ネプチューンと言う名のエロジジイ
中ボスのようなモンスターや採集ポイントを回っていたら三時間もかかってしまった。だがまだ突破したプレイヤーはいないとのことで、俺達が最初にイベントボスに辿り着いたようだ。……最初に左へ行ってしまったプレイヤー達は進んでも結局は行き止まりになるからな。俺が暗記していたから迷うことはなかったが、何度か来たくなるダンジョンだった。やっと「~魔石」の一つ水魔石を手に入れたからな。
俺達が今いる場所が広々とした何もないところだった。
「……ボス名、海神ネプチューンの思念体、だそうだ」
「……平均レベル20程度で挑むボスじゃない」
俺が『鑑定』した結果を告げるとカタラが不満そうに言った。……確かに、HPが五本もあるからな。少なくとも八人と生産専用の妖精で戦うようなボスではないだろう。クーアは戦えないのでセルフィの下半身にいるが。
「……おそらく30以上が求められるボス」
クノが推奨レベルを推測する。……俺達でそれに達しているのはウィネ、カタラ、クノ、ティアーノ、俺だけがギリギリと言ったところだ。出現するモンスターが20以上推奨と言うこともあって新人三人のレベルは20になっているが、平均で言えば30に届かない。
「……思念体だから多少は力が制限されているハズだが、さて。とりあえずあの三叉の矛には気をつけるべきだな。下半身が烏賊のようになっているからそれも注意するとして」
俺は身長が十メートルはあり上半身は筋肉隆々の白髪をオールバックにして白い髭を蓄えたじいさんだが下半身は白い烏賊のようになっていて岩塊に張りついている。白い布の腰巻きをしているが、装備は腰巻きと三叉の矛だけだ。……あれが伝説の武器トライデントだったりするのだろうか。
「……援護は任せた。前衛は突っ込むぞ」
俺は言ってエアガンを左手に持ち真っ先に突っ込んでいく。
「はい! 【天国と地獄】!」
早速セルフィは速度上昇の音楽を奏でる。……懐かしいな。小学校の運動会で聴いていたあの曲だ。動きが速くなると言う効果が実際にあるらしいな。
『ふん。海の神であるわしに逆らおうとは良い度胸だ。だが深海の秘宝は渡さん。盗っ人共めが』
……驚いたことに、ネプチューンが喋った。しかも三叉の矛を振り回して構えると言うおまけつきで。
「……悪いが時間をかけている暇はない。深海の秘宝もいただくし、あんたも倒させてもらう」
俺は駆けながら言う。……まさかボスにAIを搭載するための試験運用だったのか?
『ふはっ! 随分と威勢の良い小人だな。虫ケラ如きが神であるこのわしに牙を剥くと言うのか!』
ネプチューンは俺を嘲笑う。……俺が〈蠍〉だから言っているのだろうな。
「……牙は剥かないが、銃は向けるぞ」
俺は言って『早撃ち』でネプチューンの両目を狙う。……弾丸の速度は遅くなっている。
『効かぬわ!』
ネプチューンは石のBB弾を三叉の矛を前で回転させ弾いた。……なかなか器用なことをする。
「【ダーク・ランス】!」
すると後方から鋭い声が飛び、闇で出来た槍が五本ネプチューンに飛んでいく。
『ほう? 闇の力を使うとは乳娘よ、魔女か』
ネプチューンは余裕そう言いながら右手だけで持った三叉の矛を横に薙ぎ払って消し飛ばす。……水を放っているのか、あの矛。だから真ん中を攻撃せずに相殺出来る。
「なっ……!」
だがそれよりもネプチューンが呼んだ「乳娘」と言う言葉を聞いたウィネは自分の胸元を隠すように杖を持っていない左手で自分の身体を抱えるようにする。……どこを見ていやがる、エロジジイが。
『ふむ。後衛には良い乳をした娘が揃っておるではないか。わしの愛人にならんか?』
ネプチューンは戦闘そっちのけで顎に左手を当てニヤニヤした笑みを浮かべる。……間違ったAIを搭載しているな、こいつ。
だがその言葉のおかげで火のついた者が若干名いた。
「……どこを見ていやがる、エロジジイ」
俺はネプチューンの足元まで来て睨み上げる。
『ふん。男になど興味はないわ!』
「……俺もジジイには興味ない。だから――」
ネプチューンが三叉の矛を俺に向かって突き出してくるが俺は言いながら紙一重でそれを避け矛に跳び乗りそのまま柄を伝ってネプチューンの懐にまで突っ込む。
『ぬっ!』
「……死ね」
俺はいつになく冷徹に言い、鍛え上げられた腹筋に『零距離射程』を放って後方宙返りで離れる。……無闇に追撃して良い相手ではない。
「……【縫い斬り】」
更にクノが縫うように足の一本を斬りつける。
「……っ」
カタラが突きを砲撃に変える『刀砲』と刃と並び刃に連動して斬りつける視えない刃を四本出す『連動無刀』と刀で攻撃すると追加で四度同じ攻撃をする『多重刀』の三つを併用して放った計二十五回の砲撃は、ネプチューンの足二つを引き剥がし岩塊に大きな穴を空けた。
「……胸の、大きい娘が、好きですか。そうですか」
だが俺達のように若干火が点いたどころではなくキレたのが、『鬼化』のスキルを発動させているようで、赤いオーラを纏い赤いオーラで出来た角を生やすぺったんこ少女、リアナである。
「【シェル・ナックル】!」
リアナは拳を錯覚で砲弾に見せると岩塊に叩きつける。岩塊が窪み無数の亀裂が入った。
『ぬおっ! ほとんど少年の癖しおって!』
ブチッ!
……と言う堪忍袋の緒が切れた音が、エロジジイの言葉を聞いたリアナから聞こえた気がした。
「殺す……っ! 【アックス・フック】! 【ハンマー・ナックル】! 【ショットガン・ナックル】! 【サイズ・ラリアット】! 【ソード・ハンド】!」
憤怒の鬼と化したリアナが、拳を斧に見立てたフック、拳をハンマーに見立てたパンチ、拳を散弾銃に見立てた連続五発のパンチ、腕を鎌に見立てたラリアット、拳を剣に見立てた手刀、と連続でアビリティを叩き込んでいく。
一撃一撃が重く破壊力を持っているため岩塊は最後の【ソード・ハンド】で完全に破壊された。足の何本かにも影響があるようだ。
『ぐぬぅ! 貴様、許さんぞ!』
本体にはそれ程ダメージがなかったのだが、何故かネプチューンは激怒した様子で三叉の矛をリアナに放ってくる。
「……随分と慌てているようだが、その岩の中に壊されたくないモノでもあったのか?」
アビリティを連続使用したためその分動けないリアナの前に俺は立ち塞がり、タイミングを合わせた『零距離射程』で相殺した。
『ぬっ!』
相殺ダメージは俺のHPを削るが、ネプチューンも三叉の矛を弾かれて体勢を崩す。先程とは違い岩塊で身体を支えていないためだ。
「……そうだな、例えば思念体であるお前がここにいるために必要な道具、とか」
俺はニヤリ、と笑った訳ではないがネプチューンの心を見透かすようにジッと目を見て言う。
『……な、何のことだかさっぱりだな。それにそんなモノがあったとして、それはどこへやったと言うのだ?』
……ネプチューンは視線をあちこちに泳がせながら言った。嘘がバレバレだな。AIを搭載するとこう言うことも有り得るのだろうか。
「……さあな。だが岩塊の中にその核とも言うべきモノがあったとしたら、回収出来るのは足の吸盤になるな」
『っ!』
ネプチューンはわざとらしく口笛を吹き始めた。次第にメンバーの視線もジトー……、としたモノになっていく。
『……そ、そうだ! コアは吸盤についている! だがわしの攻撃を掻い潜って内側まで来れないだろう?』
全員のジト目に耐え切れなくなったのか、ネプチューンは自棄気味に叫んで誤魔化すためか三叉の矛をカッコ良く構える。
「……クノ」
「……了解」
俺がクノに呼ぶだけで指示すると、クノは素早く駆け出して足の間を縫うように掻い潜ってネプチューンの背中の方へ抜けていく。ネプチューンは浮いているので手数は多くなっているが、その分足元がガラ空きになっているため容易に駆け抜けられた。
「……あった。でもかなり内側の方にある」
クノはネプチューンが対応する前にサッと戻ってくると俺に報告してくれた。
「……そうか。聞いたか? こいつには弱点がある。さっさと倒そう」
俺が言うとメンバー全員が頷く。特にウィネがこくこくと頷いていた。
『ふん! わしの弱点が分かったところで簡単に倒せると思うな!』
ネプチューンが言って三叉の矛と七本の足を巧みに操って前衛としている俺達を近付けさせない。……しかもウィネの魔法とセルフィの援護とレヴィの射撃があってこれだ。何とか十分でHPを一本白く出来た。
今のままのペースなら一時間で倒せるが、もっと効率を良くしたい。
「……エロジジイでも神、か。そう簡単に倒せない」
『ふんっ! エロジジイは余計だが、その通り! 弱点が分かったところでこのわしを倒すのは不可能だ! 【オーシャン・トルネード】!』
ネプチューンは三叉の矛の先に巨大な水の渦を纏わせ振ってくる。……魔法でなければ破壊出来ないか。
「【ダーク・トルネード】!」
「【アクア・ストーム】!」
ウィネが闇の巨大な渦を放ち、そこにセルフィが水の竜巻を足し合わせていく。すると巨大な闇色の水となってネプチューンの放った攻撃を迎える。だが融合属性を使ってもネプチューンの一撃は強力なのか、相殺出来ずに突き進んでくる。威力は弱まったようだが、これでは装備が弱い三人が危ない。
「……カタラ、合わせなさい」
「……言われなくても」
だが更に迫りくる強大な一撃に、自ら突っ込む形で立ち向かう二人がいた。
「……【氷雪剣】」
「……【灼熱千度】」
片や冷徹な雰囲気を持ち両手で構える長剣に冷気と氷を纏わせるティアーノ。片や無表情に見えて燃えやすく小太刀に1000℃もの熱を纏わせるカタラ。二人は向かい合うように武器を振り被ると同時に振るい刃を交錯されながらネプチューンの一撃に向けて攻撃した。
「……っ」
だが余波が俺達を襲う。融合属性攻撃二連続でようやく相殺出来る、強力な一撃。だが四人のおかげで相殺に近い形となった。
「……魔女印のHP回復薬」
クノがそう言って『精密投擲』でアイテムバッグからHP回復薬を自分と他のメンバーに投げつけすぐに回復させる。……回復役を誰か設定しておかなければならないな。余波で俺と新入り三人のHPは大幅に削られてしまっていた。
「……助かった、クノ」
俺はクノに礼を言いメンバーが体勢を立て直す間一人ネプチューンに突っ込んでいく。
『ふん、虫ケラが一匹で何が出来る!』
「……何が出来るか、確かめてやろうか?」
『ほざけ!』
ネプチューンは俺に三叉の矛で攻撃しながら魔法を展開する。俺は三叉の矛を紙一重で避けながら魔方陣を破壊していく。
『ちょこまかと煩い虫ケラだ! 【オーシャン・トルネード】!』
ネプチューンは額に青筋を浮き上がらせると再びあの強力な攻撃のモーションに入る。
「……良いのか? そんな隙だらけの技を使って」
俺は聞きつつ特に前の足が三本の減っているため、銃で牽制しながら容易に下へ潜り込むことが出来た。
『ぬっ!』
ネプチューンが呻くが俺の視界にはすでにコアと思われる深い青をした宝石が一番内側にある吸盤にくっついているのが見えていた。俺は跳躍してそこに銃口を突きつけ、『零距離射程』を放つ。
『ぐおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!』
俺は何故か暴れ出すネプチューンを他所に、着地すると再び『零距離射程』を放つために跳躍しもう一発お見舞いしてやる。
『ぐあああぁぁぁぁぁぁ!! このっ、虫ケラ風情がっ!』
ネプチューンは遂にキレたようで残った足で俺を締めつけてくる。……苦しいな。メキメキと身体が悲鳴を上げている。HPもグングン減っている。クノがHP回復薬を足の巻きつきから逃れている尻尾にぶつけて回復してくれるが、時間の問題だろう。
『ふははははっ! 死ね、虫如きめが!』
ネプチューンは見せしめのつもりなのか、俺を皆の前に持ってくると、地味にギリギリと締めつけてくる。俺のHPが満タンである緑からオレンジ、黄色、赤へと変化していく。赤まで来てギリギリのところでクノがHP回復薬を投げつけてくれるので何とか命を繋げた。
……それにしても、コアに受けたダメージが大きすぎる。およそ今のレベルでは勝てないような強さだからか、俺が放った二発の『零距離射程』でHP一本分が減っていた。
「……離せ、エロジジイ」
『貴様、立場が分かっていないようだな!』
俺が苦し紛れに言うとネプチューンは足で締めつけるのを止めて三叉の矛を横薙ぎに振るってくる。……チッ。やはり思念体と言えど神だけはある。もう目が治っていた。
「……レヴィ、良い判断だ」
俺はしかし迫りくる三叉の矛を無視し視界に表示された三十本の赤い線を視て言う。
『ぐおっ!』
ネプチューンは顔に当たった三十発もの弾丸に怯み攻撃を中断する。……三発ずつ両目に当たっているのでかなり怯ませたハズだ。
「……」
ふぅ、ギリギリのようだが抜けられた。
俺は怯んだ隙に足から抜け出す。……吸盤には苦戦したが、何とか抜け出せた。俺は地面に着地すると残り数ドットのHPを見てネプチューンから離れながら、アイテムバッグからHP回復薬・中を取り出して口にする。
レモン味の効いた美味しいHP回復薬だ。これは売れば売れる。
三十発を一気に撃ち終わったレヴィの銃がバキッと言う音を立ててバラバラに砕け散った。
レヴィが最初に選んだスキルの内の一つ、機関銃を目指すと言った言葉通りに選んだスキル『機関銃』。機関銃を使うための補正やアビリティがあるスキルであるが、他の銃を無理矢理機関銃のようにする効果がある。エアガンで言えば先程のようにマガジンに入っている弾丸全てを一気に連射する。しかしコッキングを無視して放つ性質上、一回使ったらその武器が壊れると言う効果もある。しかも連射は止められない。……壊して機関銃のようにするスキルのように思えるのだが。
だがそのスキルのおかげで俺は何とか生き残ることが出来た。
「……レヴィ、助かった。それにちゃんと両目に当てたな。連射しながらの照準変更は難しいらしいが」
「は、はい。あの、ちょっと焦ってたので……」
俺が後方まで下がって前衛達が攻撃するのを見ながら言うと、レヴィは少し照れたように頬を染めて言った。照れているからか視線を合わせずにいそいそと次のエアガンとマガジンを取り出している。
「……そうか。これからも頼む」
「は、はいっ!」
俺がそう言って踵を返そうとしたところ、レヴィが輝くような笑顔を見せたため思わず魅入ってしまい、足を少し止めてしまう。
「……」
俺はレヴィにそれが気付かれないように、すぐに踵を返し直して前線に戻っていく。
(……提案があるのだけれど)
突如、前線で氷を操りながらネプチューンに攻撃を仕掛けるティアーノの声がギルドチャットで頭の中に響いた。
(……少し扇情的な格好をすれば、ネプチューンの隙を作れると思わない?)
尤もな提案ではあった。だがそれはつまり、このエロジジイが好きな巨乳であるウィネ、レヴィ、セルフィの誰かと言うことになる。
(……三人共後衛だけれど、私とセルフィでやれば問題ないと思わない? 近接攻撃が出来る訳だから)
三人の中で近距離も出来るセルフィを指名し、自分もやると言うことだった。……確かにカタラとセルフィは鎧を着ているためよく分からないのだが。それは暗に自分が巨乳であると公言しているのだろうか。
(……や、やるだけやってみます)
セルフィも意を決したようだ。今まであまり攻撃で役に立っていないと言う負い目もあるからだろう。
「……」
するとセルフィが初期装備である白いシャツを脱ぎ中に着ていたらしい際どいビキニを晒す。……そう言えば、脚の装備が必要ないからと水着の上を購入していた。
『ぬおおおおぉぉぉぉぉ……!』
エロジジイは目をハートにし鼻息荒く前のめりになった。それを見たセルフィが胸を隠すように片手で自分の身体を抱くと更に強調され、エロジジイが興奮していた。それを見た貧乳組(本人達の前では絶対に言わないが)がキレて隙だらけのエロジジイに一斉攻撃していた。
クノはコアを斬りつけたようで五本あったHPもすでに半分まで減っていた。
「……」
『くっ! 色仕掛けとは卑怯だぞ!』
引っかかる方が悪い。俺はそう思ったが口には出さず、銃を乱射してネプチューンに微々たるダメージを与える。……今俺がすべきことは鎧を外しているティアーノに攻撃がいかないように気を惹きつけることだ。
「……ふぅ」
ティアーノは水色の鎧を脱ぎ捨てた。脱いだ装備は虚空へと消えていく。アイテムバッグへ転送されたのだろう。
ぶるん、と。
「「「っ!?」」」
鎧によって押しつけられていたそれが、解放されて踊り出る。その大きさたるや、ウィネ、レヴィ、セルフィの巨乳三人娘よりも大きく、まさに爆乳と呼ぶに相応しい大きさだった。
『ぶひょーっ!』
エロジジイなどは興奮して倒れるのではないかと思うくらいだ。
「……」
しかもティアーノの色仕掛けはまだ終わらない。手を交差して中に来ていたセーターらしき服の裾を掴み、ゆっくりと上へ持って行く。
「『……』」
エロジジイは黙ってそれに見入る。……俺も手と足を止めて裾が上がりティアーノの浅黒いスベスベしていそうな腹に見入っていた。
「……っ」
裾が胸の半ばより少し下――つまりは下乳と呼ばれる部分が見えているティアーノに俺とエロジジイが釘付けになっていると、俺のこめかみに石のBB弾が当たった。……レヴィか。
「すみません、手元が狂いました」
にっこりと笑みを浮かべたレヴィが言う。……『精密射撃』を習得して手元が狂う訳がないのだが、レヴィの笑顔の裏にある怒りが見えた気がして、俺は何も言わずにティアーノに夢中になっているエロジジイに一斉攻撃している他のメンバーに加わった。
……コアをリアナに五回殴られないと気付かないと言うのは流石に隙だらけすぎではないのだろうか。
その後もティアーノとセルフィが前衛で攻撃していたこともあって隙だらけのネプチューンを蹂躙し、何とか倒した。