何故かの下僕
「「「……」」」
俺が通常状態に戻り、イベントボス討伐素材を各人が手に入れた。すると部屋の真ん中に台が出現し、宝箱が八つあった。……ユイの話では、これはイベント報酬だと言う。九種類のアイテムと参加プレイヤーが得意とする武器の中からいくつかをランダムで箱に入れて出現させると言うことらしい。
俺達の場合、八人の武器と九種のアイテム十七個から八個がランダムで選ばれて宝箱に入ると言うことだ。
……しかし、一度目もそうだが片手銃はないな。一つ怪しげなモノがあるのでそれが俺のモノになりそうだ。だって男性限定の装備だからな。
今回は皆さんお怒りのようで、俺に断りもなくさっさと自分が欲しいモノを選んでいく。……別に良いのだが。
残ったアイテムは夢魔契約の腕輪と言う腕輪らしいが腕輪ではないと思われる黒いモノだ。……夢魔契約と言う部分が俺に不安を巻き起こさせるのだが、一応良い装備ではあるのでつけさせてもらう。
「――」
手に通すと自動で俺の手首にその腕輪と言う名の紋章となり張りつく。……黒い蔓が絡み合ったような紋章は、手首の掌側の丁度真ん中にハート型を象っている。張りついた――と言うか紋章として刻まれると、俺の前に片膝を着いたサキュバスが現れた。
夢魔契約の腕輪は、夢魔を下僕として従えることが出来る。おそらく手首の紋章がその証となるのだろう。
「これからよろしくお願いするわ、《ラグナスフィア》の皆さん」
サキュバスはスクッと立ち上がると深く一礼して言った。《ラグナスフィア》に入るのだろうか。俺の目の前にも夢魔・サキュバスのリリスが下僕となりました、と言うウインドウが出現していた。……下僕とは何だろうか。
「……お前はプレイヤーだな、リリス」
俺は無条件で《ラグナスフィア》に入ったのか名前とステータスが表示されるリリスに言った。他のメンバーにも驚きは少ない。
「そうよ。私は運営側が用意したプレイヤー。因みに今回の戦闘は私自身がやったけど、他の戦闘は最初の品定めだけでログアウトしてAIにやらせてたけど」
リリスはそう言って肩を竦め胸をぶるんと震わせる。
「……何のために?」
カタラが俺の隣に並んで問う。
「もちろん、運営側として何らかの異常がないかを調べるため、プレイヤーとしてUCOの率直な感想を得るため。そして、《ラグナスフィア》のギルドマスター“黒蠍の銃士”を観察するためよ」
「……観察、か。別にどうでも良いが、戦えるのか?」
運営から観察をされようが俺がやることには変わりない。不正を行っている訳ではないのだから特に気にする必要もないだろう。
「ええ。レベルはボスやってたから30だし、スキルもそのまま受け継いでるわ。それにリョウが主として契約をしてくれたからステータスが上昇してるの」
リリスはフッと微笑んで言う。……では問題ないか。
「……だが《ラグナスフィア》は生産スキルを持っていないと入団を認めることは出来ない」
「『調合』と『鍛冶』を持ってるから大丈夫よ」
リリスは『調合』を持っているらしい。……丁度良いな。
「……では良いか。とりあえず戻って作戦を開始する。役割は事前に決めた通りだ。調合班にリリスを入れることにする」
俺はメンバーに言い、ぷいっとそっぽを向いて拗ねているクーアを抱え迎えに来た行きよりもかなり小さい三十人乗りくらいの陸亀に乗って、街に戻っていく。……帰りの亀は何故かイベントフィールドではなく最初の街に戻る。街の外の門の横に下ろしてくれるのだ。帰る手間が省けて楽なのだが、少し不思議だ。
「場所は調合専用工房の方で良いわね。初心者工房には人が多そうだし。調合班は私、ティアーノ、リリス、クーアよ。ついてきて」
ウィネに調合班の班長は任せているのでしっかり指揮してくれることを祈るだけだ。
「……作ったモノはギルドの倉庫に預けるように」
俺は大丈夫だと思うが一応忠告して四人を見送る。クーアは俺と離れるのを惜しんでくれたが、三人に頭を撫でられて大丈夫になったようだ。大人しくウィネに抱かれている。
ギルドの倉庫とは、ギルドホームにある倉庫またはクエスト集会所で倉庫を借りれば使うことが出来る、アイテムを大量に収納出来る場所のことだ。数百種類と言う数のアイテムを収納することが出来る。《ラグナスフィア》にギルドホームはないので倉庫を借りている。倉庫へアイテムを送るにはアイテムをギルド倉庫に収納すると念じてギルド倉庫へ転送させれば良い。そしてギルドメンバーなら念じてギルド倉庫から自在にアイテムを取り出すことが出来る。
借りるのにも金が必要だが、俺達の財産を集めれば十日間借りることなど容易い。予め三日前辺りから倉庫を借りておき、『調合』しておいたアイテムを収納して溜めておく。そしてイベントボスを二体共倒したら残りは金儲けの時間に費やす。
「……では素材回収班、カタラ、クノ、リアナ、セルフィ。単独行動になるが、任せたぞ。売り上げの上下はお前達にかかっていると思ってくれ」
俺はそう言って四人を送り出す。
「……レヴィ。海底都市の方は任せた。俺は天空城へ向かう」
「はい」
最後に残ったレヴィにそう言い、俺は再び渓流のキャンプ場へ向かっていく。
……さてと。これからが本番だ。俺の作り笑いがどこまで通用するかは分からないが、商売は笑顔と元気良くがモットーだ。俺がどこまでそう出来るかはバイトをやっていた時以来なので不安もあるが、特に問題はないだろう。