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 マシマトマを突如襲った、レデン民による無差別テロ事件。あの後、カラスはフロゥト警察庁の機動隊員に保護され、その後身柄を安全な場所に移された、と聞き及んでいた。

 かくいう私は、カラス曰く軍人一家のエリートとして、武装蜂起したレデン民の鎮圧にあたっていた。

 思っていた通り、彼らは戦闘に関してはほとんど素人に近いレベルだった。相手から奪ったアサルトライフルだけでも、十分彼らを鎮圧することはできたけれど、その後次々に武器を奪い取りながら持ち替えていき、フロゥト警察庁の機動隊員が到着した頃には、ほとんどテロリストたちは私が拘束した後だった。

 しかし、これで事件が終わったわけではなかった。その後も武装蜂起したレデン民の仕業と見られるテロ事件が、フロゥトの各地で発生するようになった。

 次第に過激さを増す一方のテロ行為に対し、我慢の限界に達しようとしていたフロゥト側は、レデンに対しフロゥト連合軍(NFTO)による大規模な報復攻撃を仕掛けると宣告した。

 だが、これに対してレデンは一切の回答を拒否した。そして、フロゥトが提示した回答期限を過ぎても、レデンが沈黙を貫き続けていたことに、ついにフロゥトは業を煮やした。

 NFTOを中心としたレデン討伐軍が編成され、レデンに大規模攻撃を開始。後に『第二次ヒト・フラァ戦争』と銘打たれる、地上界と天空界の大規模な争いの火ぶたが、再び切って落とされた。


 開戦当初、フロゥトはレデンをすぐに倒せるだろうと考えていた。しかし、蓋を開けてみればレデン軍はNFTOと徹底抗戦の構えを見せ、さらにその戦力もNFTOとほぼ同等のレベルを備えていた。

 そのため、両軍の戦いはどちらが優勢ともいえない、微妙な展開が続き、ほどなくして拮抗した戦力の消耗を避けるため、膠着状態に入っていた。

 私は先のテロ事件の鎮圧に関する功績を評価され、フロゥト中央情報局(FIA)の実働部隊に配属されていた。

 FIAとは、フロゥトの安全保障政策の決定に必要な諜報活動を行うために編成された組織である。ここの実働部隊に配属されるということは、つまり私は軍人としてというより諜報部員としての能力を期待されている、ということでもあった。

 私は、戦闘が膠着状態に入ったのを受けて、レデンの情報をできる限り集める方向に作戦を切り替えた。

 レデンもテロリストたちの動きを把握していないはずはなく、沈黙を貫いているのはなんらかの政治的な圧力が働いているからだ、と睨んでいた。

 そして、私はFIA情報本部の協力を得て、レデン中央政府になにが起こっているのかを突き止めようとした。

「ははぁん……。なるほど、こういうことだったっシュね……」

 それからしばらくして、先のテロ事件の首謀者が判明した。その正体は「アカハラ」といい、現在のレデンにおける事実上の最高指導者とされている。

 そして、このアカハラが中央政府に圧力をかけ、テロ事件を首謀すると同時に一切手を出させないようにしていた。

 さすがFIA情報本部。その情報収集力はまさにフロゥトにとって欠かすことはできない。首謀者が判明すると、アカハラは「狂犬」のコードネームで呼ばれるようになり、その後、フロゥト全域に国際指名手配されることになった。


「今回の任務は、かなり大変なものになりそうっシュね。でも、これを成功させれば、レデン軍の戦力も、少しは削ることができるはずっシュ」

 開戦からおよそ一年。長期に渡って続く膠着状態を打開するべく、私はある作戦任務に就いていた。

 目的地はフロゥトとレデンの間にある浮遊島だった。そこの病院に、アカハラの直属の手下の一人である「コゲラ」が潜伏しているという情報を、私たちは入手していた。

 そのコゲラを捕縛し、病院を解放すること。これが今回の作戦任務の主要な目的だった。

「だけど、この作戦にはNFTOとFIAの他に、PMCの傭兵も参加するって話っシュね。烏合の衆になるのは、あまり好きじゃないっシュけど、背に腹は代えられないっシュからね」

 今回の作戦任務は、NFTOとFIAに加え、いくつかのPMC、つまり民間の軍事会社からも傭兵が多数参加していた。

 彼らにとってみれば、この戦争はいわば金儲けの格好の材料でもあるのだろう。普段は要人の護衛などで地道に稼ぎを得ている彼らであるが、こうした世界規模の戦争は、リスクも大きい一方で、報酬も非常に大きなものになる。

「あら、それってどういう意味? もしかして、私が戦争ビジネスに加担しているって言いたいの? シギ、あなたらしくないんじゃないの?」

「それはコッチのセリフっシュよ。まさか、私がカラスと一緒にこの作戦に加わることになるなんて。つくづく、運命っていうのは分からないものっシュね」

 私の隣には、以前マシマトマで一緒に買い物を楽しんでいた親友がいた。ただ、今この親友はPMCの衛生兵として、私と行動を共にしている。

 どうしてカラスがPMCの衛生兵になったのか。あれから私もFIAの実働部隊として忙しい日々を送っていたため、カラスに会う機会が全くなかった。

 その親友が、今こうして私と並び立つところにきている。この作戦が無事に終わったら、あの後なにがあったのか、カラスに聞いてみるのも悪くないかも知れない。

「あなたが連合軍の軍曹っシュね?」

「いかにも。マシマトマでの一件は私も聞いている。で、そっちの子は?」

「メディックのカラスです。よろしくお願いします」

 私たちが病院付近に到着した時、すでに大勢のNFTO兵士たちが戦闘準備を進めていた。私とカラスは今回の作戦指揮を任された軍曹に挨拶をしていった。

 この軍曹は、武装蜂起したレデン民によるテロ事件で家族を失っている。それ以来、レデンに強い恨みを抱いており、今回の作戦にも自ら志願して参戦しているらしい。

 その後、私たちは軍曹を先頭に、他の兵士たちに混じるようにしながら病院へと向かっていった。

「かなり荒れ果てているようだな。やはり、噂通りか。敵の攻撃に注意しろ。特に窓に気を付けろ」

 この浮遊島は、開戦初期に戦場になったこともあり、住民たちはすでにここを放棄していた。すっかり荒れ果てたかつての住宅街は、軍隊にとってはむしろ即席の要塞として絶好の環境だった。

 私もカラスも、軍曹の指示通り、住宅街の周囲に注意を払いながら、病院へと歩を進めていた。だが、事態はまさしく突如として動き出した。

「なっ? グアッ!」

 突然、どこからともなく銃声が鳴り響いたかと思うと、軍曹の額に小さな穴が開けられた。それは紛れもなく軍曹が銃撃を受けたことを示すもので、軍曹はその場で倒れ、一切動かなくなった。

「シギ、これは!」

「敵襲っシュ! マンダウン!」

 カラスが倒れた軍曹を見て、すぐに危険を察知した様子だった。私が建物の陰に向かって走り出すと、カラスも迷うことなく私の後に付いてきていた。

 その直後、各地で激しい銃声が繰り返し鳴り響くようになった。いきなり軍曹を失った私たちだが、コゲラを捕縛する、という目的まで失われたわけではなかった。

「フゥ、いきなり手荒い歓迎っシュね。まぁ、その方が私も遠慮なくやれるってものっシュけどね」

「行こう、シギ。ここからなら、あの病院に一番近いのは私たちのはずだわ」

「オッケー。それじゃ、いっちょいくっシュよ!」

 私とカラスは、敵の攻撃をやり過ごしながら、病院に潜入するための武装の確認を手早く行った。そして、他の兵士たちの動きを見ながら、敵の攻撃をなんとかかいくぐり、目的地となる病院に辿り着いた。

「さて、ここからが本番っシュよ。コゲラとその手下たちがどこから襲い掛かってくるか、分からないっシュからね」

「えぇ、そうね。ここが敵のアジトである以上、油断は禁物よね」

 病院の外では、なおも無数の銃撃が止むことなく続いていた。私は一刻も早くコゲラを捕縛するべく、潜伏している部屋を探した。

「クッ! このっ!」

「カラス! 大丈夫っシュか?」

「えぇ、なんとか無傷よ。だけど、負傷者になりすますなんて、相手もかなり手強いみたいね」

 途中、いくつもの部屋を調べていく途中で、私たちは何度も敵の襲撃を受けた。

 その中には、負傷者になりすまして私たちの隙を狙おうとする者たちまでいた。このコゲラの部隊は、アカハラの直属の手下の一人が率いているというだけあって、かなり戦闘に慣れているようだった。

 その後、遅れて病院に突入した兵士たちと合流することに成功した私たちは、程なくしてコゲラが潜伏している部屋を特定した。

「フン、やはり来たか、フロゥトの犬どもめ。だが、オレに少しでも手を出してみろ。コイツの命はないぞ!」

 他の兵士たちが突入したが、コゲラは人質を取り、私たちの動きを牽制しようとしていた。その人質はフロゥト国際保安庁の高官の娘であった。

 これはさすがに私たちの側にも情報がなかった。誰かしら人質を捕えているだろう、ということは予想していたが、その相手の身分までは容易に予想することができなかった。

「シギ、どうにかならないの? このままじゃ、あの人質が殺されちゃうわ!」

 カラスは身体を震わせながら、私にアドバイスを求めてきた。恐らく、先程軍曹が襲撃されたことを受け、その弔い合戦をしようとしているのだろう。

「カラス、今は落ち着くっシュ。このまま派手に突入して、コゲラを下手に刺激したら、それこそ大変なことになるっシュ」

「じゃあ、どうしたら……!」

「大丈夫、私に一つ考えがあるっシュよ。少し耳を貸すっシュ……」

 私は、気持ちがはやるカラスを抑えながら、コゲラを捕縛する方法を探っていた。そして、この病院の構造を利用した作戦を思い付いた。

「……それで、本当に大丈夫なの? いくらシギでも、単独行動はさすがに危険なんじゃ……」

「そんなこと言っている場合じゃないっシュよ。それに、私のCQCのレベルは、カラスもよく知っているはずっシュよね。ここはカラスに任せるっシュから、その間、コゲラの注意を上手く逸らしてほしいっシュ」

「分かったわ。なんとかやってみる。でも、くれぐれも気を付けてね」

 カラスの言う通り、これはかなり危険な作戦だった。もし失敗すれば、私の命までもが危うくなってしまう。

 でも、軍人というのはそういうものなのだ。戦場においては常に最悪のシナリオを想定し、いかにしてそれを回避するための最適解を導出し続けられるか。戦場で生き残るためには、そういう計算高さが必要なのだ。

「こっちからならいけそうっシュね。カラスたちも長くは注意を引き付けられないかも知れないし、急がないと」

 私は窓の外を迂回する方法で、コゲラの背後を取ろうとした。カラスたちの動きは分からないけれど、私がコゲラを取り押さえた瞬間、すぐに突入してくれるはずである。

「……さて、ここからが私の腕の見せ所っシュね。確実にコゲラを取り押さえるっシュ」

 私は部屋の窓から、内部の様子を窺っていた。今のところ、コゲラはカラスたちを挑発しているようで、私の方には見向きもしない。

 これはチャンスだ。ここを逃すことなく、一気にコゲラを捕える。私は窓ガラスを突き破るようにしながら、コゲラの背後を取った。

「な、なにっ! しまったっ!」

「コゲラ・スラマン! ここまでっシュよっ!」

 私の気配に全く気が付かなかったのだろう、コゲラはあっさりと私に首を絞められる体勢を取られた。なんとか私を振り払おうとするが、私は持ち前のCQCの技術を駆使し、コゲラの動きを封じ込めた。

「シギ! 今だわ! 総員、突入!」

 私がコゲラを取り押さえた直後、カラスが先陣を切る格好で兵士たちが一斉に突入した。高官の娘は兵士たちによって無事に救出され、カラスが私と一緒にコゲラを捕縛する用意に入っていた。

「く、クソッ! こ、このアマぁ……!」

「これ以上下手に動くと、首の骨が折れてお陀仏っシュよ。お前は私たち特殊作戦部隊が捕縛するっシュ!」

 私はコゲラに無駄な抵抗は止めろと警告を発した。さすがに命の危機を感じたのだろう、余計な動きを示すことはなかった。

 その後、再度突入した兵士たちによって、コゲラは全身を拘束され、身動きが取れない状態になった。

「大丈夫、シギ?」

「別に、なんともないっシュよ。それよりも、完璧な突入指示だったっシュね」

「べ、別に、それほどでも……。ただ、私はシギのことが心配だっただけで……」

 コゲラが拘束されたことで、部隊は統率を失い、そのままコゲラと共に連行されていった。病院もこれで解放され、元の静かな風景に戻っていくだろう。

 カラスは少し照れながら、私のことを心配してくれていた。私は、この親友のことを、これからも大切にしていきたいと思っていた。


 それから数日後。あの合同作戦においてコゲラの捕縛に大きく貢献した私とカラスは、NFTOの参謀司令室に呼ばれていた。

 そこで、NFTOの司令官から、「RAVEN FORCE」、通称レイブンへの配属辞令が下された。

 レイブンは、狂犬ことアカハラの逮捕及び抹殺を目的として組織されたNFTO傘下の特殊部隊の名前である。

 そのレイブンでは、現在対レデン軍用に開発された最新鋭の軍用機「ディフェクト」の実用試験が行われており、その正式パイロットを誰にするかで議論が続けられていた。

 そこに私とカラスが新たに配属されたことで、そのディフェクトのパイロットにカラスが、そのカラスを遠隔支援するバックアップに私が、それぞれ任命された。

「なんだか、急に大きな話になってきたね。これって、結構私たち、責任重大ってことじゃない……?」

「多分、そうっシュね。でも、これも一つの出世ってヤツっシュよ。私たちがキッチリ働けば、この戦争も早期に終わらせられるかも知れないっシュからね」

 もしかしたら、私とカラスが、直接アカハラと戦うことになるかも知れない。私はこれも軍人としての出世街道を歩み始めていることだと理解しながら、同時にカラスが感じている責任の重さも、確かに味わっていた。

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