正式サービス開始
寝落ちしました
『ただ今より、Univese Create Onlineの正式サービスを開始いたします』
七月一日。午前零時。遂に待ちに待ったUCOの正式サービスの開始が宣言された。
「「「わあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
零時になるまでのカウンドダウンさえ行われたUCO開始は、大歓声を以って実感を帯びる。
「……」
俺はそんな歓声を背に一足早く街を出てチュートリアルフィールドと同じだが素材アイテムの種類も出現モンスターの種類も変わった「ミラージの草原」へ足を運んだ。
「……」
『鑑定』を使い、本当に素材が変わっていることを確認する。……もう少し奥か端へ行こう。素材が必要なのは仕方ないが採集をしている様は討伐中心のプレイヤーから見れば滑稽だ。
俺は人が来ないような草原の端で木材、土、昆虫、薬草、石を採集していく。
「シャウッ!」
突然頭にドリルのような模様をした真っ直ぐの角を生やした白い兎が現れた。……あまりミニボアと変わらないように見える。俺は正確に石のBB弾を『鑑定』して名前の分かったアルミラージと言うモンスターの目に当てて怯ませると、『零距離射程』を叩き込んで倒す。
すると目の前に新スキル会得の表示が出た。『精密射撃』と言う命中を大きく上昇させるスキルだ。銃弾が狙った場所へ当たる補正もある。
アルミラージが残したのは角と骨と毛皮だ。金は10円。
俺はアルミラージ素材がいくつかの生産スキルの次のモノに入っていたことを思い出し、アルミラージを積極的に狩っていくことを決める。
……ふと思ったのだが、樹皮を剥ぐことで採集出来ないだろうか?
俺は不意に思いつき、早速実行してみる。木の皮を剥いだらしっかりとアイテムとして採集出来た。伐採では採集出来なかったアイテムだ。これは新発見だな。
採集とアルミラージ狩りを繰り返して進んでいくと、遂にアルミラージに似たモンスターに遭遇した。『鑑定』の結果、ショーンミラージだと言うことが分かる。……羊のようにモコモコした毛を持つアルミラージだ。どうやらこいつの毛が『糸作成』の素材のようだ。
素早くマガジンを変えると粉入りBB弾をショーンミラージにぶつけて粉塗れにしてやる。続いて『家事魔法』の一つ【コンロ・ファイア】を唱えて粉を身体を震わせて取ろうとしているショーンミラージに向け、小さな火を飛ばす。すると粉塵爆発が起こりショーンミラージは倒れた。……成功だな。
ショーンミラージが残した素材は角と骨と皮と毛だ。毛と皮が離れてアイテムとなるようだ。後々有り難く使わせてもらおう。これらも生産スキルの素材に必要なのでショーンミラージも積極的に狩っていくことを決める。
しばらくミラージの草原にいて分かったのだが、アルミラージ、ショーンミラージ、ロックミラージ(岩場にいる)、アクアミラージ(川辺にいて水属性攻撃をしてくる)、ミラージバード(鳥のような翼が生えている)と言うミラージ尽くしのフィールドだった。
どれも生産スキルに必要な素材が取れるのだが、面白みがない。――と思ったら最初のフィールドは東西南北に四つ存在するらしく、ここはチュートリアルフィールドに次ぐチュートリアルフィールドらしい。ロックミラージは物理攻撃の効きにくい岩石系モンスターの一番弱いモンスターなので、練習になる。アクアミラージは弱さで言えば最初に出てくる属性攻撃持ちのモンスターなので、練習になる。ミラージバードは飛行モンスターでも一番弱く飛行速度も遅いのだが、飛行しているモンスター相手の練習になる。
つまりは正式サービス開始後の応用チュートリアルフィールドなのである。
なのでモンスターも弱く難易度も四つの中では一番低い。プレイヤーも手慣らし程度にしか考えていないのだろう。ミラージの草原の推奨レベルは5。開始直後にはプレイヤーが多く来るかもしれないが、すぐに少なくなっていくだろう。生産職はここに入り浸るヤツもいるかもしれない。俺のように。
俺は一通り素材を集めていく。樹皮の件もあるので様々な方法を試してみた。水も川で採集出来たので良しとする。アイテムバッグをいっぱいにすると街に戻りステータスを確認しておく。……? スキルレベルが上がっているモノがある。採集でも経験値が入るのかもしれない。
素材が全てあるかを確認して、工房へ向かう。
新素材で新アイテムを量産していく。新しい手法はないので手早くしかし丁寧にこなしていく。フィールドで三時間過ごしたので作業は五時間になるか。作業をしている途中、新スキル会得の表示が出た。『職人』と言うスキルだ。効果は生産において手作業でやると完成までの道筋が何となく分かり手作業での成功率が上昇し手作業の素早さが上がる。習得条件は手作業でアイテムを連続一万回生成する。
チラリと隣を見やると少女も目の前にウインドウが表示されていた。……『職人』のスキルかもしれない。俺より効率が悪いが『鍛冶』をずっとやり続けている。俺より狩りに出ている時間が少ないと考えると、一万回アイテムを作成していてもおかしくはない。
一旦朝食のためログアウトし、再度ログインをする。
俺は工房から売るためにNPC店へ向かう。
「なあ、良いだろ?」
いらないモノを売り払ったのでアイテムバッグが空き、スッキリした気持ちでNPC店を出るとそんな声が聞こえた。
「……」
四人の男が一人の少女に絡んでいる場面だった。……どこに行ってもこう言うヤツらはいるらしい。しかもその少女と言うのが共通点の多そうな鍛冶少女だった。
俺から見れば嫌がっているように見えるのだが、如何せん少女は無表情なので周囲からも助けるか助けないか微妙なところのようで無視するヤツが多い。……少女が声を発して逃げたりしないのを良いことに、男達は詰め寄ってナンパしていた。
美少女ではあるからな。こう言うことに巻き込まれても仕方がないのかもしれない。
「……」
俺は心の中で嘆息し、少女の肩に手をかけようとした一人の男の手を掴む。
「ああ!?」
当然、俺が睨まれる訳だが。無表情故に誰からも助けてもらえないと言う悩みはよく分かる。分かるからこそ助けるのは普通だ。
「……」
俺は男四人を無視して少女の腕を掴んで引き寄せ背後に回す。
「てめえ、何すんだよ。その娘は今から俺達とパーティを組んで狩りに出るんだよ。邪魔すんな」
ナンパを邪魔されて怒った男は俺を睨みつけてくる。
「……」
俺は何も言わず見つめ返す。……そんなに真正面から見据えるな。俺が喋れないだろう。コミュ障だぞ。
すると「……おい」と一人の男が俺を睨む男の肩を叩き「あん?」を男が振り返る。「……あいつ、《銃士》だぞ」と耳打ちし、「……ならあいつ倒しちまえば良いか」と男が納得した。
「おいてめえ。じゃあその娘を賭けて決闘だ」
男はニヤニヤしながら言い、ウインドウを操作して決闘を申し込んでくる。……あまり人を賭けたとかほざくヤツを相手にしたくはないのだが。
「まさか、《銃士》だからって逃げねえよな?」
俺が目の前に現れた決闘が申し込まれました、受けますか? と言う表示のウインドウを見ても動かないからか、男がニタリとした笑みを浮かべて俺を挑発してくる。
どうせナンパを邪魔してきた相手が《銃士》だったから、倒せば死に戻っていなくなると思い、勝負を挑んできたのだろう。そちらの方が手っ取り早く済むとでも思ったのかもしれない。
「……良いだろう」
俺は言って「はい」をタッチして決闘を受ける。
決闘とは、プレイヤー対プレイヤーをするための勝負形式だ。ルールはいくかあるが、主な決闘は一騎討ちとパーティ対パーティだ。挑戦者側がルールを選べるので、俺の目の前に現れたのはルールは以下のように設定されました、表示されその下にルールがあった。どうやらパーティ対パーティのようで、卑怯にも四対一でやるらしい。ルールは最初に攻撃を直撃させた方が勝つ「一撃決着」と最後までHPを削る「総力戦」がある。相手が選ぶのだが、もちろん総力戦だ。
『ファイブ!』
渋い男の声がカウントダウンを始めた。
……相手は四人。人間らしき革鎧を着た《戦士》とエルフらしきローブを着た《魔術師》と分厚い金属鎧を着た《騎士》と耳が尖っていて浅黒い肌の種族の小さい胸当てを着た《武闘家》だ。
『フォー!』
俺は石のBB弾入りマガジンの入ったエアガンをホルダーから抜き去る。相手四人も各々の武器を構えた。《戦士》は片手両刃剣と丸盾、《魔術師》は木の杖、《騎士》は大きな盾と騎士剣、《武闘家》は革の籠手だ。
『スリー!』
俺は四人から距離を取り手足をプラプラさせる。
『ツー!』
相手を見据える。
『ワン!』
腰を低く落とし、戦闘準備完了。
『決闘、開始!』
渋い男の声が5からのカウントダウンを経て決闘の開始を告げる。
パン!
開始の合図とほぼ同時。俺は素早く左手のエアガンをコンキングすると銃を上げそのまま《騎士》の右目を撃った。……これぞ俺が密かに木相手だが練習していた早撃ち。『精密射撃』があってこその精度だ。
「ぐあっ!」
石の弾丸が目を貫く感覚と言うのは、かなり痛いのだろう。まさかの攻撃に剣を放して右目に右手を添えた。……随分と隙だらけなことだ。
その隙に俺はマガジンを射出。粉入りBB弾の入ったマガジンを嵌める。コッキングして動揺する四人に一発ずつ、小麦粉を当ててやる。更に困惑する四人に『粉魔法』の一つ【パウダー・ストーム】を使って四人の足元に魔方陣を展開し、粉の嵐を巻き起こして粉塗れにしてやる。
そこに【コンロ・ファイア】を放ち、大きな爆風と爆発が巻き起こされる。粉塵爆発だ。決闘では相手のHPが視認出来るため、かなりのダメージを受けたことが確認出来る。……やはり粉塵爆発は威力が高い。
「がふっ!」
爆発に巻き込まれた四人が何が起こったのかも理解出来ないまま呆然と立ち尽くしていた。なので俺は《騎士》の懐に素早く潜り込む。銃口を顔に突きつけ『零距離射程』。首から上が吹き飛んでしまった。
「この……っ!」
《魔術師》が魔法を唱えていた。受けるとマズいので、首のない消えていく《騎士》の身体を踏み台にして跳躍する。
「そいつ、『零距離射程』を狙ってるぞ! 引き鉄が引かれる直前に離れれば良い!」
どうやら『零距離射程』を知っているヤツがいるようだ。跳躍して俺に向けて《魔術師》がソフトボール大の火の玉を放ってくる。俺はそれを『精密射撃』で狙い撃ちし相殺する。
「は!? 魔法は正確に中心を撃ち抜かないと物理攻撃で相殺出来ねえんだぞ!?」
一人がそんなに驚くことなのか、素っ頓狂な声を上げていた。……正直どうでも良いので跳躍途中にいた《武闘家》の首に蠍の尻尾を動かして針を突き刺し麻痺状態にさせる。着地してからは呆然とする《魔術師》に近付き『零距離射程』で首から上を吹き飛ばす。
俺は《武闘家》が麻痺している間に《戦士》を片付けてしまおうと、そちらへ駆けていく。
「くっ!」
正面に構えた丸盾に『零距離射程』。
「がっ! クソッ! 四対一で《銃士》如きに負けてたまるかよ!」
そいつはそう吐き捨てると俺に『剣術』の一つ【スラッシュ】と言う袈裟斬りスキルを放ってくる。……残念だが負ける気はない。だが前傾姿勢なので面倒だ。直撃するのは避けたいが、避けると『零距離射程』をする時に下から切り上げられる可能性もある。
「っ!?」
俺は四本目の腕を出して堅い甲殻を纏った蠍の鋏にして剣を受ける。HPが減るが特に気にする程でもない。三本目の右鋏で丸盾を持っている左腕を挟み取って無防備な状態にしてから額に銃口をつけて『零距離射程』。死ぬ前にニヤリと笑っていたのはきっと俺の背後から襲おうとしている《武闘家》を見たからだろう。
「【オーガ・ナックル】!」
アビリティ名を叫んでくれたので俺の推測が当たっていると分かる。俺はチラリと後ろを振り向いて尻尾を振り上げ突き出された右拳を上に跳ね上げる。
「……『零距離射程』」
隙だらけになった《武闘家》の額にエアガンを突きつけ、言わなくても良いスキル名を呟いて引き鉄を引いた。
「……ふっ」
俺は気分がスッキリしたからか、思わず硝煙の出ていないエアガンの銃口に息を吹きかけてしまった。……恥ずかしい。
『決闘、決着!』
渋い男の声が言い、次いで
『YOU WIN!』
と言う声が聞こえ表示が俺の眼前に現れた。
「……」
ふと我に返って周囲を見渡すと、唖然としたような顔で多くの野次馬が俺に注目していることに気付いた。……『集中』の効果がこんなところにも出るのか。
俺は恥ずかしくなってそそくさと、少女を無視して野次馬の間を抜け、そのまま細い道に入ったりしながらミラージの草原へ出ていった。




