表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

第2話 覚醒する起源魔法と黒幕宰相の甘い毒


極寒の地「死の森」。その名が示す通り、ここは生者が踏み入ることを許されない絶望の領域だった。

空を覆い尽くす分厚い鉛色の雲からは、氷の刃のような吹雪が絶え間なく叩きつけられている。薄手の、しかも破れかけたドレス一枚で放り出された私の体温は、瞬く間に奪われていった。

指先はとうに感覚を失い、青紫色に変色している。吐き出す息は白く凍りつき、まつ毛には霜が降りて視界を遮っていた。ガチガチと鳴る歯の音すらも、耳をつんざく風の咆哮にかき消されていく。

だが、本当の恐怖は寒さではなかった。


「グルルルル……」


吹雪の向こう側、漆黒の木々の隙間から、無数の赤黒い光が灯り始めた。一つ、二つではない。十、二十、いや、五十以上。

それは、飢えた魔物たちの眼光だった。生者の匂いを嗅ぎつけ、雪を蹴立てて集まってきたのだ。

姿を現したのは、体長三メートルはあろうかという巨大な氷狼フェンリルの群れや、鋭い鎌のような腕を持つ異形の魔獣たち。口の端からは涎を垂らし、私の脆弱な肉を引き裂き、骨まで喰らおうと獰猛な殺気を放っている。

私は凍りついた雪の上に倒れ伏したまま、ジリジリと後ずさりをした。しかし、手足はすでに凍傷で動かず、逃げることなど不可能だった。


(あぁ、ここで終わるのね……)


絶望の中で、私は静かに目を閉じた。

私の短い人生は、一体何だったのだろう。

家族のために、魔力を搾取され続けた日々。

婚約者のために、血を吐く思いで政務を代行し続けた日々。

私が国を守らなければならないという、呪いのような使命感に縛られ、ただひたすらに耐え忍んできた。その結果が、これだ。誰にも感謝されることなく、悪女という濡れ衣を着せられ、魔物の餌として惨めに死んでいく。


「グルァァァッ!」


先頭にいた一際巨大な氷狼が、地を蹴って跳躍した。大きく開かれた顎には、私の頭など容易く噛み砕けそうな鋭い牙が並んでいる。

死を覚悟したその瞬間。

私の背中――正確には、肩甲骨の間に刻まれていた、父が施した『魔力搾取の呪縛』が、まるで焼き火箸を押し当てられたように激しく発熱した。


「……っ!?」


それは、私の生命力が完全に尽きようとしたことに対する、防衛本能の暴走だった。

これまで私の体内で生成される莫大な魔力は、この呪縛を通じて常に王国の結界へと強制的に送られ続けていた。しかし、宿主である私自身が死に瀕したことで、魔力の流れが逆流を起こしたのだ。

ビキッ、ビキキキキッ!

背中の呪縛の紋様から、ガラスが割れるような甲高い音が響いた。何重にも縛られていた鎖が、内側から膨れ上がる圧倒的な力に耐えきれず、次々と弾け飛んでいく感覚。


「あ、あああぁぁぁぁっ!」


次の瞬間、私の体から、目を開けていられないほどの眩い純白の光が爆発的に噴き出した。

それは、ただの光魔法ではない。世界を創生し、万物を浄化するとされる神級の『起源魔法』。長年、王国という巨大な器に注ぎ込まれ続けても枯渇しなかった私の真の力が、呪縛から解放され、一切の制限なく解き放たれたのだ。

光の奔流は巨大な柱となって天を衝き、分厚い鉛色の雲を瞬時に吹き飛ばした。

死の森を覆っていた絶対零度の吹雪がピタリと止み、凍てついていた大地に春の陽光のような温かな熱が広がっていく。

私に襲いかかろうとしていた氷狼は、その光に触れた瞬間、悲鳴を上げる間もなく光の粒子となって浄化され、消滅した。周囲を取り囲んでいた数十匹の魔物たちも同様だ。強大な起源魔法の前では、凶悪な魔獣すらも朝露のように消え去るしかなかった。

死の森の一部が、まるで神の庭園のように浄化された空間へと変貌したのだ。


「はぁ……はぁ……」


暴走気味に力を放出した反動で、私はその場に崩れ落ちた。

全身の骨が軋むような疲労感と、急激な魔力枯渇による激しい目眩。

だが、背中にずっと張り付いていた重苦しい鎖は完全に消え去っていた。私は今、生まれて初めて、誰にも魔力を奪われない『自分の体』を取り戻したのだ。

朦朧とする意識の中、私は雪の上に倒れ伏した。浄化されたとはいえ、ここはまだ死の森。すぐに別の魔物が現れるかもしれない。それでも、指一本動かす力は残されていなかった。

視界が暗転していく中、ふと、雪を踏みしめる静かな足音が近づいてくるのが聞こえた。

コツ、コツ、コツ。

規則正しく、一切の迷いがない足音。

霞む目を微かに開けると、逆光の中に立つ背の高い男のシルエットが見えた。


「――ほう。この死の森の瘴気を、一瞬にしてこれほどまでに浄化するとは。驚いたな」


低く、チェロの響きのように冷たく甘い声が、静寂に包まれた森に響いた。

黒衣を纏ったその男は、私の傍らに立ち止まると、興味深そうに周囲の浄化された大地を見回し、そして足元に倒れている私を見下ろした。

月明かりに照らし出されたその顔は、息を呑むほどに美しかった。

彫りの深い端正な顔立ち、氷のように冷徹な銀色の瞳、そして闇夜に溶けるような漆黒の髪。彼が纏う空気は、王宮で見慣れた貴族たちのそれとは次元が違った。圧倒的な覇気と、底知れぬ魔力。ただそこに立っているだけで、世界そのものが彼に傅いているかのような錯覚さえ覚える。


「貴女が、この光の柱の主か」


男は膝をつき、私の顔を覗き込んだ。

銀色の瞳が、私の体内に残る魔力の残滓を値踏みするように細められる。


「古代王族の血統にのみ発現するという、神級の起源魔法……。なるほど、これほどの極上の力を持っていながら、なぜこのような無残な姿で死にかけている?」

「……あなたは……」


乾ききった喉から、掠れた声が漏れた。

男は薄く笑った。その笑みには、一切の温もりが存在しなかった。


「私はルーファス。ルーファス・ヴォルフガングだ」


その名を聞いて、私の心臓が大きく跳ねた。

ルーファス・ヴォルフガング。隣国である強大な『大帝国』の宰相にして、帝国軍の最高司令官。しかし、彼にはもう一つの裏の顔がある。皇帝すらも凌ぐ権力を持ち、帝国の裏社会、ひいては大陸全土の裏組織を影で操る『黒幕宰相』。冷血にして冷酷無慈悲、他者に一切の関心を持たず、目的のためならば国一つを容易く滅ぼすと言われる、世界最強の魔導師だ。

なぜ、そんな恐ろしい男がこんな辺境の森にいるのか。


「帝国の国境付近で不穏な魔力溜まりを観測したのでな、視察に来てみれば……まさかこんな面白い拾い物をするとは。そこのボロ布のようなドレスから察するに、貴女はアシュクロフト伯爵家の令嬢だな。第一王子の婚約者だと記憶しているが?」

「……元、婚約者です。私は……魔力ゼロの無能として……婚約破棄され、追放されました……」


途切れ途切れに答える私を、ルーファスは信じられないものを見るような目で見た。そして、すぐに腹の底から湧き上がるような低い声で笑い出した。


「くっ……はははは! 魔力ゼロだと? この大陸の歴史上、最も強大な起源魔法を持つ聖女を捕まえて、無能と呼んだのか? あの小国の愚物どもは、目玉が節穴どころか脳まで腐っているらしい」


ひとしきり笑った後、ルーファスはスッと表情を消し、氷のような視線を私に向けた。


「あの国を覆う結界の異常な強固さは、貴女の力だったのだな。それを自ら手放すとは、王国も自滅の道を選んだというわけだ。……だが、不愉快だな」


ルーファスは私の頬にそっと触れた。彼の指先は信じられないほど冷たかったが、その奥には得体の知れない熱が孕んでいた。


「これほどの力を持つ至宝が、あのような取るに足らないゴミどものために身を削り、泥にまみれて死のうとしている。それが気に食わない。なぁ、令嬢。貴女はこれからどうしたい?」

「私は……」

「私に助けを乞うか? それとも、このまま美しい氷像となって永遠の眠りにつくか」


彼に助けを求めれば、私は確実に彼という巨大な闇に呑み込まれる。黒幕宰相と呼ばれる男が、無償の善意で人を助けるはずがない。

だが、私の心の中に渦巻くあの冷たい炎は、今も消えることなく燃え続けている。

レオンハルト。マリアベル。父。継母。妹。

彼らを、絶対に許さない。私が味わった以上の絶望を、あの者たちに与えなければ、私は死んでも死にきれない。


「……私を、拾ってください」


私は震える手を伸ばし、ルーファスの黒衣の袖を強く握りしめた。


「私の力は、もう誰かのために使ったりはしません。私のすべてを、あなたに捧げます。だから……私に、あいつらを破滅させるための力を、知恵を、権力を貸してください」


懇願ではない。それは取引であり、呪いにも似た誓いだった。

私の瞳に宿る暗い炎を見たルーファスは、一瞬だけ驚いたように目を見開き、そして、今度は本物の歓喜に満ちた笑みを浮かべた。


「いいだろう。その憎悪に濡れた瞳、悪くない。理不尽に耐えるだけの哀れで退屈な聖女は、今ここで死んだ」


ルーファスは自らが羽織っていた厚手の最高級ベルベットの外套を脱ぎ、凍えきった私の体に優しく掛けた。外套には彼自身の体温と、微かな白檀の香りが染み込んでいた。

そして、彼は私を軽々と抱き上げ、腕の中に収めた。


「私の国へ来い、セレナ。私と共に帝国の裏社会を統べ、冷徹なる女帝として君臨しろ。そして、お前からすべてを奪った愚か者どもに、相応の絶望と破滅を与えてやるのだ。復讐の舞台は、私が完璧に整えてやろう」

「……はい、ルーファス様」

「良い返事だ。これからは、私が貴女の唯一の主人であり、貴女は私の最も価値ある『駒』だ」


ルーファスが指を鳴らすと、私たちの周囲に高度な空間転移の魔法陣が展開された。

彼から発せられる強大な魔力は、先ほどの私の起源魔法に勝るとも劣らない密度を持っていた。その力強い腕に抱かれながら、私は静かに目を閉じた。

不思議と、恐怖はなかった。むしろ、彼が纏う冷たい闇の深淵に身を委ねることに、奇妙な安堵感すら覚えていた。


転移魔法の光が弾け、私たちは大帝国の帝都にある宰相邸へと瞬時に移動した。

到着した先は、豪奢でありながらもどこか冷たい美しさを持つ広大な寝室だった。ルーファスは私を天蓋付きの柔らかいベッドに横たえると、自らの手のひらを私の胸元にかざした。


「《極大治癒ハイ・ヒール》」


彼が短く詠唱すると、淡い緑色の光が私の全身を包み込んだ。

凍傷で壊死しかけていた指先の皮膚が再生し、体内の魔力回路が修復され、冷え切っていた芯から温かな血が巡り始めるのがわかった。痛みが嘘のように消え去り、深く息を吸い込むことができるようになる。


「……ありがとうございます」

「礼には及ばない。私の所有物(駒)が壊れていては使い物にならないからな」


冷たく言い放つルーファスだが、その視線はどこか甘く、私の顔の輪郭を指先でなぞるように触れてきた。


「それにしても、見違えたな。泥と氷にまみれていても美しいと思ったが、こうして見ると、実に……食指が動く」


彼の顔が近づき、銀色の瞳が私を射抜くように見つめた。

その眼差しには、単なる支配欲とは違う、ねっとりとした『執着』の芽生えが確かに存在していた。これまで他者に一切の関心を示さなかった黒幕宰相が、私という存在に対して、初めて明確な欲望を抱いた瞬間だった。


「これからの生活について説明しておこう。表向きは、私が保護した遠縁の貴族令嬢として扱う。だが、裏では私の直属の部下として、帝国の情報網と裏社会の組織を掌握してもらう。貴女の知略と、その起源魔法があれば、造作もないことだろう」

「ええ。王国で私が一人で構築してきた流通網や情報網のノウハウがあります。それに、私の魔法を使えば、どんな強固な組織の結界も無力化できます」

「素晴らしい。やはり貴女は、私が求めていた完璧な半身パートナーだ」


ルーファスは満足そうに微笑み、私の唇に自らの親指を滑らせた。


「復讐の準備は、今日この瞬間から始める。まずは王国の経済を内部から崩壊させる。貴女が抜けたことで、あの国の結界はいずれ綻びを見せるだろう。その時、奴らがどれほど愚かな選択をするか、特等席で見物しようではないか」

「はい。彼らが最も幸福の絶頂にいる瞬間に、すべてを奪い取ってやります」


私は冷たい声で答えた。

かつての『善意』で尽くしてきたセレナは、死の森に置いてきた。

今の私は、復讐のためならどんな冷酷な手段も辞さない。

私はベッドから上体を起こし、ルーファスの目を真っ直ぐに見つめ返した。


「私を拾ったこと、絶対に後悔させません。ルーファス様」

「ああ、期待しているよ。私の可愛い、毒を孕んだ花よ」


ルーファスは私の額に、誓いのように冷たい口づけを落とした。

その感触は、これから始まる残酷で甘美な復讐劇の幕開けを告げる合図だった。

帝国の影の支配者と共に、私は女帝としての第一歩を踏み出した。

王国に迫る破滅の足音は、もうそこまで来ている。

レオンハルト、マリアベル、そして私を虐げた者たち。

あなたたちが気づいた時にはもう遅い。私がどれほどの地獄を用意しているか、たっぷりと味わわせてあげるわ。


翌日から、私の帝国での新しい生活が始まった。

表向きは宰相ルーファス・ヴォルフガングの庇護下にある「遠縁の令嬢、セレナ・ヴォルフガング」。だが、裏の顔は、帝国の暗部を統括する新設機関『黒のオウル』の長官としての立場だった。

ルーファスは私に、帝国の広大な裏社会を構成するマフィア、情報屋、暗殺者ギルドの束ね役という、極めて危険な役目を与えた。普通の令嬢であれば三日で精神を病むか、命を落とすだろう。しかし、私は王国で第一王子の尻拭いをするために、泥にまみれた裏の交渉事や、貴族たちの汚職の隠蔽工作、さらには暗殺組織との取引まで、一人でこなしてきた経験があった。


最初の試練は、帝国最大の裏組織『赤き蛇』のボスとの面会だった。

帝都の地下深くに広がる巨大な闇市場。その最奥にある豪奢な部屋で、葉巻の煙を燻らせる屈強な男たちが私を値踏みするように睨みつけていた。


「宰相閣下の肝煎りとはいえ、こんなか細い小娘が俺たちの上に立つだと? 舐められたものだな」


顔に大きな傷を持つボスが、テーブルに足を乗せながら鼻で笑った。周囲の部下たちも一斉に嘲笑の声を上げる。

だが、私は表情一つ変えなかった。


「私が舐められているのか、それともあなたがご自分の立場を理解していないのか、試してみますか?」


私は静かにそう告げると、テーブルの上に分厚いファイルの束を放り投げた。


「な、何だこれは……!」

「過去五年間における『赤き蛇』の不正な資金洗浄の記録、帝国軍内部の協力者のリスト、そして……あなたが先月、隣国の武器商人から違法に購入した魔導兵器の密輸ルートの詳細です。すべて、私が昨夜のうちに洗い出しました」


ボスの顔色が一瞬にして蒼白になった。これは帝国の法律に照らし合わせれば、組織全体が即座に死刑となる決定的な証拠だった。


「てめぇ! どこでその情報を……!」


激昂したボスが腰の短剣に手を伸ばした瞬間、私は指先を軽く鳴らした。

パァン! という甲高い音と共に、私の起源魔法から派生した極小の光の弾丸が、ボスの手元にあった短剣の刃を跡形もなく消滅させた。


「ひぃっ!?」

「座りなさい。次にその手を動かせば、消滅するのはあなたの武器ではなく、あなたの首から上です」


冷徹な声で告げると、室内の空気が凍りついた。圧倒的な情報収集能力と、反撃すら許さない神級の魔法。彼らは目の前にいるのが、ただの令嬢ではなく、底知れぬ怪物であることを悟ったのだ。


「……降参だ。俺たちは、あんたに従う」


ボスが震える声で忠誠を誓うのを見届け、私は踵を返した。

こうして、私はわずか数週間で帝国の裏社会を完全に掌握していった。逆らう者は力と情報の両面で徹底的に粉砕し、従う者には莫大な利益をもたらす。いつしか裏社会の住人たちは、私を畏怖と敬意を込めて『黒の女帝』と呼ぶようになっていた。


その報告を受けたルーファスは、執務室の革張りのソファに深く腰掛けながら、優雅に赤ワインのグラスを揺らしていた。


「たった一ヶ月で『赤き蛇』を筆頭とするすべての組織を傘下に収めるとは。私の想像を遥かに超えているよ、セレナ」

「お褒めに預かり光栄です。これもすべて、ルーファス様が自由に動ける権限と資金を与えてくださったおかげです」


私が一礼すると、ルーファスはグラスをテーブルに置き、音もなく立ち上がって私の背後に回った。


「謙遜は不要だ。貴女の知略と冷徹な判断力は、まさに私の求める完璧な駒……いや、もはや駒と呼ぶには惜しいな」


彼の長く美しい指が、私の首筋にそっと触れた。冷たい感触にわずかに身をすくめると、彼は私の耳元に顔を近づけ、甘く危険な声で囁いた。


「貴女が裏社会を統べる姿を見るたびに、私の内に奇妙な感情が湧き上がる。貴女のその冷酷な視線、敵を追い詰める時の冷たい微笑み……それらすべてを、私だけのものにしたいという激しい衝動だ」

「ルーファス、様……?」


彼の腕が私の腰に回り、強く引き寄せられた。背中に密着する彼の広い胸板から、熱い鼓動が伝わってくる。黒幕宰相として感情を殺して生きてきたはずの彼が、今、私に対して見せているのは、隠しきれない独占欲と、病的なまでの執着だった。


「王国への復讐劇、舞台の準備は着々と整っている。だが、それが終わっても、貴女をこの腕から逃がすつもりはない。永遠に、私の傍でその毒を撒き散らしてくれ、セレナ」


彼の熱を帯びた瞳に見つめられ、私は小さく息を呑んだ。

王国の愚か者たちが与えた絶望は、私を彼という圧倒的な闇に引き合わせた。そして今、私はその闇の中で、かつてないほどの自由と、歪ではあるが絶対的な庇護を手に入れている。


「……はい。私のすべては、あなたのものです」


私がそう答えると、ルーファスは満足そうに目を細め、私の首筋に熱い痕を残すように口づけを落とした。

その痛みと快感が、私に復讐への渇望をさらに強く思い出させる。

反撃の刃は、すでに極限まで研ぎ澄まされていた。

王国が自らの愚かさに気づき、絶望の淵に立たされる日は、もう目前に迫っている。

私はルーファスの腕の中で、次なる一手――王国を奈落の底へ突き落とすための完璧なシナリオを思い描きながら、氷のように冷たく、そして酷薄な笑みを浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ