ユイと~廃病院で~
活動報告にて、他作品の更新状況を記載しました
「……くーあねむねむなの。いっしょにいて?」
と言うクーアの一言により、俺は一旦ギルドホームに戻って自室で仮眠を取った。その後午前二時からクーアが起きてくれたこともあって、イベントに再び挑み始めた。
「お兄ちゃん♪」
クーアはウィネについていったのだが、俺の二日目最初のペアはユイだ。ユイはギルド対抗ビーチバレー大会の試合に来ていた俺に声をかけ、ペアになった。
そのためこうしてユイと二人で廃病院に来ている、と言う訳だ。
「……ユイ、最速最高でいくぞ」
省略せずに言うと「……ユイ、最速タイムと最高スコアを目指していくぞ」だが、これでもユイには伝わる。
「良いよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんが外やる? それとも中やる?」
ユイはしっかり俺が言いたいことを理解してくれたようで、早歩きで進みながら聞いてくる。
「……ユイはどちらが良い?」
俺はユイに「俺はどちらでも構わないのだが」と言う言外に言葉を込めた質問をする。
「う~ん。ユイとしてはやっぱり外かなぁ? ユイの方が殲滅には向いてると思うし」
ユイはわざとらしく首を傾げて言う。……確かに、全属性の魔法を習得している超魔法攻撃特化スタイルのユイなら大量のゾンビ殲滅と言う役割を果たせるだろう。
「……そうか。では走るとしよう」
俺はユイの提案に頷いて、廃病院を魔法職であるユイの走行速度に合わせて二人並んで走り、ゾンビを片っ端から倒していくと共に罠を無視して発動させ、全ての敵を倒して突き進んでいく。
「【ライト・フィールド】!」
ユイは俺がプレゼントしたアース・ロッドを掲げ、白い魔方陣を地面に展開して光を放つ。フィールド系魔法は弱点属性を持つ敵に対して継続的にダメージを与える。広範囲に地味なダメージを与え続ける魔法と言うことだが、ゾンビ相手ならいくつも展開すれば進んでくる程にダメージが加算されていき、ユイの下に辿り着く前に倒れていく。
「……珍しいな」
俺は中ボスを速攻で倒して部屋を出るとユイに声をかけた。「ユイが無数の敵を圧倒的ダメージで殲滅しないとは」と言う言葉が言外にあるのだが、ユイはそれを正確に読み取ってくれたようだ。
「うん。ユイだってMP回復薬には限界があるし、ちょっとは魔力節約しようかなと思って」
「……それなら俺があげようか? 俺はあまりMP回復薬を使わないから構わないぞ」
頷くユイに納得しながら、俺は提案した。
「良いの? ありがと、お兄ちゃん!」
ユイは俺の提案に顔を輝かせると嬉しそうに言った。
「じゃあ本気でいくよ。【シャイン・レイン】!」
俺と言うMP回復薬倉庫を見つけたからか、ユイはアース・ロッドを掲げて白い巨大な魔方陣を上空に描く。そこから光の雨が降り注ぎ、ゾンビの群れを一掃した。……弱点属性とは言え、かなりの威力だな。全属性の魔法を使うユイにとって、一回目と二回目のアップデートでスキルスロットが拡張されたのは助かることなのだろう。おそらく初期の魔法スキルから上位の魔法スキルを手に入れているだろうから、スキルスロットが拡張したおかげでユイの魔法には幅が出ていると思われる。
「……魔力消費は気にせず使うと良い。俺もカバーに入る」
俺は言ってユイと並び、再び駆け出した。他のペアと二回の遭遇戦に勝利し、出口まで向かっていく。
そのまま一気にボスまで辿り着いた俺とユイ。
「一気に決めちゃうから三十秒ぐらい稼いでて、お兄ちゃん」
「……了解」
ユイに言われて、俺は駆け出す。……三十秒とは随分短いな。魔法を発動するまでの時間だろうから短いのは当然なのか?
「……」
俺は烈火と閃光を構えて巨大ゾンビに突っ込んでいく。【ファイアソード・ブレット】と【ライトランス・ブレット】で牽制を行いつつ、巨大ゾンビの懐に潜り込む。俺が今までのイベントクエストで手に入れてきた『跳躍』、『空中跳躍』、『一旦停止』、『疾駆』、『不可視の壁』の五つのスキルを駆使すれば敵の攻撃を回避し続けることも可能だ。『疾駆』で巨大ゾンビの懐まで駆け、『跳躍』で巨大ゾンビの振るってきた拳を回避し、続くもう片方の拳も『空中跳躍』による回避でクリアし、もう一度『空中跳躍』で一気に巨大ゾンビの頭の方へ近づく。そこで俺は『ツインバースト』を溜め始める。……頭を吹き飛ばさなければ倒すことはない。だから俺は自分以外には視えない壁を『不可視の壁』で展開する。この壁は俺にしか視えず、大きさも指定出来る。と言ってもスキルレベルが低い今では相手が触れることは出来ず、大きさも巨人であれば普通に歩いて越えられる程度までしか展開出来ないのだが。
視えない壁に足をかけた俺はそのままクルリと宙返りして巨大ゾンビの頭上から後ろに回っていく。『空中跳躍』は何もない空中で跳躍することにより発動し、回数制限がある。だが俺は一度『不可視の壁』に足をかけたので回数がまた零に戻った。なので巨大ゾンビが振り向く前に脚を上に向けて『空中跳躍』し、地面に着く前に身体を一回転させて脚から着地する。
ユイなら俺がどう行動しても合わせてくれるだろうと見て、俺は脚に『疾駆』し片脚ずつに銃口を突きつけて『ツインバースト』を放ち、巨大ゾンビの両脚を消し飛ばす。
「……お兄ちゃん離れて! 【シャイン・カノン】!」
ユイの合図があり、俺は『疾駆』と『跳躍』を同時使用して一気に後方へ戻っていく。ユイは杖を掲げて巨大な白い魔方陣を展開すると、そこから太く白い光線を放って巨大ゾンビの胸から上を消し飛ばした。一撃死のシステムもあるが、一撃死でなくとも倒せたのではないかと思う程の威力だった。
「……」
俺は巨大ゾンビが消えていくのを確認して、ユイに歩み寄り、右手を掲げた。
「ナイスファイト、お兄ちゃん」
ユイは正確に俺の意図を読み取り、同じように右手を上げて俺の右手を叩いた。ハイタッチ、と言うヤツだ。妹以外とは基本しない。
「……ユイ、どちらが良い?」
俺はユイと共に脱出しようとして、出口に設置されている二つの宝箱を見比べて聞く。シスター・ファーストだ。
「じゃあお兄ちゃんにスキルの書あげるね。ユイは魔法職だから『左右歩行』なんてスキルはいらないし」
ユイはそう言ってレアアイテムが入っている宝箱を開ける。俺は『左右歩行』のスキルが入った宝箱を開ける。……またスキルか。流石にここまでの六回共がスキルの書だと言うのはスキルの習得をしすぎではないだろうか。スキルスロットが拡張されていなかったらほとんど使っていないのだがな。
「……助かった、ユイ。これでランキングも大丈夫だろうが、報酬も貰えると良いな」
俺はユイに礼を言ってから、出口に歩く。
「うん。じゃあね、お兄ちゃん。次はビーチバレーのコートで会おうね」
ユイはさり気なく俺達が勝ち上がったら戦えるところまで自分達も勝ち上がると宣言して、廃病院から出た。
俺もユイと共に転移し、転移ゲートに着いてからは一言も交わさず互いのギルドホームに戻っていった。
「……おい」
だが俺の前に、一人のプレイヤーが立ち塞がった。赤い和服に身を包み、胸元に『鑑定』で見たところ超収縮の晒と言う白い布を巻いている。大きく胸元を開いているが、おそらく男なのだろう、胸があるようには見えない。身長は俺よりもかなり高く、二メートル近くある。だが線は細く手も細長くしなやかに見える。背中に太刀と思われる巨大な刀を背負っていて、左腰に火縄銃と思われる銃を提げている。赤く膝裏まで伸びたポニーテールに鋭く細められた瞳も赤い。だが額の少し上辺りに生えた二本の角だけが黒い。瞳は赤だが、人間で言う白目の部分が黒く染まっている。
俺は初めて会ったが、鬼人族と言う身体能力に優れた種族だ。特に筋力に関しては定評がある。
「……」
ギロリと睨みつけてくるようなそいつに対し、俺はと言えば、初対面の他人と合わせる目は持ち合わせていないので視線を逸らし虚空を見つめていた。




