6.絶技・波濤斬!
キャラ性能に差がありすぎるということに、郁美はまだ気が付いていません。
とにかく、カッコヨサこそが正義なのです。
この手のゲームは、当然というより、メインで対戦機能がついてるわけで。
ケーブルで繋いだパソコンの先で、部員どもがキャラを制作してる。
さすがに手慣れたもんで、すぐに対戦相手欄に醜悪な一つ目のトロールが現れた。
対戦ステージはコロシアム。ただし観客は全部怪物の類だった。
「申し訳ないですけど、近野先輩の無敗記録は、これまでですから」
チャットでナマイキなことを言ってくる。
ったく、これだからオタク共は。
打ち返してあげようとしたら、勝手に画面にメッセージが出てきた。
「姫の御身は、必ず拙者が守り抜く!」
……あたし、キーボードに触っていないんだけど。
これもゲームの一部なのかしら?
考える前に、ゴングのドラが鳴った。
トロール、いきなり前進して、大上段から馬鹿でっかいこん棒を振り下ろしてくる。
こっちもレバートリプルで前ダッシュ。
さすがに向こうの得物の間合いが大きいんだど、当たる直前で低く伏せて構える。
とーぜん、トロールちゃん、思いっきり空振り。
ハン、モーション大きすぎ。初回から使う技じゃないわ。カウンターで一気に主導権を握って攻めきって……
と。
空振りしたのに、地面が揺れてんじゃないのさ。
うげ、剣士さまにダメージが入っちゃった。
って、どーしてこんないい加減な攻撃でピヨッて動けなくなるわけっ!
しかもそのままトロール、足を振り上げて剣士様を踏み潰しにかかる。
あたしの指が俊速のレバガチャして、ピヨリ快復。
危うくかわしたのはいいけど、踏み降ろした足でまたも地面が揺れてピヨリ状態。
「ちょっとぉ、凶悪すぎるわよあんたっ!」
うわぁ、体力ゲージ、ほとんど無くなってるじゃないのさっ!
「姫……」
ええいこのやさ男がっ情けない声上げてんじゃないのよっ!
あたしを誰だと思ってんの!
瞬時にピヨリ快復させて、止めを刺しに来たトロールのこん棒の突きを避ける。
もう一度ヤツが地面を踏んで地面を揺らしに来た所に、タイミングを合わせてジャンプ。
でも、対空時間が長い。
折角のスキなのに、斬り込めない。
構えられて、そのままホームランボールにされそうだわ。
あたしの指が勝手に動く。
右上、左下+強斬り・上、右+弱蹴り・レバー右回し2回転に目押しで強、弱、強斬り。
突然、画面がまぶしい位に光る。
剣士さまの周囲に、青白い魔方陣が発動する。
「絶技・波濤斬!」
魔方陣が剣に吸い込まれて、大きく光る。
横に一回転する間に、剣は青く大きな剣に変化して、トロールをこん棒ごと真っ二つに切り裂いた。
YOU WIN!
観客の罵声の中、颯爽と剣士さまがコロシアムの中央に降り立った。
「……ス、スゴい」
「せ、先輩、今の技って……」
部員どもがザワザワ言ってる。
あたしも、よくわかんないんだけど。
まあ、つまり、俗に言う「天才」ってわけよね。
自分でもどーやったのかよく分かってないんだけど、まあ、いっか。
「おぉほっほっほっほっ!さあ、次の挑戦者は誰?」
勝ち誇ったまま、部員どもを見回すと。
「やっぱりバグ?」
「いや、基本システムに異常は見当たらないけどな」
「そもそも、あんなグラフィック入れてないじゃないか」
「隠し必殺技なんじゃないの?」
「うーん、確かに入れたは入れたけど……」
ぶつくさワイワイやりながら、みんなして画面に見入ってガチャガチャとキーボードをいじくっている。
「こらぁ、そこお! なにやってんのよっ!」
にゃろう、事もあろうに、ゲーム画面リセットして、プログラム読み出してるじゃないのさ。
このあたしが、真剣勝負で相手してやってるっていうのに。
「げっ、ご、ゴメンなさいっ!」
「問答無用!」
蜘蛛の子を散らすように逃げ出そうとした部員ども。
アハン、このあたしから逃げられるとでも思ってんの?
手短な二、三人をふんづかまえて、まとめて畳んで潰しちゃう。
んで、隅っこに逃げて固まって震えている連中に、カムカムして上げる。
「今なら、まだ冗談で済ませて上げちゃうのよ。あたしのマジ激怒モードは“借りちゃんの快感”複利三割コースだって知ってるでしょ?」
「うわああぁあん!」
震えながらも、ヤツラ、素直にすごすごとやってきた。
よしよし、素直な坊やたちだこと。
さーて、どんなお仕置きしてやろうかしらん。
初見で難しいコマンド入力を一発で決めて必殺技炸裂。噓だぁ…
天才は何をやっても許されるのです。ただし、自分で何をどうやったのかを説明できます。
郁美は、出来ません。出来ないのに、やってみせるのかよぉ…
にしても。
“借りちゃんの快感”複利三割コースって、ナンダヨ?