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ep.3 修Lover(修羅場)

人目を避けるために俺は美少女転校生、もとい篠崎詩音(しのざきしおん)さんを連れて屋上にやってきた。改めてみるとマジで可愛いな。青い瞳はあの時と変わらない吸い込まれてしまいそうな美しさがある。




 「ねえ渚くんってば!!急に走り出してどうしたのさ!!」




 「どうしたって高校生の男女が廊下で抱き合ってたらマズいだろ!!」




 「そうかなあ、でも私ずっと渚くんのこと探してたんだよ?」




 「それは嬉しいけど、、、」




 上目遣いで訴えかけてくる美少女を前に俺は戸惑う反面ニヤついてしまいそうな口角に力を入れて耐える。それも全力の耐えだ。心頭滅却。そしてふとこれまでの経緯を思い返してある疑問が浮かんだ。そういえばこの子なんで俺の名前知ってるんだっけ。教えた覚えないんだけどな。聞いてみるか。




 「篠崎さん。」




 「詩音。」




 呼びかけると突然自分の名前を言い始めた。よくわからないのでもう一度呼びかけてみる。




「あの、篠崎さん?」




「詩音!!詩音って呼んで!!」




 「いや、いきなり女子を下の名前で呼ぶのはちょっと。」




 「そんなに私の名前、呼びたくないんだね。そうだよね、5年ぶりの再会だもん。渚くん昔よりカッコよくなってるし当然可愛い彼女だっているんだよね。ごめんね。気にしないで。」




 なんだか面倒くさそうな事態になってきた。篠崎さんから段々黒いオーラが出ている気がするし心なしか目のハイライトが消えている気が、、。だが女子の名前呼びは俺にはまだハードルが高すぎる。




「じゃあ、詩音さんでいい?」




 篠崎さんは目をぱぁっと輝かせながら腕に抱きついてきた。




 「うん!!いい!!じゃあ私もなぎくんって呼ぶね!!」




 そう言いながら俺の腕に頬擦りしてきた。女子に抱きつかれて頬擦りされるなんてヤバい、それも誰かに見つかったらそれはそれで面倒ごとになりそう。そんななんとも言えない状況に困っていると屋上入り口から誰かの視線を感じた。何かさっきの篠崎さんの黒いオーラとは違う、なんならさっきよりも更に禍々しい何かを感じる。そして恐る恐る振り返るとそこには幼馴染の姿があった。目のハイライトが消えた姿の。




 「し、詩音さん!!その辺にしとこう!!マジで!!」




 しかし俺の声は届いていないのか一生嬉しそうに俺の腕にしがみついている。このままじゃマジでやばい。多方面から刺される。抱きつかれている腕を解き篠崎さんの肩を掴んで必死に訴える。




 「詩音さん!!ちょっと離れてくれないとこのままじゃもう俺たちいろんな意味で終わっちゃうよ?!」




 「きゃっ!もう、なぎくん強引だよ!ちょっとドキッとしちゃった♡」




 ダメだこれ。もうダメなやつだ、何も聞こえてない。終わりだ、諦めよう。神様、来世はもっと平和で落ち着いた人生を送らせてください。なんてことを考えてるうちに後ろから聞いたこともない低い声で語りかけてくる禍々しい気配を感じた。




 「渚?どうして女の子とイチャイチャしてるの?いつからそんなことするようになっちゃったの?私じゃダメだった?嫌なところ言ってくれたら全部直すよ?渚の好きなこといっぱいしてあげるよ?ねえ、渚?私じゃダメなの?」




「違う!!落ち着け心音!!頼むから一旦冷静になれ!!」




 いつからそんな事になっちゃったの?ってこっちのセリフだよ。どうしてそんなメンヘラチックになっちゃったのよ。そんで目が一切笑ってないの怖すぎるよ。 




 「なぎくん、どうしたの?あ、もしかして彼女さん?」




 急な篠崎さんの問いかけに思わず言葉が詰まってしまった。絶対に答えを間違えてはいけないという極めて大事な場面なのだが最適解がまるで見つからない。どうする日向渚、今後のお前の安心安全な学校生活がかかっているんだぞ。考えろ、巡らせろ。そう考えているうちにポケットに入れているスマホが振動した。慌ててみるとイツキからの着信だった。これだ!!!!




 「ごめん!!急用ができたから詳しくはまた今度!!」




 そう言って2人の間をすり抜けて体育棟まで全力で走った。イツキ、マジでありがとう。この恩はきっといつか必ず返す。きっといつか、な。






「イツキ!!助かった!!」




体育館の隅で休憩しているイツキにこれまでの事情を洗いざらい説明する。




 「そりゃ災難だったな」




 ペットボトルのスポーツドリンクを飲みながら愉快そうに笑っているイツキに肘鉄を喰らわせながらため息をつく。




「篠崎さんがあんなに積極的にくっついてくるとは思わなかったな。しかしなんで屋上に心音が来たんだ?いつも誘っても来ないのに」




 イツキが口に含んだドリンクを吹き出し咽せた。コイツの仕業か。涙目になりながら何か言おうとしているな。




「おい、お前まさか何か心音に吹き込んでないだろうな?」




「吹き込んではない、渚が女子を連れて屋上に行ったのは本当かって聞かれたから答えただけだぞ」




 フォローする気0かよ。




 「なんだ、初恋の子に再会できたのに随分困ってるじゃん?」




 確かに家族同然に過ごしてきた幼馴染から告白された上に5年前に一度だけ出会った初恋の女の子と再会したんだ、側から見たらラブコメのハーレムイベントだ。しかし実際に同じ状況に陥るとこれが案外複雑な心境になるのだ。




「心の準備ってのがあるだろ。急に幼馴染から告白されて戸惑ってたら今度は初恋の子が転校してくるなんて出来すぎた話、聞いたことないだろ?」




「まあ確かにそんなラブコメじみた話聞いたこともないけどさ。まさか身内に起こるとは思わないよな」




 気を使ったのか苦笑いするチャラいイケメンを横目に俺は深いため息をつく。




「幼馴染としてこれだけは言っておくけどさ、ちゃんと自分の気持ち整理してはっきりしてやれよ」




 おそらく今朝の心音の件だ。幼い頃から3人で育ってきた俺たちだ。イツキも内心落ち着かないのだろう。




「もちろんそのつもり。とにかく今日は疲れたから先帰る、部活頑張れよ」




 俺がそう伝えるとイツキはタオルで汗を拭いながら体育館に戻っていった。

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