海底の素材分配
「海底の」を付けた理由は他にも素材分配の話がありそうだったからです
「「「……」」」
俺は素材分配がされたハズなのに残っている三つのアイテムを『鑑定』で確認する。……深海の宝玉と言うネプチューンの思念体が弱点としていた宝石と、ミニトライデントと言う武器にもなるが小さすぎて十字架のようにアクセサリーにした方が良さそうな三叉の矛と、スキルの書と言うスキルを覚えることの出来る書物があった。
……因みに何か行動しているのは俺だけで、他のメンバーは俺をジト目で見ている。特にクーアはちょこちょこと俺の前を常に陣取りながらジー……、と見上げてくる。
どうやら終盤でティアーノの色仕掛けに俺も引っかかってしまったことをまだ怒っているようだった。……特に表には絶対に出さないレヴィが怖い。妹もそう言うタイプだからだろうか。怒っている時でも笑顔を見せて、しかし言動や行動にトゲがある時は怒っている時だ。そう言うヤツに限って本気でキレた時には手がつけられないのだが、これは個別に謝っておくしかないのではないだろうか。まとめて一緒くたに謝るのも失礼に当たるかもしれない。
「……『海神魔法』の書、か。アビリティが十個しかなくMPの消耗が激しいものの超強力な魔法。必殺技みたいなモノか」
「……むー」
俺が場の空気を和ませようと独り言を呟くと無視されたクーアが可愛らしく頬を膨らませて不満そうにする。
「……よしよし。悪いな」
俺はクーアの機嫌を直すためクーアを抱っこして頭を撫でてやる。
「……くーあのこと、だいじにする?」
クーアは俺を見つめてくる。……大事にしてなかったことなんてないと思うのだが。
「……ああ。それに、俺はクーアを大事にしているつもりだ」
「……ならよし」
クーアは偉そうに胸を張って言った。……誰の真似かは分からない。だが嬉しそうに顔を綻ばせているのでクーアの機嫌は直ったと見て良いだろう。
「「「……」」」
クーアの機嫌を直していると、他の六人の機嫌が更に不機嫌なモノへと変わった。……どうしろと? クーアのように構って欲しい年頃と言う訳でもないだろうに。
「……とりあえずこれは俺が預かっておくか」
俺は言って三つをアイテムバッグにしまう。……するとボス戦を行っていた開けた場所の奥に九つの宝箱が出現した。
「……おー。おたから」
クーアが俺の頭の上に上って目をキラキラと輝かせる。……九つ? 人数分貰えるとしたらクーアの分も入っているのか? 確かにクーアにもHPとMPはあるが。戦闘スキルがないため攻撃されない後衛の誰かに預けることにしている。
「……人数分あるようだな。クーア、どれが良い?」
「……くーあもいいの?」
俺が頭の上から下ろして聞くとクーアが嬉しそうに聞いてきた。
「……ああ」
俺は頷いて、台に出現した大小様々な宝箱の前にクーアを乗せる。
「……むー。これ」
クーアは台の上をちょこちょこと歩き、一つの前で立ち止まると早速蓋を開けた。そこには深い青色の宝石が埋め込まれた首飾りが入っていた。宝箱は開けないでも入っているモノが分かるのだが、深海の首飾りと言うアイテムである。
「……きれい?」
クーアは早速自分の首にかけると俺の方に駆け寄ってきて聞いてきた。
「……ああ。似合っている」
俺はよしよしとクーアの頭を撫でながら言う。するとクーアは満面の笑顔を弾けさせた。
「……先に選んで良いぞ」
俺はクーアを抱っこするとムスッとした顔(または雰囲気)をした六人に言って先を譲る。……レディファーストと言うヤツだ。妹に仕込まれた習慣の一つでもある。そこまで使うことなどないが(使うとしても妹だけだ)俺が先に選ぶと言うことはない。
「じゃあ遠慮なく」
不機嫌な態度を隠そうとせず頬を膨らませたウィネが宝箱に入っているモノを見比べて一つを選び、開ける。そこには深い青をした宝石が先端に埋め込まれた青い杖が入っていた。深海の杖と言う武器だ。
「……」
次はカタラだ。ウィネが見ている間に決めていたのか、さっさと蓋を開けてそれを取り出す。無限神水の壺と言うアイテムで、表面張力が発揮される程水が張ってある青い大きな壺だった。
「……」
不機嫌さMAXのリアナは深海のタンクトップを選ぶ。……エロジジイのレアアイテムだけに、臍丸出しのモノだった。
「……」
クノは深海の製造装置を選ぶ。銀のドーム状の装置の真ん中に深い青色の球体が埋め込まれていた。
「……お先に選ばせてもらうわ」
比較的不機嫌ではないティアーノは一言入れてから宝箱を開き、深海の長剣を手に取る。
「……」
ツンと俺を目を合わせないようにするレヴィが残る三つの宝箱の内一つを開ける。……レヴィが選んだのは深海の機関銃と言う銃口が五つついた銃だった。
……《銃士》の武器なんて他のプレイヤーはいるのだろうか。
「……」
俺と目を合わせないようにしているセルフィが残る二つの宝箱の内一つを開ける。……残った一つが俺の、と言うことになる。
セルフィが選んだの深海の琴と言う青い琴だった。
「……ふむ。一番良いのが残ったな」
俺は宝箱を開けて言う。入っていたのは書物。スキルの書と言うヤツだな。しかも四枚。しかもレベルMAXのスキルの書とはかなりレアだ。『パジャマ作成』、『チャック作成』、『ボタン作成』、『編物』の四つだ。これでどんなパジャマでも作れるだろう。……全て初期生産スキルなのだが。
「……では、帰るとしよう」
俺は言って迎えに来た三十名程が乗れそうな行きとはかなり大きさが違う亀型潜水艦に乗り込む。……セルフィの腰辺りに水の輪が出来ていた。それで宙に浮いている。気になって尋ねてみると、不機嫌だったがアクアリングと言う人魚が陸上で過ごすために必要な水の浮き輪なのだと言う。これには重大な欠点があり、走るような速さは出ないと言う。
俺は乗り込んでジャンにメールを送ってやる。ボス攻略キーワードと言う題で、巨乳、エロジジイ、隙だらけと送った。……イベントボスの動画を公開してしまうと攻略が簡単になってしまうため、公開はイベント終了後となる。
攻略の簡略化を防ぐためともう一つ、プレイヤー同士の情報共有と言う名のコミュニケーションを取らせると言う意味もある。
なのでボス初攻略を果たした俺は、出来の悪いジャンにヒントを送ってやったと言うことだ。
……このイベントが意地の悪い点はイベントフィールドにNPC店がないことだが、もう一つ重要なことがある。それは、死んだ時のことだ。
UCOはデスゲームではないので、もちろん他のゲーム同様死に戻りと言うシステムがある。HPが零になるとホームとして設定されている最初の街の噴水周辺に転移させられる。俺は今まで死んだことがないため知らなかったが、死ぬとデスペナルティと言うモノが発生する。二十四時間の全ステータス(HPとMPを含む)が三割減する。レベルは下がらないが、全てのレベルの経験値が零になる。つまり、そのレベルになってから全く経験値を得ていない状態になる訳だ。
デスペナルティは兎も角として、俺が言いたいのは死に戻りの部分だ。死に戻りをしてしまうとホームに戻らなければならない。それはつまり、もう一度レイドボスを倒して消耗品であるチケットを手に入れなければならないと言うことだ。それに気付いているプレイヤーは多いだろう。
だからこそ、HP回復薬やMP回復薬が売れると思われる。
死なないためにはアイテムを切らす訳にはいかない。だから俺達はそうやって金を稼ごうとしているのだ。もちろん『調合』専門ギルド《魔術研究所》もそれを狙っているだろう。そこで生産の妖精・クーアがいると言うこちらの利点を最大限に活かし、最低限の費用で最高の利益を得る。……だがそのためには他のメンバーの機嫌を直さなければならない。
俺達は一旦解散してから八時頃にもう一度集まって今度はキャンプ場の方に行きレイドボスを狩る予定だ。両方共同じくらいの難易度と言う話なので、今の俺達なら突破出来るだろう。
俺はクーアをカタラに預けログアウトして夕飯を食べ妹とイベントについて話し合った。因みにユイはキャンプ場の方に行きレイドボスを倒すと真っ先にイベントボスを倒した。二十七名で挑んだボス戦だったので、俺達より早い。ボス討伐記録は掲示板に公開されるので、最短記録保持者である。だが最小人数記録は俺達ギルド《ラグナスフィア》が保持している。各ボス討伐記録の一位には特別報酬が与えられ、俺は妹に聞いて知ったのだがMVPと言うのがあるらしい。イベント中最も活躍したプレイヤーが得られると言う。……俺には関係のない話だ。一回討伐してからは生産・支援の方を重視しようと思っているからMVPになることはないだろう。
夕飯を食べてからすぐに風呂に入り七時にはログインする。集合時間の一時間前だ。これから七人の機嫌を取るためのアイテムを作成しなければならないのだ。何を作成したかはあげてからのお楽しみと言うヤツだが、七人が貰って喜びそうなアイテムを選別したと思う。一時間で丁寧に仕上げていく。クーアの手助けはなしだ。だが俺の生産レベルも上がっているのでかなり良いモノが出来たと思う。
「「「……」」」
わざとなのか全く不機嫌なのを隠そうともしない七人とクーアが集合場所にした、イベントフィールドのキャンプ場に続くフィールド「レヴェッサの森」へ出る街の門の前から少し外れた人があまり注目しない場所に来る。
……さて。不機嫌な姫様方の機嫌を取るとしましょうか。