フィギュア作成
※生産はネット検索で探したモノです
会話が少ないため文の量が多く読みにくいかもしれませんが
六月二十九日。午前九時。俺は再びUCOにログインしていた。
朝食を食べゲーム内で俺を見かけたと言う妹と話していたからだ。
俺が思った通り、《銃士》は不遇職だった。初期装備が弱すぎること、慣れないと銃が当たらないこと、常に弾を消費し続けること、生産職もどこで銃を作れるか分かっていないこと(正直言ってこれはβテスターのせいだ)、アビリティが弱いことなどが原因だ。
……素材さえあればかなり優遇されると思うのだが、妹は頻りに変えた方が良いと言う。
こうなれば意地でも成功してやる。
そう心に誓いログインする俺であった。
さてレベルと『銃術』と『鑑定』のスキルレベルは既に5になっている。そのため他のスキルをレベル上げする訳だが、如何せん生産職は素材がなくて最初のモノでさえ作れない。どの素材が何個あれば何が出来るかは記載されているのだが。『集中』は地味に上がっているのであれこれ考えずに採取に没頭すれば良いだろう。
昨日、と言うか今朝までに溜めた素材を全部売り払う。……「~キット」と言うのは素材採集に必要そうだ。採掘、水採集、昆虫採集などがある。一つ1500円だが今の俺なら買える。とりあえず採掘キットと昆虫採集キットを購入した。必要かどうかは知らない。
……素材を集めたら一旦、作成を試してみよう。オリジナルスキルの開発もしたい。
因みにオリジナルスキルかどうかがどうやって分かるかだが、ウインドウの中にスキル検索の機能があるのでそれで確かめる。フィギュア作成はやはりと言うか、なかった。なので開発してミニボアを作らなければならない。
と言うことで、チュートリアルフィールドに出陣。ミニボアを狩りつつ土や小石、薬草や木の実、葉についている小さな虫などを、アイテムバッグがいっぱいになるまで採集した。マガジンの消費が勿体ないので蟲化して戦う。……まるで《武闘家》のような戦いぶりである。
近接で銃を使う。これは俺に合っているかもしれない。元々インドア派なので運動が得意と言う訳でもないが、近距離が強い種族なのでミニボアではないモンスターで確かめることにする。今は素材集めだ。
十二時に一度ログアウトして昼食とし、再びログイン。午前中三時間でアイテムバッグを埋めたので、習得クエストを見てみる。クエスト集会所にて張り出されているモノの内、生産スキルをいくつか見る。フィギュアの作成に色々な技術が必要かもしれない。まずは基礎から学ぼうと思う。
習得条件は何をどうする、レベル何以上、SP何以上とあった。……SPとは何か。俺がクエストを一つ手に取ると、何SPが必要です、このクエストを受けますか? と言う表示と共に所持SPが表示された。
俺の所持SPは15だった。生産スキルは一つ2。つまりは七つ受けられる。簡単な内容ばかりだったので、『石工』、『木工』、『裁縫』、『魔工』、『革作成』、『鞄作成』、『座布団作成』の習得クエストを受けた。
習得クエストは初期スキル全てがある。だが生産特化のプレイヤーでも全ての生産スキルを極めるようなヤツはいない。普通は取らずにその作業に慣れることに努める。
だが俺にはフィギュアの作成と言う目標があるため、妥協は出来ない。素材はあるので借りた道具セットを抱えてNPC店に向かう。もう一つバッグを買わなければならないからだ。三十種類入る1500円のショルダーバッグ型を購入する。あと各種生産用道具セットも買っておく。これで準備万端。マップを見ながら各種工房――ではなく大きな、しかし専用の設備のない初心者用工房へ向かった。
流石にプレイヤーは少なかった。色々やるのではなく、特化した生産職になるのが一般的だからだろう。だが何故か、昨日スレ違った美少女もいた。武器を鍛冶セットなのか小さな炉で溶かし、鉄塊に変えると熱しながらトンテンカンと金鎚を振るっていた。……メニューからの作成ではなく、自らの手で作ると言うところに好感が持てる。無表情だが真剣な表情で武器を作る。無心になっているように見えるが、顔つきは鍛冶師そのものだった。
「……」
俺はその少女から十メートル程離れた隣で、まずは石工セットを取り出し小石を九十九個積み上げる。
石工セットは簡単な道具しかない。本場の職人のような道具は揃っていない。買えと言うことだろう。一番小さな道具が少々ある程度だ。
習得クエストでは小石を楕円形に削ると言うことなので、地味に角やいらない部分を落としていく。……小石を楕円形するのはかなり難しいことなのではないか、と思ってしまう。もしかしたら道具や使い方が違うのかもしれない。
俺は全七種ある道具を順に試していく。……ハンマーのようなモノは見るからに単独で使う道具ではないな。他の道具の柄に打ちつけて使うのだろう。
ハンマーのようなモノと一番小さい道具を組み合わせて使うと、少しずつだけ完成の兆しが見えてきた。
その後も試行錯誤を重ねた結果、五十個程失敗したところで見事な楕円形の石が完成した。
すると、俺の目の前にウインドウが現れた。そこにはクエストを達成しました、『石工』のスキルと石工道具セットを手に入れました、と表示されていた。これで達成したようだ。それならこのまま小石を削り続けよう。スキルレベルを上げなければならない。
小石が割れた小石と楕円形の小石に分かれスキルレベルも5になった後、俺は次の習得クエストに挑むことにする。『木工』、『裁縫』、『魔工』、『座布団作成』は素材がないので不可能。と言うことで、俺は『革作成』に挑む。ミニボアの毛皮を革にすると言うことなので、早速ミニボアの毛皮を山積みにして革作成道具セットを取り出す。
革作成道具セットにはドロリとした液体が入っていた。……刺激臭だが、これは樹液か。そう言えば、今は化学薬品を使うが昔は樹液や草の汁などを使って皮を革へ変える――つまり「鞣す」ことをすると言う。これをすると皮が乾いて硬くならず腐敗したりしないのだ。因みに後者のことを「タンニン鞣し」と言う。そのための樹液だろう。
ミニボアの毛皮(肉はない)を張った樹液に浸す。どっぷりと。すると時間短縮しますか? と言う表示が出る。……そう言えば、革にするためには色々時間がかかるんだったな。俺は「はい」を選ぶ。すると俺の眼前に時計のようなモノが現れた、チクチクと素早く回っていく。時間短縮の演出だろう。その間少し皮を動かす。それが消えてから乾かす行程に移る。乾かす前に軽く水洗いする。水道は備わっているので問題ない。板に釘で固定して縮まらないようにすると、再び時間短縮するかと言う表示が出る。「はい」を選びミニボアの毛皮が乾いていく様を時間短縮の演出の向こうで見ながら待つ。時計が消えたので釘を抜いてミニボア毛皮のスルメを手に取る。
このままでは硬いので手で揉み解していく。するとフワフワの毛皮が完成した。
すると俺の目の前にウインドウが現れる。クエスト達成と『革作成』の習得と革作成道具セットの入手が表示された。……このまましばらく革を作っているか。革は鞄を作るのに必要だ。失敗することも見越して大量生産するべきだろう。
その後はミニボアの毛皮をミニボアの革とミニボアの粗悪革に分かつ。これもスキルレベルが5になった。次は『鞄作成』だ。
……面倒すぎる。メニューを確認したが一度手作りするとメニューから作成出来るのだが、そんな妥協はしたくない。とは言ったものの鞄の作成は俺でも面倒になる程大変だ。縫ったりするのが……。
だが妥協はしない。いくら失敗しても俺はミニボアの粗悪革とミニボアの革の順で素材に使い、何とか完成させていく。……十個も失敗してしまった。なかなか難しい。『鞄作成』のスキルを手に入れると大分成功率が上がってきたのでスキルレベルが5になる頃には五個に一つの確率で成功するようになった。
……スキルには当然その行為に対する補正があるので段々効率は良くなっていく。だが『鞄作成』は疲れた。失敗作の山が築かれたのも精神的な疲労となって厳しい。一旦ログアウトして気分転換をするべきだろう。丁度夕飯の時間でもある。
そう思って俺は道具と素材と製品を片付け、ウインドウからログアウトを選ぶ。
ログアウトして夕飯を食べ、すぐに風呂に入って少し時間を置き再びログインする。
……さて毛皮がなくなったので狩りに出なければならない。それに今の俺のスキルレベルでは鞄の性能が低いので売ろう。とは言っても市販と同じだが。粗悪品も売ろう。だが面白いことを思いついたので小石達は売らない。薬草も売らない。調合道具セットを買って『調合』を試す。フィギュアを作成するのに粘着性のある土も残しておく。まず先に生産スキルを試してからまとめて売ったり狩ったりする方が効率が良いか。だが土ではフィギュアは作れない。最低でも粘土でなければならない。何とか形になれば良いが。粘土質の土が欲しいな。最低条件だ。今のチュートリアルフィールドでは取れないので素材については妥協するしかないのだろう。後から挽回しなければ。
と言う訳で、『調合』を使うために調合道具セットを取り出す。そう言えば『鞄作成』で『裁縫』も習得したので残るは『木工』と『魔工』と『座布団作成』だ。だが『木工』に必要な木材は木から採集する。『魔工』の素材である「~魔石」においては存在すら知らない。『座布団作成』は布や綿が必要なので素材がない。毛皮の座布団はまだレベルが低いからか、作成出来ない。
素材は薬草と昆虫だ。……擂り鉢があるのでゴリゴリして『調合』していくのだろう。小さな鍋もあるのでグツグツ煮たりもするのだろう。イモリや骨も含まれていくのかもしれない。
生産スキルは作成出来るモノの一覧を全て作成すれば次のモノが現れるようになっていて、既に最初のモノを作り終えた俺は次の三つが現れている。だが一つとして素材がないので、今は他のスキルレベルを上げることに集中する。
俺は薬草をグツグツ煮ながら虫を擂り鉢に入れて擂り粉木でゴリゴリと潰していく。虫が小さいので一回の『調合』に三十匹を使用する。そのため俺の所持数では七回の『調合』しか出来ない。細かく擂り潰すとほぼ液体に変わった。虫達の体液だろう。俺はこの程度のことで吐き気を催すことはない。大丈夫だ。
虫を擂り終えると丁度薬草が煮えて水が緑色に変わっていた。次は薬草を擂り鉢で潰し最後の一滴まで汁を搾り取る。その間黒い虫汁は鍋の方に入れて細い棒で混ぜておく。煮て柔らかくなった薬草はすぐに擂り潰せるので終わったら鍋に投入。更にグツグツ煮込んでいく。すると鍋の液体が紫色に変わった。そこで俺は火を止める。
これでHP回復薬・微小の完成だ。ほぼHPが回復しない回復アイテムである。『調合』はここから始まる。まだ市販の方が性能が良い。
七回目で素材が切れたので、『調合』は中止だ。次は『鍛冶』にするか。『鍛冶』なら先程隣とも言えない隣の少女がやっていたのでやり方は分かる。素材の鉄クズがないとは思っていたが、金属製の武器を溶かして使うとは頭が良い。武器は形を変えるだけなので溶かせばもう一度打ち直せる。失敗もやり直せる。……その分質は落ちるだろうが。
『鍛冶』をやるための武器がないことに気付き購入する前にここで出来ることをやろうと『鍛冶』は急遽中止になった。仕方なく『細工』をする。『細工』なら骨でも石でも削って装飾出来るので素材が山程ある。かなり細かい作業になるが、特に問題はない。こう言う作業は好きだ。
『細工』をレベル5まで上げた後は、いよいよフィギュア作りに挑戦だ。粘土細工などと言われないように、精度を高めなければならない。粘着性のある土をタライに入れて、慎重に水を足していく。丁度良い硬さになったところで手で形を整えていく。……ふむ、難しい。と言うか土ではフィギュアと呼べないのではないだろうか。泥遊びだろう。だが形は整った。指やチョンと立った可愛らしい尻尾も再現する。
……これは失敗しないな。スキルにないから制限がないのだろうか。スキルにあるとレベルに合わない技術は出来ないのだ。
耳や口、目までを細工道具セットにもある細いペンのような削り道具で削り出していく。……初めてにしては上手く出来たな。素材さえあれば本物の毛皮を使って精密なフィギュアが出来そうだ。今のままでは精度の高い泥人形だ。
スキル作成としてフィギュア作成を認定してもらう。オリジナルスキル『フィギュア作成』を取得した。その方法は、ウインドウのスキル作成からスキル名を入力し、作ったモノを見せるまたは作ったスキルを発動させることで認定されれば取得可能となる。
作ったモノを見せるのは簡単と言う訳でもないのだが、やはり戦闘スキルを作る方が難しいと言える。意味もないスキルならもちろんないだろうから作れるだろうが、使えるスキルを作るのは難しい。少しネットで調べたのだが、オリジナルスキルで多いのは剣であれば斬りつけるなど単発のアビリティを組み合わせたモノが多いと言う。銃のオリジナルスキルもあるらしく、レベル5で習得出来るのは三つだそうだ。中には必要ないだろう、と言うのもあるが、一応習得しておくことにする。それは後でフィールドに出た時にやろう。
エアガンの改良及び改造だが……出来ない、な。
現実でエアガンの扱いに射撃も改造も慣れた俺だが、前提として改造が出来るかどうか、と言うシステム的問題に直撃する。
そう。分解が、出来ないのだ。
剣の柄に巻いてある紐、あれを取って別の紐に挿げ替えることが出来ないのと同様、分解して内部を改造すると言うことも出来ないようだった。……残念だ。もし改造出来ればエアガンでも成功出来たのだが。
外部の装飾を改造したところで嵩張るだけであり、外装強化を行うには素材やスキルが足りない。
改造は、諦めた方が良いだろう。
こうして俺のログイン二日目は暮れていく。オリジナルスキル習得と狩り及び採集で朝になってしまっていた。




