初めてのパーティ
「それで、お兄ちゃん。オリジナルスキルはどうだったの?」
朝食にフレンチトーストを頬張る妹がにこやかに尋ねてきた。……しっかり覚えていたようだ。
「……二つを申請して承認してもらった」
俺は簡潔に告げる。どうせスキル内容も聞かれるのだから。
「凄いね。何と何?」
「……『変幻弾丸』と『幻影の弾丸』だ」
「どんなスキルなの?」
「……銃から発射した弾をあらゆるモノに変えるスキルと、弾丸がある時になくてない時にあるスキルだ」
「へぇ。で、公開するの?」
「……しない。する意味がないからな」
「そう。やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんだよねぇ。でも《銃士》としては今超有名だから、あんまり人の多い場所行くと声かけられるよ。せめて初期装備から変えるとかすれば良いんじゃない? 一部では“黒蠍の銃士”なんて呼び名がついてるし」
……本当なのか? いや、妹がわざわざそう言うくらいだからそうなのだろう。何の変哲もない呼び名だが、それ故に変えにくい。装備を変えたところで黒い〈蠍〉で《銃士》と言うのは俺しかいないのではないだろうか。銃を懐に隠せるようにするか。それも良いな。
「……そうか」
一応気をつけておくが、早々に装備は買い替えた方が良さそうだ。ボスに挑戦したくても初期装備では心許ないからな。
「あっ、そうだ。お兄ちゃん、15になった?」
妹が不意に聞いてくる。レベルのことだろう、俺は頷いた。
「じゃあお兄ちゃんも優衣と一緒にボス戦しようよ」
……えー。
「嫌そうな顔しない! 優衣がいつも組んでるパーティ三人に上限までの二人を加えるからお兄ちゃんもどう? 優衣がβテストの時から仲良い人達だからお兄ちゃんも大丈夫だよ」
俺が嫌そうにしている雰囲気が読み取れたようだ。……時には両親でさえ迷う俺の表情を正確に読み取ってくるとは、流石我が妹。
「20超えると今のフィールドじゃあ全然レベルが上がらなくて。ボスに挑戦したいんだけどボスはやっぱりパーティをフルメンバーにして挑まないとね。お兄ちゃんもう一人誰かいない?」
「……いることにはいる。が、了承してくれるかどうかは分からない」
レベルさえも知らないからな。
「じゃあもう一人を連れて十時にヴァランサ荒野に向かう出口前に集合ね」
妹はそう言うとフレンチトーストを食べ終えさっさと自室に向かう。……彼女を説得しなければならないと言うのは、また面倒そうだが。
俺もすぐに食べ終え自室に向かい、UCOにログインする。……説得に時間がかからないことを祈るだけだ。現在九時半。
「……カタラ、さん」
俺は初心者工房でログアウトしたのでそのまま既にいたカタラに話しかける。
「……カタラで良い。何?」
一応さんづけしたが気にしないようだ。聞かれたので早速本題に入る。
「……リアルでの知り合いに誘われてヴァランサ荒野のボスに挑戦しようと思っている。一緒に行かないか?」
仕方ないので簡単に誘う。
「……別に良いけど」
カタラは少し目を見開き驚いていたようだが、了承してくれた。
「……助かる。十時に門に集合だ」
俺はそう言って工房を後にする。まだオリジナルスキルの試し撃ちをしていない。ミラージの草原で試してから行くとしよう。ヴァランサ荒野にどんなモンスターがいるのかは知らないが。
「……ちょっと待って。何か刀のスキルでオリジナルなモノ、ない?」
カタラは工房を出ようとした俺を呼び止めて聞いてくる。……いきなり無茶振りだな。
「……刀のスキルに何があるかは知らないが、なさそうなスキルで今思いつくのは、自分が振るった刀の後に視えない刀で斬りつけるスキル。刀と同調して動き横に並ぶ視えない刃を出すスキル。突きで砲撃をするスキルぐらいだな」
俺は適当に思いついた刀のスキルを三つ言ってから工房を出る。……使えるかどうか、申請して通るかどうか、あるのかどうかも分からないままに言ったのでかなり適当なスキルばかりだが。
俺は『変幻弾丸』のためにNPC店でBB弾を百マガジン購入した。合計3000円と言う安さだ。一発1円だからな。
「……【ランス・ブレット】」
俺は鳥の翼を生やしパタパタと飛んでいるミラージバードで早速試す。俺が弾丸を放つとBB弾が放たれてすぐに槍へと変化し、ミラージバードを貫いた。……おぉ、かなり威力が高いようだ。まあ銃弾の速度で武器を放てるのだから威力が高いのは当然と言える。まだ初期武器しかない。粉入りはおそらくだが、武器にはならない。スキルレベルを上げてアビリティを増やすしかないか。
俺はその後二十分試し撃ちを続け、五分前に門へ到着した。既にそこにはカタラがいたので声をかけ、妹らしきプレイヤーに近付いていく。
「あっ、お兄ちゃん」
すると妹は俺に気づき、ブンブンと激しく手を振ってくる。……顔はそのままだから気づくのだろう。妹もそのままだ。体型も、顔も。
ただユイはぺったんこで残念な体型もあどけない小悪魔的な顔もそのままだったが、金髪碧眼で耳が尖っていた。服装もミニスカートなので初期装備ではない。それは当然か。
「おっ。噂の“黒蠍の銃士”様のご登場だぞ」
すると事前に俺が来ることは知らせておいたのか、大柄で気さくそうな分厚い金属鎧に身を包み大きな盾と騎士剣を腰に提げる青年がからかい半分に言った。
「……その呼び方は止めてくれ」
俺は割りと気圧されずに受け答え出来た。年上っぽいので敬語にするべきか迷ったが、そう言うことを気にする人でないことはすぐに分かった。
「そりゃ悪かった。俺はジャンだ。職業は見ての通り《騎士》で種族はHPと防御が高いドラゴニアだ。ドラゴニアは戦闘になると鱗が生えるから分かるぜ。それにドラゴニアは先に進めば進む程変化するスキルが増えて強い。ユイとはβテストん時もパーティ組ませてもらってた。レベルは23」
ジャンは悪びれた様子もなく言って自己紹介する。……ドラゴニアへの愛、と言うかが凄い。ここまで自己紹介なのに自分の種族について説明する者などそうはいないからな。赤い短髪に赤い瞳をしている。見た目は耳の尖った人間と言う風だ。
「自己紹介への流れが強引すぎない? 私はウィネ。《魔術師》で『闇魔法』を主としてるわ。『調合』も結構やってるけど最近は帽子とローブを作ってるかな。レベルは22よ」
とんがり帽子とローブを身に着け胸元の開いた安物ミニドレスのようなモノを着込んでいる。長い木の杖を腰に差しているのでいかにも魔女と言う格好だ。艶やかな黒い長髪に赤い瞳をした長身でスタイル抜群の美女だった。……ゴリゴリグツグツと『調合』している様が脳裏に鮮明に思い浮かぶ。これがロールプレイと言うヤツだろう。
「……クノ。《盗賊》。レベル23」
言葉少なく言うのは手拭いを被り口元に白いスカーフを巻いた白いショートカットの少女が言った。……忍者を目指していそうな雰囲気だ。多分この人もロールプレイするタイプなのだろう。スタイルは均整の取れた、とだけ言っておく。
「で、ユイが一応パーティリーダーをやってるよ。レベル一番高い24だからねっ」
ユイがえっへん、とない胸を張って言った。
「……俺はリョウ。《銃士》だ。レベルは16」
「……」
俺が簡単に自己紹介すると俺の背後に隠れていたカタラが出てきて――驚いていた。
「あれ? カタラちゃん。久し振りだねっ」
ユイもカタラに気付き、知り合いだったようで微笑んで手をブンブンと振っていた。
「……久し振り」
カタラも驚いてはいたが少しホッとしたようだ。
「……知り合いだったのか」
「うん。カタラちゃんはお兄ちゃんにも前話したと思うけど、βテストの時《銃士》で何とかやってたトッププレイヤーなの。その選んだ理由が人気なくてパーティとかに誘われないからだったんだけど。正式サービスで個人工房が造れるようになったから鍛冶に転職したんだよね」
「……そう。一応自己紹介しとく。カタラ。《鍛冶師》。レベルは21」
カタラはユイの説明に頷き、簡単に自己紹介をした。……では俺以外はレベル20以上で元βテスターなのか。
「お兄ちゃんのレベルはちょっと低いけど、平均20超えてるから大丈夫だよね。じゃ、行くよっ!」
ユイが言って、先頭を歩き出す。
「……あっ。その前に二人をパーティに誘っとかないと」
しかしユイはてへっ、と舌を出して言い、思い出したように振り返ってウインドウを操作する。すると俺とカタラの目の前にウインドウが出た。ユイさんにパーティに誘われました、入りますか? と言う表示だ。俺は迷わず「はい」を選択する。
「じゃあ気を取り直して、行こう!」
そう言って再びユイが歩き出す。俺達六人は、揃って街を出た。……そう言えばこの最初の街に名前はあるのだろうか。まあ気にかける必要はないだろう。
「なあ、リョウ。いつもどこで狩りしてんだ?」
パーティとして前衛を務めるためか先頭に出たジャンが周囲を警戒しながら聞いてくる。
ヴァランサ荒野は俺がいつも狩りに行くミラージの草原とは違ってゴツゴツした岩と草のない地面があったりヒビ割れた大地があったりする。
「……ミラージの草原だ」
「「「はあ(……っ)!?」」」
俺が言うと全員が驚いたような顔で俺を見てきた。……そんなに不思議がることだろうか。
「……お兄ちゃん、今まで3~6レベル推奨のモンスターでレベル上げしてたの?」
ユイでさえも驚きと言うか呆れの表情を隠そうとしない。
「……ああ。だが生産もやっているからな」
俺は確かに弱いミラージ系モンスターとばかり戦っている。だがそれだけではないのだ。しっかりと生産で経験値を稼いでいる。
「それなら良い……のか? 俺は生産しねえからよく分からんが」
ジャンが言って首を傾げた。
「まあ、やり込み度が私達と同じくらいだとすれば、妥当よね」
『調合』もこなすと言うウィネがぎこちなく頷いた。
「……気にしない」
クノが素っ気ない口調で言った。おそらくちゃんと働いてくれさえすれば良いと言う意味だろう。
「ま、ボスん時に見せてもらおうぜ。雑魚は俺達が適当に狩っとくから。手を出せるなら出しても良いけどな」
ジャンが言う。そこには自信が溢れていた。……俺達の戦いに手が出せるものなら出してみろ、と言うことらしい。そこまで言うならやってやろうではないか。
「……ファングウルフ三体」
おそらく索敵系のスキルがあるのだろう、クノがスッと一点を指差し言った。するとしばらくして俺にも視認出来るようになり、黒い毛並みで牙が鋭く長い狼がこちらに向かって駆けていた。
「よっしゃ! 俺が惹きつけるからその隙に攻撃してくれ」
「……意外とのんびりなのだな」
俺はカタラにボソッと呟いた。
「……それ、ジャンに言わない方が良い。それと敵の惹きつけはボス戦でも重要」
俺が声を顰めたからか、最後尾で隣に並んでいるカタラが声を小さくして言った。
「……足元を撃って動きを止めている隙に攻撃出来るだろう?」
「……出来るの?」
「……ああ」
カタラに聞かれて頷き、俺は左腰のホルスターからエアガンを抜きコッキングして『早撃ち』でジャンに突っ込んでいく先頭のファングウルフの右前脚を撃ち抜いた。
「キャウンッ!」
するとファングウルフがバランスを崩し勢い余って地面を転がる。
「あん?」
目の前でファングウルフが転がるのを見ていたジャンが不思議そうな顔をしていた。なので俺はその隙に『早撃ち』二連発で後続の二体のファングウルフの前脚を撃ち抜いて転ばす。
「……手を出したぞ」
俺は斜め右後ろからジャンに告げる。
「……野郎。良い度胸だ、俺も負けてられねえな!」
ジャンは上等だ、と言う風に笑い、転んだファングウルフを騎士剣で斬りつける。他二体はウィネとユイの魔法で倒された。
こうして微妙な連携が築かれていきながらも、遂にボス戦へ挑む――。




