同じ熱じゃなくても ーー私の好きの温度ーー
グッズの入ったダンボールを持って、友達の部屋に向かうのはもう慣れていた。
友達の部屋は、少しだけ暖かい。
エアコンの低い音と、柔軟剤の匂いが混ざっている。
床の隅に積まれたダンボールの中に、自分のグッズも紛れていた。
「また増えたね」
軽く笑われて、「まあね」と返す。
髪を耳にかける癖が出る。
箱の中にはアクリルスタンドや缶バッジ、ライブグッズ。
白い照明に反射して、ビニールが小さく光る。
どれも自分の部屋には置けないまま、ここにある。
(ここに置かせてもらってるの、ちょっと申し訳ないな)
そう思ったのに、言葉にはならない。
友達はスウェットのままソファに座り、次のイベントの話をしている。
抽選、当落、グッズの発売。
テンポが速い。
私はその流れに遅れないようにうなずく。
楽しいはずなのに、胸の奥だけ少しだけ温度が違っている気がした。
外に出ると、夜の空気は冷たかった。
コンビニの白い光がアスファルトに反射している。
駅までの帰り道、友達はまだ興奮している。
「今日やばかったね、次も絶対行こう!」
「うん、そうだね」
笑って返す。
リュックの肩紐を、指で軽く引っ張る癖が出る。
(あそこまで、私は熱くなれてたかな)
好きじゃないわけじゃない。
ただ、同じ温度で燃えていたか、と言われると違う。
電車のドアが閉まる音がやけに冷たく響いた。
部屋に帰ると、電気をつけたままベッドに倒れ込む。
ゆるいニットの袖が手の半分を隠す。
画面の光が、頬に落ちて少し冷たい。
イヤホンは片耳だけ。
全部を聞くほどの集中力はないまま、配信アーカイブが流れていた。
友達の顔が浮かぶ。
グッズの話、イベントの熱量。
あの勢い。
――「好きなんでしょ?」
軽く言われた一言がまだ残っている。
好き、だけど。
あそこまでじゃない。
でも、じゃあどこまでならいいんだろう。
考えても、答えは出ない。
画面の中の声が、ふと笑う。
「失敗したっていいんじゃない?」
つ――、と。
指が止まる。
「好きなことなんて、ちょっとズレてるくらいでちょうどいいし」
コメントが流れる中で、その言葉だけが浮いて見えた。
――あ、そういうのでもいいんだ。
「……それな」
誰に向けるでもなく、小さく呟く。
胸の奥に引っかかっていたものが、少しだけ遠くなる。
消えたわけじゃない。
ただ、気にならなくなっている。
スマホの画面を少し暗くして、息を吐いた。
同じ熱じゃなくても、私には私の好きの形がある。




