オリジナルスキル作成
「……」
俺が朝UCOからログアウトして朝食を済ませようとリビングに下りると、妹がいなかった。寝坊と言うことはないと思われるので、どこにいるのかは分からない。
「今日は優衣休むって言ってたけど、了はどうする?」
キッチンで洗い物をする母が聞いてくる。……体調でも悪いのか? いや、おそらくUCOをやるためだろう。
両親、特に母は勉強に厳しい。学生の本分は学業である、と言うのが口癖だ。そのため学業ではない日はサボっても良いと言う妙な許容をしてくれるため、終業式とちょっとした連絡しかない今日は行かなくても良いのだ。しかも連絡する時には適当な理由をつけるまである。
と言うことは、妹はおそらくUCOにいる。俺は一度も見ていないが、きっといるのだろう。妹はミニボアを倒して素材を売り、金を貯えているハズだ。正式サービスが始まり、次の装備を買い占めるために。
「……休む」
俺はそれだけを簡潔に答えて、テーブルに用意された朝食に舌鼓を打つ。……やはり美味いな。俺が作るのとどこか違う。母の味とやらが関係しているのだろうか。俺が同じように作ってもなかなかこの味が出せないのは不思議だ。
「そう。じゃあ適当に風邪とでも理由つけとくから。あんまり無茶しちゃダメよ」
母は少し呆れたように言う。……それは仕方がない。俺は一度ハマったら妥協出来ないのだ。
その後しばらくしてから再びUCOにログインする。ログインした場所は街の門の端だ。
銃のオリジナルスキル『チャージ・ショット』。その名の通り攻撃を溜めることが出来るスキルだ。だがこのオリジナルスキルの面白いところは【チャージLv1】が三十秒溜めた状態なのだが、通常の0.1倍の威力で攻撃すると言う点だ。ただでさえ威力が弱いのに、更に威力を弱める。しかも溜めているのにだ。正直言って悪ふざけで作ったスキルなので仕方がない。因みにだが、スキルレベルが上がるとその際段々と【チャージLv1】の威力が上がっていく。スキルレベル10でようやく1倍の威力となり、【チャージLv2】と言うアビリティがレベル5から増えるのだが、それは【チャージLv1】に0.1を足した倍になる。だがその分十五秒時間が追加される。
つまり、本当にスキルレベルを上げるのさえ嫌になる程いらないスキルであるのだ。
銃のオリジナルスキル『銃殴術』。銃で相手を殴るためにあるスキルだ。銃の近接戦闘を目指す俺には必要なスキルかもしれない。
銃のオリジナルスキル『零距離射程』。零距離で銃を放つと威力が五倍になると言う強力なスキルだが、欠点として僅かでも離れていると発動しないためかなり厳しいと言うことだ。ミニボア相手なら簡単だがボス級モンスターともなると簡単には近付けさせてはくれない。上手く発動させたとしてもそれまでに受けたダメージとそれ以降に受けるダメージで死ぬ。懐に入るような動きをするためには軽装備にしなければならないのだ。
妹の話によると、この三つを上手く組み合わせたトッププレイヤーがβテスト時にはいたそうだが、今は無難な職業移ったそうだ。……そこまで成長するのにどれ程の時間がかかったことかは、想像に難くない。
『チャージ・ショット』、『銃殴術』、『零距離射程』の三つを組み合わせれば強いそうだが、そこまでいくのには膨大な時間がかかる。そのβテスターがトッププレイヤーになったのは最後の方だけだと言う。成長速度が遅すぎて辞めたのだろう。レベルの高い『チャージ・ショット』で攻撃を溜めつつ近付いていきピッタリと銃口を突きつけて『零距離射程』。このコンボはかなり強い。だが武器が『鍛冶』で作られていないのでボスドロップ武器らしく、それがなければトッププレイヤー入りは出来なかっただろう。
俺はそれらのスキルレベルを5にしたので今はのんびり『弾丸作成』をしようかと思っている。専用の設備はないが広い工房へ行き小石を削っていく。石のBB弾、と言うモノを作ろうとしているのだ。割れた小石をハンマーで砕き、細かいモノを更にBB弾の大きさに削っていく。……『集中』のいる作業だ。
何個か失敗してようやく一つ出来たのでマガジンに入れてコッキングし、エアガンを構える。モノは試し、とばかりに壁に向かって撃ってみる。……ふむ。素材が素材だけに威力は高いだろう。だがエアガンの耐久値が大きく減ってしまう。武器や防具などの装備には耐久値と言うモノがあり、それがいっぱいになると壊れてしまう。それにBB弾のように軽くないため射程距離も縮むだろう。何とか撃てたものの、あまり多用は出来ない。ホルダーが作れれば多少の無茶をしてもエアガンを連発出来るのだが。
『弾丸作成』のアビリティに【石のBB弾】が追加されていたので一応大丈夫だ。エアガンは新しいモノを買えば良いので、俺は【石のBB弾】を大量生産していく。こう言う地味な作業は好きだ。アイテムバッグにある空のマガジンに収納していく。マガジン十個分か、かなり作れたな。
石のBB弾の攻撃力は四。これでエアガンでも二発でミニボアを倒せるようになった。だがエアガンは作成出来ないので購入しておかなければならない。
俺はその後、様々なモノを作成していき、昼頃ログアウトした。昼食を摂って再びログインした後は、オリジナル魔法を開発するために魔法研究所と言う施設に向かった。
そこには何と、『鍛冶』をしてばかりの美少女もいた。何やら試行錯誤して炎を出したりしている。俺には関係ないことかと、オリジナル魔法習得の流れと言う説明文を見る。
まずどう言う魔法にするかを決める。その後自分の魔力(MP)をその魔法が引き起こす現象をイメージし変える。ここまでを既存の魔法では自動的に行ってくれる。一回使った魔法アビリティは呪文詠唱または名前詠唱で発動することが出来る。
俺はどう言う魔法にするかを事前に決めているので、頭の中にイメージしていく。……自分の魔力を変化させるイメージ。自分の中にあるモノをそれに変えていくイメージ。
「……」
すると俺の眼前に白い魔方陣が描かれ、粉が噴き出た。……これで良い。これで『粉魔法』の完成だ。その後も様々な粉を作り出していき、アビリティを増やす。
……俺はMPが少ないのですぐに切れてしまうが。これは魔力自動回復とかそう言うスキルを開発するか習得しなければダメだな。仕方なくスキル検索をするとそう言うスキルがあった。初期スキルにあるので習得クエストを受けなければ。『魔力回復補助』と言うスキルと『魔力自動回復』と言うスキルだ。UCOでは休憩するとMPが回復していくのだが、それを常に行うのが『魔力自動回復』。『魔力回復補助』はそれの効果上昇だ。『魔力自動回復』は魔法を使うプレイヤーにとって必須だそうなので、最初のスキル選択で取っている。
俺はしばらく休憩してMPを回復させたところでもう一つのオリジナル魔法、『家事魔法』を開発する。これは正直言っていらないスキルで、家事で使うレベルの火や水、電気を放つことが出来る魔法だ。戦闘に使えないと思うヤツは多数だろう。
俺は二つの魔法を開発したので早速クエスト集会所に行き『魔力自動回復』と『魔力回復補助』の習得クエストを受ける。SP消費が5ずつなのでギリギリだったが。ついでに『糸作成』のスキル取得クエストも受けておく。色々多用するからな。
するとここでも鍛冶美少女を見つけた。おそらく魔法を開発してMPの少なさに悩まされたのだろう。
二つの習得クエストは精神集中をして内にあるモノを高める、それを身体から湧き上がらせるのが条件だ。……正直に言ってヒントが全くないのだが、魔法開発で魔力の感じと言うのは掴めた。あとはそれを高めて湧き上がらせれば良いだろう。
奇しくも二人揃って魔法研究所に向かい、座禅を組んで精神を集中させる。俺は『集中』があるので周囲の雑音を排除し簡単に済ませることが出来た。と思ったらその少女も素早く済ませていた。……もしかしたら『集中』のスキルを習得しているのかもしれない。
その後は工房に向かい粉魔法で大量の小麦粉を出す(【フラワー】)とマガジンを一つ取り出しBB弾を割って中に小麦粉を詰めて慎重に木工道具セットにある瞬間接着剤をつけて合わせる。……【粉入りBB弾】が出来た。わざと瞬間接着剤に隙間を作り、発射には耐えられるが相手に当たると開くように仕向ける。
これには結構な労力を必要としたが、何とか完成する。BB弾を全て使ってマガジン十個分を作り出した。
少女を見ると何やら炉を試行錯誤して作成していた。よく見ると魔法を組み合わせて作っている。どうやら『鍛冶』を更にやりやすくするために炉を改良しているらしい。もしかしたら『炉作成』のスキルでも持っているのかもしれない。
……と言うか銃を作成するスキルがない。どうやれば出来るのか? 今までにやったことのない方法で試してみるしかないか。一応存在はしているらしい。『鍛冶』の派生スキルらしいのだが。
各種生産を一通り終えると、一旦ログアウトし昼食を摂る。再びログインして俺はチュートリアルフィールドに出た。
『零距離射程』と石のBB弾を組み合わせ、高威力の攻撃で木を半ばから伐採する。すると周囲に木片や枝、葉が散らばった。……伐採するのに八発は必要だ。だが木はすぐに元通り生えていった。そのため木材はかなりの数集められる。弾丸は粉入りにしてしまったのでBB弾はなく石も数が少ない。仕方なくBB弾を大量購入することにした。
BB弾での『零距離射程』は石のBB弾のよりも威力が弱いため弾の消費が早い。だが今の俺には金がある。……と言っても三十発入りマガジン三十円が大量に買えると言うだけだが。
だから俺は大量の木材を回収した。そのため『木工』に必要な素材が集まり、俺は無事に『木工』を習得することが出来た。『魔工』は相変わらず素材がない。
そして俺は遂に『鍛冶』をする。金属製の武器を大量購入して鍛冶道具セットを購入し鉄クズに変えて打ち直す。簡単な短剣から試してみることにした。
七回目で刃の形が上手く出来た。
「……」
だが炉から出すとパキッと折れてしまった。……薄くしすぎたか。
「……叩きすぎると折れる。ゆっくり時間をかけて慎重に叩くようにすると良い」
すると驚いたことに、共通点は多いが接点のなかった少女からアドバイスを貰った。
「……そうか」
無愛想な言葉だったが、接点も何もないヤツにアドバイスをするとは優しいようだ。俺は残念ながら無愛想に頷くと、再び『鍛冶』に『集中』していく。
「……『鍛冶』に興味があるの?」
すると更に驚いたことに、再び話しかけてきた。
「……一応。銃の製造スキルがないから自分で作るしかない」
俺は『鍛冶』をしながら答える。……『集中』で雑音は排除されるようだが、何故か少女の言葉は排除されなかった。『集中』が必要だと思ったのだろう。
「……そう。色々生産スキルを持ってるようだけど、何がしたいの?」
「……《銃士》の再興」
俺は簡単に答えた。……もちろんそんなことはない。ただ俺がやりたいようにやるだけだ。
「……そう」
だがその答えは少女の意に沿わなかったようで、再び作業に没頭していく。
俺もその後は作業に『集中』し、夕飯まで続けていた。その後も狩り採集と作業を交互にやって、遂に十二時を迎える。
やっと会話が……
文の量は……減らないかもしれませんが




