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同じ熱じゃなくても ーー私の好きの温度ーー

作者: 春凪とおる
掲載日:2026/05/28

グッズの入ったダンボールを持って、友達の部屋に向かうのはもう慣れていた。


友達の部屋は、少しだけ暖かい。

エアコンの低い音と、柔軟剤の匂いが混ざっている。

床の隅に積まれたダンボールの中に、自分のグッズも紛れていた。


「また増えたね」


軽く笑われて、「まあね」と返す。

髪を耳にかける癖が出る。


箱の中にはアクリルスタンドや缶バッジ、ライブグッズ。

白い照明に反射して、ビニールが小さく光る。

どれも自分の部屋には置けないまま、ここにある。


(ここに置かせてもらってるの、ちょっと申し訳ないな)


そう思ったのに、言葉にはならない。


友達はスウェットのままソファに座り、次のイベントの話をしている。

抽選、当落、グッズの発売。


テンポが速い。


私はその流れに遅れないようにうなずく。

楽しいはずなのに、胸の奥だけ少しだけ温度が違っている気がした。


外に出ると、夜の空気は冷たかった。

コンビニの白い光がアスファルトに反射している。


駅までの帰り道、友達はまだ興奮している。


「今日やばかったね、次も絶対行こう!」

「うん、そうだね」


笑って返す。

リュックの肩紐を、指で軽く引っ張る癖が出る。


(あそこまで、私は熱くなれてたかな)


好きじゃないわけじゃない。

ただ、同じ温度で燃えていたか、と言われると違う。


電車のドアが閉まる音がやけに冷たく響いた。


部屋に帰ると、電気をつけたままベッドに倒れ込む。

ゆるいニットの袖が手の半分を隠す。


画面の光が、頬に落ちて少し冷たい。

イヤホンは片耳だけ。


全部を聞くほどの集中力はないまま、配信アーカイブが流れていた。

友達の顔が浮かぶ。


グッズの話、イベントの熱量。

あの勢い。


――「好きなんでしょ?」


軽く言われた一言がまだ残っている。


好き、だけど。

あそこまでじゃない。


でも、じゃあどこまでならいいんだろう。

考えても、答えは出ない。


画面の中の声が、ふと笑う。


「失敗したっていいんじゃない?」


つ――、と。

指が止まる。


「好きなことなんて、ちょっとズレてるくらいでちょうどいいし」


コメントが流れる中で、その言葉だけが浮いて見えた。


――あ、そういうのでもいいんだ。


「……それな」


誰に向けるでもなく、小さく呟く。

胸の奥に引っかかっていたものが、少しだけ遠くなる。


消えたわけじゃない。

ただ、気にならなくなっている。


スマホの画面を少し暗くして、息を吐いた。


同じ熱じゃなくても、私には私の好きの形がある。


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