新メンバー加入
五時頃から寝ていて、今起きました(゜-゜)
新生活に慣れれば更新も安定してくると思います
七月十日。午後十二時。
UCOの一回目アップデートが終了し新規プレイヤーを含めて一万人のプレイヤーがログインした。懐かしい初期装備に身を包んだプレイヤーが三千人、やや良さそうな装備に身を包んだプレイヤーが七千人。
「……初期装備か、懐かしい」
「二日前まで初期装備だった癖に、よく言うわね」
俺が懐かしさを感じて言うと、ウィネがジト目を向けてきた。……それは確かにそうだが。
「……ひといっぱい」
俺は頭に乗っかった生産の妖精・クーアが目を輝かせて言う。……そう言えば、クーアはこんな人だかりを見るのは初めてだったか。
「……イベント開始、早くして欲しい」
クノが待ち切れないと言う風に言う。
「……新メンバーの加入に期待したい」
カタラも新メンバーの加入を楽しみにしているようだ。……いるかどうかは知らないがな。新メンバーの加入についてはクエスト集会所のギルド申請所の隣、ギルド加入所で申請を行う。するとギルド宛てに届くメールでギルドホームの中枢システムとギルドマスターのメールボックスに送信される。
メールの着信音は変えられると分かってから俺は振動も音もなくメールボックスを見るしかないモノに変更した。
「……二つフィールドがある訳だが、最速でクリアするぞ。最悪雑魚は後回しにしても良い。あとは予定通りに。良いな?」
俺が聞くと四人が頷く。……さて。装備は予め補充してある。アイテムも予め溜めてある。準備は万端だ。
『皆様、お待たせしました。これより第一回イベントを開始いたします』
この前と同じように中央広場の噴水の真上に巨大なドレス姿の美女が出現し、宣言した。それに約一万人のプレイヤーが歓喜の雄叫びを上げる。
『概要は以前説明した通りとなっているので改めて説明することはしませんが、発表していない、実際にフィールドに言ってみないと分からないこともあるので充分注意して下さい。それでは、開始!』
美女が言って光の粉となり消えると雄叫びを上げて特別フィールドに向かっていくプレイヤー達。正式サービスからUCOをやっている七千人程のプレイヤー達だ。新規プレイヤー達は戸惑いつつもクエスト集会所に言って目ぼしいギルドに加入しようとしたりミラージの草原などでレベルを上げるためにアイテムを購入したりしている。
俺達ギルド《ラグナスフィア》の面々は、街の三階建ての建物の屋根の上にいる。
「……」
俺達は当初の予定通り、新規プレイヤーで真っ先に《ラグナスフィア》に加入したいと思うプレイヤーがいれば加入させてすぐに試験と面接をし、加えるなら加えるでさっさと加えてイベントフィールドに向かう。初戦がレイドボスとはなかなか経験出来ることではない。
俺はギルドと言うメニューを開いて待機する。すると十分で五個のメールが届いた。いずれもギルドに加入したいと言うメールだ。
「……来たぞ、五人だ。行くぞ」
俺は言ってウィネとカタラを片腕ずつで抱え、クーアにしっかり掴まっているように言ってからクノと並んで屋根の上を跳びクエスト集会所まで向かう。
「……」
俺は二人を下ろしてギルド集会所の扉を開け、入っていく。すると初期装備に身を包んだ新規プレイヤーと僅かな装備の良いプレイヤーが俺達に注目する。
「……《ラグナスフィア》の加入を希望する五人、来てくれ。すぐに試験と面接を開始する」
俺はそんな中でそう言い放った。……うわぁ。皆が俺に注視している。恥ずかしい。気を抜いたら逃げてしまいそうだ。
「「「……」」」
俺に言われた五人の男女が歩み寄ってくる。俺は顎で合図してクエスト集会所を出る。そして出てきた五人に屋根を上るように言い、上れない三人を俺とクノの二人で上らせた。その後ウィネとカタラの二人も屋根の上に運んでくる。
「……これから面接を行う。と言っても軽く自己紹介をしてもらうだけだが。まず俺はリョウ。ギルドマスターをやっている。小太刀を装備しているのがカタラ、魔女っぽいのがウィネ、忍者っぽいのがクノ、そして生産の妖精・クーアだ」
俺は自己紹介をしつつ一人ずつメンバーを紹介していく。
「マジで代表者が三人もいんじゃねえかよ! 俺は《騎士》のガルドってんだ。よろしくな」
屋根に上れなかった一人で、鎧に身を包んだ少年が名乗った。……チラチラと視線がウィネの胸元に向けられている。ここまで露骨だとウィネが可哀想だな。こいつは加入させないでおこう。
「ぼ、僕はディーグルと言います。《射手》です。よろしくお願いします!」
気弱そうな少年が言って、深く頭を下げる。……何だ? 俺の勘が告げている。こいつは危ないと。危険だと告げている。勘を信じて加入させないでおこう。それに若干だが、毒を感知した。毒を放つ種族なのかもしれないが、普段では毒を放たないようにすることも可能なハズだ。
……ふるふるとクーアが怯えているのもそれを感じ取ってのことかもしれない。とりあえず加入させないでおこうか。
「えっと、リョウさんのPVを観て色々決めました! 《武闘家》のリアナって言います!」
頭に昆虫の黒い触角を生やしたスタイルがユイと同じようにぺったんこな美少女が言った。……俺のPVを見て《武闘家》? もしかして、〈蟻〉や〈蜘蛛〉が良いと言ったあれだろうか。
「リョウさんのPVを観て、機関銃を目指そうかと思いました。《銃士》のレヴィと言います。よろしくお願いします」
ペコリ、と礼儀正しく頭を下げて言ったのは、金髪のツインテールに金の瞳をした美少女だ。ウィネと並ぶかもしれない程、スタイルが整っている。……やっと《銃士》を目指してくれるプレイヤーに出会えた。大切に育てていきたい。
「……分かった。では少しメンバーと相談するから待っていてくれ」
「……待ちなさい」
俺が四人の自己紹介を聞き誰を採用するかをある程度決めたところで言うと、最後の一人に呼び止められた。
「……何で私の自己紹介は聞かないのかしら?」
氷のように透き通った水色の長髪と同じ色をした冷たい瞳に浅黒い肌と尖った耳。初期装備とは思えない水色にカラーリングされた金属鎧と腰に差してある長剣。《剣士》の代表者、ティアーノだった。……そう言えばこの人はギルドに所属していないのだったか。
「……新規プレイヤーを加入させようと思っていたからな」
「……入団条件にそんな記述はなかったわ」
……確かになかったのだが。
俺は他三人の顔を見る。
「……分かった。《剣士》のティアーノを加えた五人の採用不採用をこれから相談して決める。俺は一応決めたから五分以内で決める。待っていてくれ」
俺は嘆息して言い、五人から少し離れた場所で三人と相談を開始する。
「……あの《騎士》の男は嫌よ。ずっと私の胸元ばっかり見てたし」
「……それは俺も気付いた。とりあえず不採用だな」
ヒソヒソと顔を寄せ合って相談し始める。……女子特有の甘い香りが鼻腔を突き、意識を別のところへやりたかったのもあって、すぐに相談に移った。
礼儀知らずでもある。ウィネの苛立たしげな言葉と俺の決定に、四人はうんうんと頷いた。
「……あのひと、こわいの」
クーアがふるふると身を震わせて言った。……あの人とはもちろん《射手》のことだ。
「……俺も危険な感じがした。虫の知らせと言う言葉もあることだからな、不採用にしよう」
俺はクーアの怯え振りと俺の勘を信じ言う。三人もクーアが可愛いので頷く。クーアだけはこくこくこくと頷いていた。……それと毒も気になる。俺は〈蠍〉が毒を持つ生物なので感知出来たが、他のメンバーは違う。念のため、俺だけでも警戒しておくべきだろう。
「……〈蟻〉か〈蜘蛛〉の《武闘家》。なかなか強力な組み合わせよ。採用にしたら良いんじゃない?」
「……そうだな。俺のPVを観てくれたことようでもある、採用にしよう」
ウィネに俺が賛成すると、四人も頷いた。
「……《銃士》の娘はどうする?」
「……加入したいと言ってきた五人の内一人しかいない貴重な《銃士》だぞ? 採用しない訳がない」
元々《銃士》を増やすために作ったPVだ。それなのに一人しか来ていないのだ。もちろん採用する。四人も頷いてくれた。
「……最後の――ティアーノはどうする? 元βテスターなのだろう? あの人に関しては俺が三人に聞きたい」
俺も対処に困ったプレイヤー、ティアーノについての説明を求める。
「……実力は確かよ。でも何で入りたいかが謎なのよね」
「……βではソロ」
「……戦闘スタイルは剣と氷のスキルを組み合わせたモノで、かなり強力。仲間に出来たら心強い」
三人の意見は実力が折り紙つき。しかし何故このギルドに入りたいのかは謎。と言うことだった。……悪意はなさそうだから採用にしようか。
「……一応採用にするか」
俺が決定を下すと、四人も頷いた。……冷たい雰囲気ではあるが、クーアが怯えていないので良いだろう。
「……決めたぞ。ガルドとディーグルを、不採用とする。帰って良いぞ」
「なっ! 何でだよ!?」
「……」
俺が結果を伝えると、ガルドが驚き睨みつけてきて、ディーグルはただ俯き黙した。
「……ガルド。お前はウィネの胸元を見すぎだ。気持ちは分からなくもないが、自重しろ。女性プレイヤーが多い《ラグナスフィア》にはいらないな」
「チッ!」
「……ディーグルを不採用にした理由は、ただの勘だ」
「そ、そんな! 僕はただこのギルドに入りたいからって……!」
「……知らないな。ただお前は危険だ。クーアも怯えている。採用にする訳にはいかない」
「っ!」
二人は俯く。……何かしそうな雰囲気だな。念のため『集中』しておこうか。
「……三人は採用だ。《ラグナスフィア》にようこそ」
俺は二人を無視するフリをして三人に顔を向け、言う。すると三人の顔がパァ、と輝いた。……本当に入りたいと思ってくれていたようで、俺も少し嬉しい。
「……ふざけんなよ。《銃士》如きを採用して俺を採用しねえとか、嘗めてんのかてめえ!」
キレたガルドが剣を抜いて襲いかかってくる。七人は息を呑むが、俺は『集中』していたので一挙手一投足が冷静に見えていた。
「……他人をバカにしないヤツ、と言ったハズだったのだが。残念だ」
街中での戦闘は禁止だが、強制決闘と言うシステムが存在する。両者が互いに武器を手をかけると発動するが、フィールドが限定されない上にルールが設定されないと言うルール無用の決闘とも呼べない、ただの喧嘩である。
俺は相手が剣に手をかけてのは見計らって素早くエアガンを抜き、相手の剣を避けながら踏み込んだ。
「……残念だな。初心者プレイヤーが勝てる訳ないのに。それと、加入申請してくれて少し嬉しかったのだが」
俺は言って、ガルドの額に銃口を突きつけ『零距離射程』を放つ。それでガルドは倒した。
「喰らえ!」
ディーグルは俺が隙だらけに見えたのだろう、手足を含めた八本の触腕を伸ばしてくる。……蛸か。しかもこいつは豹紋蛸だな。物凄い毒を持っていると言う脅威の蛸だ。クーアが怯えるのも納得出来た。
毒の制御法を知らないでこれを選ぶのは、ただのバカだ。俺のように何も知らずやろうとする輩は少ない。と言うことは、最初から俺達を毒状態にさせる狙いがあった、と指摘されても否定出来ないと言うことだ。街中での毒状態は、「知りませんでした」では済まない程の被害を受ける場合もある。仲間がいれば別だが、毒でもし動けなくなる場合、そのプレイヤーは目の前で自分の持ち物が奪われるのをただ見ていることしか出来ない。
UCO内でも最低の行為と言えるため、知らないと言うことはない。……因みにこれらは全て、ユイの受け売りである。
「……」
だが俺はそんなことを気にする性分ではない。。冷静に触腕の中に腕を突っ込み銃口をつけて『零距離射程』を放つだけ。
それに毒を受けても問題ない。種族のレベルと言うのはステータス上昇が増えるなどの効果があり、俺は生産でも戦闘でも〈蠍〉をフル活用するのでどんどんレベルが上がる。そのため耐毒の効果を得たからだ。
「……話を中断して悪かった。とりあえず面接さえ受かればあとは良い。リアナ、レヴィ、ティアーノの三人を《ラグナスフィア》のメンバーとして歓迎しよう」
二人を始末した俺は三人にそう言った。ウインドウを操作し三人を採用、二人を不採用にしたと言うメールを送ると、三人をメンバーに加えたと言う返信が来た。これでメンバー加入は完了だ。
「よろしくです!」
「よろしくお願いします」
「……よろしくね」
三者三様に言う。
「……これは俺達からの加入祝い、と言ったところだな。メンバーが作成したポーチ型アイテムバッグだ。四十種類のアイテムが収納出来る。所持金は1000円だろうから、アイテムバッグを買ってなくなる。それを防ぐ処置でもあるが、1000円で装備を整えたり武器を新調したりすれば良い。回復アイテムは配るから安心してくれ。準備が整ったらイベントフィールドに出る」
「も、もうですか?」
俺は三人にクーアがいるため出来た性能の良いポーチ型アイテムバッグを手渡す。
レヴィが少し不安そうに聞いてくる。……俺のPVを見たらしいからな。《銃士》が最初、弱いことを気にしているのだろう。
他二人は問題なさそうだ。
「……問題ない。俺の弾を使えばある程度戦える。それに、俺のPVを観て機関銃を目指すと言うことは『攻撃強化』を取っているのだろう? それなら問題ない。俺もカバーする」
俺はレヴィを正面から見据えて言う。……レヴィが不安そうにしていなければこんなことは言えない。
「……では、行動開始だ。二人は他のメンバーに装備や必要なアイテムを聞けば良いからな」
俺はそう言って残った金でマガジンとエアガンを大量に購入する。……いざとなったら『変幻弾丸』を使うかもしれない。人目につかない場所でスキルレベルを上げてはいるがイベントボスにどれ程効くかは分からないからな。
俺はその後アドバイスを求めてきたレヴィに買うべきアイテムを教えておく。スキルも教えてもらい、それに合わせたアイテムを購入させる。
準備が整ったところで、《ラグナスフィア》はイベントフィールドへ向かった。




