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Universe Create Online  作者: 星長晶人
第一章
25/88

道売り商人

 俺はレイドボスを討伐し、再び天空城マチュピチュに来ていた。

 《ラグナスフィア》のメンバーはいない。俺のソロとなっている。だが今回の目的は攻略ではない。

 アイテムの販売が目的だ。


 なので俺は一足早くボスの少し前の位置でモンスターを倒しつつ、場所を確保する。初挑戦のプレイヤーや大人数のプレイヤーがいる中でのソロなので、かなり早く位置に着いた。

 俺は購入したレジャーシートを床に広げ、HP回復薬とMP回復薬を並べていく。俺は敷居を作って鍋を隠しながら新たなアイテムを『調合』していく。

 回復薬を入れた瓶には魔女のようなマークのシールが貼ってある。ウィネブランド、と言う意味だ。ウィネが『シール作成』と言うスキルを使い自分でデザインし作っている。

 アイテムを取り出して擂り鉢に入れ擂り粉木でゴリゴリしながら薬草を煮ていく。クーアがやっていた素材以上のモノが作れる完璧な『調合』方法でやるので企業秘密と言うことにしてあるのだ。


 瓶は箱で区分分けしているのだが、左からHP回復薬の小、中、大、MP回復薬の小、中、大と並んでいる。HP回復薬はレモネードの果汁を混ぜているため黄緑色をしている。MP回復薬はレヴェッサの森に生えているグレープの木から採れるグレープの実を搾ったグレープの果汁を混ぜているため紫色をしている。

 箱は横に六つ並んでいる訳だが、縦に四つ並んでいる。一つの箱に入る瓶は六列を四つなので二十四本。つまり現段階で五百七十六本あると言うことになる。しかも一箱ずつそれぞれ違う。いずれも工夫を凝らした一品である。そして一番手前にある箱六つには敷居を立てて半分にしている。


 しばらく待っていると最初の団体が見えた。


「おう、リョウじゃねえか。こんなとこで道売りしてんのか?」


 ジャン率いる団体だった。……三十人はいる。これなら大儲け出来るチャンスだ。ジャンが相手なら買ってくれるだろう。折角ジャンに会ったのだ、商売に利用させてもらおうではないか。


「……ああ。ジャン、一つどうだ? 初売り出しだから一応試飲もやっているのだが」


 俺は小さな紙コップにHP回復薬・中の試飲用に酒瓶のような大きさの瓶に入れたモノを注いで渡す。


「ウィネんとこのアイテムだろ? なら買うけどさ」


 ジャンは言いながら紙コップを受け取る。他のメンバーも興味津々な様子でこちらを見ているので、ジャンが強く勧めてくれれば儲けを生み出せる。……ジャンのメンバーの過半数が新人プレイヤーのようだ。あまり装備が強そうではない。おそらく最初のレイドボスの時に活躍したのが良かったのだろう。


「おっ? 美味いな、これ。これじゃあ勿体なくて投げつけて回復出来ないぜ」


 ジャンは一気にそれを飲み干して朗らかに言うと、「じゃあHPの中を十個と大を五個。あとMPの中を五個頼む」と続けた。早速お買い上げがあった。やはりジャンに試飲を勧めたのは良かったようだ。


「……それでは売れないな。しっかりどのヤツかを指定してくれ。看板はないが、各種四つある。一番目のがジャンの飲んだ美味しいヤツ、二番目のが味を直してない分不味いが投げつけるのに適した瓶を使っているヤツ、三番目のがスカッシュにしたヤツ、四番目のが熱いヤツとキンキンに冷えたヤツだ」


「……そんなにあるのか」


 俺が並んだ商品と一つずつ紹介していくと、呆れたようなジャン含むメンバー三十人が驚いていた。


「……ああ。ジャンよ、幽霊ばかりの城で背筋がゾワッとしたのではないか? そんな時にはこの温かい回復薬。身体の芯から温まることの出来る一品だ。因みに海底都市でも売っている。渚のビーチでこちらのキンキンに冷えた回復薬を飲むのは最高だと思わないか?」


 俺はジャンに試飲用の保温出来る酒瓶のようなモノの蓋を開けてジャンに湯気が立つ様を見せる。


「っ……」


 ジャンはゴクリと喉を鳴らす。ジャンだけではない、全員が背筋に寒気の走る思いをしてきたからか、物欲しそうな顔をしていた。……なので俺は心の中だけでニヤリと笑い、カタラに至急温かい回復薬を作るように依頼する。一応保温出来る倉庫に入れてあるが、数は少ない。レヴィにも謳い文句二つをメールで送っておく。見た目だけで客は集まるだろうが、自分から積極的に宣伝しなければ売り上げは伸びないのだ。


「……買うか? ボス戦は兎も角ボス戦までに身体を温めるのはどうだ?」


 俺はジャンの前に小さな紙コップに注いだ湯気の立つHP回復薬・中を差し出す。


「……っ」


 ジャンは素早く俺の手から紙コップを奪い取ると口にする。そして一気に飲み干すと、「……あ~」と言う声を漏らした。


「……買うか?」


「あ、ああ。だが残りも短いみたいだし、一人三本までにするか」


 ジャンは頷き、温かいHP回復薬を目の前で揺らす俺に言う。


「……分かった。HPとMPの小、中、大があるから何が欲しいかを言ってくれ。値段は小が150、中が250、大が500だ」


「市販のより高くないか? 確かに美味いけどさ」


「……そうか。ではジャンにはこちらの素材そのままの味を生かした不味い回復薬限定で売り出してやることにしよう」


「分かった、買うって。温かいHPの大三個な。あと美味いHPの大二個と中十個。それと美味いMPの中を二つくれ」


 ジャンは不味い方が嫌なのか、諦めて大量に購入してくれる。……流石ジャンだ。


「……毎度」


 ジャンが買うと残りの二十九人も買っていってくれた。中には温かくなくても良いからと言うことで買った人もいた。ジャンを見習って、だろう。流石に職業紹介PVに出たようなプレイヤーに売りつけると効果があるな。……冷たいのはここでは売れないかもしれないな。温かい方を重点的に売るか。


「……ああ、そうだ。寒い地域に行く時に大量購入したいならギルドに依頼するようにジャンに行っておいてくれ」


 俺はふと思い至って最後まで何個かアイテムを買ってくれた少女に声をかける。少女が頷いたのを確認して俺は販売の作業から『調合』の作業に戻る。……言っておくが温かい回復薬を作るのは温めれば良いと言う訳ではない。熱くてはいけないが冷めていてもダメだ。丁度良い温度と言うモノがあり、温めながら決まった回数掻き混ぜることで滑らかな舌触りが加わるのだ。熱しすぎると味が飛ぶので注意。冷やす方は簡単なのだが。


 ……コミュ力が低いなりに頑張った。知らない人に話しかけると言う高難易度のことをやってのけたのだ。少し自信を持って良いのではないだろうか。今後二度と会うこともないだろうと言うこともあってなのだが。


「あれ? お兄ちゃんだ。こんなとこで道売りしてるの?」


 すると久し振りに思えるユイ率いる団体がこちらに来た。


「……ああ。ユイも買うか? 先程ジャンの団体が来て千個以上売れたところだ」


 俺はユイに聞く。


「じゃあ全部買い占めるけど良い?」


 ユイは変なところに対抗心を燃やすので、ジャンの団体が千個買ったとなればそれ以上を買うと思ったのだが、まさかの買い占めだった。これにはメンバーも驚いている。


「……良いのか? 美味いのと不味いのとスカッシュと温かいのと冷たいのがあるのだが」


「そんなにあるの? だから不味いのは投げやすそうな瓶に入ってるんだ」


 俺が確認すると、ユイが目をパチクリさせて不味いのを見る。……不味いのの瓶は口に向かって細くなるので摘んで投げることが出来るようになっている。


「……ああ。投げる用に作った回復薬だからな。倉庫にあるのも出して売ろう」


 俺は言ってユイと商談をしながら倉庫にあるモノも含めて全てを売り払った。……大儲けだ。だがまだ大手戦闘ギルドにしか売れていない。この先も売り続けるには、やはり広く知られていないといけない。

 俺も『調合』を進めつつ、後から来る前線プレイヤー以外のプレイヤーにもアイテムを売りつけた。売り出し一日目は俺の方にトッププレイヤーが多かったせいか、完売となりレヴィがあまり売れなかったと少しションボリしていたので慰めつつ、販売を止めて素材収集と『調合』に専念し、アイテムを溜めて朝に解散し、イベント二日目から商売に専念していた。

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