表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

1

 かつて、この世界を二分した、大規模な戦争があった。

 人類は、その勢力を地上界レデン天界フロゥトに分け、お互い譲らない激しい覇権争いを繰り広げていた。

 その戦争は膠着状態とどちらかの勢力が優勢になる状態を間断なく繰り返しながら、やがてフロゥトが次第に勢力を拡大していった。

 レデンも最後まで抗戦に臨んでいたが、このままではレデンもフロゥトも、人類が住むには適さない土地になってしまう。

 そこで、両者の代表者たちが集まり、終戦に向けた話し合いの席を設けることになった。フロゥトは終戦の条件として、レデンに対して降伏すること、その降伏に応じればこれ以上戦闘を繰り返すことはしない、と約束した。

 レデン側も、自分たちの戦力が相当に疲弊していたことはすでに把握していた。しかし、レデンに降伏を迫ったフロゥト側もまた、これ以上戦闘を続けることは困難なほどに戦力を消耗していたのである。

 こうして、レデンとフロゥトは終戦協定を締結し、後に『第一次ヒト・フラァ戦争』と名付けられることになる長い戦いの幕が下ろされた。

 その後、レデンとフロゥトの両勢力はお互いに不用意に干渉しないよう、往来に一定の制限を設けていた。

 地上に住むレデンヒトと、天空の世界に住むフロゥトフラァとの間には、すでにその価値基準などに著しい差が生じていた。

 あの『第一次ヒト・フラァ戦争』も、双方の価値観の相違を理解しないまま、互いに相手を敵視し続けた結果発生したものだった。

 かくして、両者の間には埋め難い溝が生まれることになったが、それが双方の世界に平穏な時間をもたらすことになったのは、ある意味において皮肉であった。


 『第一次ヒト・フラァ戦争』の終結から十数年の時が流れていた。

 レデンもフロゥトも、互いに不用意に相手の世界に干渉しないことを守りながら、世界全体としては概ね平和な時間が流れているといって差し支えなかった。

 だが、その平和な時間も、長くは続かなかった。

 ある時、レデンのとある繁華街に、正体不明のテロリストが出現し、大規模な破壊行為を繰り広げた。

 レデン人、フロゥト人を含む多数の民間人がこのテロに巻き込まれ、大勢の死傷者を出したこのテロ事件。

 テロ鎮圧のために出動したレデン国際保安庁のおかげで、繁華街が焼け野原になる事態は回避することができた。

 ただ、彼らが捕まえることができたテロリストはたったの一人。しかも、レデン国際保安庁との激しい銃撃戦により、すでに息絶えていた。

 レデン国際保安庁は、そのテロリストの身元を詳細に調査した。すると、そのテロリストはフロゥト内にあるとある国家の軍人であることが判明した。

 このテロ事件により、レデン内に反フロゥトの機運が高まり、穏やかな時を過ごしていた両者は、再び緊張状態に陥った。


「カラスと一緒にここに来るのって、そういえば初めてでシュね。どこか、行きたいお店とか、ありまシュか?」

「う、うん……。色々なお店があって、ちょっと目移りしちゃうね。シギは、こういうところは慣れているの?」

 この日、私は親友と一緒に、フロゥトのとある都市にある電気街、通称「マシマトマ」に足を運んでいた。

 私は「シギ」という名前の親友と一緒に、このマシマトマの街並みを散策しながら、どのお店に入ろうか、あれこれ考えを巡らせていた。

 私を「カラス」と呼ぶこのシギは、かなりのコンピューターマニアを自称しており、実際その知識レベルは、下手なエンジニアなど歯が立たないとまで言われている。

 事実、シギはこのフロゥトでもかなりのエリートとして通っていた。フロゥトでも指折りの名門大学で機械工学を専攻し、とりわけコンピューターシステムに関しては一人でフロゥト全域を管理することができるほどのシステムを開発できるのでないか、とさえ噂されている。

 それに加えて、シギの家系は由緒ある軍人の家系で、両親から軍人としての英才教育を施されてきた。そのため、銃火器類を始めとした戦闘兵器の扱いに長けており、さらにアーミーナイフなどを駆使した白兵戦にも精通したCQC(近接戦闘)のエキスパートでもあるらしい。

 シギ自身は普段そのことをあまり多く語ろうとはしない。けれども、一見オタク気質のように見えるシギの「もう一つの顔」を知っている数少ない人物の一人として、私は名を連ねている。

「ウッヒョー! 見てみて、カラス。昔の時代のパーツがいっぱーいッシュ! さすがはフロゥト随一の電気街の名は伊達じゃないっシュね!」

 私はシギが愛用している、太い瓶底眼鏡の向こうに光る目つきを目の当たりにしながら、親友がとあるジャンク屋で無数の古いパーツを楽しそうに物色しているのを、うらやましさと怖さが共存した思いで眺めていた。

 なにかに夢中になれるというのは、確かに素晴らしいことはであるけれど、それは時に、周囲の様子が見えなくなる、ということを意味するものでもある。

 ただ、そうした怖さを親友に対して抱くということ。それはもしかしたら自分にはない、好きなものへの限りない情熱を示唆するものであるのかも知れなかった。

「いやぁ、大漁、大漁っシュ。これだけあれば、昔のロボットなんかも、きっと再現できるっシュね」

 そして、ようやくシギが買い物を終えて、私のところに戻ってきた。大き目のバッグにギリギリ入るぐらい大量のパーツを買い込んだシギだったけれど、まだ買い物は終わる気配がなかった。

「よし、カラス。次はあっちの店に……」

「ま、待って、シギ。私ちょっと疲れちゃったから、どこかで休憩しない? シギだって、そんなに動き回ってばかりじゃ、すぐにヘトヘトになっちゃうよ」

 いくら親友とはいっても、これ以上買い物に付き合わされたら、さすがに身体がもたなくなってしまう。私はシギも疲れているだろうと言いながら、どこかで休もうと提案した。

「あれっ? もうでシュか? うーん、そうでシュか、そうでシュか……。よし、それならメイド喫茶に行きまシュか!」

 シギは、少し考えた後、私の提案に応じる返事をしてくれた。しかし、そこでよりにもよってメイド喫茶に行こうと言い出すところが、実にシギらしいと言えばその通りだった。


「えっと、確かこの先に、つい先日オープンした新しいメイド喫茶があるんシュよね。今日は、そこに行ってみるっシュよ!」

 ジャンク屋を後にした私とシギは、その足で再びマシマトマの繁華街を練り歩いていた。

 どうやら、シギにはお目当てのメイド喫茶があるらしい。私は普段自分からそういうお店に行こうと思うことはなく、こうしてシギの案内によってそうしたお店を紹介してもらう、ということが多かった。

 だけど、そんな私たちの平穏な時間は、理不尽な力によって、突如として終わりを迎えることになった。

「な、なに! こ、この物凄い轟音!」

「あっ、あれは! カラス! 向こうで誰かがドンパチやっているみたいっシュよ!」

 いきなり私の耳に突き刺さってきた何重もの轟音。シギがなにかを発見したかのように前方を指差すと、そこには武装した民衆がそれぞれに銃火器などを手にしながら、手当たり次第あたりを攻撃している様子が映し出されていた。

「な、なんなの、あれ……? も、もしかして、あれって、テロリスト……?」

「多分そうっシュね! この間起こったフロゥトの仕業って言われているテロ事件。あれに怒ったレデンの民衆が、武装蜂起して過激派になったってところっシュね!」

 単なるテロ行為だとしか認識できなかった私に対して、シギは先日発生した、フロゥトが仕組んだとされているテロ事件を引き合いに出し、その報復行為ではないかと睨んでいた。

 しかし、事情はどうであれ、自分たちの目の前で無差別な破壊行動が繰り広げられているのは明確な事実だった。私はあまりに非現実的、としか言えない光景を前に、身体がすくみ上ってしまっていた。

「カラス! すぐに逃げるっシュよ! 早く!」

「か、隠れるって、ど、どこに隠れれば……」

「相手は単に武器を持って暴れているだけの民衆っシュ! 専門的な訓練を受けていないから、いくらでも逃げる隙はあるっシュよ!」

 シギは私に、早く逃げろと指示を出した。その声色は、普段のどこか抜けたような印象のシギとは全くの別人のように、険しさを色濃く帯びたものとなっていた。

「あっ、危ない! シギ!」

 その時。シギの背後を狙って、テロリストの一人が銃床で殴りかかろうとした。手にしていたアサルトライフルを振りかざし、頑丈な銃床でシギの頭を殴り倒そうとするテロリスト。

「フン、その程度じゃダメっシュよ!」

 しかし、シギはまるでテロリストの動きを事前に察知していたかのように、その攻撃を軽くかわしてみせた。その直後、テロリストからアサルトライフルを奪い取ると、逆に銃床でそのテロリストに殴りかかった。

 さすがは軍人一家のエリート。不意の攻撃にも冷静に対処し、状況に応じた最適な反撃方法を繰り出す。この切り替えの素早さは、私では多分できないだろう。

「し、シギ! だ、大丈夫? そ、その人、死んじゃった、の……?」

「あっ、急所は外しているから、多分大丈夫だと思うっシュよ。それより、カラス。これを持って、すぐにここから離れるっシュ!」

 私が倒れたテロリストを見ながら、シギに大丈夫かと問いかけた。シギは大丈夫だと返事をしながら、倒れて動かなくなったテロリストの懐を探り、そこから一丁の拳銃を取り出した。

「カラス。とりあえず、これを持って早くここから離れるっシュ。もうすぐフロゥト警察庁の機動隊員が来る頃のはずっシュから、その指示に従えば、きっと逃げ切れるっシュよ」

「う、うん、分かった。でも、シギ、あなたはどうするの……?」

「このまま、ヤツらを見逃すわけにはいかないっシュよ。どういうつもりか知らないっシュけど、なんの罪もない民間人を巻き込むなんて許せないっシュ! ……まぁ、本音は私と親友との楽しい時間を台無しにした罪、キッチリ償ってもらうっシュ! ってところっだけどね」

 シギはそう言い残すと、テロリストから奪い取ったアサルトライフルを構えながら、今なお広がる戦火の中に、一人飛び込んでいった。

 一体、この世界になにが起こっているのだろうか。このテロ事件は、本当にあの反フロゥト勢力の仕業なのだろうか。色々な思いを抱えながら、私は親友の無事を祈りつつ、反対方向へと駆け出していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ