8.ちょっと今のナシ、無しよもう一回勝負よ!
何もできずに敗北。
郁美には到底受け入れられるものではありません。発狂ものですね。
「うっそー!」
「当然の結果だ」
さも当たり前のように、のたまう白河。
殆ど初めてあたしに、そう、この海浜のゲーマー女王近野郁美に勝てたっていうのに、その解けて当然の数式を電子ボードに書いているみたいな厭味ったらしい冷静な態度は一体なんなのっ!
ゆ、許せん!
断じて許せん!
「ちょっと今のナシ、無しよもう一回勝負よ勝負勝負勝負さあさあ正々堂々と立ち会えてめぇ男だろキ○タ○ついてんのかああん?」
最後の方は自分でもなに言ってんのかよく分かってないかもしんない。
でも、あたしはそれほどまでに頭の中が沸騰しまくっていた。
「かまわないけど、多分、何度やっても無駄だぞ」
対面パソコンの向こうで、白河の間の抜けた声。
たっぷりオシオキをくれてやったはずの部員どもも、いつのまにか残らず白河の背後にへばりついて、黙って画面に見入っているらしい。
なによその態度。あたしが負けた、このあたしが負けたのよ?もっとこう、パァッと大騒ぎしたっていいじゃないのさ。
あたしの文句が聞こえたのかどうなのか知らないけど、目の前の画面が再び対戦モードに切り替わった。
今回は大きな城の中。
どっかで見た事ある、という記憶はすぐにたどる事が出来た。
そうだ。一番最初に現れた、デモンストレーションの画面だ。
玉座を背にたたずむ、あたしの剣士さま。
なぜか、その瞳は悲しげだ。
そして向かい合うのは、あのガキンチョ魔法使いくずれ。
背景は、あちこち崩れて、火の手もちらほらと上がっている大広間で、うすぼんやりと兵士や怪物が闘っている様子が細かく描かれている。
兵士たちもかなり必死だけど、どうも多勢に無勢みたい。ま、王宮のこんな所にまで敵兵に侵入されたんじゃ、どうしようもないという事なんでしょうけど。
「姫……」
剣士さまが、後ろを振り返る。
カメラが動いて、剣士さまの視線を追うようにして玉座を映し出す。
「グランザール……」
あたし、だ。
また、あたしがそこにいる。
例によって、細くしなやかなスタイルの(ちょうどあたしを適度に痩せさせたらきっとこんな感じの女になるというみたいな。ちょっとソコ、なんて目でみてるのよ。あたしは背だって高いし出る所はお釣りが来るくらい出っ張ってんのよ。ただ、ひっこむ所がひっこんでないだけよ判るでしょ?)女性がギリシャ風の真っ白な絹物を身体に巻き付けて、すがるような瞳で剣士さまをみつめている。
顔も、あたし。ま、右目がもすこし釣り合い取れて、鼻があと5ミリ高くて、ホッペタがもすこしキュッと引き締まって、髪を少し伸ばして丁寧にセットして、顔の輪郭がくっきりするようにメイキングすれば、だけど。(コラァもう別人だろうとか言うんじゃない!あたしなの、とにかく、あ・た・しっ!)
「ちょ、ちょっと…」
見つめ合う二人。こっちまでドキマギしてくる。なんたってヒロインはあたしそのものだし。
「一体、なんの冗談なのよ…」
白河に尋ねる声が、自分でも裏返っているのがよく判る。
マズイ。
メチャ、あたしの理想のシチュエーション。
ゼッテーありえないはずのロマンチックラブが、あたしの目の前で起こっている。
「冗談なら、いいんだけどな」
白河の声と同時に、カメラスパンが元に戻る。
対戦相手のガキンチョが、冷静な声で話しかけてくる。
「グランザールさん、彼女を引き渡して下さい。ぼくは、あなたとは闘いたくない」
「ならぬ!姫の御身は、拙者の命に変えても守り抜く!」
「今になって、誰に誓うと言うのですか。あなたが守護してきた聖王家は、もうこの世界のどこにも存在してはいないというのに」
「姫への、永久の愛と忠義さえあれば、拙者は他に誓うものなどいらぬ!」
な、なんなのよこれ…
口ではそういいながら、あたしは自分の頬が上気するのを感じた。
こんないい男にこんなセリフを言われるなんて、ああ、女に生まれて本当に良かった!
「仕方ありませんね。その信念に敬意を表して、手加減なしで行きますよ」
ガキの言葉と同時に、画面に「Fight!」の文字が現れた。
あたしの頭は怒りと恋愛で沸騰していても、あたしの両手はあくまで冷静沈着そのもの。伊達に海浜のゲーマー女王は名乗ってない。
一歩踏み込んで、弱斬りの牽制。当てるつもりじゃない。反応を見るだけ。
カウンター狙いならなんらかのリアクションがありそうだけど、ありゃま、身動き一つしないで、なんだか呪文を唱え始めてるわ。
白河め、ヤマを張っていきなり大技でもかますつもりね?
それなら別にかまわないわ。そのまま踏み込んで二撃三撃に繋げるだけよ。
間合いに入った中斬りに、さすがのガキも軽量金属製らしい杖で払って防御。
「あなたの黒龍剣では、このミスリルの魔杖は壊せませんよ」
軽く一歩、撥ねるように下がりながら、マセガキめいた事を言ってくれる。
あっそっ。じゃあとっておきの技ならどうかしら?
さっき、一つ目のトロールをこん棒ごと叩き切った必殺技を起動させる。もちろん頭では覚えていないコマンドだけど、当然、あたしの両手はしっかりと覚えていたりするのよね。
「絶技・波濤斬!」
画面がきらめき、青い魔方陣が剣に吸い込まれていく。
横にグルンと一回転する間に、剣が青い光とともに巨大化してガキャアに迫る。
「貰ったぁ!」
これは当たる絶対に当たると思ったけど。
マセガキ、魔杖とかをあたしの剣に合わせるように振り回して、受け流しやがったわ!
ウソでしょ必殺技なのよこれ!ダメな奴じゃん反則よぉ!
ってか、剣がそのまま跳ね飛ばされちゃったじゃないのさぁ。
また素手ぇ?
なんて泣き言言う暇なんてない。
早く硬直解けてぇ、とばかりにレバガチャするけど。
さっき見た技そのまんまに、杖の反対側、石突きとかいうんだっけ、でもこれ杖だから、上下とかあんの?の、逆部分を地面側から突き上げてきた!
当たっても大したことない、はず。でも硬直中だからなぁ、回復遅れるじゃないのさやるじゃないのさ。
とか思ってたら。
ちょうどアゴの部分にクリティカルしたらしく、ピヨッちゃった。
ガキめ、動けないあたしのグランザール様に、ごにょごにょ呪文を唱えたかと思うと、光のリングを3本、4本だして、グランザール様に頭からくぐらしてきた。
そのまま締め上げられちゃうと。
さしもの騎士様も立っていられなくて、ばったり倒れて拘束された。
画面に YOU ROST の、いやあぁな文字が躍る。
郁美は、自分が何も分かっていないことを、明確に突き付けられました。
作者も、これからこの話をどうしようかと、現実を突きつけられました。




