『粉魔法』の使い方
寝落ちする前に予約更新してみました
きちんと出来てますかね?
初めてのボス戦。初めてのパーティ戦。初めての味方。初めての多い俺の初ボスバトルは元βテスター五人の活躍もあって快勝に終わった。
俺はボス戦の後捕獲と言う方法なら丸ごとモンスターの素材が手に入ると言うので、一旦街に戻ってNPC店を回り縄か網があるかどうかを確かめた。だが折角なら、と言うことで俺は『縄作成』と『網作成』の生産スキルを習得するためにクエスト集会所に向かっていた。
パーティにおけるアイテムなどの分配方法についてだが、ソロが五個なら全員が三個ずつぐらいの割合で素材が手に入る。ソロより少し少ないが全員が同じ数だけ手に入るので自分達で分配する手間はない。だが全く同じアイテムがドロップする訳ではないので言い合いの火元になりそうだ。経験値はソロが十割だとすればパーティの人数によるとは言え九割から八割程度。金は人数割りなのでその分少なくなるが、それを除いてもソロより確実に得だ。そのためソロではなくパーティで冒険するプレイヤーは多い。
ソロ一人。ペアは二人か三人。パーティは上限六人。ギルドは無制限だがパーティをいくつ、と言う数え方をされる。その上のレイドとなると人数制限がかからない場合もあればかかる場合もあるのだが、ギルドに関係なく戦う、と言うことも有り得るのだ。そうすれば最大でUCO初期プレイヤー七千人が参加可能となる。
装置の関係で量産出来ず一つ十万もするため費用がかかる。βテスト時に配布したモノから改良を重ねているとは言え七千個が限界となっていた。予定では一万となっていたが予定に届かずUCO開発会社の社長が記者会見で深く頭を下げていたのが印象に残っている。その時の話では、アップデート毎に新規プレイヤーのための装置を販売しプレイヤーを徐々に増やしていくと言う方針だったか。
アップデート=イベントらしいので、俺も少し楽しみにしている。近々その内容が少し公開されると言うことらしいのだが。
俺はクエスト集会所で習得クエストを二つ受けると、初心者用工房に足を運ぶ。そこにはカタラがいた。一人だ。
「……何でここに?」
カタラは俺に気付いて顔を上げると聞いてきた。
「……縄と網を作成するためだ」
俺は簡単に答えていつも通りカタラから十メートル程離れた隣とも言えない隣に座る。
……縄に必要なのは藁だけだ。つまり素材さえあれば何とかなる。俺はミラージの草原で採集した藁を大量に取り出す。だが縄作成道具セットはあるのだ。木の棒だけだが。
まず藁を束ねて水で湿らせる。水は『家事魔法』の一つ【タップ・ウォーター】で出している。これを木の棒で叩き柔らかくしていく。それから太めの藁三本くらいを両手に持つ。根元から三センチ程度のところで左右の束を交差させ根元の方を穂先の方へ一捻りする。これを足の指の間に挟んで固定しておく。左の掌に二つの束を当て、右手を前に押し出すようにして擦り合わせ捻りをかける。左手指先まで押し出したら向こう側の束を手前に持ってきてまた右手で捻りをかける。藁の先の方まで縄を綯ったら次の藁を接ぎ足して手を擦りながら綯っていく。丁度良い長さ――適当に二メートルくらいまでの縄――になったら先を結んで縄完成。
……意外と疲れる。
「……そこまで一から生産しなくても良いと思う」
「……ではカタラは刀を買って改良するのか?」
カタラの呆れたような声に俺が聞くと、カタラは黙ってしまった。まるで俺が意地悪をしたような視線を向けられる。
これで『縄作成』は完了だ。次は『網作成』に移ろう。網作成道具セットは凧糸、編み針、丸棒、台、定規、別糸。凧糸は市販されているが今の俺では作成出来ないので用意されているモノを使うことにする。編み針は竹なので『竹工』の初期スキルを持っていれば作成出来るだろう。……『竹工』にあまり種類はないので人気が少ないのだが。
まず編み針に凧糸をセットしていく。丸棒を台に乗せる。物干し竿とかのように棒を乗せられる台だ。台に目と言うモノを別糸で作っておく。凧糸を目に結びつけ、作業開始だ。目にピッタリつけた定規の下側から目を掬い、糸を定規の上に沿わせて親指で押さえる。二本一気に掬って、それから左側の目だけを掬う。余分な糸を手繰って結び目の上を親指で押さえ一気に引き絞る。左端まで編んだら裏返して定規を引き抜く。一段下がって端の糸を少し余分に取っておいて、同様に編んでいく。折り返す時は凧糸を結んで印とし、左端まで編む。丸棒を抜き網の方向を変えて角に三角の目が出来るように編んでいく。一段目まで編んだら丸棒を抜き網の方向を変える。角が三角の目が出来るように編んで一段目の編み始めまで編んでいき、網を裏返して編み戻っていく。印をつけたところに糸を結び編み進める。編み始めのところまで来たら編み始めを飛ばして編む。この時は定規を使わない。そうしてからまた編み進めてきたところを編み戻っていく。それを繰り返して編み終わったら、先に編み終わっていた目を解いて一緒に編み込む。余った糸を切って、出来上がり。
……難しい上に時間がかかるな。一応習得はしたので改良を加えていき作業の効率を上げるだけだ。
「……手が込んでる」
カタラが言った。……そうでもない。かなり適当に編んだので不恰好になってしまっている。もう少しやって慣れようか。そう思ったら凧糸が切れていた。作業に集中しすぎて凧糸を使い切ってしまったようだ。買ってこなければならない。
「……」
仕方がないかと諦めて、俺はとりあえずウィネに時間が空いているかメールで確認して、NPC店に向かう。メールはすぐに返ってきて空いているとのことだったので初心者用工房に来るように伝えておいた。
俺はNPC店で凧糸と各種採集キットの内持っていないモノとホルスター作成用の革とBB弾三十発入りマガジンを購入する。……まだなのか。まだ銃は初期装備から脱却出来ないのか。NPC鍛冶屋にも、プレイヤー鍛冶屋にもない。誰か、誰か銃を……。いや、俺が自分で作れば良いのだ。
だが銃に必要な部品や素材が全く分かっていない。どうすれば良いのかさえ分からない。だからこそ俺は生産スキルを集めるのだ。因みにだが、ホルスターは一応鞄に分類されるらしく、『鞄作成』で作ることが出来る。ミシンで縫うのだが、マガジン用のポケットを作らなければならない。その辺はオリジナルで付け足すしかないな。既存のホルスターでは一つしかない。初期のモノだが。と言うか俺はそろそろ初期装備から買い替えた方が良いのではないだろうか。
しかし初期装備から買い替える前に、俺はウィネを呼んでしまったので初心者用工房へ向かう。
「あら。どこ行ってたの?」
俺が戻るとすでにウィネはいて、カタラの作業を見学していた。
「……買い物だ」
俺は簡単に答え、先程まで座っていた定位置に座る。
「いつも二人っきりなの?」
するとウィネはムッとしたような顔で俺の方に身を寄せてくる。……体勢としては俺の右側近くに右手を着き正座から左に脚を出したような女座りをして俺を見上げている。つまり右腕があるせいでただでさえ大きな胸が更にその存在を主張するようになっている。しかも顔が近い。
「……知らないな。俺は生産作業に没頭しているから。カタラに聞いてくれ」
俺は正直に言う。本気で知らないのだ。いたとは思うが、『集中』で雑音を排除しているため誰が来ようと気付かない。……と言うか戦闘でも生産でも『集中』を使っているからかなりレベルが上がっている。おそらくレベルの必要経験値はプレイヤー自身のレベル、種族の効果が上がるレベル、職業のレベル、スキルのレベル、アビリティのレベルの順で段々下がっていくのだろう。『集中』のレベルは30を超えている。
「もう、まあ良いわ。ちゃんと約束通りに『粉魔法』教えてくれるんでしょ」
ウィネは可愛らしく頬を膨らませるが、すぐに微笑んで言った。……ついでに更に距離を詰めてくる。
「……ああ。ウィネなら俺よりもこれを使いこなしてくれるだろうからな」
俺は言ってホルスター作成用の革とミシンと糸を取り出す。あと採寸のためのエアガンとマガジンを今使っているホルスターから抜いて置いておく。
「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、何でホルスター作成? 私に『粉魔法』を教えてくれるんだじゃないの?」
ウィネは少し不満そうに言ってくる。
「……魔法を教えるのは簡単だろう? 魔力を粉に変えていくイメージだ」
「まあ、私もオリジナル魔法作ろうとしてるからそれは分かってるけど」
俺が言うとウィネはブツブツ言って唇を尖らせる。……この人一々行動が可愛いな。
「……では簡単だろう。俺はその間暇だから自分用のホルスターを作っている」
そう言って『集中』を使い自分の作業に没頭していく。……素材となる革を裁ち、形を整えていく。参考にするのは初期装備であるホルスターだ。マガジンの予備を入れる部分も裁つ。ホルスターにはいくつか種類があるのだが、俺が今作ろうとしているのは左腰に装着するためのヒップホルスターだ。エアガンには日々無理をさせているため、予備のエアガンも装備出来るように太腿の側面に装着するホルスターの付属品でもあるレッグホルスターも作っていく。二挺持っていたところで二挺装備出来る訳ではない(専用のスキルが必要だ)が、予備に必要だ。他の武器ならこうはならないだろう。手が最大で八本になる俺だが、銃は一挺しか装備出来ないのだ。
素材である革は大量購入したので何度失敗しても良い。俺が使いやすいと思う形状を目指していく予定だ。ピッタリではなく落ちないが抜きやすい広さを取って、ミシンで縫い合わせていく。マガジン入れはエアガンが入る前後と内側と下に二つ、計五ヶ所に作っておく。
「……なかなかの出来だ」
「……そうねー」
俺が呟くと、近くにつまらなさそうな顔をしたウィネが座っていた。……そう言えば魔法を教えるために呼んだのだった。
「……すまなかった。習得は出来たのか?」
「出来たわよ」
俺は一言謝り聞くが、ウィネは拗ねてしまってそっぽを向いたままだ。チラリとカタラを見ると良い気味だと言う表情をしていた。……何て悪いヤツだ。
「……『調合』は今出来るか?」
俺はウィネに尋ねる。……機嫌を直してもらえなくても、教えることは教えておかなければ。嫌われても授業だけはする教師のように。
「出来るけど?」
「……では道具を出してくれ。『粉魔法』の、『調合』を教える。と言っても俺が思いついただけだから成功するかどうかは分からないがな。『粉魔法』がオリジナルだから、それを『調合』するアビリティもオリジナルで良いだろう」
「そうね」
『調合』の話になったからだろう、ウィネはそそくさと左腰にあるポーチから調合道具セットを取り出す。
「調合専用工房になると、更にレベルの高い道具が揃っているわよ。大鍋もあるし」
ウィネはそう言いつつ鍋と鍋を沸かすための火が点けられないコンロのような台と擂り鉢と擂り棒とボールを床に並べて置いた。
「それで、何をすれば良いの?」
ウィネは先程とは打って変わって俺の隣に座りにこやかに尋ねてくる。
「……粉を調合に使う。小麦粉を捏ねてパンを作りたいところだが、俺には『料理』のスキルがないから無理だ。そこで、毒薬と麻痺薬の生成をしてみようと思う」
「パンを作りたいの?」
「……ああ。だから『粉魔法』の一つに小麦粉をわざわざ入れている」
俺は何を言っているのだ、と言う顔で(自分ではそう思っている)言った。……現実ではパンを作る機会などなかなかないからな。
「……ぷっ。ふふふふっ」
するとウィネが肩を震わせて笑い出した。……その奥でカタラも肩を震わせている。俺はそんなに変なことを言ったのだろうか。
「何それ。あー、可笑しい。そんなこと考えてこれ開発したの?」
ウィネは目尻を人差し指で拭った。……そんなに笑われることなのだろうか。
「……小麦粉を入れたのはそうだが、『粉魔法』を開発したのは粉塵爆発に使うためだ」
「そうなんだ。で、何するの?」
ウィネは一時期の不機嫌はどこへやら、楽しそうに微笑んで言う。
「……一つ聞きたいのだが、自分で使った攻撃魔法は自分でダメージを受けないな?」
「ええ、大丈夫よ」
……それなら大丈夫だな。
「……一つ目の『調合』は簡単だ。と言うか『調合』とは呼べないが。ボールに毒粉を入れて水を加えていく。それで捏ねて団子状にし、茹でて毒団子を作る」
「分かったわ」
ウィネはすぐに頷くと【ポイズン・パウダー】を使って紫色の粉をボールに入れていく。俺もその隣で調合道具セットを取り出し毒粉を購入したボールに入れていく。
「水は……」
ウィネが水を汲みにいこうとしていた。……水の魔法はないのか。
「……『家事魔法』も教える。戦闘向きではないが余分を出さず調節出来る優れた魔法だ。イメージは簡単だろう、魔力をコンロの火や水道水に変えるイメージだ」
『家事魔法』のイメージは比較的しやすいだろう。コンロの火や水道の水を思い浮かべるのだから。
「出来たわ」
慣れとやりやすさでウィネはすぐに出来たようだ。【タップ・ウォーター】でジャー、と水を注ぎ、キュッと止める。
「「……」」
水を加えた毒粉を両手でコネコネしていく。……目分量だったが上手く生地になってくれたな。ウィネは少し水を入れすぎたのか毒粉を足して調節していた。
……毒々しい紫の生地が出来た。美味しくはなさそうだ。
俺は次に鍋に水を入れを【コンロ・ファイア】で沸かしていく。強火にして素早く沸騰させ、弱火にして毒生地から団子を作り鍋に入れていく。沸騰させる間も作っていたので次々と入れ茹でていく。プカプカと浮き始めたらサッと回収。ボールに入れた冷たい水で冷やす。
「……毒団子、完成だな」
「……うぅ、完成したわ」
俺が全ての団子を茹で終わって出来に満足していると、ウィネはションボリと肩を落としていた。……確かに完成はしているものの、俺のように団子の形が真ん丸ではなかったり水や毒粉が床に零れていたりしている。
「……下手なのか」
「うっ。そ、そんなにはっきり言わなくても良いじゃない……」
ウィネはうぅ、とションボリした顔で言う。……不器用なのかもしれない。
「……『器用強化』のスキルでも習得したらどうだ?」
「……そうします」
器用さが足りないならそうするしかない。ウィネはションボリしたまま頷いた。
「……『粉魔法』の他の使い方だが、粉を袋に入れて前衛――ジャンに持たせるのはどうだ? 事前に用意しておけば戦闘中にウィネが余分なMP消費をせずに済む。あとは、そうだな。あのパーティならクノに粉を積めた玉を作ってもらえば良い。クノに『粉魔法』を教えれば『投擲』用の道具として個人的に作れるぞ。一応毒の小麦粉もあるから毒のパンを作れるだろうな。毒のうどんも作れるだろう。応用は利くだろう」
俺は次いでウィネに他の使い道で思いついたことを教える。
「……なるほどね。粉を前衛でかけて、後衛の――ユイが火を放つ。これで粉塵爆発が出来る訳ね」
ウィネは考え込むようにして想像したのだろう、早速メモしていた。……このゲームにあるメモ機能を使ったのだ。メモをしたい時にメモをしたいと念じると、インク無限の羽根ペンとメモ用紙が出現し、メモした紙は念じると自由に出せるようになる。手書きだと言うのがこのゲームらしい気がする。
「ありがと。ねえ、『調合』で何か聞きたいことがあったらいつでも連絡してね。私達、基本午前中をパーティで、午後を単独で過ごしてるから。午後ならいつでも良いわよ」
ウィネは礼を言うと空いている時間を教えてくれる。実に頼りになる魔女だ。……さり気なく少し腰を浮かし胸が俺の目の前に来るようにしながらメモ用紙を胸の谷間に挟むようにしてから消したのはわざとだろう。随分と挑発的な真似をするものだ。
「……ああ。ではウィネが店を出すことになって俺に手伝えることがあったら言ってくれ。それまでに『調合』のスキルレベルは上げておく」
俺は代わりと言っては何だが、ウィネの店が出来たら手伝うことを約束する。……スキルレベルの低い俺では役に立つか分からないが。
「そう。じゃあよろしく頼むわね。――でもそうねぇ。生産系スキル持った人達で集まってギルドでも作りたいと思ってるんだけど、誰か誘ってくれないかしら」
ウィネは少し驚いたような顔をしてから微笑んで言い、わざとらしく俺をチラチラと見ながら顎に手を当てて悩ましいポーズを取った。……そうか。
「……調合専用工房にいる誰かに声をかければ良いだろう」
「……バカ」
俺がそう提案するとウィネが何やら不満そうに呟いていた。……残念ながら俺には小さな声すぎて聞こえなかった。いや、『集中』によって雑音は排除されているのだ。
……『料理』スキルを習得するか。折角『家事魔法』がある訳だからな。魔法を電化製品に組み込んでより使いやすくして売ったら儲けられるかもしれない。
ウィネが去っていった後、俺は少し金を稼ぎたくなって稼げる方法を模索していた。




