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Universe Create Online  作者: 星長晶人
第一章
22/88

夢魔の悪魔・サキュバス

「……おしろ」


 いつもの定位置である俺の頭の上に乗ったクーアが現れたそれを見て呟く。


 そう。まさにそれは城だった。海底都市がそのまま海底にある都市だったことからもある程度予想は出来ていたが、天空にある城だった。

 西洋風の巨大な城が、山から少し離れた宙に浮いていたのだ。陸亀の口からでは届かないのではないか? と思っていたら甲羅がパカリと開いて階段が城の玄関へ伸びていく。俺達がその階段を上がっていくと、ゴゴゴゴ……、と言う重々しい音を響かせて大きな扉が勝手に開いていく。

 あまり妙な演出はしないで欲しいのだがな。クーアが怖がってギュッと俺の耳を引っ張るのだ。


「……ユイの話では光属性が効くそうだが、闇属性はボスや強いモンスターになると吸収してHPが回復するそうだ」


「じゃあ私の出番はあんまりないってことじゃない」


 闇属性魔法を主流とするウィネが頬を膨らませて拗ねるように言った。……確かに攻撃と言う面ではウィネの出番は減るだろう。


「……だがその分援護に回れるのは大きいだろう。今までよりも堅実に進めることは確かだ」


「もしかして、慰めてくれてる?」


「……まさか。俺は事実を口にしたのみだ」


 ウィネが期待を込めた瞳を向けてくるので、キッパリと言い切っておく。


「……それより悪魔や邪悪なモンスターが出現するそうだが、ボスについての情報はほとんどないな。ユイも俺が巨乳、エロジジイ、隙だらけと言うキーワードを教えたからキーワードを教えてもらったが、男子、夢、仲間と言うキーワードしか得ていない。イマイチ攻略法が思いつかないのだが」


 俺は話題をあからさまに逸らす。ウィネが不満そうな顔で睨んでくるが、無視だ。俺達にとって今回のイベントとはイベント攻略ではなく、金儲けを行うための機会でしかない。


「私も一応ユイに聞いたけど、『お兄ちゃんがいれば大丈夫だよ!』としか言ってくれなかったし」


 ウィネは拗ねた顔を崩して顎に手を当て考え込む。……俺がいれば? 確かにユイはそうも言っていたが……。


「……それだけでは何も分からないな。とりあえず先に進もう」


 俺は言って、話し合いを終えカタラとティアーノを先頭にし、続いてクノとリアナ、俺とレヴィ、ウィネとセルフィの順で並ぶ。クーアは一応ウィネに預けておく。ウィネに乗る時は左肩に足をプラプラさせて乗る。


「オオォァァァ……」


 すると十体程の腐った死体――ゾンビが出現した。


「……っ」


 クーアが怯えたようにふるふると震えていたので、俺は壁と天井を使いゴムのBB弾をゾンビ共の眉間を撃ってすぐに倒す。


「……もう大丈夫だ」


 俺は怯えたクーアの頭を撫でてやる。


「……まだ。今度はゴースト」


 クノが言った。……天井から典型的な白い布を被ったような透けている幽霊――ゴーストが出現した。


「……おばけ……」


 クーアは今にも泣き出しそうな顔をした。……やはりホラーは嫌いか。


「……幽霊には物理攻撃が効かない」


 カタラが言う。だが《ラグナスフィア》の前衛達は色々と規格外なのでティアーノの氷によって瞬殺される。


「大丈夫よ、クーア」


 ウィネは攻撃に自分の出番がないと分かったのか、肩にいるクーアを抱えて優しく頭を撫でていた。


「……う」


 クーアは涙目だったがこくん、と頷いた。そのままウィネの胸元に顔を埋めて「絶対見ない」の構えだ。


 俺達はそうして物理攻撃しか出来ない俺、リアナ、クノ、レヴィがゾンビなどを担当し、ティアーノ、カタラ、セルフィが幽霊など物理攻撃が効かないモンスターを担当して進んでいく。……因みにウィネはクーア担当だ。


 道中にあった宝箱を開けながら進んでいく。……ミミックと言う宝箱型のモンスターだったりもしたが、宝箱の中には大量の金が入っていたりアイテムが入っていたりするので積極的に開けながら階段を上がって最上階を目指す。こう言う城のダンジョンでは最上階にボスがいるのが普通で、ユイも最上階にいると言っていた。


「あらぁ? 今度はどんな子が来たのかしら?」


 最上階に上がると扉があり、そこを開け放って中に入るとそこにはボスと思われるヤツがいた。


「「「……」」」


 全長三メートル程の、巨大な美女だ。青い肌をしており黒い模様が全身に走っている。身体を覆う布が隠さなければならない最低限の部分を隠すのみの面積だけの黒い水着のような服だけだった。背中には黒い蝙蝠のような艶やかな翼を生やし、尻辺りから先がスペードのような形をした艶やかな尻尾が生えている。頭には青い角が二本生えており、髪は肩甲骨辺りまでの長さで黒い。あでやかに笑う口元には尖った二本の犬歯が見えていた。形が良い紫の唇に切れ長の赤い瞳にスッと通った鼻筋。頭の先から爪先までが、完璧と言わざるを得ない美女だ。尖った耳も三メートルあるとは言えかなり大きな胸も、ムチッとした太腿も。

 ……相手が女――だから男の俺がいると勝てると言うことなのだろうか。だがあのエロジジイには好みがあった。と言うことはこいつにも好みがあるかもしれない。俺がその好みの範囲でなければ厳しいかもしれないのだ。もしこいつがショタコンなら俺では無理だ。リアナに男のフリをしてもらうしかなくなる。


 どうやら夢魔の悪魔・サキュバスと言う名前らしい。……サキュバスと言えば男を虜にする悪魔だったか。エロゲでさえも登場させることがあるファンタジー定番のエロキャラだ。確かにこんな美女に迫られたらどんな男でもイチコロだろう。


「……HPが二本とは少ないな」


 だが俺にはこいつを倒すと言う選択肢しか頭にない。ゲームのキャラに欲情する程落ちぶれてはいないのだ。俺は小声で言いエアガンを左手に取る。……ボスの攻撃パターンについては互いに秘密にしているためユイからの情報がない。


「……油断しないで」


 カタラが言って小太刀を両手で持って構える。すでにメンバー全員が臨戦態勢を取っている。


「あらあら。随分と好戦的なこと。でもダメよ」


 サキュバスは妖しく微笑むと俺の足元に白い魔方陣を描く。……チッ。俺の足元にいきなりとか、避けにくい上に狙いづらい位置に展開しやがる。


「……」


 俺はすぐに発動した魔法に目を細めると、次の瞬間にはサキュバスの手の中に納まっていた。……瞬間移動の魔法か。両手で持たれている。俺は身動きが取れない状態だ。


「リョウ!」


 捕らえられた俺を見たウィネが代表して叫ぶ。……ネプチューンに締め上げられた時のように苦しくもなく、HPにダメージがある訳でもない。だが今のところは大丈夫でもサキュバスは俺を好きに出来ると言う状況には変わりない。


「……何故俺を捕まえる?」


 無駄かもしれないが、一応聞く。AIが搭載されているので大抵の質問には答えてくれるハズだ。


「何でって、サキュバスのあたしが男捕まえてスることなんて、決まってるでしょ?」


 そう言ってサキュバスは妖しく微笑み、縮んでいく。……何だ?

 いきなりのことに唖然としていると、サキュバスが小さくなったため手からは逃れられたが、伸びてきた尻尾によってグルグル巻きにされ、結局状況はあまり変わらない。変わったのは捕縛方法とサキュバスが人間と同じくらいの大きさになったことだろうか。


「いただきまーす」


 サキュバスは俺を縛ったまま、頬に手を添えると顔を近付けてきた。……まさかキスする気では――とか思っていると、実際にそうなった。


「「「っ!?」」」


 AIがプレイヤーにキスをするなどと言う状況もあってか、全員が唖然とする。サキュバスの細長い舌が俺の口の中に入ってきて、口内を掻き回す。……特にキス経験のない俺にとってはファーストキスであるのだが、まさかゲーム内のボスモンスターに奪われるとは予想外だった。

 サキュバスの唇が物凄い柔らかく、甘い香りがした。それに何故か、美味しい気さえしてくる。


「……」


 サキュバスに口内を蹂躙されながら、俺は一瞬止まった思考を動かす。……HPとMPがどんどん減っている。HPとMPを吸収する効果があるのか。

 MPはスキルのおかげで尽きることがないものの、HPがどんどん減っていく。それに、段々力も抜けてきた。抵抗しようにも、力が入らない。


「リョウさん!」


 レヴィが逸早くそれに気付くと、我に返ってサキュバスに対し『機関銃』のスキルを使いエアガンで石のBB弾を乱射する。だがそれはサキュバスが身を守るために大きくさせた翼によって防がれる。


「【ハンマー・ナックル】!」


 しかしリアナは突っ込んでくると、サキュバスを吹き飛ばさんばかりにハンマーに拳を見立て、振るう。そこでようやくサキュバスは危機を感じ、俺を放してリアナの拳を避けた。


「……リョウ!」


 クノが素早く倒れ込む俺を抱え、後方に運んでくれる。


「……すまない」


 俺は全く力が入らない状態で何とか謝る。……HPはレッドゾーンギリギリだ。クノはすぐに俺の口にHP回復薬が入った瓶を押しつけて回復させてくれる。


 ……身体が元に戻るまで何とか時間を稼いでもらって、ようやく俺は立ち上がる。夢魔の悪魔・サキュバス。想像以上に厄介なボスだ。特殊攻撃が発動されると俺にはなす術がない。俺が注意を引いたとしてもサキュバスはリアナの拳を避けて見せた。

 かなり苦戦することになるかもしれない。

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