万物を創造するVRMMORPG?
※因みにですが、主人公は現実でもかなりのチートです
とりあえず四月は毎日更新します
ぼっち主人公だったのでライト文芸賞に応募してみました
本日連載開始の『エセ勇者は捻くれている』、『孤独で蠱毒なぼっち戦記』もよろしくお願いします
夏休みも間近に迫ったある日のことだった。
「お兄ちゃん、これあげる!」
家にて妹に手渡されたのは黒い無骨なヘッドギア。存在だけは知っている。
「……」
俺――実加鐘了はそれを黙って受け取る。俺でも存在くらいは知っていた。確か、『Universe Create Online』と言うVRMMORPGにログインするための道具だったハズだ。
「お兄ちゃんもUCO、やろっ」
微笑むと尖った犬歯が覗く小悪魔的に可愛い妹に頼まれては、断る理由などない。UCOとは俺が先程言ったゲームの略称だ。
「……良いが」
俺は言葉少なく言う。元々コミュ障なのだ。妹相手ならこれでも通用するが、見知らぬ他人では無言と言うことも少なくない。頷いたり首を振ったりするぐらいだ。
「別に良いよ。優衣もβテストの時に会った人とパーティ組むから」
自分のことを名前で呼ぶ妹は、俺が言外に込めた言葉を読み取って言った。……全く、名前通りに育ってくれたものだと思う。優しいと言う衣を纏った小悪魔。それが優衣と言う妹を構成している。他人に取り入って他人を魅了し、自分の駒とする。
因みに俺が言外に込めた言葉とは、こんなコミュ力が低くて凝り性なヤツだからパーティを組んだり他人と連携を組んだりするのは苦手と言うか嫌だぞ、だ。
「……なら良い」
俺は無愛想にそう言って、自室に籠る。元々引き籠もり体質なこともあって部屋に籠るのは得意だ。
俺の部屋は二部屋ぶち抜きの広さとなっている。理由は簡単。先程言った通り凝り性なため、何かにハマってしまうと極めるまでやってしまう。元々手先が器用なこともあるためだろう。時間をかければ出来てしまうのが災いした。プラモデルにハマれば自分で部品から作るところまで極め、折り紙にハマれば何枚かを使ったオリジナル折り紙を作るところまで極める。更に言えばアニメやゲーム、漫画や小説などのオタク趣味にハマっている。このハマっているは「作る」分野ではないのでコレクションと言うことになるが、そこに出てくるキャラクターのフィギュアを作るなどもしていた。
お気に入りのモノは売らないが、売る程に出来の良いモノはネットで売る。最初は批判も多かったが、次第に減っていき今では一部で“フィギュア職人”とまで呼ばれるようになっている。
以上のことから部屋に引き籠もっているのは俺の日常である。
そして通称UCOについても、ネットを利用するため広告にあるようなことは分かっている。ネットでも話題沸騰のゲームでもあり、その認知度はネットを毎日のように使用しない人達にも広がっている。
ゲームの意味だが、『万物を(Universe)創造する(Create)』とあるように、スキルや魔法、装備についてオリジナルが作成出来ることを売りとしている。
今までのVRMMOのゲームにおいて、スキル、魔法、装備などは既に用意されているモノで、そこから選んで組み合わせてプレイをするのが一般的だった。
もちろんスキルや魔法などは運営側が考えてあるので多種多様に及ぶ。だが運営よりもプレイヤーの方が多くやっている中で「こう言うスキルが欲しい」と思うこともあるだろうと言うことで、売りになっている。
……若干他力本願のような気もしないでもないが、人には限界と言うモノがある。それも仕方のないことだろう。
それに自分が考えたオリジナルスキルが好評で皆が使うと言うことになったら嬉しい。人も集まると言うものだ。
そのためUCOにログインするためのヘッドギア型の装置は即日完売。……だと言うのに妹が持っているのはβテスターは有名なネットゲーマーに運営側が頼み込むと言う形で配布したモノと、新たに購入したモノとがあるのだろう。俺に渡したのは新しく購入した方だ。使い慣れたβテスト時のモノが良いとかそう言う理由だ。となるとこれは俺にくれるために買ってくれたのかもしれない。もちろん買うのは両親なのだが、得意の「おねだり」で購入させたのだろう、感謝するべきかもしれない。
「……」
俺が人と話すことが苦手だと知っている妹は、世間話をしない。ネットで調べれば充分なことは全くと言って良い程言わない。そのため早速UCOについてネットで調べてみることにする。
……チュートリアルフィールドは今日から三日開放されると言う。それ以前はキャラクター設定などを行うらしい。チュートリアルフィールドではレベル5までしか上がらない。キャラクター設定では名前、種族、職業、十個のスキルが設定出来る。大体のプレイヤーはチュートリアルフィールドでスキルにもあるレベルを最大の5まで上げるのだとか。正式サービス開始は七月一日から。今が六月二十八日なので丁度三日後となる。
オリジナルスキルとやらが気にはなるが、俺はおそらく一つに特化した職業になってしまうだろう。凝り性だからな。作成の方にその性格が向いてしまえば生産職一直線になってしまうだろう。だがそれも良い。
「……ログインするか」
一人呟いて、ヘッドギア型装置を頭に被る。ネットの謳い文句によると、これは眠るように入ることが出来るためガン! と強い衝撃が頭に来て意識を失うと言うこともなく幅広い支持を得ている。……最初に開発された装置はそうだったらしい。
被ってベッドで仰向けに寝転び、右のこめかみ辺りにあるスイッチを押して起動させる。
「……」
俺の意識はスー……と静かに遠退いていった。
「……?」
ふと立っていることに気付き、我に返る。……凄いな。立っていると言う感覚がある。ピクリと指が思った通りに動くので、現実と同じように誤差はないようだ。
『――UCOの世界へようこそ。これよりキャラクター設定を行います』
真っ暗で辺りの見渡せない空間に、無機質な機械音のような女性の声が響いてくる。すると俺の前に半透明の投影型ディスプレイのようなモノが現れた。おそらくこれがウインドウと言うヤツだろう。
最初に設定するのは名前だ。ウインドウにある横長の細い枠にタッチすると、タッチ式のキーボードのようなモノが手元の丁度良い位置に出現する。……これで入力しろと言うことらしい。
俺は現実の名前をそのままに、リョウとカタカナで記入した。決定を押すと重複していないかを調べていると表示されたので少し待っていると、重複していなかったのかそのまま決定された。
次は種族と職業とスキルと言う三つ同時の進行だ。おそらくこれは三つは密接に関係してくるモノだからだろう。種族の特性を見て、職業の説明を見る。この二つに合わせてスキルを選ぶのが一般的だろうと思ったからだ。
とりあえず種族で器用さの高いヤツを選ばなければならない。俺は生産職とコネを持つこともないだろう(コミュ障だからだ)。かと言って生産職として素材を誰かに頼むこともないだろう(コミュ障だからだ)。と言うことは、生産に必要な器用さと戦闘に必要なステータスの高い種族を選ぶべきだな。
と言うことで色々見た結果、蟲人族〈蠍〉を選んだ。人間からファンタジー世界では有名なエルフやドワーフなど多種多様にある中で、生物の力を持つ「~人族」の種類が豊富すぎる。俺も途中で見るのを止めた。そう言う種族は揃って魔法より身体能力由来するステータスの伸びが良い。その元となっている生物の力にも関係してくるそうだ。生物最強と名高い〈蟻〉や〈蜘蛛〉などは強いかもしれない。〈蠍〉は毒を持っていたり甲殻を持っていたりする(現実の蠍は見かけだけなのだが)ためなかなか強いと思われる。それに器用さが何故か高く手が八本まで増えると言うのも魅力的だ。その分操作は難しくなると思われるが。〈蜘蛛〉のように牙に毒があってもそこまでモンスターに近付けるのかが疑問だ。その点〈蠍〉には尾がある。それに一番上の手を鋏に出来るので便利だ。現実の蠍も素早いと思うが素早さの上昇もある。
次に職業だ。職業は《剣士》、《戦士》、《騎士》、《盗賊》、《武闘家》、《野伏》、《調教師》、《道化師》、《貴族》、《冒険者》、《僧侶》、《魔術師》、《霊師》、《呪術師》、《射手》、《銃士》、《鍛冶師》、《錬金術師》、《調合師》、《商人》の職だ。中には「何だこれ?」と思う職業もあるが、どれも意味がある。《道化師》は最初は弱くあまり使えない職業ではあるが、後にどんな職業にでもなれると言う特権がある。UCOにも職業を変える、進化させる転職があるのだが、《道化師》は唯一職業のレベルを引き継いだまま他の職業に転職することが出来る。もちろん《道化師》から独自に進化する職業もあるので、一番職業選択の幅が広いのはこれだろう。似たような職業で《冒険者》がある。これはどの武器が良いか悩んだ時に就く職業で、武器攻撃職ならどの職業にでもレベルを引き継いだまま転職出来る。意外と人気なのかもしれない。独自の進化を遂げてトッププレイヤーになれるかどうかは怪しいのだが。
俺は悩んだ末、《銃士》を選んだ。ファンタジー世界において銃とは最強か不遇のどちらかなのだが、俺が一時期ハマったモデルガンの作成が役立つかもしれない。なら生産職にしろ? 何を言う。生産職では戦闘が落ちてしまう。素材が集まらなければ生産職の意味がない。それにこのゲームはどうやら職業によるスキル制限がない。もちろん職業に合ったスキルを選ぶのが普通だが。
次はスキル十個だ。……これは俺も悩んだ。悩みに悩んだ。もちろん《銃士》に応じたスキル『銃術』は欠かせない。それに装備を作るための『鍛冶』もだ。あとは『調合』。アイテム作成も欠かせないだろう。身体強化スキルもあるようなので、『器用強化』と『速度強化』も必要だ。『細工』と『弾丸作成』も欠かせない。となるとあと三つ。『命中強化』も良いだろう。『鑑定』は必要になるかもしれない。『集中』でも加えておくか。
『銃術』は命中率上昇、反動軽減の効果があり技であるアビリティも覚えられるため必須だ。
『鍛冶』は装備の作成が出来る。
『調合』はアイテムの作成が出来る。
『細工』は装備などを作る際に装飾を施せたり、アクセサリーの作成が出来る。
『弾丸作成』は弾丸の作成が出来る。
ここまでがメインのスキルとなる。
『器用強化』は器用さの上昇や器用さの伸びに影響してくる。
『速度強化』は移動速度、アイテム使用速度、銃であれば装填速度に影響してくる。
『命中強化』は攻撃の命中が上昇する。
ここまでが身体強化に関係してくるスキルとなる。
『鑑定』はアイテムとモンスターの軽い詳細が視える。
『集中』は戦闘、作成などの時に周囲の雑音を遠ざけることが出来る。
これくらいあれば困ることはないだろう。俺はそう思った。自分で選んで何だが、かなり万能なキャラが出来たと思う。
決定をして種族、職業、スキルを決定する。魔法はあまり使わないので良いだろう。それに、このゲームにおいて初期スキルとは習得クエストで手に入ることが多く魔法のほとんどは習得出来るようになっている。……ただし、戦闘に使うスキルは十個までと上限が決まっており、スキルスロットにセットしなければ戦闘で効果が発揮されない。
次はキャラの姿を設定するようだ。次のウインドウが出現し、そこには小さな俺が直立していた。……そう言えばヘッドギア型装置には身体スキャンと言う機能があり、現実との違和感をなくすのが一番良いと言うことで自動スキャンされた自分が初期設定となるのだ。
リョウは初期装備と思われる心許ない装備を身に着け、腰に銃を提げている。蠍の尻尾が尻の方から覗いている。右上の蟲化をタッチすると腕に甲殻を纏い両腕が鋏になった。更にタッチしていくと腕増えていった。初期状態に戻る一個前では初期状態の手が八本ある姿となっていた。……腕は増えるごとに段々と小さくなっていくようだ。生産には向いているのかもしれない。
特に変更はせず、黒髪の黒い眼、更には黒い甲殻に設定しておいた。
さて、これで良いだろう。準備万端だ。
『それでは、UCOの世界へどうぞ。お楽しみ下さい』
これで良いかと言う確認の後、無機質な女性の声が言って、俺は何故か無意識の内に眼を閉じる。おそらく転移するからだろう。
さあ、では始めようか。