7.ひょろひょろっとした少年
見た目だけなら、気品だけにしか振っていないグランザールよりはるかにひ弱。
見た目、だけなら。
イッタァ!
後ろから白河にゲンコツ食らってしまった。
チッ、気がついたのか。
「イタァイ、センセーがブッター!」
「ヤメィ!お前のブリッコはマジで気持ち悪いって!
いいからとっとと座れ。俺が相手だ」
…なによ。このバグったゲームであたしと闘うっていうの?
「さっきも言った通り、コイツはバグってなんかいない。ただ、解けない位難しいだけだ。今のお前程度なら、俺の方がまだ強い。じゃなきゃお前を呼んだりしない」
「ほほぉ、言ってくれるじゃんセンセー。男なら言った言葉に責任持ちなさいよ」
「もちろんだ」
おっほ、ヤケに強気じゃん。
アハ、たっぷりと後悔させたげるわ。
ほどなく、画面に「挑戦者現る」の、おなじみの表示が写る。
でてきたのは、ひょろひょろっとした少年だった。
手には、樹で出来た長い真っ直ぐな杖、というより棒って感じかな。
こげ茶色のローブ、三角の長いつば広の帽子。
典型的な、魔法使い見習いって所かしら。
「なんか、弱そう」
「このゲームのキャラの特徴は、怪物系を選べば選ぶほど、キャラ自身の強さをそのまま使えるようになっているんだ。人間系の場合は、プレイヤー自身の力で非力さをカバーしなきゃならない」
「じゃあ、あたしのグランザール様、もう絶対無敵って事ね?」
なんたってあたしが操ってるんだし。
「いや、お前は、ソイツの事をまだ何も判っていないからな」
「……どういう事よ?」
尋ね返そうとしたら、代わりにゴングが鳴っちゃった。
決闘の場所は、どこまでもだだっぴろい草原。
観客はゼロ。遮蔽物もなし。
「グランザールさん、あなたが忠誠を誓った王家は、もう存在していないんです。…もう、永遠に」
見習いのガキが、突っ立ったままセリフをしゃべっている。
白河、いったいなんのつもりよ?
挑発モードとか?
この、あたしに??
あたしはかまわずレバーダッシュ+強斬り。
そのまま終っちゃいなさい!
振り降ろされた大剣を、ガキが杖で受け止める。
と、杖が一瞬光って、あたしのグランザール様の剣が弾かれてしまう!
そのままガキの杖の反対側が振り上がって、アッパー気味にグランザールさまのアゴの辺りを狙ってくる!
類まれなあたしの反射神経が、剣士様をスウェーバックさせて、同時にミドルキックの牽制を放つ。
かわされるのは承知の上。
回し蹴りの反動で低く前方ダッシュ。
杖を握る手を目掛け、弱斬り、じゃなかった、剣が無いから弱パンチで手刀を見舞う。
おろ、ガキめ、自分から杖を離してかわすとは。
「やるじゃん白河センセ」
だけどさ、体格もリーチもパワーも、素手同士ならあたしのグランザール様の方が絶対に上よね。
どうせ魔法使い系だもん、呪文で一発狙いなんでしょうけど、そんな腕でこのあたしに勝とうだなんて100万年早いわよ!
レバー連続ダッシュで目押し中、強蹴りの二段コンボ。
「いっけー!」
右膝から左ハイキックと、イメージ通りの美しい蹴り攻撃。
ああ、あたしのグランザールさま!
って、なんでかわすのよこのクソガキャぁ!
しかも、片手で払うようにして、逆に懐を取られてしまう。
あっ、両手でなんか構えてる。
手が光ってる。ヤバ、なんかの必殺技だ。
中に入られると、手足の長さも体格も関係ないかも。
とっさに中大両押しで、掴んで投げ飛ばそうとしたけど。
白河のコマンドがもっとずっと速かったみたい。
画面がフラッシュ。
そのまま、グランザールさまは、ばったりと倒れた。
後には、YOU LOSTのむなしいエンディングシーン。
分かっていない部員はともかく、分かっている俺が相手なら、お前なぞ話にもならない。
だが、お前なら、その辺は何とかしてくるん、ダロウ?