とある川べりの雨降る道にて
「とある川べりの道にて」の続編的話です
未読中田でもお楽しみいただけます
(もちろんお読みになることを推奨しますが)
今回はちょっとはアジのある作品になったかな?
細い川だった。
川は工事がなされていて、まるで渓谷のように岸から数メートルの下を濁った緑が、
ここ数日の雨でいつもからは想像できないほどの水量でゆったりと流れている。
岸には半分ほどはを落とした桜の木が、不規則な間隔で敷き詰めるように生えていた。
空はどんよりと曇り、日差しのほとんどが暗い色をした雲に遮られ、
寒々とした空気が近いうちの降雨を匂わせていた。
そんな川の岸にある道を、一台の自転車がヨタヨタと、走るいう字を使うのが
もったいないほどゆっくりと進んでいた。
自転車には二人乗っていて、どちらも同じ学校の制服に身を包んでいる。
こいでいるのは、まだ顔にあどけなさの残る少年だ。比較的細い体躯で、
髪型に頓着しないタチなのか、単に短く切ってあるだけである。
ブレザーの前を開け、秋口の寒さなど気にも留めないといった風に、
面倒くさそうに目を細めて自転車をこいでいた。
もう一人は少年と同世代らしき少女で、自転車の後部に付いたパイプキャリアにタオルを乗せ、
クッション代わりにして座ってる。
こちらは格好に気を使うらしく、学校の規則から出ない程度の装飾で、
それなりに決まっていた。髪は黒い長髪で、毛先に行くほど錆びた様な赤に変わっている。
今はまとめること無く、風に吹かれるまま後ろになびかせている。
二人のカバンは自転車の両ハンドルに天秤のように吊り下げられ、
それがこれ以上ないほど低速で進む自転車をさらに不安定にぐらつかせていた。
「ねぇ」
「……何?」
少女の呼びかけに少年が答える。
「これから……どうなっちゃうんだろ?」
少女は顔をうつむかせると、つかまっている少年の背中に額をぶつける様に押し当てた。
声にいつもの明るさは無く、冷たく暗い周囲の空気を象徴でもするようだった。
「もしかしたらこのままいくと雨に降られるかもな」
少年は面倒くさそうな表情のまま、少しだけ視線を揺らすと、わざとらしいくらい素っ気無く言った。
「そうじゃなくてぇ」
顔を上げた少女の声はすでに湿っぽい。そのまま次の言葉を口にする事無く少年の背中に、
さっきよりも強く額をぶつける。
「このままどんどん年を重ねて、学校卒業して、いつか就職して、結婚して子育てて……
そんないろんな事まともに出来る気しないよ」
少年はやれやれといった調子で軽いため息をつく。
「まともじゃなくて何とかでもやっとでも、こなせればそれでいいだろ、
重要なのはその時の自分が出来ることを出来たかどうか」
「そうだけどさぁ」
少年の台詞を聞いてなお少女の声は晴れない。逆に感情の堰が切れたような言葉が続く。
「だって先のことなんて何にも分からないよ。もしかしたら明日に死ぬかもしれない。
そんな極端じゃなくても、長く長く苦しい目にあうかも知れない、
耐えられない位悲しいことが起きるかも知れない…………本当にこのままでいいのかな?」
台詞の最後は誰に向けられた訳でもなく、小さくなりながら掠れて消えていった。
「ならないよ」
少年は突然、宣言するように力強く言い切った。
「でも」
「ならない、絶対に」
少女が言い終わらないうちに、少年ははっきりと斬った。
「お前はこの先絶対に幸せになる、絶対ではないにしろな。
例えお前が言うような酷い目にあったとしても、辛い事が起きたとしても、
近いうちにそれを笑える日が来る、やく……」
「……ヤク?」
「……断言する」
少年は唸る様にそれだけ言った。
「………………っ!、ばか」
少女は少年の腰をつかんでいた手を離して、少年の胸辺りに手を回しなおし、
しがみ付く様にその身を寄せた。
「……邪魔」
「いいじゃん、ちょっとぐらい」
「邪魔」
「いいじゃん、ちょっとぐらいこっちにも暖めさせて」
少女のおどけた声を聞いて、少年は改めて面倒くさそうに目を細めた。
丁度その時、少年の鼻の頭に水滴がぶつかって砕けた。
ざあざあと、激しい雨が降りしきる。
二人は何も言わない。
少年は少しでも速く自転車を進めれるように、水滴を嫌っていつもよりもさらに目を細め、少しでも早く少女を送る為力強くこぎ進む。少女も、後ろから斜めに降る雨から少しでも少年の体を濡らさないように、暖めるために、ぴったりと寄り添う。
終始二人には会話もなく、わざとらしく素っ気無く、自転車は颯爽と進んでいった。
「くしゅん!」
「……すまん」
「謝んないでも。どうせ傘なんて持ってなかったし」
少女の家の玄関で、少女がおかしそうに笑い、少年もつられて小さく笑う。
「じゃ、暖かくしてろよ」
「あ、待って待って!」
さっさと帰ろうとする少年の肩を、少女が両手で掴んで引き止める。
「傘もって無いくせに」
「俺は風邪なんてひかねー」
「うるさい! ……せめて私の家で水ぐらい拭いてって! 紅茶飲んで体暖めて、
傘さして帰って! 今日は父さんも母さんもいないしさ」
「女の家に二人っきりで上がれるか」
少年は顔をしかめて首を横に振る
「硬い事言わない」
「周囲にあらぬ誤解が出ると面倒だから嫌だ」
「大丈夫だって」
少女は笑顔のまま、宣言するように力強く言い切った。
「だって事実が無きゃ誤解は誤解だもん……少なくとも今日は、ね?」
からかう様に少女は言うと、固まった少年の背を押し込むようにして家の中に入れ、
自分も入った後ゆっくりと扉を閉めた。
いかがでしたでしょうか?
またしても思いつき&落ちなし意味なしな話ですが……
本とはもっと雨の中の描写があったのに、出来上がってみれば丸まるカット?
どうしてこうなった……
あ、感想とか、ぜひ!w