び二丁の銃を構えた。
「……秘策その二を、使うとしよう」
俺はそう言って『空中跳躍』を下に向けて発動し、落ちていく空になったマガジンよりも先に、地上に降り立つ。着地に少し遅れてマガジンが地面に当たる音が響き、プレイヤー達が我に返る。
「……地上に降りてきたぞ、かかれーっ!」
「「「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
着地を綺麗に決めた(と思われる)俺に、再度突っ込んでくる前衛職プレイヤー達。真ん中に突っ込んでいたために出来た端に近い空間に着地したため、少し距離はあってもすぐに突撃されてしまう。
ここからが俺の秘策第二弾。
《銃士》なのに近接戦闘。
を実行しようと思う。
駆け抜けて突っ込んできた《盗賊》系職七人の内二人を『早撃ち』の『精密射撃』で撃ち抜く。頭を撃ち抜いたので一撃死のシステムにより倒れた。残る五人は各々に短剣やクナイを構えて突進してきたので、『爆裂甲』を使い銃口に触れさせて頭を吹き飛ばす。そのまま次の相手の額に銃口を突きつけ『零距離射程』を放った。『銃殴術』で一人を数秒の短い戦闘を経て昏倒させ、『時間短縮』で短くなった『バースト・ショット』で消し飛ばした。
《盗賊》七人を倒してから休む間もなく、分厚い金属鎧に身体を包んだ屈強なプレイヤー達が押し寄せる。俺は『変幻弾丸』や『幻影弾丸』を使って迎撃を余儀なくされた。
休む暇はなかったがMPが切れかけることはあっても切れることはなく、アイテムを使う暇さえなしに戦い続ける。
時には『ツインバースト』で一気に倒した。時には『チャージ・ショット』と『変幻弾丸』を組み合わせた超高速で放たれる武器を使う。『変幻弾丸』は人前で初めて見せたが、ボス戦もあったのですでにバレていることだろう。
『バースト・ショット』を『時間短縮』により連発したり、とはいえMPをずっと消費していては切れてしまうので『零距離射程』を使って戦ったり、そのまま近距離戦闘に持ち込み『爆裂甲』を放ったりと、なかなかに忙しい戦闘となった。
しかもその間は主に使う二つの目の他に四つほど目を足して、周囲を常に見渡して魔方陣の展開を確認し、『魔法破壊射撃』で破壊し続けなければならない。『射線表示』のおかげで弓矢(弾丸はなかった)の軌道が視え、なんとか回避し続けることができた。
傍目からは無傷で相手を倒し続けているように見えるが、一つでもミスをすれば総崩れとなり、非常に危ない状況である。油断は禁物。油断した瞬間に俺はなけなしのHPを削られ、あっという間に退場させられてしまうだろう。
『集中』してやるべき三つのこと(魔方陣を確認したらすぐに破壊する、近接で時にはまとめて敵を倒す、弓矢などの遠距離攻撃を回避する)を実行していると、気づいた時には。
『……あ、圧倒的いいいぃぃぃぃぃ!! これはヤバいと見てか誰も裏切ることなく一斉にかかったにも関わらずっ! まさかまさかの一人勝ちっ! やはり最強はこの人なのかーっ!? 圧倒的強さを見せつけましたーっ!!』
俺以外、バトルフィールドには誰もいなくなってしまった。